ドイツに拠点を構えるフェルト。プロ選手に供給する前からその性能には定評があったが、プロチーム、ガーミン・スリップストリームに供給を始めてから注目度と評価が一段と高くなっている。

フェルトAR5フェルトAR5 (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
UCIが規定したバイクの最低重量6.8kgという制限は、軽量性を追求した昔の製品開発とは違う路線をメーカーに歩ませた。それが近年注目の『エアロ形状ロードバイク』である。

フレームもコンポーネントも軽量化が進み、普通に組み付けても制限以下になってしまうのが当たり前の最先端バイクたち。レースに出場するために、重りを付けるなど皮肉な対策を取ってきたが、そのようなデッドウエイトを搭載するくらいならより積極的な素材の使い方をしよう、という考えの基に、今再び(何度目かわからないが)エアロ形状が注目されているのだ。

特徴的なワイヤの取り回し。トップチューブの上方からフレーム内に収まる。少しでも空気抵抗を減らそうと言う意志が感じられる特徴的なワイヤの取り回し。トップチューブの上方からフレーム内に収まる。少しでも空気抵抗を減らそうと言う意志が感じられる 横からの広い面積とは裏腹に正面からの面積は非常に小さい。また前輪に沿うような形状も空力のためである横からの広い面積とは裏腹に正面からの面積は非常に小さい。また前輪に沿うような形状も空力のためである


ARシリーズはその急先鋒とでも言うべき存在だ。今までの伝統的マスドロードバイクと、フェルトのルーツでもあるトライアスロンにも使用できるエアロバイクとの高次元での融合結果である。風洞実験の結果、このARシリーズは通常のバイクより、1時間当たり58秒の時間短縮に相当する、空気抵抗2%減に成功した。

横から見ればその大胆なチューブ形状に目を引かれる。各部分が水滴断面になっており、空気の流れを乱さないように設計されている。このような形状を実現できたのも、最先端のカーボン加工技術のおかげだろう。3種類の東レ製カーボンファイバー(SB60、M30S、T700)を適材適所に配置することで、剛性、空力特性、軽量性などを高い次元でまとめたウルトラハイブリッドカーボン(UHC)をモノコックで成形している。

ハンドル、ステムはフェルトのオリジナルだ。デザインもフレームと合わせており、高い質感を感じさせるハンドル、ステムはフェルトのオリジナルだ。デザインもフレームと合わせており、高い質感を感じさせる リアエンド周りまでフルカーボン製。高い技術力の証であり、高級フレームに採用される仕様だリアエンド周りまでフルカーボン製。高い技術力の証であり、高級フレームに採用される仕様だ


モノコックと言いつつも、自転車界で認知されているモノコックとは製法は異なる。ARは前三角とシートステー、チェーンステーを別々に製造し、最終的に一体化させるいわゆる『3ピース製法』を取っている。パーツ同士の接合方法は差し込んで接着するという技法ではなく、サマーセットカーボンを溶かしながら接合するという方法なので、継ぎ目も分からないほどの仕上がりになっている。

そしてARシリーズに新たに採用された技術が『UHC-NANO』。従来からのUHCにカーボンナノチューブを配合することにより、剛性と軽量性という相反する特性を持つに至っている。

実戦テストは2008年のツール・ド・フランス直前から始まったばかりだが、はやくも市販車がミッドプライスレンジに下りてきた。30万円オーバーは決して安いとは言えないが、最先端機能がこの価格帯で味わえるのは、他社と比べても一歩抜きん出ている。非常に高いコストパフォーマンスだ。

オリジナルのハイモジュラスカーボンフロントフォーク。こちらもエアロ形状になっている。専用品だけあり、ヘッドチューブから有機的に繋がっているオリジナルのハイモジュラスカーボンフロントフォーク。こちらもエアロ形状になっている。専用品だけあり、ヘッドチューブから有機的に繋がっている 後輪を包み込むようなシートチューブはホイールウェルと呼ばれる。航空工学からの設計技術の活用だ後輪を包み込むようなシートチューブはホイールウェルと呼ばれる。航空工学からの設計技術の活用だ BB近くでダウンチューブは一気に太くなっている。このあたりに高い巡航性能の秘密がありそうだBB近くでダウンチューブは一気に太くなっている。このあたりに高い巡航性能の秘密がありそうだ


独特な取り回しのケーブルも注目点のひとつ。少しでも空気抵抗を減らすため、全てのワイヤがフレームに内蔵されている。トップチューブから垂直に入るシフトケーブルは、慣れていなければどうやって取り回したらいいのやら悩みを誘うかも知れない。ただそんな悩みもささやかに思えるほど、魅力的な最新スペックを搭載しているバイクであり、また価格的にも納得できる選択肢ではないだろうか。





