ハイレベルなツール・ド・おきなわ市民140kmで優勝した、根本侑(内房レーシング)による直筆レポートをお届けします。残り距離30kmからの、一時間に渡る独走勝利の裏側とは。



前日は軽く走り、ビールと沖縄そば前日は軽く走り、ビールと沖縄そば photo:Yu.Nemoto今年は主に1時間〜2時間のレースを目標に練習をしていた。今回のおきなわは140kmにエントリーしたものの、レース距離に相当する練習は年間通してもあまりしておらず、距離と時間に対する慣れにだけ少し不安があった。しかし一方で、高強度の練習は上手くできていたので、市民140kmの予想していたレース強度に対する不安はなかった。

スタートは奥間という所だ。知らない土地だが、超経験豊富な内房レーシングのチームメイトと地元のジョージさんのサポートで準備は万端、あたふたすることなくスタートに向かうことができた。最初から考えていた作戦としては、最後に控える羽地ダムかその手前からの逃げ。スプリントが苦手なので、ゴールへと続く名護市街へは単独で入りたかった。

前日にチームメイトと沖縄入り。機材の確認のため少しだけ走って、沖縄そばとオリオンビールを腹に入れ、21時には床に着いた。

レース当日

昨年はスタート直後のトンネルで落車があったと聞いていたので、号砲が鳴ってからすぐに右側の路肩を通り、先頭付近へと上がっていった。一度目の普久川ダム(”ふくがわ”じゃなくて”ふんがわ”らしい!)は山頂手前で発生した山岳賞狙いの動き以外は何も起こらず、一定ペースで頂上まで。身体が大きい私はペース変動と登り一本勝負が苦手なので、ホッとした。

市民140km 国頭村道の駅でスタートを待つ市民140km 国頭村道の駅でスタートを待つ photo:Hideaki.Takagi
市民140km 独走優勝した根元侑(内房レーシング)市民140km 独走優勝した根元侑(内房レーシング) photo:Hideaki.Takagi市民140km 根元侑(内房レーシング)を追うメイン集団市民140km 根元侑(内房レーシング)を追うメイン集団 photo:Hideaki.Takagi


一度目の下りとその先のアップダウンの路面はウエットだ。集団はかなり慎重になっているようで、自分のペースで下ると差が開く。逃げるつもりはないが、下りの後の登りで楽ができるので、先頭で下る。海岸線に出てからは強い向かい風でペースが落ちる。奥の登りの手前で数台が道を遮る落車があったが、うまく避けることができた。奥の登りの後は追い風に乗り、ハイペースでレースが進んでいく。

市民140km 羽地ダムをこなす根元侑(内房レーシング)市民140km 羽地ダムをこなす根元侑(内房レーシング) photo:Hideaki.Takagi市民140km 2位グループ市民140km 2位グループ photo:Hideaki.Takagi市民140km 独走で根本侑(内房レーシング)がゴールに飛び込む市民140km 独走で根本侑(内房レーシング)がゴールに飛び込む photo:So.Isobe二度目の普久川ダムでもほとんど動きはなく、ペースは一定だ。しかし、登れる人、脚がある人がはっきりしてきて山頂では15人程度にまで絞られる。二度目の下りは大分乾いていたが、100kmの選手と混走になっているため一度目よりも慎重に。下りで遅れた選手、追い付いてきた選手がいて、次の登りの入り口では自分含めて人数は3人減って12人に。この登りで1人が前に行く。一緒に行くか迷ったが、自分より登りが得意そうな方だったので、消耗してくれることを祈って見送った。

しばらく11人の集団で走る。下り基調だから逃げはいずれ捕まえられる。後ろから登りで切れた人が来ることはなさそうだ。終盤で私が逃げた時、追走ののための力を残していてほしくない。ここでは協調というよりは集団全員に消耗して欲しいという思いがあった。

しかし、特に動きがなくても、ずっと続くアップダウンで自分含めて消耗していったんだろう。逃げの選手を捕まえたあたりで、脚が痙攣し始める。しかもここまでの補給所でボトルを取らなかったので水が無い。痛いけど、どうにか我慢できるので、座る位置を変えながら誤魔化した。

痙攣は一時収まり、慶佐次の補給所へ。ボトルが欲しくてたまらなかったので、先頭に出て二本もらって一安心する。そこで後ろを見ると、妙に距離が開いていた。「羽地の登りはすぐそこだった気がするから、このまま行っちゃう?」それとも「補給所付近で抜け出るのはダメなんだっけ?」と考えたが、知らぬふりしてこのまま単独で逃げる選択をした。

しばらくギリギリで回していたら、後ろとかなり差が開く。ここからはずっとしんどいし、痛かった。脚は攣るし、強い向かい風、近いと思っていた羽地ダムの登りも見えてこない、サイコンの表示設定のせいで距離が分からず、審判バイクの無線の調子が悪くタイム差も分からない...。ゴールしてから知ったのだが、アタックポイントからゴールまで20kmほどだと思っていたのに、実際には30kmもあったのだ。

とにかく考えていたのは、今以上崩れないことと、集団が機能していないことだけ。羽地ダムをインナーローで回してなんとかクリアし、名護市街地までたどり着く。

市街地に入ってからは「勝てるかも...!」という気持ちと追い風が手伝って、脚が回るようになった。しかし後ろの様子も伝わらないためゴールするまで勝ちを確信することができず、最後まで踏ん張りヘロヘロでゴール。ガッツポーズも上手く決まらなかった。

併走オートバイの無線の調子が悪いことで、私の到着が会場に伝わっていなかったらしく、何もアナウンスもされず、観客の皆さんに迎えられることも無く、ゴールしてもイマイチ勝ったことがが信じられなかった。チームメイトや友人と結果を確認して、やっと喜ぶことができたのであった...。

市民140km 表彰台市民140km 表彰台 photo:Hideaki.Takagi
「祝勝会となった打ち上げではオリオンビールと泡盛をジャブジャブ流し込んだ」「祝勝会となった打ち上げではオリオンビールと泡盛をジャブジャブ流し込んだ」 photo:May Ohara上を見れば格が違う市民210kmがありますが、優勝という結果に対してチームメイト、沖縄のチームの方、友達、お店の人...。周りの方々にすごくチヤホヤして頂きました。祝勝会となった夜の打ち上げでは、内房レーシングや地元チームの方々と一緒に盛り上がり、オリオンビールと泡盛をジャブジャブ流し込み、ヒージャー(ヤギ)汁をガブガブ。その最中からお祝いメールやSNSでのメッセージもたくさん舞い込み、沖縄から帰ってきてからも非日常感がしばらく続きました。

最後になりますが、レースの練習・手配・サポート・応援をして頂いた千葉県・内房レーシングの皆様と、自転車の基本と体力の基礎を作っていただいた古巣・山形県のチームホシの皆様に、この場を借りて感謝申し上げます。

来年からは210kmに出ます。しばらくはどうにもならないと思いますが、いつかそのうち勝負を楽しめる力が付けばと思っています。



使用機材
フレーム:TREK MADONE5   
メインコンポ:シマノ ULTEGRA
ホイール:Fulcrum RacingZero  
タイヤ:Continental Grandprix 4000
サドル:Cobb V-Flow Plus
補給食
ヤマザキ 練羊羹 栗×3
ヤマザキ 練羊羹 塩×3

text:根本侑
photo:Hideaki.Takagi,So.Isobe


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