フランスのプロツアーチームであるFDJ.frと強力なパートナーシップを結ぶラピエールが送りだす新たなコンフォートモデルが「PULSIUM」だ。特徴的なフレームワークにより、異次元の快適性を実現したというフレンチバイクの実力に迫っていこう。



ラピエール PULSIUMラピエール PULSIUM (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
フランス・ディジョンに本拠地を置くラピエールは、1946年創業とそのモダンなセンスあふれるデザインからは想像できないほどに歴史あるブランドだ。そして、開発から性能テスト、組み上げまでを一貫して自社ファクトリー内で行うだけの高いテクノロジーとノウハウを持っている。

シティサイクルからピュアレーシングモデルまでをラインナップする総合バイクブランドであり、長い歴史で培われた技術を活かした設計とフランスらしさを感じさせるハイセンスなデザインの製品づくりを得意としているラピエール。そのラインナップにおいて、カーボンロードモデルのコンフォートレーシングラインに位置づけられるのがパルシウムシリーズ。

これまで、ラピエールのコンフォートラインはミドルグレードであるセンシウムが担ってきた。これまではパリ〜ルーベをはじめとしたクラシックレースにおいてもFDJ.frの選手もセンシウムに乗ってきたが、今年は全く新しいフレームワークのバイクに乗る選手が目立ち、話題になった。そう、それこそが今回紹介するPULSIUM(パルシウム)なのだ。

ゼリウスEFIと同様、トップチューブのヘッド寄りには段差が設けられているゼリウスEFIと同様、トップチューブのヘッド寄りには段差が設けられている 長めに設定されたヘッドチューブ。アップライトなポジションもコラムスペーサーを積まずに可能となる長めに設定されたヘッドチューブ。アップライトなポジションもコラムスペーサーを積まずに可能となる 大きく湾曲したフロントフォーク。オフセット量は50mmとワイドにとられている大きく湾曲したフロントフォーク。オフセット量は50mmとワイドにとられている


PULSIUMのテーマとなるのは振動吸収性と推進力の両立。これまでのバイクとは一線を画する快適性と、スプリンターのパワーを受け止める剛性を兼ね備えたエンデュランスレーシングマシーンとして開発されたのだ。いかにも路面からの振動を良く吸収してくれそうな滑らかな曲線で構成されるフレームの中でも、最も特徴的なのはシートチューブの接合部で二股に分かれたトップチューブだ。

二股に分かれたトップチューブの下側に装備されるゴム状のパーツこそが、PULSIUMの快適性の核となるバイブレーションダンパーだ。最大で3.5mm可動するバイブレーションダンパーは、シートチューブとトップチューブが板バネのような働きをする中で、フレームに内蔵されたエラストマーリングが圧縮されショックアブソーバーの役割を果たすものなのだ。

二股に別れたトップチューブの下側には快適性の核となるバイブレーションダンパーが用意されている二股に別れたトップチューブの下側には快適性の核となるバイブレーションダンパーが用意されている トップチューブもフロントフォーク同様に波状を描くトップチューブもフロントフォーク同様に波状を描く

独特なトップチューブ後端の様子。ゴム製のカバーをめくるとシートポストのボルトが現れる独特なトップチューブ後端の様子。ゴム製のカバーをめくるとシートポストのボルトが現れる アダプターを取り外しロングアーチのブレーキキャリパーを使用することで、最大32cまでの幅広タイヤを使用することも可能アダプターを取り外しロングアーチのブレーキキャリパーを使用することで、最大32cまでの幅広タイヤを使用することも可能


また、弓なりに弧を描くトップチューブやスリムなシートステーといった、フレームのなかでも快適性を司る部分が、路面状況に合わせて最適な形にしなるように設計されている。それらの設計と、さきほどのバイブレーションダンパーとの相乗効果によって、悪路をものともしない素晴らしい快適性を実現する。

前輪からの衝撃をいなすように、2度ベンドされた特徴的なブレード形状を持っているフロントフォークを装備している。オールラウンドレーシングモデルである、ゼリウス EFIのフロントフォークのオフセットは43mmなのに対して、パルシウムは50mmとオフセット量を多く設定することで、トレイル量を確保。直進安定性を高めたジオメトリを持ち、荒れた路面でも安心感のあるハンドリングはロングライド時の疲労を軽減してくれる。

快適性を追求する一方で、レーシングバイクとして必要な剛性や反応性といった要素もないがしろにしていない。ジロのポイント賞を獲得したナセル・ブアニの踏力を受け止めるオールラウンドレーサー、ゼリウス EFIで培ったテクノロジーはこのPULSIUMにも生かされている。

シートステーはオーソドックスな形状だ。ホイールベースは長めの設定シートステーはオーソドックスな形状だ。ホイールベースは長めの設定 ボトムブラケット周辺はかなりボリュームを持たせているボトムブラケット周辺はかなりボリュームを持たせている


