「標高1200m以上は雪」という予報が出ていたが、標高900mを越えたところで辺り一面真っ白になった。第19ステージはレースキャンセル。「第3の休息日だ!」と喜ぶ報道陣に待っていたのは、ダニーロ・ディルーカ(イタリア、ヴィーニファンティーニ)のEPO陽性という知らせだった。

ディルーカをホテルに残し、ヴィーニファンティーニのチームバスが出発ディルーカをホテルに残し、ヴィーニファンティーニのチームバスが出発 photo:Kei Tsuji
ゴール地点ヴァルマルテッロに至る登りゴール地点ヴァルマルテッロに至る登り photo:Kei Tsuji
山岳タイムトライアルの後半に降り始めた雨は、夜にかけてずっと降り続いた。強風を伴う強雨で、嵐と言っていいほどの悪天候。標高900m以上の高地では雨が雪に変わる。選手たちは、氷点下の雪の中を走る不安とレースがキャンセルされるんじゃないかという淡い期待を胸にベッドに潜り込んだに違いない。

第18ステージ終了後、全てのチームは「ヴァル・ディ・ソーレ(太陽の渓谷)」と呼ばれる一帯に宿泊した。第19ステージのスタート地点ポンテ・ディ・レーニョにたどり着くためには、標高1883mのトナーレ峠を越えなければならない。

第19ステージの最初に登場する峠でもあるトナーレ峠は当然真っ白。現実的に、サマータイヤのチームカーやチームバスが時間通りにスタート地点にたどり着けるとは言い難い。朝9時30分を過ぎた頃、レースキャンセルが正式に発表された。悪天候によるレースのキャンセルは1989年以来24年ぶり。

レースキャンセルの一報からしばらくして流れたのがディルーカのEPO陽性報道だった。その数十分後にはヴィーニファンティーニの宿泊ホテルに報道陣が詰めかける。ジャーナリストやフォトグラファーの反応はさっぱりとしていて、呆れてものが言えない感じ。寝耳に水のルーカ・シント監督は「あいつは馬鹿野郎」という言葉で切り捨てる。スポンサーを次々に獲得し、チームとして乗りに乗っていただけに、ディルーカのスキャンダルに怒り心頭だった。

雪の降るヴァルマルテッロでジロ特集番組「プロチェッソ・アッラ・タッパ」を収録雪の降るヴァルマルテッロでジロ特集番組「プロチェッソ・アッラ・タッパ」を収録 photo:Kei Tsuji
フィリッポ・ポッツァート(イタリア、ランプレ・メリダ)らがジロ特集番組「プロチェッソ・アッラ・タッパ」に出演フィリッポ・ポッツァート(イタリア、ランプレ・メリダ)らがジロ特集番組「プロチェッソ・アッラ・タッパ」に出演 photo:Kei Tsuji
前日に現地入りした国営放送RAIのトラックにはたっぷりと雪が積もる前日に現地入りした国営放送RAIのトラックにはたっぷりと雪が積もる photo:Kei Tsuji
シント監督はそのまますぐに本来のゴール地点ヴァルマルテッロのプレスルームに向かい、メインスポンサーであるファルネーゼ社のヴァレンティーノ・ショッティ社長とともに国営放送RAIのジロ特集番組「プロチェッソ・アッラ・タッパ」に出演。ディルーカのドーピングは彼個人の問題であって、チームとしては全く関与していないことを強調した。また、ショッティ社長は「ロードレースは素晴らしいスポーツであり、今後もサポートしていく」と念を押した。

しんしんと雪が降り続く中で行なわれた「プロチェッソ・アッラ・タッパ」の収録。話題は当然翌日の第20ステージのコースに振られる。悪天候によって前日に40度の熱を出した名物司会者アレッサンドラ・デステファノの進行のもと、可能な限りレースを行ないたいレースディレクターのマウロ・ヴェーニ氏(大会側)とポッツァート&パオリーニ&ベッティーニ伊チーム監督(選手側)が意見をぶつける。結論は「下りは危険だが、雪が降っていても登りであれば問題ない」というものだった。

週末にかけて天候は回復傾向にあり、天気予報によると第20ステージは曇り。降雪に心配は無さそうだが、前日の積雪と低温によってドロミテ山岳が大幅にカットされることが決定している。スタート地点とゴール地点に変更は無いが、2級山岳コスタルンガ峠、2級山岳サンペッレグリーノ峠、1級山岳ジャウ峠が全てカットされた。渓谷を迂回するため、コース全長は203kmから210kmに延長されている。

選手たちはシランドロをスタートし、渓谷に沿って東に向かう。1956年に冬季五輪が行なわれたコルティーナダンペッツォを通過すると、そこからは本来のコース通り2級山岳トレクローチ峠を経てトレチーメ・ディ・ラヴァレードへ。前日のステルヴィオ峠がキャンセルされたため、標高2304mのゴール地点が今大会のチーマコッピとなる。

ジロ・デ・イタリア2013第20ステージ・変更後コースマップジロ・デ・イタリア2013第20ステージ・変更後コースマップ image:RCS SPORTジロ・デ・イタリア2013第20ステージ・変更後コース高低図ジロ・デ・イタリア2013第20ステージ・変更後コース高低図 image:RCS SPORT

トレチーメ・ディ・ラヴァレードは現在懸命に除雪作業が行なわれているとのことで、ゴールの設置は問題ないとされている。ヴェーニ氏は番組収録後の記者会見で以下のように語っている。「トレチーメ・ディ・ラヴァレードには問題なくゴール出来る。何故なら、下りではないからだ。危険な下りを徹底的に排除したコースを新たに作った。天気予報だけではなく、現場にスタッフを向かわせて気温と路面状況を逐一報告するよう徹底している。天候が悪化すれば、更なるコース変更も可能だ」。

第20ステージが今大会最後の山場であり、トレチーメ・ディ・ラヴァレードでマリアローザ争いが決着する。変更前のコースと比べるといささか迫力に欠けるが、天に突き出た三本の岩山(トレチーメ)に向かう登りは、ラスト3kmの平均勾配が12.4%という厳しさ。「3回目の休息日」を過ごした選手たちの準備は整っている。

季節外れの雪に覆われた大会関係車両季節外れの雪に覆われた大会関係車両 photo:Kei Tsuji番組収録の間、いたるところで雪合戦が始まる番組収録の間、いたるところで雪合戦が始まる photo:Kei Tsuji

かなり熱のこもった雪合戦が繰り広げられるかなり熱のこもった雪合戦が繰り広げられる photo:Kei Tsuji
text&photo:Kei Tsuji in Silandro, Italy