TTチャンピオンの與那嶺恵理(サクソバンクFX証券)相手にスプリント勝負に持ち込んだ萩原麻由子(Wiggle HONDA)。常に落ち着いて対処した萩原に軍配が上がり、昨年に続いて連覇を達成した。



WE 萩原麻由子(Wiggle HONDA)が與那嶺恵理(サクソバンクFX証券)を下し連覇達成WE 萩原麻由子(Wiggle HONDA)が與那嶺恵理(サクソバンクFX証券)を下し連覇達成 photo:Hideaki TAKAGI
6月28日(日)に行なわれた全日本選手権ロード女子エリート。萩原と與那嶺を中心に攻撃と牽制が繰り広げられ、単独逃げていた大堀博美(YOKOSUKA UNO RACING)を残り150mで吸収して14人でのスプリント勝負となり、これを萩原が制して連覇。與那嶺、金子広美(イナーメ信濃山形)がこれに続いた。

41名が出走の女子エリート

女子エリートは男子エリートのスタートから8分後に41名が8周128kmのレースを開始。今年のメンバーは昨年とほぼ同じ。上野みなみはいないが、昨年の覇者萩原、今年のTT覇者與那嶺、さらに金子、合田祐美子(BH ASTIFO)、西加南子(LUMINARIA)ら役者が揃う。これに学生チャンピオンの樫木祥子(ニールプライド南信スバル)や中原恭恵(チェリージャパン)など、より実力をつけた選手も参加。

男子と女子は時差スタートだが必ずどこかで女子を男子が抜く場面が発生する。その場所が抜きやすくかつ展開上重要場面でないように調整されているが、初日の状況をみて5分差を8分差へ変更してスタートとされた。だがエリート女子の進行が予想以上に遅く、結果として男女それぞれ1回ずつニュートラルをかけることとなった。

WE シード選手が並ぶスタート前WE シード選手が並ぶスタート前 photo:Hideaki TAKAGIWE 3周目、集団のままでペースは上がらないWE 3周目、集団のままでペースは上がらない photo:Hideaki TAKAGI

中盤過ぎてから3人が逃げる

4周目までの前半は集団のまま推移する。上りのたびにペースアップの動きもあるが逃げを作るまでには至らず集団に。4周目に男子集団を抜かせるために女子集団にニュートラルがかかった。5周目に入り集団から樫木、中井彩子(鹿屋体育大)、高田由貴(ZIPPY CYCLE CLUB)の3人が抜け出し、集団は静観したためすぐに差は開き、6周目に入った時点で最大1分半にまで広がる。学生チャンピオンまで逃がしたメイン集団だったが、それでもペースは上がらずラップタイムは29分前後。前日の女子ジュニアが平均26分台のラップであり、明らかに遅いペースでレースは進む。

6周目の集団内ではようやくペースアップの動きが始まる。まず平坦区間で萩原がアタック。これに與那嶺が反応したところで逆サイドから金子がアタックするがこれにも與那嶺が反応し集団はひとつ。その後は上りを中心に崎本智子(ナカガワAS.K'デザイン)がペースを上げるが後続が続かずペースダウン。この間、萩原や金子らは先頭でローテーションするが、與那嶺はこれに加わらない。

WE 6周目、萩原麻由子(Wiggle HONDA)が仕掛けて蛇行する集団WE 6周目、萩原麻由子(Wiggle HONDA)が仕掛けて蛇行する集団 photo:Hideaki TAKAGIWE 7周目、先頭で逃げる樫木祥子(ニールプライド南信スバル)と中井彩子(鹿屋体育大)WE 7周目、先頭で逃げる樫木祥子(ニールプライド南信スバル)と中井彩子(鹿屋体育大) photo:Hideaki TAKAGI

7周目でアタック開始の與那嶺恵理(サクソバンクFX証券)

7周目に入ってもなお先頭の樫木と中井は逃げ続け、集団との差は1分。コース前半の坂は集団内で崎本がペースを上げるがばらけない。そして国道を過ぎてからの上りで與那嶺がアタックを開始。ここまでの100kmでほとんど集団の前に出ることのなかった與那嶺が動いた。この動きには萩原や金子がすかさずチェックに入り集団はひとつに。