ボトムブラケットの規格はプレスフィット86を採用。幅広のボトムブラケットは、そこにつながるダウンチューブやチェーンステーを拡幅することで、ねじれ剛性を高めることに繋がっている。ダウンチューブやチェーンステーの剛性を強化することで、ペダリングパワーを推進力へと高い効率で変換することに成功しているのだ。

また、悪路を走破するために太いタイヤを装着することができるように設計されているのも、大きな特徴だ。シートステーのブレーキブリッジには、キャリパー取り付けアダプターが設置されている。通常の23cや25cといった幅のタイヤであればアダプターを取り付けた状態でショートアーチのブレーキを使用できる。一方で、アダプターを取り外しロングアーチのブレーキキャリパーを使用することで、最大32cまでの幅広タイヤを使用することもできる。

複雑なフォルムを描くフロント三角に対し、リアバックは比較的オーソドックスなスタイル複雑なフォルムを描くフロント三角に対し、リアバックは比較的オーソドックスなスタイル PULSIUMをPULSIUMたらしめるフォルム。この形状が快適性に大きく貢献しているのだPULSIUMをPULSIUMたらしめるフォルム。この形状が快適性に大きく貢献しているのだ BBに向かうにつれてワイドになるダウンチューブBBに向かうにつれてワイドになるダウンチューブ


幅広タイヤが必要となるようなダートやグラベルを走っても、ワイヤーやケーブル類は内蔵処理をされているため、水分や泥の侵入にも強くなっており、メンテナンスサイクルも長くとれることができるように配慮されていることも、パルシウムの長所だろう。

FDJ.frからの実戦的なフィードバックを受けながら常に開発を進めるラピエールが放つエンデュランスレースバイク「PULSIUM」。今回インプレッションするのは、セカンドグレードに当たるパルシウム 500 FDJ CP。アルテグラで組まれた完成車モデルだ。

実際の販売パッケージでは、ホイールはMAVIC アクシウム、タイヤは同社のAKSION 25Cという設定となるが、今回のインプレッションバイクには、輸入元の東商会が取り扱うイーストンのカーボンディープホイール、EC90AEROがアッセンブルされていた。振動吸収と推進力の両立を命題とした、ラピエールの新たなチャレンジは2人のインプレライダーにどう映るのか。それではインプレッションを始めよう。



—インプレッション

「振動は伝えつつも後に残らない。柔らかいだけのコンフォートバイクとは別物」藤野智一(なるしまフレンド)

「振動は伝えつつも後に残らない。柔らかいだけのコンフォートバイクとは別物」藤野智一(なるしまフレンド)「振動は伝えつつも後に残らない。柔らかいだけのコンフォートバイクとは別物」藤野智一(なるしまフレンド) 乗り心地の良さで言えばコンフォート系ですが、走り性能自体はレースバイクそのものだと感じます。悪路をひたすらに速く走りたいというニーズにバッチリと応えた性能に仕上がっていますね。

振動をしっかりと伝えてくるものの、フレーム側での振動収束が早いため、石畳のような場面でも振動が重なって共振してしまう感じがありません。確かに悪路での走行性能を考えたバイクではありますが、"コンフォート系"と聞いてイメージするような単に柔らかいフレームではありません。

路面の振動を消しすぎてしまうと接地感が無くなり逆に不安ですし、路面の状況を捉えにくくなってしまいます。あくまでこれはレーシングバイクなのでしょう。エラストマーがどう効いているかは定かではありませんが、湾曲を設けたフレームデザインからは、いかにも振動を吸収しようという意図が汲み取れます。

しっかりと硬さのあるフレームですから踏み心地も"抜ける"ようなことがありません。通じて高速巡航やスプリントでもしっかりと力を受け止めてくれました。柔らかいだけのフレームではライダーが生む大きなパワーに応えてくれませんし、この部分こそがパルシウムの優れた点と言えますね。フレームの硬さに対して脚へのダメージは少なめですから、登りで疲れてしまっても完全に止まることが少ないでしょう。

登りではやや重ためのギアを選んで踏み込んだ時に真価を味わうことができました。緩やかに一定ペースを刻むグランフォンド的な走りよりも、後続を引き離すためにダッシュを掛けると伸びが生まれます。試乗車のホイールは比較的リム外周が重ためですが、それを打ち消すほどの進みの軽さがありました。

ヘッドとフォークがしっかりとしているためブレーキングも優秀ですし、コーナリングではニュートラルステア。通じてストレートでの安定感もなかなかのものです。

レースで使うのであれば、クリテリウムから長距離レースまでどんなシチュエーションでもいといません。硬さがあるため唯一長距離のヒルクライムレースには向いていないかもしれませんが、場面を問わない万能性が魅力です。一番フィットするのはスピード高めで走りたい中〜上級者でパワーのある方。完成車価格もまずまずですし、色・形・パーツのバランスも良好です。ルックスだけで選んでも決して損することは無いでしょうね。


