たとえ1級山岳がフィニッシュまで100km離れていたとしてもチャンスがあれば攻撃する。チームスカイの攻撃によって40名ほどに縮小したメイン集団がフィニッシュ地点タナーメラーにやってきた。早川朋宏(愛三工業レーシング)が残った小集団スプリントでカレイブ・イワン(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)が勝利した。



チームスカイの攻撃によって1級山岳ティティワンサで約20名が先行チームスカイの攻撃によって1級山岳ティティワンサで約20名が先行 photo:Kei Tsuji
トップチューブに巻かれた黒いテープ「大切な仲間を失ったので」トップチューブに巻かれた黒いテープ「大切な仲間を失ったので」 photo:Kei Tsuji地元の子供たちがマーシャルアーツを披露地元の子供たちがマーシャルアーツを披露 photo:Kei Tsuji


序盤のアタック合戦に加わる中根英登(愛三工業レーシング)序盤のアタック合戦に加わる中根英登(愛三工業レーシング) photo:Kei Tsuji喪章として黒いテープをトップチューブに巻いた愛三工業レーシングを含む130名の選手達が山間の街ゲリクをスタート。一行は内陸部へと進路をとり、マレー半島の分水嶺を越えて東海岸へと向かう。

39歳のフランシスコ・マンセボ(スペイン、スカイダイブドバイ)が逃げる39歳のフランシスコ・マンセボ(スペイン、スカイダイブドバイ)が逃げる photo:Kei Tsuji途中に登場するのは標高604mの2級山岳ゲリクと標高1006mの1級山岳ティティワンサ。いずれも登坂距離こそ長いものの、平均勾配は比較的緩い。とは言え超級山岳ゲンティンハイランドがなくなった今、クライマーたちにとって貴重なアタックチャンスであることは間違いない。

象出没注意象出没注意 photo:Kei Tsuji原生林をバッサリと伐採して作られた天然ゴムのプランテーションを抜け、小刻みに続くアップダウンをこなすうちに先頭では逃げグループが形成される。先行したのはナトナエル・ベルハネ(エリトリア、MTNキュベカ)、キール・レイネン(アメリカ、ユナイテッドヘルスケア)、フレデリック・ブルン(フランス、ブルターニュ・セシェ)、ソフィアネ・ハディ(モロッコ、スカイダイブドバイ)の4人。ここに序盤からアタックを繰り返していたフランシスコ・マンセボ(スペイン、スカイダイブドバイ)が単独ブリッジを成功させた。

2つの山岳で合計25ポイントを獲得したレイネンが山岳賞ランキングトップを揺るぎないものにする中、総合を見据えて逃げたのは2013年ツアー・オブ・ターキー覇者(繰り上げ総合優勝)のベルハネと、2014年ツール・ド・熊野覇者のマンセボだ。

2000年代に世界を代表するクライマーとして活躍し、2005年ツール・ド・フランスで総合4位、ブエルタ・ア・エスパーニャで総合3位&ステージ優勝を飾ったマンセボは現在39歳。オペラシオンプエルトによる疑惑をかけられた2006年以降はUCIコンチネンタルチームを転々とし、2014年から現在のスカイダイブドバイに所属している。

ベルハネとマンセボはともに3つのスプリントで競り合い、それぞれ9秒と6秒のボーナスタイムを獲得することに成功する。そればかりか、メイン集団に対して7分を超えるリードを得たことで逃げ切りの可能性も出てきた。しかしその野望はメイン集団の早めのペースアップによって砕かれた。



内陸の貯水ダムを横切って、スプリントポイントに差し掛かる内陸の貯水ダムを横切って、スプリントポイントに差し掛かる photo:Kei Tsuji
逃げグループを率いるフランシスコ・マンセボ(スペイン、スカイダイブドバイ)逃げグループを率いるフランシスコ・マンセボ(スペイン、スカイダイブドバイ) photo:Kei Tsujiメイン集団のペースアップを試みるフィリップ・ダイグナン(アイルランド、チームスカイ)メイン集団のペースアップを試みるフィリップ・ダイグナン(アイルランド、チームスカイ) photo:Kei Tsuji
40名強のメイン集団に残った早川朋宏(愛三工業レーシング)40名強のメイン集団に残った早川朋宏(愛三工業レーシング) photo:Kei Tsujiハイスピードダウンヒルをこなすプロトンハイスピードダウンヒルをこなすプロトン photo:Kei Tsuji
カラフルな果物やおもちゃが商店を彩るカラフルな果物やおもちゃが商店を彩る photo:Kei Tsuji


集団にでフィニッシュを目指すカレイブ・イワン(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)ら集団にでフィニッシュを目指すカレイブ・イワン(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)ら photo:Kei Tsuji登坂距離が20km近い1級山岳ティティワンサでペースアップを仕掛けたのはチームスカイだった。フィリップ・ダイグナン(アイルランド)とイアン・ボスウェル(アメリカ)の2人が集団先頭に立ってペースを上げると、すぐにリーダージャージのアンドレア・グアルディーニ(イタリア、アスタナ)は脱落する。

メイン集団を牽引するリー・ハワード(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)メイン集団を牽引するリー・ハワード(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ) photo:Kei Tsuji緩斜面を高速で駆け上がるメイン集団は人数を減らし、20名に絞られた状態で1級山岳ティティワンサの頂上に到着。長い下りで早川朋宏(愛三工業レーシング)を含む後続が追いつき、46名に膨れ上がった状態で先頭5名を追い始めた。