この7周目で與那嶺は合計3回のアタックを繰り出し、3度目は萩原、金子とともに3人で抜け出す場面があったが與那嶺が牽制してみたび集団はひとつに。ペースのアップダウンを繰り返したがこの区間で逃げていた先頭2人を集団は吸収し、いよいよ集団のままで最終周回へ。牽制状態で入ったコース前半の下り区間で大堀博美(YOKOSUKA UNO RACING)が抜け出すと集団は牽制状態となりすぐに30秒以上の差が付いて独走する。

大堀はこの1年で急速に力をつけてきた22歳の選手。昨年5月にロードレーサーを買い7月から本格的にトレーニングを開始。10月のジャパンカップオープン女子で6位、11月のツール・ド・おきなわ女子国際3位、そして今年4月のチャレンジロードA-Fで2位の成績がある。この大舞台で経験1年の大堀はこの後、驚異的な粘りを見せることに。

WE 7周目、アタックを開始した與那嶺恵理(サクソバンクFX証券)WE 7周目、アタックを開始した與那嶺恵理(サクソバンクFX証券) photo:Hideaki TAKAGIWE 7周目、アタックで抜け出した與那嶺恵理(サクソバンクFX証券)ら3人が牽制で蛇行するWE 7周目、アタックで抜け出した與那嶺恵理(サクソバンクFX証券)ら3人が牽制で蛇行する photo:Hideaki TAKAGI
WE 8周目、下り区間で抜け出した大堀博美(YOKOSUKA UNO RACING)WE 8周目、下り区間で抜け出した大堀博美(YOKOSUKA UNO RACING) photo:Hideaki TAKAGIWE 8周目、仕掛ける萩原麻由子(Wiggle HONDA)WE 8周目、仕掛ける萩原麻由子(Wiggle HONDA) photo:Hideaki TAKAGI

最終周回、50秒差で独走する大堀博美(YOKOSUKA UNO RACING)

まだあまり名を知られていない大堀の逃げに対し、集団はそれに関係なく攻撃と牽制を繰り返す。牽制時は道幅いっぱいに広がるほど。この時点で先頭の大堀と、50秒差で集団に15人。いよいよ残り半周、ラスト8kmからの上りで萩原が仕掛ける。これに合田が反応し與那嶺と金子も続き、先頭の萩原が交代を促しても誰も出ず牽制状態に。

ラスト5kmの上りは與那嶺が仕掛け、これに金子と萩原が反応、合田らも続く。さらに萩原が横へ出てペースを上げこれに與那嶺と金子が反応し蛇行する。この3人が抜け出したあと、合田、牧瀬翼(ASAHI MUUR ZERO)、西加南子(LUMINARIA)が合流し先頭は6人に。しかし前に大堀が30秒以上の差で逃げている状況でも、この6人は牽制してペースは上がらない。

WE 8周目、萩原麻由子(Wiggle HONDA)が上りで仕掛けるWE 8周目、萩原麻由子(Wiggle HONDA)が上りで仕掛ける photo:Hideaki TAKAGI
萩原麻由子(Wiggle HONDA)がロングスパートで優勝

女子が優勝争いをしているまさにそのタイミングで、男子先頭で逃げていた内間康平(ブリヂストンアンカー)が追いつき、ここで内間を含む男子のレースにニュートラルが掛かる。女子のペースが予想外に遅く女子のラスト3kmにかかってしまったための措置だ。

ラスト1.5kmでは先頭に大堀が単独、20秒差で14名の集団の構図に。この上り区間で萩原がアタック、これに與那嶺、金子、合田、西らが反応。さらに萩原がロングスパートをかけてフィニッシュへ。萩原はラスト150mで単独先行していた大堀を抜き去り、そして追う與那嶺を振り切って萩原が先着。128kmの戦いに終止符が打たれた。

レースは残り2周で動いた。それまでは女子選手権に特有の牽制状態でペースが上がらずどの選手もスタミナを残していた。與那嶺そして萩原の攻撃も逃げ切れるものではなく最後のスプリント勝負へ持ち込まれた。その中で俄然注目されたのは競技歴1年で先頭を逃げ続けた大堀。ほか上位陣の共倒れ覚悟ともいえる牽制の前に、大金星も可能な範囲だった。だが最後は冷静にライバルをそしてレースを俯瞰していた萩原が2年連続のチャンピオンに輝いた。

