大阪府堺市から岐阜県飛騨市をつなぐ374kmを1日で走るロングライドにサイクルフォトグラファー・辻啓が挑戦。18時間半の行程を、iPhoneで記録した写真とともに振り返ります。



満月のおかげで稜線が見えるほどほんのり明るいとは言え、街灯もない国道41号線は基本的に真っ暗だ。キャットアイのLEDライトが10m先を煌々と照らし出している。自分が一体どれぐらい走っているのか、感覚が麻痺してくる。374kmという距離は手強かった。しばらく走りたくないけど、ロングライドを他人に勧めたくて筆をとる。

ペダルを漕いで行くことに意味がある

RaphaのLightweight JerseyとPro Team Bib ShortsにGiletを組み合わせるRaphaのLightweight JerseyとPro Team Bib ShortsにGiletを組み合わせる photo:Kei Tsuji玄関の前を通っている道は(きっと日本人の90%は走りにくい環境に住んでいるけど)日本のどこかに繋がっている。そんなことは分かりきっている。でも頭で軽く理解しているだけで、実際に体感しにくいこと。カーナビに行き先を入力して、あとは指示に従ってハンドルを回すような「点から点への移動」では、実際にどれぐらい移動しているのか実感しにくい。航空機や電車移動だとなおさらだ。

16:10 0km/374km 飼い猫バンビが見送ってくれる。16:10 0km/374km 飼い猫バンビが見送ってくれる。 photo:Kei Tsuji大阪府堺市西区の自宅から、第2子出産を控えた妻と息子が居候している岐阜県高山市上宝町の妻実家へ。自動車で50回以上往復している行程を、自転車で走ってみたかった。

出来るだけ登りと交通量の少ないルートを選んで374km。いわゆるブルベと呼ばれるような距離だが、自分の中ではあくまでもちょびっと長めのロングライドという位置づけ。

一年で一番暑い時期なので、真っ昼間の走行は極力避けることにした。多めに見積もって休憩込みで1時間につき20kmのペースで走れば、計算上19時間以内で走りきることが出来る。

1週間前から天気予報とにらめっこした結果、午後4時出発→夜中ノンストップ→午前11時到着という予定を立てた。北風が吹いている中で北に向かうルートになるのは仕方がない。

有り難いことに、キャノンデールジャパン様のご厚意によって、発売前の新型SYNAPSE HI-MODを借りた。結論から言って、脚を使いきることなく走りきれたのはこのバイクのおかげだと思う。SuperSixEVOと比べると加速のシャープさに欠けるけど、タイヤが地面に食いつく四輪駆動車のような安定性がある。バイクが身体に馴染み始めた200kmを越えてから、実に心地よかった。

Cannondale Synapse Hi-Mod(サドルやステムは私物に交換しています)Cannondale Synapse Hi-Mod(サドルやステムは私物に交換しています) photo:Kei Tsuji



所要時間18時間32分09秒のロングライド

17:00 19km/374km Instagramを意識して、少し寄り道して大阪城。17:00 19km/374km Instagramを意識して、少し寄り道して大阪城。 photo:Kei Tsuji17:30 30km/374km ここまでグッサリ刺さってくれると諦めがつく。17:30 30km/374km ここまでグッサリ刺さってくれると諦めがつく。 photo:Kei Tsuji18:00 40km/374km 淀川の河川敷を淡々と進む。18:00 40km/374km 淀川の河川敷を淡々と進む。 photo:Kei Tsuji

ロングライド初心者として、出来るだけ身軽な格好を心がけた。可能な限り普段通りの格好や普段通りのバイクで走ることを優先した。出発前に荷物を宅配便で目的地に送ってしまえば、余計なものを持たずに済む。普段のライドでも宅配便を活用すれば、ライドのエリアがグッと広がると思う。バックパックなんて絶対背負わない。ショートスリーブのジャージにショーツ、あとは体温調整がしやすいジレを羽織る。

バイクにも余計なバッグは括り付けない(何よりもゴチャゴチャ装着されているのは絵的に美しくない)。荷物はセカンドボトルとサドルバッグ、背中ポケットに入るだけ。非常食としてエネジージェルやクリフバーを詰め込む。決して走行に影響がない量の荷物を心がける。

かさ張るのでカメラも持たなかった。撮影は全てiPhoneでこなしてしまう。ルートは頭に叩き込まれているものの、いざとなったらiPhoneでGoogle Mapを開けばいい。電波がなければオフライン地図のMapFanを開けばいい。きっとそんな状況はないだろうけど、暇で仕方なければ背中のiPhoneからスピーカーで音楽を流せば良し。iPhone一つで何でも出来てしまう。

