プロトンがテレグラフ峠に差し掛かった頃、それまで快晴だったガリビエ峠に雪雲が広がり始めた。暖かかった岩山に冷たい風が吹き始める。マリアローザが見える頃、横殴りの雪が降り始める。真冬の山岳風景をプロトンが進む。

前日にステージ優勝を飾ったマウロ・サンタンブロジオ(イタリア、ヴィーニファンティーニ)は人気者に前日にステージ優勝を飾ったマウロ・サンタンブロジオ(イタリア、ヴィーニファンティーニ)は人気者に photo:Kei Tsuji
これはブルーノ(ピレス)のこれはブルーノ(ピレス)の photo:Kei Tsujiチェザーナ・トリネーゼのスタート地点チェザーナ・トリネーゼのスタート地点 photo:Kei Tsuji

朝からサクソ・ティンコフの宮島正典マッサーは忙しそうに走り回っていた。雪が降る山岳ステージだけに、いつもと用意するものが異なる。手早くサコッシュに選手の名前を書き込み、1級山岳モンセニス峠の頂上で補給を行なう準備を整える。

宮島マッサーはジロ1週目はホテル担当(ホテルに先着して選手を受け入れる準備を整える)だったが、2週目からレース現場担当に。テキパキと仕事をこなしながら「大変だけど、やっぱり現場は楽しい」と言う笑顔が眩しい。選手やスタッフからの信頼も厚い。

どんどんサインが集まってきましたどんどんサインが集まってきました photo:Kei Tsuji楽しそうにレースの準備をするサクソ・ティンコフの宮島正典マッサー楽しそうにレースの準備をするサクソ・ティンコフの宮島正典マッサー photo:Kei Tsuji

チェザーナ・トリネーゼをスタートするプロトンチェザーナ・トリネーゼをスタートするプロトン photo:Kei Tsuji
積雪によって大幅なコース変更が噂されていた第15ステージ。懸命な除雪作業によってコース変更は最小限に留まった。フランス側からは「ガリビエとモンセニスをコースから外してくれ」という強い要望が出ていたが、主催者と地元の努力によって何とか開催にこぎつけた。レース当日の朝、ガリビエ峠は真っ白だったらしい。

ピエモンテの地元新聞によると、仮にフランス国境の1級山岳モンセニス峠が通行不可の場合は、アルプス山脈を貫く全長13kmのフレジュストンネル(高速道路:普通車の通行料金41ユーロ)を通す案も出ていたという。

ゴール地点は標高2642mのガリビエ峠頂上ではなく、4.2km下ったところにある標高2301mの「モニュメント・パンターニ」に移動した。主催者は元々この第15ステージを「パンターニに捧げるステージ」に設定していたので、ゴール地点としてしっくりくる。

標高2301mにあるパンターニのモニュメント標高2301mにあるパンターニのモニュメント photo:Kei Tsuji
フランスに入ると警察もフランス風にフランスに入ると警察もフランス風に photo:Kei Tsujiガリビエ峠でお酒を飲みながらガリビエ峠でお酒を飲みながら photo:Kei Tsuji

マリアローザのヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)が集団のペースを上げるマリアローザのヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)が集団のペースを上げる photo:Kei Tsuji
1998年、ジロ・デ・イタリアで初めて総合優勝したマルコ・パンターニは、ツール・ド・フランスでヤン・ウルリッヒ(ドイツ)と総合争いを繰り広げていた。第14ステージを終えて、タイムトライアルで先行したウルリッヒをパンターニは3分01秒差で追う展開。第15ステージのガリビエ峠でパンターニが攻撃に出た。

ゴールまで48kmを残してメイン集団から飛び出したパンターニは、雨のガリビエをハイペースで駆け上がり、ウルリッヒを3分近く引き離して頂上をクリア。一旦止まってジャケットを着たパンターニに対し、タイムを惜しんでジャケットを着なかったウルリッヒ。両者のタイム差は縮まるどころか広がって行く。ウルリッヒを8分57秒引き離してゴールしたパンターニが、史上7人目のダブルツールを果たした。パンターニはこのガリビエステージを「キャリア最高の日」と回想している。イタリア人がガリビエ峠と聞いて思い出すのは、そんなパンターニの伝説的な走りだ。

2004年に突然の死を遂げたパンターニにはドーピング疑惑が常につきまとうが、今でもその人気は衰えない。「アイドルはパンターニ」と答える現役選手も多い。「ピラータ」のトレードマークであるドクロを描いた旗があちこちで風になびく。

そんなパンターニと誕生日が同じ(1月13日)のジョヴァンニ・ヴィスコンティ(イタリア、モビスター)が、ガリビエで勝った。偶然にも、パンターニが亡くなった2004年にヴィスコンティはプロデビューを果たしている。ジロとツールという違いはあるが、偶然にも同じ第15ステージ。ちょうど1年前の第15ステージでヴィスコンティはジロをリタイアしている。そんなシンクロがヴィスコンティの勝利を特別なものにしている。

雪が降る1級山岳ガリビエ峠を登るジョヴァンニ・ヴィスコンティ(イタリア、モビスター)雪が降る1級山岳ガリビエ峠を登るジョヴァンニ・ヴィスコンティ(イタリア、モビスター) photo:Riccardo Scanferla
雪の降る1級山岳ガリビエ峠を登る雪の降る1級山岳ガリビエ峠を登る photo:Kei Tsuji
ガリビエ峠は、ジロの到着に合わせるように雪雲に包まれた。山の天気は変わりやすい。到着30分前まですっかり晴れていたのに、岩山を照らしていた太陽は厚い雲に隠れてしまう。一時は吹雪と言っていいほどの雪にガリビエは包まれた。

そしてレース終了と同時に雪雲は去る。美しきアルプス山脈が姿を見せる。今年のジロは本当に雲と一緒に移動しているのかも知れない。そんな天気を味方につけないとジロでは勝てない。2日連続の雪の頂上ゴールのダメージは大きい。さすがに選手たちの顔には疲労感が漂う。あまり疲れた表情を見せないヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)がマリアローザを着たまま、ジロは2回目の休息日を迎える。

疲れた表情を見せるカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)疲れた表情を見せるカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム) photo:Riccardo Scanferla
text&photo:Kei Tsuji in Col du Galibier, France

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