WE 8周目、6人に減った集団に、男子エリートのアタックした内間康平(ブリヂストンアンカー)が追いつきニュートラルが掛かるWE 8周目、6人に減った集団に、男子エリートのアタックした内間康平(ブリヂストンアンカー)が追いつきニュートラルが掛かる photo:Hideaki TAKAGIWE ラスト2.5km、先頭を追いながらも牽制する集団WE ラスト2.5km、先頭を追いながらも牽制する集団 photo:Hideaki TAKAGI
WE スプリントで先行した萩原麻由子(Wiggle HONDA)WE スプリントで先行した萩原麻由子(Wiggle HONDA) photo:Hideaki TAKAGIWE 連覇達成の萩原麻由子(Wiggle HONDA)、笑顔がこぼれるWE 連覇達成の萩原麻由子(Wiggle HONDA)、笑顔がこぼれる photo:Hideaki TAKAGI

優勝した萩原麻由子(Wiggle HONDA)のコメント

WE ラスト150mで惜しくも吸収された大堀博美(YOKOSUKA UNO RACING)WE ラスト150mで惜しくも吸収された大堀博美(YOKOSUKA UNO RACING) photo:Hideaki TAKAGI優勝できてジャージを持って帰ることができて嬉しいです。TTでは與那嶺さんに普通に考えれば(ロードでは)無理だろうと思う1分差で負けていたので、気持ちを切り替えてこの1週間は準備しました。友人のマッサージャーに来てもらい、那須に滞在して意地でも勝ってやろうと誰もいない朝早くにこのコースを何周も走り、それからこの後に出るジロ・デ・ローザに向けて山も登っていました。
WE 連覇達成の萩原麻由子(Wiggle HONDA)を恩師の黒川剛鹿屋体育大監督が祝福WE 連覇達成の萩原麻由子(Wiggle HONDA)を恩師の黒川剛鹿屋体育大監督が祝福 photo:Hideaki TAKAGIWE 表彰WE 表彰 photo:Hideaki TAKAGI
コースは思っていたよりもタフでなく、日本だけでなくアジアでよくある集団で走る展開でした。ブレーキもかけたほどです。與那嶺さんが前に出ないのはいつものパターンなので、展開も含めて焦らず自滅しないよう落ち着いて走りました。ラスト2周からの彼女のアタックは強かったですが、いつものことなので最後まで一緒ならば負けることはない、スプリントでは彼女に絶対に勝てる自信がありました。

今後はまずジロ・デ・ローザに出る予定です。今回チームは総合を狙うのでハードになりますが、まずはチームのオーダーをこなすこと、そしてチャンスあれば自分も狙いたいです。そしてリオに向けて日本の枠を取るためにUCIポイントを取っていきたいです。今日は学生も一生懸命走っていて、東京へ向けて若い選手がもっと出てきてくれたらと思います。

2位の與那嶺恵理(サクソバンクFX証券)のコメント

最後はスプリントの経験の差、場所取りや瞬間的なことであっちがうまかったです。私がスプリントに持ち込みたくなくて途中で仕掛けました。もともと相手がどうであれ決まらなかったとしてもラスト2周で仕掛けると決めていました。相手がどう動くかでなく、自分が仕掛けて相手を消耗させるのが自分の勝ち方です。もちろん仕掛けて逃げたかったですが、私には上りが短かったですね。

今回は去年の世界選よりもいいコンディションを揃えてきました。が、勝ちを狙って負けてしまったということです。フィジカルに関しては先週のTTと、今日自分が動いた展開から(萩原さんより)全然劣っていないです。今回はもちろん1位を獲るために準備をしてきたしめちゃめちゃ悔しいです。でも終わったことなのでこれからのこと、世界選のTTに出場して10位以内で枠を確定させて、それでリオまでそして東京までぶれることなく駆け抜けたいです。

結果 
女子エリート 128km
1位 萩原麻由子(Wiggle HONDA)3時間48分19秒
2位 與那嶺恵理(サクソバンクFX証券)
3位 金子広美(イナーメ信濃山形)+01秒
4位 合田祐美子(BH ASTIFO)+02秒
5位 西加南子(LUMINARIA)+03秒
6位 中原恭恵(チェリージャパン)+04秒
7位 大堀博美(YOKOSUKA UNO RACING)
8位 江藤里佳子(鹿屋体育大学)+07秒
9位 牧瀬翼(ASAHI MUUR ZERO)+09秒
10位 吉川美穂(ASAHI MUUR ZERO)+15秒

photo&text:Hideaki TAKAGI