アメリカオレゴン州、ポートランドのPRのために4月に東京、神田で開催された「POP UP Portland in Tokyo 2015」。そこに出展した自転車用アクセサリーをプロデュースするPDWのダン・パウェル氏に、自身のブランドのこと、そしてポートランドの自転車文化について聞きました。



神田の旧万世橋駅にあるmAAch ecuteで開催された「POP UP Portland in Tokyo 2015」(写真は会場の一部)神田の旧万世橋駅にあるmAAch ecuteで開催された「POP UP Portland in Tokyo 2015」(写真は会場の一部)
4月後半の5日間、東京都神田の旧万世橋駅にあるmAAch ecuteで、「POP UP Portland in Tokyo 2015」という展示会が行われていたのをご存知だろうか。

このイベントは、「アメリカ人が最も好きな街」に選ばれ、「クリエイティブな都市」や「世界有数の環境都市」として注目を集めるアメリカはオレゴン州、ポートランドを知ってもらおうとポートランド市が主催したものだ。

超一流アパレルブランドのナイキやコロンビアが本拠を置くなど、クリエイティブな人々やブランドが多く集まるポートランド。地図上で見れば豊かな山と川に囲まれた他と大差ない小さな街だが、その魅力は今や多くのメディアに取り上げられ、世界中からも注目が高まっている。

POP UP Portland in Tokyo 2015には8つの企業が参加し、そのうち2つが自転車ブランドだったPOP UP Portland in Tokyo 2015には8つの企業が参加し、そのうち2つが自転車ブランドだった 木製自転車を出展したRenovo Bicycles。親子で経営しており、右が父のスチュアート、左が息子のケン木製自転車を出展したRenovo Bicycles。親子で経営しており、右が父のスチュアート、左が息子のケン

ユニークな製品を多くプロデュースするPDW。写真はビール瓶を持ち運べるtakeout basketユニークな製品を多くプロデュースするPDW。写真はビール瓶を持ち運べるtakeout basket キュートなデザインで人気の「The Bird Cage」キュートなデザインで人気の「The Bird Cage」


特に自転車に関しては、幾多の専用レーンや公共のラックの整備、鉄道への持ち込みが無料化されるなど、アメリカ中で最もバイクフレンドリーな街であり、「北米の自転車の首都」とも呼ばれるほど。ChrisKingや今回出展したPDW(Portland Design Works)、そして数多くのハンドメイドビルダーが工房を構え、今回の「POP UP Portland」でも参加した8つの企業中、2つが自転車ブランドだったことも、必然と言えばその通りなのだろう。

今回はポンプやツール、ボトルケージ、ライトなどを生み出すアクセサリーブランド、PDW(Portland Design Works)の共同創業者、ダン・パウェル氏に、自身のブランドのこと、ポートランドのことについて聞いてみた。



― まずはダンさんの経歴と、PDWについて教えて頂けますか?

来日したPDWの共同創業者、ダン・パウェル氏に話を聞いた来日したPDWの共同創業者、ダン・パウェル氏に話を聞いた PDW最初の製品である「3WRENCHO」。ネーミングの由来はあの有名ブランドPDW最初の製品である「3WRENCHO」。ネーミングの由来はあの有名ブランド 僕はメカニックとしてショップで働き、プロレースのメカニックとして務め、2004年からは自転車雑誌のスタッフとしても働いた。そしてバジェットサイクリングショップで働いた時にエリック(・オルソン)と知り合って、二人で2008年にPDWを興したんだ。

ダンさんが思い入れ強いFull Metal Fender。ダンさんが思い入れ強いFull Metal Fender。 photo:Portland Design Worksのきっかけは2007年のインターバイクでいくつかのブランドがコミューターバイク用の製品を出品していたこと。そこで「これはとても大きな市場になるな」と感じたことが大きな転機だったんだ。そして二人ともポートランドに越してきて会社を立ち上げたよ。

PDWのデザインコンセプトは、美しく、シンプルで、実用的な毎日使えるものであること。片側が15mm、もう片側がタイヤレバーとなった携帯ツール「3レンチョ」をファーストプロダクトにし、そこからポンプやライト、カゴ、フェンダーなどバリエーションが増えた。

僕らのモチベーションは毎日のライドにアイテムをつくりたい!という思いから。それはロードレーサーもマウンテンバイカーも、そしてコミューターも同じ。ユーザーが本当に何を求めているかを知るためにバイクフレンドリーなポートランドで創業したし、実際にユーザーや各国の取り扱い店からのフィードバックを集めている。

― 一番のお気に入りプロダクトは?

