コラテックは「マイスターの国」ドイツを代表するブランドだ。その作りはドイツ車らしく質実剛健。各部が理論的に煮詰められており、流行やファッション性よりも性能をとことん追求している。それゆえ、長く乗っても飽きの来ない点も魅力だ。

コラテック・RT PRO CARBONコラテック・RT PRO CARBON photo:MakotoAYANO/cyclowired.jp
由緒正しきドイツのバイクブランドであるドイツのIKO社をご存知だろうか。そう、2007年から日本にも本格的に導入されるようになった「コラテック」をプロデュースする会社である。ヨーロッパの有名ブランドの中では、コラテックに関するブランドヒストリーはあまり知られていないので、ここでご紹介しよう。

IKO社は、1960年代後半にドイツ(当時は西ドイツ)・ババリア地方のミュンヘン郊外で、現社長コンラッド・イルバッハ氏の父によって設立された。会社はバイエルンアルプスの山麓にあり、近くにはルードビッヒ2世によって建造されたノイシュバンシュタイン城とリンダーホフ城もあるという実に風光明媚な場所だ。創業当時はバイク&パーツの小売りが主な業務で、会社とはいっても、その規模は「サイクルショップ」に過ぎなかった。

ヘッドチューブは1-1/8×1-1/4サイズヘッドチューブは1-1/8×1-1/4サイズ BB付近は意外とスマートだBB付近は意外とスマートだ


1978年にコンラッド・イルバッハ氏がIKO社で働き始めると、色々な商品を海外から仕入れて、ドイツ各地の小売店に卸す輸入代理店に成長。また各種パーツの開発にも着手して、メーカーとしての機能も果たすようになる。86年には、当時としては画期的だったカーボンディスクホイールの開発に成功。さらに、カーボンクランクやカーボンシートポストなどを独自開発。これらは西ドイツナショナルチームに採用され、88年のソウルオリンピックでも多くのメダル獲得に貢献した。

IKO社はさらにフレーム開発にも着手し、90年に「コラテック」ブランドを立ち上げる。ヨットの技術を取り入れ、ケーブルテンションによるアジャスタブルフレームを製作するなど、当初から斬新なバイクを製作していたが、一方ではオーソドックスなロード、MTBフレームも製作し、これらはアマチュアの世界チャンピオンやワールドカップのウィナーを生み出すまでになった。こうしてコラテックはドイツを代表するレーシングブランドに成長したのである。

特徴的な形状のチェーンステー特徴的な形状のチェーンステー ダウンチューブのコラテックのロゴダウンチューブのコラテックのロゴ


最近では2005年のジロ・デ・イタリアで「コラテック旋風」が吹き荒れたのが記憶に新しい。コラテックのバイクを駆るコロンビア・セッレイタリアのホセ・ルハーノとイバンラミロ・パッラが3つの山岳ステージを制し、ルハーノが山岳賞を獲得するとともに総合でも3位に食い込んだのだのである。

このチームバイクはコラテックがイタリアから招いた凄腕のフレーム職人マウロ・サンニーノによって製作されたモノだったが、このことが話題を呼び、コラテックは「ハンドメイド・バイ・マウロ・サンニーノ」を最上級ラインナップとして市販化したのであった。

今回インプレしたRT PRO CARBONもフルカーボンの上級モデルだ。高品質なカーボン素材を採用し、モノコック製法でカッチリと作り上げられたフレームは、外観だけでなく、実際に乗っても非常に力強い印象となっている。ヘッドチューブも1-1/8×1-1/4サイズと力強い。

根本が後側にオフセットされたフォーク根本が後側にオフセットされたフォーク シートステーは流行の2本バックだシートステーは流行の2本バックだ 根本が後側にオフセットされたフォーク根本が後側にオフセットされたフォーク


何といってもその最大の特徴は、オフセットされたチェーンステーとフォークだ。一見奇抜に見える形状だが、チェーンステーは振動吸収性の向上を、またフォークは振動吸収性と直進安定性の向上を狙ったもの。上級者はよりライディングに集中でき、ロードバイク初心者にはテクニック不足をバイクが補ってくれるのである。斬新なアイディアで成長してきたコラテックらしいバイクであるということができるだろう。さすが、マイスターの国・ドイツのバイクだ。



― インプレッション ―


「平坦で踏んだときの加速感の良さが印象に残った」

西谷雅史(サイクルポイント オーベスト)

一言で言うと「まさにカーボンの乗り味」といったバイクだ。上級モデルらしく、たくましい剛性感を持っている。アルミ+カーボンのコラテック・FORCIA CARBON ALLOYとも乗り比べてみたが、このRT PRO CARBONの方が硬く感じた。

「平坦で踏んだときの加速感の良さが印象に残った」西谷雅史「平坦で踏んだときの加速感の良さが印象に残った」西谷雅史 踏み出しの軽さはなかなかのものだ。そして、加速感もとても良い。グッと踏み込むとスーッと加速していく。ともて気持ちの良いバイクだ。特に平坦で踏んだときの加速感の良さが印象に残った。振動吸収性もまずまず。

フォークの振動吸収性は文句無しだ。チェーンステーの曲げ加工の効果は感じづらいが、バックからの振動は確かに緩和されており、乗り味はとても良い。ただし、この特徴的な形状のチェーンステーの影響なのか、激坂での上りが少々重たく感じた。まあ平坦の加速感が良いので、そう感じてしまっただけなのかもしれない。