18:40 48km/374km 念のため枚方市のサイクルセンタータケウチでスペアチューブを調達18:40 48km/374km 念のため枚方市のサイクルセンタータケウチでスペアチューブを調達 photo:Kei Tsuji19:00 57km/374km 三川合流地帯を越える。日が暮れる。19:00 57km/374km 三川合流地帯を越える。日が暮れる。 photo:Kei Tsuji21:00 98km/374km  CATEYEのナノショットがとにかく明るい。21:00 98km/374km CATEYEのナノショットがとにかく明るい。 photo:Kei Tsuji

前週にSTRAVAの「Rapha Rising」にチャレンジし、合計7300mほど登りをこなしたので、それなりに脚は回る。強度を上げすぎないように心拍を目安にペースを作る。淀川の河川敷でタイヤに釘が刺さったときは笑いが止まらなかったが、ライドが中断するような大きなトラブルは起こらない。仮にチェーンが切れても対処出来るほど工具は揃えている。

もしかすると、374km走ったからどうとか、ギャーギャー騒いでいるのが恥ずかしいのかもしれない。世の中には200km、300km、400km、600km、1000km、1200kmをブルベで走りきってしまう強者が沢山いる。“キャノンボール”と題して東京⇄大阪の550kmを24時間で走りきってしまう強者や、宿に泊まらずに日本縦断をしてしまった猛者の話も聞いたことがある。

走行が100kmを過ぎ、滋賀県大津市に差し掛かって辺りが暗闇に包まれた頃、そんなツアラーに尊敬の念を抱いている自分がいた。ここのところ毎週のようにとんでもない距離を走っている三船雅彦さんの笑顔が何故か頭から離れなかった。

23:00 144km/374km コンビニが乱立しているため、補給には困らない。23:00 144km/374km コンビニが乱立しているため、補給には困らない。 photo:Kei Tsuji24:00 161km/374km 猿に威嚇されながら関ヶ原を越え、近畿地方から中部地方へ。24:00 161km/374km 猿に威嚇されながら関ヶ原を越え、近畿地方から中部地方へ。 photo:Kei Tsuji02:00 211km/374km 真夜中でも煌々と明るいファミレスを横目に走る。02:00 211km/374km 真夜中でも煌々と明るいファミレスを横目に走る。 photo:Kei Tsuji

374kmの走行の中で、精神的にも身体的にも一番苦しかったのは、琵琶湖沿いの平坦路だった。単調で、変化に乏しく、向かい風でペースも上がらない。右の股関節も痛いような気がして来たし、追い抜く車のバックライトが冷血に見える。手元のGarmin Edge510で何度も何度も距離を確認していた気がする。

ライド中、1時間毎にInstagramにその場所の写真をアップし、それをTwitterでつぶやいた。モバイルバッテリーのおかげでバッテリー切れの心配は無い。容量5400mAhのリチウムイオンバッテリーでiPhoneやGarmin、そしてUSB充電式のライト(CATEYEのナノショットを2つ用意)に給電しながら走る。10,000mAhぐらいのバッテリーを内蔵した充電式ステムを発売したらある程度の数は捌けるだろうななんて考えながらペダルを回す。

03:00 231km/374km 未知の距離に入ったが、脚は問題なく回る。03:00 231km/374km 未知の距離に入ったが、脚は問題なく回る。 photo:Kei Tsuji04:00 251km/374km 飛騨名物のお菓子「げんこつ」が売られていることに喜ぶ。04:00 251km/374km 飛騨名物のお菓子「げんこつ」が売られていることに喜ぶ。 photo:Kei Tsuji05:00 272km/374km 国道41号線を北上するうち、あたりが徐々に明るくなる。05:00 272km/374km 国道41号線を北上するうち、あたりが徐々に明るくなる。 photo:Kei Tsuji

現在地をつぶやく度にTwitterで励ましのメッセージをいただけることに感謝し、返信する時間がないことに申し訳なさを覚えながら、暗い夜道をひた走る。食事中の猿に威嚇されながら滋賀と岐阜の県境を越える。大垣市や岐阜市の市街地を走るのが真夜中でよかった。交通量が少ないので走りやすい。

これまでの最長ライドは200km。つまり岐阜市を抜けた辺りで未知の世界に入る。眠そうな目をした新聞配達のバイクと並走しながら東に進む。ハンガーノックは怖いが、胃腸の機能が低下するような食べ過ぎと飲み過ぎも怖い。冷たいものを控え、お腹を冷やしすぎないようにする。便利なコンビニで積極的に補給を行なっているが、1kcal=1円ぐらいかかることに嫌気がさしてくる。結論から言って、ロングライドは全然経済的じゃない。