難しいね(笑)。思い入れが一番あるのは3レンチョかな。最初のプロダクトだし、たくさんの思いをこめてつくったものだから。でもお気に入りというなら「takeout basket」か「Full Metal Fenders」。凄く実用的だし、何回も何回もプロトタイプを壊したね(笑)。SNSでも人気があるんだ。そうそう、今はSNSは本当に大事。ユーザーからの声がダイレクトに届くし、実際にハイパワーなライトもそうしたニーズを聞いて作ったんだ。

― PDWの製品は便利で使いやすいだけでなくデザインも効いていますよね。どこから着想するのですか?

それは僕らのオフィス周辺のロケーションから。ポートランドにはとても自転車が多く、街を歩いているだけでたくさんの自転車がいる。もちろん僕らも自転車に乗るし、カスタマーからのフィードバックも活かしている。とにもかくにも、ポートランドという場所柄が良い製品を生み出す最高のフィールドなんだ。

― 何故、ポートランドはそんなにも多くの人が自転車に乗っているのでしょうか?

それは1980年代に市が強力に専用レーンなど自転車移動がしやすいよう強力に整備を推し進めたことがきっかけ。もともとアウトドア生活を好む人が多かったから自然な流れだけど、歴代の市長もずっと自転車を含めたそういったライフスタイルに理解があったことも大きい。

ファッション雑貨をプロデュースする「Archival Clothing」のオーナー、レスリー・ラーソン氏。自身もコアな自転車乗りで、このバッグも通勤から着想したそうファッション雑貨をプロデュースする「Archival Clothing」のオーナー、レスリー・ラーソン氏。自身もコアな自転車乗りで、このバッグも通勤から着想したそう Vanilla Bicycleのランドナーを駆ってパリ〜ブレスト〜パリに参加した時の写真を見せてくれたVanilla Bicycleのランドナーを駆ってパリ〜ブレスト〜パリに参加した時の写真を見せてくれた


その流れで2000年代中頃にトニー・ペレイラやサシャ・ホワイト、アイラ・ライアンといったビルダーが工房を立ち上げ、クリスキングもカリフォルニアから引っ越してきた。もちろん僕らのようなメーカー、バイクショップも増え、そうなってくると商売もしやすいし、ユーザーにとっても楽しいだろう?そうしてポートランドは自転車乗りを強力に惹き付ける街になったんだ。

最近はMTBのトレイル利用を禁止する条例が決まってしまい残念だけど、ポートランドが自転車にとってユニークな街ということは一切変わりはしない。他の市町村でもポートランドにならえ!という動きがあるけれど、やっぱり特別な街なんだよ。DIY好きのポートランディア熱が高じて、今やビルディングを体験できる学校のような施設(UBI Portland)だってあるんだ。

― まさに「北米の自転車の首都」なんですね。皆の間で流行っているのは何ですか?

今一番アツいのはカーゴバイクだろう。でも皆が乗っているのはフェンダー付きのシクロクロス。35mmくらいのタイヤをつけてたフルフェンダーのスチールバイクで、カゴをつけている人も多い。ギアはあったり無かったり。多くの人が単にレースだけでなくコミューターとして自転車を使うから、必然的にこの形に落ち着くんだ。

PDWの倉庫にあるAhearne(エイハーン)のカーゴバイク。正確にはサイクルトラックと呼ばれているそうPDWの倉庫にあるAhearne(エイハーン)のカーゴバイク。正確にはサイクルトラックと呼ばれているそう photo:TKCproductionポートランドで生まれ育ったジョセフ・エイハーン。UBIの講師も務め、最も尊敬されているフレームビルダーの一人。PDW HQから徒歩数分の所に工房があるポートランドで生まれ育ったジョセフ・エイハーン。UBIの講師も務め、最も尊敬されているフレームビルダーの一人。PDW HQから徒歩数分の所に工房がある photo:TKCproduction

とあるバッグメーカーの工房で見かけたMetrofiets(メトロフィッツ)のカーゴバイク。電動アシスト付きとあるバッグメーカーの工房で見かけたMetrofiets(メトロフィッツ)のカーゴバイク。電動アシスト付き photo:TKCproductionポートランドの文化について語ってくれたダン氏ポートランドの文化について語ってくれたダン氏