特徴的な形状のフォークだが、ハンドリングはとても素直だった。タイトなコーナリングも難なくこなし、直進安定性も高い。この辺の味付けは、さすがにヨーロッパのバイクという印象を受けた。プロチームへの供給も行っており、そこからのフィードバックも生きているのだろう。ハンドリングの煮詰めは、かなりしっかりとしている。

ブレーキングでも安定していて、ビビり感などはない。強烈なストッピングパワーというほどではないが、ハイスピードからのフルブレーキングでも、何ら緊張感なく止まることができる。ただし、個人的な好みから言うと、フレームの剛性が高いだけに、フォークはもう少々剛性を上げても良いと思う。その方が、はるかにバランスが良くなるだろう。

使用用途としては、やはりレースで使いたい印象だ。週末のロングライドにも良いだろうが、どちらかというとのんびり走るよりはファーストラン的な走り方に向いている。まあ、このバイクに乗れば、誰もが速く走りたくなると思う。

フレームセットの価格324,450円は上級モデルとしてはリーズナブルであるが、欲を言えばあと5万円くらい安くなるとウレシイ。そうすれば、爆発的に売れるバイクになるのではないだろうか。そのくらいの資質を備えた、とても良いバイクだ。


「個性的だが素晴らしいフォーク&チェーンステーだ」

仲沢 隆(自転車ジャーナリスト)

「個性的だが素晴らしいフォーク&チェーンステーだ」仲沢 隆「個性的だが素晴らしいフォーク&チェーンステーだ」仲沢 隆 コラテックの社長であるコンラッド・イルバッハーはナイスガイだ。日本国内で行われたイベントのために家族ぐるみで来日し、自らコラテックのバイクを駆ってレースを走ったりしている。そして、世界最大のバイクショー「ユーロバイク」でコラテックのブースへ取材に行くと、ニューモデルの説明をうれしそうにしてくれる。本当にバイクが好きな男なのだ。

そんな男がプロデュースしているバイクが、悪かろうハズがない。ロードバイクを制作する上で最も重要なのは、バイクを愛している男が自分の理想を貫いてバイクを設計・製造することなのだ。決して会議の結果、最大公約数的にできるバイクや、コストとの折り合いをつけたバイクが魅力的になることはない。コルナゴしかり、デローザしかり、ピナレロしかりである。

このRT PRO CARBONも、そんなコンラッド・イルバッハーの理想を具現化したバイクだと言うことができるだろう。フォークとチェーンステーの形状が特徴的だが、その効果を体感すると、そのアクの強さも納得できる。とくかく、個性に溢れたバイクである。フォークの根本が後ろにオフセットしている形状は、コラテックが始めてやったものではない。ジャイアントの初代TCRのストレートフォークなども、同様の形状を持っている。しかし、ここまで大胆にオフセットさせたのは、コラテックが初めてかもしれない。

効果のほどは、なかなかのものだ。直進安定性が強く、まるでヘッドアングルを72゜くらいに寝かせたバイクのような安定感だった。もちろん、振動吸収性も良い。素晴らしいのは、クイックなハンドリングも損なわれていないということだ。実にコントローラブルなフォークである。

好みは分かれるところだが、チェーンステーの曲げ加工もきわめて個性的なルックスだ。実際、振動吸収性は高く、設計の当初の目的は十分に達成されている。グッと踏み込んだときにパワーロスするのかと思ったが、そんなことはまったくなかった。これら個性的なフォークとチェーンステーの相乗効果により、このバイクは実に扱いやすく仕上がっている。上級モデルだからと言って、乗り手を選ばない優しさがある。まさに万能選手。数学や理科が得意だけど、体育も5で学級委員をやっているみたいなヤツだ。上級者から初心者まで、何ら痛痒なく使いこなすことができるだろう。


コラテック・RT PRO CARBONコラテック・RT PRO CARBON photo:MakotoAYANO/cyclowired.jp

コラテック・RT PRO スペック

フレーム EXTREMELY STIFF モノコックカーボン WITH ローププロファイルチェーンステー
フォーク コラテック・フルカーボン
ヘッドセット ケーンクリーク・インテグラルヘッド
カラー ホワイト/ブルー
サイズ 46,48,50
希望小売価格(税込み) 
691,950円(デュラエース完成車)、
324,450円(フレームセット)


インプレライダーのプロフィール

西谷雅史(サイクルポイント オーベスト)西谷雅史(サイクルポイント オーベスト) 西谷雅史(サイクルポイント オーベスト)


東京都調布市にある「サイクルポイント オーベスト」店長。チームオーベストを率い、自らも積極的にレースに参戦。主なリザルトはツール・ド・おきなわ市民200km優勝、ジャパンカップアマチュアレース優勝など。2007年の実業団小川大会では、シマノの野寺秀徳、狩野智也を抑えて優勝している。まさに「日本最速の店長」だ!
www.o-vest.com



仲沢 隆(自転車ジャーナリスト)仲沢 隆(自転車ジャーナリスト) 仲沢 隆(自転車ジャーナリスト)


ツール・ド・フランスやクラシックレースなどの取材、バイク工房の取材、バイクショーの取材などを通じて、国内外のロードバイク事情に精通する自転車ジャーナリスト。2007年からは大学院にも籍を置き、自転車競技や自転車産業を文化人類学の観点から研究中。



ウェア協力:カステリ(インターマックス)カンパニョーロ


edit:仲沢 隆
photo:綾野 真

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