美濃加茂市から先は山岳地帯。大きな峠はないが、緩いアップダウンをこなしながら標高を上げて行く。轟音とともに追い抜いて行くトラックにビビりながら、国道41号線を行く。普段は国道を走ることなんて滅多にないが、このあたりには選択肢が他にない。だからわざわざ国道走行区間を交通量が少ない時間帯に設定した。

05:30 282km/374km 残り100kmを切ってからが長い。05:30 282km/374km 残り100kmを切ってからが長い。 photo:Kei Tsuji06:00 291km/374km インスタントみそ汁の開発者に感謝状を送りたい06:00 291km/374km インスタントみそ汁の開発者に感謝状を送りたい photo:Kei Tsuji07:00 308km/374km ずっと向かい風&登り基調の区間でじわじわ脚に来る。07:00 308km/374km ずっと向かい風&登り基調の区間でじわじわ脚に来る。 photo:Kei Tsuji

渓谷に沿ったワインディングをこなすうち、気付けば辺りが明るくなっている。夜通しのロングドライブでも眠くなりにくい体質に感謝する。甘いものを食べ過ぎた影響か、下呂温泉の手前でゲロを吐きそうになったものの、コンビニで調達した偉大なるインスタントみそ汁で復活する。インスタントみそ汁の素を買い込んで背中ポケットに詰め込みたい衝動にかられる。

高山市に入ったときは感動したが、日本一の面積を誇る市(東京都と同じぐらい広い)なので油断は出来ない。もはや心拍は140までしか上がらない。数日前にキャノンデールジャパン本社でSYNAPSE HI-MODを受け取った時、フロント50x34/リア11x32というギアのセットアップを見て「こんなん絶対使いませんやーん」と笑いながら担当者に突っ込みを入れたものの、そんなギアの恩恵を受けて2つの峠を越える。伊藤さん、ありがとうございます。

06:30 297km/374km 下呂温泉を過ぎた頃、眩しい太陽に照らされる。06:30 297km/374km 下呂温泉を過ぎた頃、眩しい太陽に照らされる。 photo:Kei Tsuji07:15 312km/374km 国道を避けて広域農道を走る。07:15 312km/374km 国道を避けて広域農道を走る。 photo:Kei Tsuji08:00 323km/374km 国道を避け、対岸の快走路に入る。08:00 323km/374km 国道を避け、対岸の快走路に入る。 photo:Kei Tsuji

午前10時40分、標高730mにある妻の実家にゴールした。374.1kmを走りきるのに要した時間は18時間32分09秒。汗で濡れたジャージ姿で、待っていた息子を抱き上げる。家族の呆れる表情の中にも安堵が戻る。仕事を詰め込みすぎたグランツール3週間をトラブル無く終えて、最終日にプレスルームを出て街に繰り出す時のような達成感に包まれる。走行時間は15時間18分23秒。走行データはこちら→STRAVA "07/22/2013 from Sakai to Hida, 374km, the longest ride ever!" 向かい風基調だったので平均スピードは24.4km/h。速いとか遅いとか、距離が距離なのでよく分からない。

走り終えて、当然のことながら大阪と飛騨の距離感が今までと違うものになった。個人的な印象としては、100kmの壁を越えた先には200kmの壁がある。でもその先は、どれだけ走ってもあまり苦しさは変わらない気がする。東京⇄糸魚川、東京⇄大阪に代表されるような、定番のロングライドコースが日本には沢山有る。この夏、今まで経験したことのないライドにチャレンジしてみては? きっと、苦しいし、疲れが残るし、仕事に影響が出るし、自分が思っている以上に家族が心配します。

第2子が無事に生まれてきますようにと、験を担ぐライドが無事終わった。

08:30 337km/374km 雪国ならではのスリットが入った路面。08:30 337km/374km 雪国ならではのスリットが入った路面。 photo:Kei Tsuji09:45 358km/374km 最後の最後に標高差400mの峠が待っている。09:45 358km/374km 最後の最後に標高差400mの峠が待っている。 photo:Kei Tsuji10:40 374km/374km 双眼鏡で探しながら待っていた息子を抱き上げる。10:40 374km/374km 双眼鏡で探しながら待っていた息子を抱き上げる。 photo:Kei Tsuji



text&photo:Kei Tsuji
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