空力性能や快適性とのバランスに長ける軽量レーシングバイクの代名詞「スコット ADDICT(アディクト)」だ。今回はシリーズの末弟モデルにあたり、強度を重視したHMFカーボンを採用するシマノ105仕様の完成車「ADDICT 30」をインプレッションする。



スコット ADDICT 30スコット ADDICT 30 photo:Makoto.AYANO
スコットというブランドを語る上で欠かせないキーワードの1つが「軽さ」であろう。2003年に発表したフルカーボンレースバイク「CR1」はフレーム重量880gと、当時としては驚異的な軽さを引っ提げて登場した。同時に、卓越したカーボン技術を駆使することで、プロユースにも耐えうる剛性を兼ね備えることに成功し、世界中のサイクリストと競合バイクメーカーに大きな衝撃を与えた。

CR1の発表から4年後、2007年には初代ADDICTを生み出す。現在でも十分に軽量モデルとして通用するフレーム単体790gをマークしながら、当時先進的であったプレスフィットBBの導入などにより、プロのスプリンターを満足させるほどの高剛性を実現。HTCコロンビア時代のマーク・カヴェンディッシュは、新モデルが登場した後も頑なにADDICTを使い続けたという逸話もある。

奇をてらわないシンプルな設計がADDICTの特徴だ奇をてらわないシンプルな設計がADDICTの特徴だ 無駄のない滑らかなケーブルの挿入口無駄のない滑らかなケーブルの挿入口 緩やかなカーブを描くフロントフォーク緩やかなカーブを描くフロントフォーク


その後、一旦はラインアップから姿を消したADDICTであったが、2014モデルで復活。持ち前の軽量性に磨きを掛けつつも、2代目ADDICTはエアロロード「FOIL」とエンデュランスロード「SOLACE」のテクノロジーを取り入れ、それらを組み合わせることでオールラウンダーとして進化を果たしたのである。

セミスローピングスタイルのフレーム設計は、オーソドックスながらもチューブごとに役割分担することで剛性と快適性を両立。ヘッドチューブ~ダウンチューブ~チェーンステーのボトムラインを大径とし、BBシェルにはプレスフィット式のBB86規格を採用することで、踏力を余すこと無く推進力へ変換することを可能とした。

トップチューブに滑らかに接続するシートステートップチューブに滑らかに接続するシートステー 下ワンを1-1/4インチとしたテーパードヘッドチューブ下ワンを1-1/4インチとしたテーパードヘッドチューブ

長方形断面のシンプルなチェーンステー長方形断面のシンプルなチェーンステー エアロロードFOILの設計を取り入れ空気抵抗を低減したダウンチューブエアロロードFOILの設計を取り入れ空気抵抗を低減したダウンチューブ


同時に、ヘッドチューブとダウンチューブには、F1チームとの共同開発により誕生したカムテール形状の「F01テクノロジーチューブシェープ」を採用。翼断面の後端を切り落とした形状とすることで、縦横の剛性バランスを損なうことなく、円断面と比較して空気抵抗を20%低減。時速45km/hで従来モデルと比較した場合、7.8W少ない出力で走行することができるという。

快適性を担うアッパーラインは全体的に従来モデルよりサイズダウンし、シートポストも27.2mm径とすることで、しなやかさを向上。その快適性はパリ~ルーべを始めとした悪路のレースでプロライダーから選ばれるほどである。一方で、トップチューブを横幅の広い長方形断面とし、シートチューブをBB付近で拡大させ、シートステーの根本の間隔を広げるなど、それぞれ形状を工夫することで不要な変形を抑えた。

コンポーネントはシマノで統一コンポーネントはシマノで統一 ハンドル周りは傘下のパーツブランドであるシンクロスで統一されているハンドル周りは傘下のパーツブランドであるシンクロスで統一されている


ヘッドチューブは下ワンを1-1/4インチとしたテーパード設計で、緩やかなベンド形状のフロントフォークと合わせて安定感の高いハンドリング性能を実現。ジオメトリーはトップチューブを長く、ヘッドチューブを短く、フォークアングルを立てたレースフィットとしている。

現行型のADDICTは素材別に3グレードで展開される。今回インプレッションする末弟モデルの「ADDICT 30」は、上位グレードのカーボンと比較して強度を重視した「HMF」カーボンを採用する。これをIMPと名付けられた独自のモノコック工法で成型し、大きな負荷が掛かる部分には引張強度の高い材料を配置することで、安全性と軽量化の両立。その他、前後のドロップエンドやフロントディレーラー台座もフルカーボン製とすることで軽量化を追求し、フレーム単体で890g、フォーク単体で360g、完成車重量は7.86kgとした(いずれもMサイズ)。