― インプレッション


「高速巡航に優れた最先端エアロ形状バイク」 鈴木祐一(Rise Ride)


「高速巡航に優れた最先端エアロ形状バイク」 鈴木祐一「高速巡航に優れた最先端エアロ形状バイク」 鈴木祐一 近年の流行りなのかカテゴリーなのか、エアロ形状のバイクが世の中に求められ、誕生している。そういった観点からこのフェルト・ARシリーズは興味があったバイクの1台だ。

他社に比べて、路面からの突き上げ感が大きく感じるのはその形状からだろうか?全体的な剛性は結構高い。ダウンチューブの前面投影面積はタイヤ幅よりも細いくらいなのだが、横剛性の低さは全く感じさせない。BB廻りに至っては見た目の印象とは真逆で、ウィップを感じさせないほどの剛性を持っている。

反面、トルクを掛けてダッシュした時にヘッド廻りから若干のタワミを感じた。このタワミ感はフレーム自体ではなくハンドル、ステム辺りが負けて感じられるもので、少し剛性アップに配慮したパーツアッセンブルに交換することで、かなりのフィーリング改善が見込めると思う。

コーナーリング性能は安定志向だ。落ち着いた雰囲気でコーナーを曲がっていける。テクニカルな下りが得意でない人や、レースやイベントで集団走行をするときなどに、この安定したフィーリングは良いと思う。個人的にも好みのコーナーリング性能だ。

加速感に関しては、フレームだけの性能かどうかはわからないが、かなり『スッスッ』と前に進む感じがした。踏んだ分、空気を切り裂くように『シュッ』っと進む感じかな? 気持ちのいい加速を見せるバイクだと感じた。

使用環境をイメージすると、ロードレースにおけるアタック等に対応する際の不規則なスピード変化には鈍さを感じるものの、一定ペースで走るときや、独走で逃げるときにはその性能が光るだろう。製品開発の狙いもズバリそこだと思う。重いギヤをぐーっと踏み込んで、平坦区間を高速巡航するシーンでは、素晴らしいフィーリングを得られる筈だ。

この価格でこの巡航性能は決して侮れないものだこの価格でこの巡航性能は決して侮れないものだ 意外にもヒルクライムで淡々と上る様なシチュエーションも得意だ。ヒルクライムの速度域で、一定ペースでペダルを回すと『スー』っと気持ちのいいフィーリングで上っていける、心地よい自転車だと思う。
最近はやりのヒルクライムレース、タイムトライアル、トライアスロンのバイクパートなどで一定ペースで走るのは、どの速度域かに関わらず得意であろう。『巡航』に関しては凄くいいバイクである。

よくあるコスト重視のバイクだと、クランクやブレーキキャリパーのグレードが下げられていたりするので、本来持っている性能からは評価が少し下がってしまう。だが、このフェルトに関してはちゃんとした純正パーツがアッセンブルされている。
クランクやブレーキキャリパーはシマノの105だ。その面ではバイクの性能をしっかりと引き出せている。フレームの持っている高い性能を、アッセンブルパーツが損なうことなく、むしろ相乗効果で高め合っている好印象を受けた。

欲を言えば、後々にホイールなどを巡航に適したディープリム系のものに交換すると、このバイクの長所をより引き出してあげることが出来ると思う。予算に余裕があれば、ぜひ。そうすれば、より良いフィーリングを味わうことができるだろう。




「低価格で最新のエアロフォルムが手に入る、超魅力的なバイク」 浅見和洋(なるしまフレンド)


「この価格でこのエアロフォルムは考えられないほどの魅力だ」 浅見和洋「この価格でこのエアロフォルムは考えられないほどの魅力だ」 浅見和洋 剛性感は高め。しかし無駄に硬いだけのバイクではない。その影響からか、ハンドリング特性はクイックだと感じた。個人的には好みのハンドリングなのだが、一般的にはクイックすぎるかもしれない。

この種のハンドリング特性は、その乱れを修正するのにしっかりとした体幹と相応の技量を要する。そういった点では上級者好みのバイクだと言えるだろう。

初心者への対応を前提にすると、フロントフォークに関してだけは不満を感じる。ブレーキを掛けるとダイレクトに効きすぎる面がある。残念ながらフロントフォーク自体に微妙なたわみや吸収性は全く期待できない。その結果、コーナーリング時もフロントフォークの突き上げがやや気になる。