「シッティングでのスピードの乗りが気持ち良い ナチュラルで安定性に富んだバイク」山本雅道(BICYCLE FACTORY YAMAMOTO)

これはパリ〜ルーベを走るためのバイクですね。つまり路面の荒れている平坦路で、縦方向からトルクをかけて重めのギアで走らせるバイクです。乗った瞬間の進みこそやや重ためですが、踏み込んでいったときの一瞬タメのある加速感は素晴しく、高速巡航でもスプリントでも何ら問題無くスピードが伸びていってくれました。

「振動吸収性の高さをもちつつ、ロードレーサーとしてもしっかり走れる性能を兼ね備えている」山本雅道(BICYCLE FACTORY YAMAMOTO)「振動吸収性の高さをもちつつ、ロードレーサーとしてもしっかり走れる性能を兼ね備えている」山本雅道(BICYCLE FACTORY YAMAMOTO) (c)MakotoAYANO
対して車体を振って斜め方向からパワーを掛けた場合、剛性バランスが影響するのか若干加速がスポイルされてしまうイメージです。あまり細かい部分にまでは言及できませんが、少し突っかかる感じと言えば分かりやすいでしょうか。これはおそらくホイールベースが長いことに起因したもので、前述したバネのような加速感の理由の一つであるとも感じます。

シッティングでのスピードの乗りが気持ち良い ナチュラルで安定性に富んだバイクシッティングでのスピードの乗りが気持ち良い ナチュラルで安定性に富んだバイク 振動吸収性は見た目とおり非常に長けていて、非常に快適な乗り心地を味わうことができました。その分力が逃げてしまうのでは?と思いましたが、シッティングで踏めば気持ちよくスピードが伸びていってくれます。ハンドリングもナチュラルで直進安定性が高く、座っているだけでどこまでも行くことができてしまうような、ロングライドにも最適な走り心地ですね。

なかなか特徴的な乗り味を持ったバイクですよね。今流行の兆しが出てきていますが、舗装路を基本にしつつ、ロードバイクでどんな道でも入っていくような冒険心のあるサイクリストにはベストではないでしょうか。たまに僕らも遊びで林道に入っていったりしますが、新鮮味があってなかなか面白いんですよ。他には道路の凹凸が気になりつつも、しっかりとしたロードレーサーが欲しい方。そういった方には選択肢の一つとして十分に使える自転車です。

ラピエール PULSIUMラピエール PULSIUM (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
ラピエール PULSIUM 500 FDJ CP(完成車)
メインコンポーネント:シマノ ULTEGRA
ホイール:マヴィック AKSIUM S WTS
タイヤ:マヴィック AKSION 700x25C
ハンドル:ジップ Service Course SL 80 Anatomic
ステム:ジップ Service Course SL 6°
シートポスト:ラピエール Carbon
サドル:フィジーク Aliante Delta Mg
サイズ:46、49、52、55
カラー:FDJ.fr
価 格:449,000円(税抜)



インプレライダーのプロフィール

藤野智一(なるしまフレンド)藤野智一(なるしまフレンド) 藤野智一(なるしまフレンド)

92年のバルセロナオリンピックロードレースでの21位を皮切りに、94・97年にツール・ド・おきなわ優勝、98、99年は2年連続で全日本ロードチャンピオンとなるなど輝かしい戦歴を持つ。02年に引退してからはチームブリヂストン・アンカーで若手育成に取り組み、11年までは同チームの監督を務めた。2012年より出身チームのなるしまフレンドに勤務し、現在は神宮店の店長を務める。

なるしまフレンド神宮店
CWレコメンドショップ

山本雅道(BICYCLE FACTORY YAMAMOTO)山本雅道(BICYCLE FACTORY YAMAMOTO) 山本雅道(BICYCLE FACTORY YAMAMOTO)

1978年神奈川県藤沢市生まれ。中学生2年生の頃藤沢市の自転車店ワタナベレーシングに入会し本格的に自転車競技を始める。高校卒業後は4年間のヨーロッパ選手生活を経て2000年からは国内トップチームで活躍した。U23全日本選手権2連覇をはじめ、優勝経歴多数。選手時代から地元でキッズ向け自転車スクールを開催するなど活動を行い、2013年6月に出身ショップを引き継ぐかたちで「BICYCLE FACTORY YAMAMOTO」をオープンさせた。

BICYCLE FACTORY YAMAMOTO


ウェア協力:sportful(日直商会)

text:Naoki,YASUOKA
photo:Makoto.AYANO