BB側で断面積を拡大することで剛性と衝撃吸収性の両立を図ったシートチューブBB側で断面積を拡大することで剛性と衝撃吸収性の両立を図ったシートチューブ オーソドックスな設計のリアトライアングルオーソドックスな設計のリアトライアングル 双胴式とされたシートステーの根本双胴式とされたシートステーの根本


メインコンポーネントにはシマノ105を、ホイールにはシマノWH-RS11を採用し、ハンドル・ステム・シートポスト・サドルはスコットの傘下ブランドであるシンクロスで統一。共通素材のADDICT 10のフレームセットが280,000円(税抜)であるのに対し、ADDICT 30は完成車で328,000円(税抜)と、その高いコストパフォーマンスも見逃せないポイントだ。早速インプレッションに移ろう。



ーインプレッション

「持って軽い、乗って軽い、登って軽いと三拍子揃った1台」
鈴木卓史(スポーツバイクファクトリー北浦和スズキ)


持って軽い、乗って軽い、登って軽いと三拍子揃った1台です。ジオメトリーの良さも相まってかダンシングの振りも軽く、走りは軽快そのもの。以前所有していた初代のFOILも登坂性能は高いレベルにありますが、やはりADDICTに分があるといえるでしょう。また、SOLACEも試乗したことがありますが、スコットが狙った通りの棲み分けができているなと、今回の試乗で改めて感じました。

剛性面ではBB周りとバックのウィップが特徴的で、踏み味によい影響を与えています。踏んだ後に一瞬の溜めがあり、そこから後ろからふわっと押し出されるイメージです。同時に反発力が少ないことから疲労が溜まりにくく、ヒルクライムでは長く踏み続けることができます。勾配に関係なく、サドルにしっかりと座って高ケイデンスでペダリングしてあげると、より軽快に走ってくれます。インターバル的な走りは苦手ですが、反応性を求めるのであればFOILやADDICTの上位モデルという選択肢があります。

「持って軽い、乗って軽い、登って軽いと三拍子揃った1台」鈴木卓史(スポーツバイクファクトリー北浦和スズキ)「持って軽い、乗って軽い、登って軽いと三拍子揃った1台」鈴木卓史(スポーツバイクファクトリー北浦和スズキ)
そして、振動吸収性の高さも今回のテストバイクの大きな特徴ですね。あえてガレた路面を走ってみましたが、突き上げの角を丸めて、ロードインフォメーションを穏やかに伝えてきてくれます。特に振動減衰に長けているはフロント側。カーボンは違えど、ADDICTにはプロがパリ~ルーベで選択するのも頷けるほどの快適性があります。

ハンドリングはニュートラルで、コーナリングやダウンヒルでは高い安定感を感じました。制動力もフレームがそつなく受け止めてくれます。軽量バイクといえば軽いだけで扱いづらいというモデルも少なくありませんが、ADDICTにはそういった印象はありません。

少しぶつけたぐらいでは割れることもなさそうですし、耐久性も充分に確保されていることでしょう。BBはプレスフィット式ながらもシマノが提唱するBB86ですからトラブルは少ないはずです。素性の良いバイクですからパーツを変えながら長く乗り続けることもできるでしょう。

まずカスタムするのであれば、やはりホイールですね。完成車の状態でも充分に軽いホイールですが、更にフレームの軽快さを引き出すべく、軽量ホイールに交換したいところです。オススメはマヴィックR-SYS SLRやシマノWH-9000-C24-CLでしょう。標準でアッセンブルされているシンクロスのパーツは、ルックス面でフレームとの統一感があり、性能的にも充分。そのままシンクロスの上位グレードに交換して軽量化してみてもよいでしょう。パーツ次第では6kg台のクライミングバイクを組むことができますね。

コンポーネントがシマノ105であることを考えると20万円代だと嬉しいところですが、この軽さを考えれば価格は妥当でしょう。総じて、比較的体重が軽く、普段からヒルクライムや山岳ロングライドを楽しんでいるビギナーの方の2台目にオススメです。

「芯のしっかりした万能バイク 性能バランスに秀でる」
山崎敏正(シルベストサイクル)


芯のしっかりした万能バイクというのが第一印象です。私は毎年2~3台のペースで新車を購入しており、各社のハイエンドバイクも数多く乗り継いできましたが、その中でも上位にランクインするだけの実力がありますね。突出した性能はありませんがバランスに秀でており、あらゆる場面で気を尖らせることなく走ることのできるバイクだと感じました。ミドルグレードながらよく作りこまれています。初めてのバイクでしたら、スコットの中ではADDICT 30が最もおすすめですね。