それからバイクキャンピングなんかも今キテいることの一つ。その中で女性ライダーだけで輪行し、アドベンチャーライドにチャレンジする「KOMOREBI(木漏れ日)CYCLING TEAM」というのもつい最近できた。本格的な活動はまだだけれど、女性が自立して何かに挑戦するのは素晴しいこと。だからPDWとしてもサポートしているんだ。

― それには凄く進んだ自転車文化を感じます。毎週末たくさんのレースやイベントが開催されているとも聞きました。

ポートランド市内から近い場所にあるモトクロスサーキットで定期的に行われているMTBレース。平日にこれだけの人を集めるポートランド市内から近い場所にあるモトクロスサーキットで定期的に行われているMTBレース。平日にこれだけの人を集める photo:TKCproductionVeloCultのメカニックスペースVeloCultのメカニックスペース photo:TKCproductionオーガニックなビールを醸造するHopworks。天井からフレームが多数吊してあるオーガニックなビールを醸造するHopworks。天井からフレームが多数吊してある photo:TKCproduction週末どころか、サマーシーズンではほぼ毎日何かしらある!MTBのショートトラックレースが月曜と火曜にあって、ナイトロードレースも週に何回か開催されている。他にもクリテリウム、シクロクロス、ヴェロドロームではピストレースだってやっているよ。凄いことだよね。頑張ればプロのようにほぼ毎日レースに参加できるんだ。

― 日本ではポートランドがいろいろな媒体で取り上げられていて、行きたいと思っている人も多いと思います。ポートランドに旅行に行きたいと思っている自転車乗りにオススメはありますか?

まず日本からポートランドに到着したら、輪行の場合はまず自転車を組み立てなくちゃ走りに行けないよね。でも空港内にはバイクスタンドと工具が準備されていて、到着と同時に組み立てられる。そして輪行の人は自転車で、輪行じゃない人は路面電車に乗って「Velo Cult」というショップにまず行こう。

そこでクールな自転車を眺めながらビールを一杯引っ掛ければとりあえずOK。飲まないのであればその後バイクレーンを使ってあちこち自由に巡れば良いよ。僕はブロードウェイ・ブリッジを渡って郊外に行き、周囲に無数に続くアップダウンやダートロードを走るのが好きだな。

― 自転車以外にポートランドでクールなものは?

やっぱりビール!ライド後やレース後に飲むクラフトビールは最高さ。ポートランドでは食べ物とコーヒーとビールがとってもオススメ。どれも自転車と相性が良いだろう?(笑)個人的にはメキシカンが好きだけど、オーガニック系やアメリカ南部料理も良いね。

ビールだったらオーナーのクリスチャンが自転車好きが高じて「BIKEBAR」を作ってしまった「Hopworks Urban Brewery」が良いと思う。BIKEBARではカスタムビルドのフレームがたくさん飾られていたり、ビールサーバーのコックがクリスキングのヘッドセットだったりするよ(笑)。とりあえずここを抑えておけば土産話はOKだろう。

― ありがとうございました。最後に一言お願いします。

Come and see us!ポートランドの人達はみんな良い意味でおせっかいだから、日本からのトラベラーにとっても親しみやすい街だと思うよ。ユニークで素敵なもの、人、文化が入り交じっているし、きっとワクワクドキドキできると思う。向こうで会おうぜ!



留まることを知らずに飛び出し続けたダンさんのポートランドストーリーは、多くの方に強く響いたのではないだろうか。

今回の「POP UP Portland」では8企業中2つが自転車ブランドだったが、面白いことにファッション雑貨をプロデュースする「Archival Clothing」のオーナー、レスリー・ラーソン氏もVanilla Bicycleのランドナーを駆ってパリ〜ブレスト〜パリを完走するほどのコアサイクリストだったり、フットウェアのKEENもSPDシューズリリースしているし、来日した各ブースの担当者がもともと密接に繋がっていたり、ふと自分が都内ではなく、ポートランドの街角に来てしまったかのように思う瞬間が何度もあったのだ。

取材を通して、筆者自身も彼の地を訪れてみたくなった一人。仕事のスケジュールの確認とエアチケットのセール情報から目が離せない毎日である。

text&photo:So.Isobe

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