ヨウセフ・レグイグイ(アルジェリア、MTNキュベカ)がカレイブ・イワン(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)に並びかけるヨウセフ・レグイグイ(アルジェリア、MTNキュベカ)がカレイブ・イワン(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)に並びかける photo:Kei Tsujiグアルディーニの集団復帰を阻止したいオリカ・グリーンエッジの牽引と、進行方向から吹き付ける風によって逃げグループのアドバンテージはグングンと縮小する。しばらくアスタナがコントロールしていた第2集団が追走を諦めたため、総合リーダーの交代は確定的に。

レグイグイの追撃を振り切ったカレイブ・イワン(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)が勝利レグイグイの追撃を振り切ったカレイブ・イワン(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)が勝利 photo:Kei Tsujiマンセボ、ベルハネ、レイネン、ブルン、ハディの逃げがフィニッシュまで10kmを残して吸収されると、再びチームスカイがアクティブにアタックを仕掛けるが決まらない。独走に持ち込んだパヴェル・ブラット(ロシア、ティンコフ・サクソ)も残り2kmで吸収。最終的に40名によるスプリントが始まった。

ブラケットを握ったまま真っ先にスプリントした赤いナショナルチャンピオンジャージのラファ・シティウイ(チュニジア、スカイダイブドバイ)の後ろから、チームジャージに馴染んだデザインのポイント賞ジャージを着るイワンが加速する。並びかけたヨウセフ・レグイグイ(アルジェリア、MTNキュベカ)を振り切って、2日連続2位&総合2位のイワンが勝利した。

「ここまで2位が2日続いたので、優勝に手が届いたことが何よりも嬉しい。少しホッとした」。念願の勝利を手にしたイワンはレース後の記者会見で語る。「人数を揃えたスプリンターチームがオリカ・グリーンエッジだけだったので、逃げグループを捕まえるためにチームメイトたちは身を粉にしてくれた。彼らの働きに報いるためにも今日は勝たなければならなかった。でも最後はさすがに足にきていたよ」。

ボーナスタイムを加算した20歳のイワンが総合首位に立ち、13秒差でベルハネ、16秒差でレグイグイとマンセボが続く展開に。4名がリタイアしたためレースに残っているのは126名。チーム総合成績ではMTNキュベカがトップに立っている。

「今日の走りに点数をつけるとしたら60点ぐらいです。もう少し余裕をもってメイン集団内で山岳を越えることができていれば勝負に絡めていたかもしれない。最後のスプリントに挑みましたが、やはりスピードが違いました」と語るのは、トップと同タイムの24位でフィニッシュした愛三工業レーシングの早川。第3ステージを終えて早川は総合16位、アジアンライダー賞4位につけている。



フィニッシュ後、放水を全身に浴びるピーター・ウェーニング(オランダ、オリカ・グリーンエッジ)フィニッシュ後、放水を全身に浴びるピーター・ウェーニング(オランダ、オリカ・グリーンエッジ) photo:Kei Tsuji
先頭集団内でフィニッシュした早川朋宏(愛三工業レーシング)先頭集団内でフィニッシュした早川朋宏(愛三工業レーシング) photo:Kei Tsujiステージトップスリー 2位レグイグイ(MTNキュベカ)、1位イワン(オリカ・グリーンエッジ)、3位ドゥケ(コロンビア)ステージトップスリー 2位レグイグイ(MTNキュベカ)、1位イワン(オリカ・グリーンエッジ)、3位ドゥケ(コロンビア) photo:Kei Tsuji
2位が続いたカレイブ・イワン(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)が勝利をつかんだ2位が続いたカレイブ・イワン(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)が勝利をつかんだ photo:Kei Tsuji


ツール・ド・ランカウイ2015第3ステージ
1位 カレイブ・イワン(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)       4h13’32”
2位 ヨウセフ・レグイグイ(アルジェリア、MTNキュベカ)
3位 レオナルド・ドゥケ(コロンビア、コロンビア)
4位 ロメン・フェイユ(フランス、ブルターニュ・セシェ)
5位 ラファ・シティウイ(チュニジア、スカイダイブドバイ)
6位 ルーカ・キリコ(イタリア、バルディアーニCSF)
7位 ヴァレリオ・アニョーリ(イタリア、アスタナ)
8位 マルコ・フラッポルティ(イタリア、アンドローニ・ベネズエラ)
9位 メルハウィ・クドゥス(エリトリア、MTNキュベカ)
10位 アレッシオ・タリアーニ(イタリア、アンドローニ・ベネズエラ)
24位 早川朋宏(日本、愛三工業レーシング)

個人総合成績
1位 カレイブ・イワン(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)       11h02’52”
2位 ナトナエル・ベルハネ(エリトリア、MTNキュベカ)               +13”
3位 ヨウセフ・レグイグイ(アルジェリア、MTNキュベカ)              +16”
4位 フランシスコ・マンセボ(スペイン、スカイダイブドバイ)
5位 レオナルド・ドゥケ(コロンビア、コロンビア)                 +18”
6位 フレデリック・ブルン(フランス、ブルターニュ・セシェ)            +19”
7位 チャン・ウェンロン(中国、ジャイアント・チャンピオンシステム)        +20”
8位 リュー・ジャンペン(中国、ヘンシャンサイクリング)
9位 ロビン・マヌリアン(インドネシア、ペガサスコンチネンタル)          +21”
10位 ロメン・フェイユ(フランス、ブルターニュ・セシェ)              +22”

ポイント賞
カレイブ・イワン(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)

山岳賞
キール・レイネン(アメリカ、ユナイテッドヘルスケア)

アジアンライダー賞
チャン・ウェンロン(中国、ジャイアント・シャンピオンシステム)

チーム総合成績
MTNキュベカ

アジアンチーム総合成績
ペガサスコンチネンタル

text&photo:Kei Tsuji