「芯のしっかりした万能バイク 性能バランスに秀でる」山崎敏正(シルベストサイクル)「芯のしっかりした万能バイク 性能バランスに秀でる」山崎敏正(シルベストサイクル) パキパキっと乾いた乗り味のハイエンドモデルと比較すると、ADDICT 30は反応性にこそ劣るものの、鈍重な印象はありません。むしろ、ウィップを効かせることで、長時間乗っていたいと思わせてくれる上質なしっとりさに繋げています。

登りではダンシングを多用しながらでもスムーズに進んでくれますが、一方ではシッティングで腰を据えて、ウイップを活かしながらグイグイと踏んで加速していくような走り方も得意としています。ロングライドに限定するのであれば、ピュアレーサーの上位モデルではなく、ビギナーに限らず私もこのADDICT 30を選ぶことでしょう。また、カーボンの肉厚が増したことで、安心感が強まっていますね。

得意とするのは曲がりくねったワインディングロードやアップダウンですね。平地での高速巡航はFOILなどエアロ系ロードバイクに分がありますが、ちょっとした上り下りで速度を保つことができ、最終的な平均速度が高くなるのはADDICTのはずです。

振動吸収性は、比較的スムーズな日本の舗装状態にマッチした過不足のないレベルといえるでしょう。昨今のコンフォートモデルには劣るものの、振動を吸収しすぎることで失うものも少なくありませんから、走行環境にあった振動吸収性を求めてADDICTを選ぶというのもありでしょう。

このバイクをオススメしたいのは、ロングライドを筆頭に、ジャンルを問わず、登録系レース、ホビーレース、エンデューロと様々なロードイベントに参加してみたいという方。ヒルクライムも得意分野ですし、軽量ホイールに交換して、ギア比を脚力に合わせて調整すれば上位クラスでの入賞をアシストしてくれるだけの戦闘力の高い1台にもなります。実業団の中~上位クラスのレースでも不満は出ないはずです。

コンポーネントとホイールはシマノで統一され、リアディレーラーをロングゲージとした点など、パーツアッセンブルも良好ですね。ハンドルやサドルの形状も良かったですし、すぐに変えなくてはならないという点はありません。タイヤもバイクにマッチしていてコーナリングの安定感に貢献している印象でした。また、フレームのポテンシャルが高いことから、アップグレードして長く乗る続けることもできますね。

スコット ADDICT 30スコット ADDICT 30 photo:Makoto.AYANO
スコット ADDICT 30
フレーム:Addict HMF / IMP SUPERLIGHT Carbon technology / Road Race geometry / Replaceable Dropout / STD Seattube / INT BB
フォーク:Addict HMF1 1/8" - 1 1/4" Carbon steererIntegrated Carbon Dropout
メインコンポーネント:シマノ 5800系105
クランク:シマノ FC - RS500 Compact Hyperdrive 52 × 36 T Black
ハンドル:シンクロス RR2.0 Anatomic 31.8mm
ステム:シンクロス FL2.01 1/8" / four Bolt 31.8mm
シートポスト:シンクロス Carbon FL1.2 27.2/350mm
サドル:シンクロス RR2.0
ホイール:シマノ WH RS11
タイヤ:コンチネンタル Grand Sport Race Fold 700 × 23C
サイズ:XXS/47、XS/49、S/52、M/54、L/56
重 量:7.86kg (Mサイズ)
価 格:328,000円(税抜)



インプレライダーのプロフィール

鈴木卓史(スポーツバイクファクトリー北浦和スズキ)鈴木卓史(スポーツバイクファクトリー北浦和スズキ) 鈴木卓史(スポーツバイクファクトリー北浦和スズキ)
スポーツバイクファクトリー北浦和スズキの店長兼代表取締役を務める。過去には大手自転車ショップで修行を積んだ後、独立し現在の北浦和に店を構える。週末はショップのお客さんとのライドやトライアスロンに力を入れている。ショップでは個人のポジションやフィッティングを追求すると同時に、ツーリングなどのイベントを開催することで走る場を提供し、ユーザーに満足してもらうことを第一に考えている。「買ってもらった方に自転車を続けてもらう」ことをモットーに魅力あるバイクライフを提案する日々を送っている。

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山崎敏正(シルベストサイクル)山崎敏正(シルベストサイクル) 山崎敏正(シルベストサイクル)
「てnち」のニックネームで親しまれているシルベストサイクル総括店長。選手としてはモスクワオリンピックの日本代表に選出された経験を持つ一方で、サンツアーの開発部に在籍していたことから機材への造詣も深い。現在も現役でロードレースを走る。シルベストサイクルは梅田、箕面、京都と関西に3箇所に店舗を構え「頑張るアスリートのためのショップ」として信頼の技術力や確かなフィッティングサービスなどを提供する。加えて、ロードレースやロングライド、トライアスロン、トレイルランなど様々なジャンルのソフトサービスを展開している。

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ウエア協力:reric

photo:Makoto.AYANO
text:Yuya.Yamamoto

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