フォークを交換してなんとかならないかな? と思ったのだが、どうやら専用設計なので無理のようだ。路面情報を全てダイレクトに伝えるこのフロントフォークは上級者なら問題なく、むしろ大きなメリットなのだが、完成車パッケージが狙うユーザー層を考えると、やや惜しまれる点ではある。

一方、ブレーキング性能は、シマノ・105を搭載していることによって、非常に安心感のある仕上がりになっている。初心者でも不安を感じることはまず無いだろう。

駆動に関しても、踏み込んでいけばゼロからほどよく加速していく。そしてこのバイクのうまみは中速域からの加速と伸び。持ち味として非常に気持ちいい。これはARシリーズならではの個性と言っていいと思う。完成車で見た場合は、シマノ・105をフル搭載というのが本当に魅力である。その他のパーツもパフォーマンスを損なうことが無く、非常に高い性能を持つ。

全体の感想としては、とにかく価格が安い! フレームの価格だけで完成車が買えてしまうような価格設定だ。カタログを見ると、高品質『ウルトラハイモジュラスカーボン』仕様で、コンポーネントにシマノ・105を使用。そんなバイクが、312900円(税込)とは、安すぎると言ってもいいくらいだろう。

580ミリというビッグサイズが出ているのも嬉しい。最近の自転車人気で、幅広い層の人が「サイクリングを始めたい」と店に訪れる中、かなり大柄な人であってもちゃんとお勧めできるサイズ設定には感心だ。

キャッチコピーは『低価格で最新のエアロフォルムが手に入る超魅力的なバイク』、これで決まり(笑)!

ハンドル、ステムはフェルトのオリジナルだ。デザインもフレームと合わせており、高い質感を感じさせるハンドル、ステムはフェルトのオリジナルだ。デザインもフレームと合わせており、高い質感を感じさせる 商品として完成車をみると、コンポ類の初期組付精度に若干の甘さがある。勿論、整備不良レベルの話ではなく、完璧を求める余地が残っているレベルだが。もっともこの低価格を考えればそこまでの精度を求められないのもしかたないだろうが。

ユーザーには『信頼できるショップで買うべし!』とアドバイスしたい。技術のしっかりしたショップであれば、出荷時の組付け精度をカバーするだけの納車整備の提供が期待できるからだ。ケーブル類の取回しや張り具合を調整するだけでも素晴らしいパフォーマンスを堪能できる車体に仕上がるはずだ。

ロードバイクを組んだことが無いようなショップは敬遠するほうが賢明だろう。なぜならこのフェルト・AR5はロードバイクの中でもかなりな『特殊自転車』だから、そのまま渡されたら、ちょっと痛い目をみてしまう可能性まである。

フェルト・ARは素材としては素晴らしい車体である。この素材を生かすも殺すも販売店の組み付け技術次第かもしれない。


フェルトAR5フェルトAR5 (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp

フレーム FELT UHM ウルトラ ハイモジュラスモジュラーモノコックカーボン 3KPフィニッシュ ケーブル内蔵 カーボンドロップアウト AEROROADジオメトリー
フォーク FELT1.3A HMハイモジュラスモジュラー モノコックカーボンカーボンエアロブレード カーボンクラウン カーボンステアチューブ カーボンエンド
カラー マットクリア
サイズ 510、540、560、580ミリ 
希望小売価格(税込み)\312,900






インプレライダーのプロフィール


鈴木祐一(Rise Ride)鈴木祐一(Rise Ride) 鈴木祐一(Rise Ride)

サイクルショップ・ライズライド代表。バイシクルトライアル、シクロクロス、MTB-XCの3つで世界選手権日本代表となった経歴を持つ。元ブリヂストンMTBクロスカントリーチーム選手としても活躍した。
2007年春、神奈川県橋本市にショップをオープン。クラブ員ともにバイクライドを楽しみながらショップを経営中。各種レースにも参戦中。セルフディスカバリー王滝100Km覇者。
サイクルショップ・ライズライド


浅見和洋(なるしまフレンド)浅見和洋(なるしまフレンド) 浅見和洋(なるしまフレンド)

プロショップ「なるしまフレンド原宿店」スタッフ。身長175cm、体重65kg。かつては実業団トップカテゴリーで走った経歴をもつ。脚質は厳しい上りがあるコースでの活躍が目立つクライマータイプだ。ダンシングでパワフルに走るのが得意。最近の嗜好は日帰りロングランにあり、例えば東京から伊豆といった、距離にして300kmオーバーをクラブ員らと楽しんでいる。
なるしまフレンド

ウェア協力:パールイズミ

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