90年代から2千年前期に圧倒的な爆発力で「現役最強スプリンター」の名を欲しいままにした希代の名選手、マリオ・チポッリーニ。そんな彼が引退後に自信の名を冠したブランドを展開させた。今回のインプレッションバイクは、チポッリーニの新モデル BOND。リーズナブルな価格ながら、RB1000に並ぶ性能が与えられたオールラウンドレーシングバイクである。

チポッリーニ BONDチポッリーニ BOND (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp

プロ通算189勝、ジロ・デ・イタリア通算最多のステージ42勝、ツール・ド・フランス12勝。2002年世界選手権、ミラノ~サンレモ優勝...。彼が上げた功績は数知れず、また、その破天荒な振る舞いから高い人気を呼んだ、今でもスーパースターと名高いイタリアの名選手、マリオ・チポッリーニ。

「スーパーマリオ」がレースで培った経験と、イタリア伝統の職人技を融合して誕生させたのが、自身の名を冠したロードバイクブランド、「M.チッポリーニ」だ。現在展開する4モデル全てに共通するのは、性能を追求したレーシングモデルながらも、曲線を多用したイタリアンデザインを落とし込んでいること。「強さ」、「速さ」、そして「美しさ」。それはチポッリーニ自身のイメージと大きく重なるキーワードである。

縦方向にワイドなフロントフォークを採用する縦方向にワイドなフロントフォークを採用する ヘッドチューブ長を短くし、レーシーなポジションを可能としているヘッドチューブ長を短くし、レーシーなポジションを可能としている エアロ性能を意識したシートチューブは、RD1000より受け継がれる部分エアロ性能を意識したシートチューブは、RD1000より受け継がれる部分


今回のテストバイクであるBOND(ボンド)は、ロードレースモデルの「RB1000」、ヒルクライム用軽量モデルの「RB800」、1000とRB800の理論を組み合わせたオールラウンドモデルの「Logos」に続く、4番目のモデル。チポッリーニバイクのコンセプトである「ロスの無いパワー伝達」をより普及させるため、オートクレーブ製法と新しい接着製法(BOND-ATOMLINKシステム)を採用した意欲作だ。

BOND-ATOMLINKシステムとはつまり、BB部分の構造体にチェーンステーを差し込む通常の接着行程とは異なり、BBスリーブ自体にチェーンステーを挿入することで、よりダイレクトな剛性を実現するチポッリーニ独自の特許技術。これにより剛性を増しつつ重量を削るという、相反する要素を共に向上させることに成功した。

なめらかに曲線を描くトップチューブ。ケーブル類はすべて内蔵化されるなめらかに曲線を描くトップチューブ。ケーブル類はすべて内蔵化される 非常にボリューム感溢れるヘッド周り非常にボリューム感溢れるヘッド周り


際立ってボリューム感の高いボトムブラケット周辺の造形。BB386EVOを投入する際立ってボリューム感の高いボトムブラケット周辺の造形。BB386EVOを投入する 大ボリュームかつ横にワイドなダウンチューブ。高い剛性を生み出す部分だ大ボリュームかつ横にワイドなダウンチューブ。高い剛性を生み出す部分だ


一体成型で形作られる前三角やリアバックなど各パーツはいずれもオートクレーブによって焼成され、カーボン積層をより均一化させることで仕上がりのバラつきを最小限に留め、より性能を高める。これはチポッリーニの4モデル全てに適用されるものだ。カーボンシートの切り出しから焼成、塗装に至るまで全て一貫して行うことで、製品に対するこだわりを具現化しているのだ。

BONDはLogosと同様の、オールラウンダーとして生まれたバイクだ。しかし比較的アップライトなポジションを可能とするLogosとは異なり、ヘッドチューブを短く、トップチューブを長くしたことで、ハンドル落差を大きく付けることを可能に。ターゲットを中~上級者とした、完全なピュアレーシングバイクである。

微妙にシートステーの断面形状を変化させることで、性能の最適化を狙う微妙にシートステーの断面形状を変化させることで、性能の最適化を狙う フルカーボンで形作られるリアドロップエンドフルカーボンで形作られるリアドロップエンド


曲線を多用し、エアロ性能を意識したフォルムは、ライダーのパワーを全力で推進力へと換えるため。ヘッドチューブからダウンチューブ、チェーンステーに掛けてのボトムラインは、トップモデルのRB1000にこそ及ばないものの、このBONDを象徴する部分。

特にBB386EVOを投入したボトムブラケットからチェーンステーにかけては、複雑かつ際立ってボリュームを高め、可能な限りの剛性強化が行われている。今回の試乗車はシマノ105コンポーネントをアッセンブルして399,000円(税込)という価格とした国内販売パッケージだが、車格からして最上級コンポーネントを採用して然るべきモデルである。

リアブレーキアーチ周辺の造作を見る。シートステー取り付け位置はかなり低いリアブレーキアーチ周辺の造作を見る。シートステー取り付け位置はかなり低い コンパクトなリア三角は、機敏な動きに貢献する部分コンパクトなリア三角は、機敏な動きに貢献する部分 シートポストは翼断面形状の専用品だシートポストは翼断面形状の専用品だ


ブランド設立4年目という新興ブランドだが、今シーズンはヴィーニファンティーニとバルディーニヴァルヴォーレ・CSFイノックスという2チームが採用し、実戦で使用していることはチポッリーニバイクが高い技術を有していることの現れと言えるだろう。

なおワイズロードとしてスポーツバイクショップのチェーン店展開をするワイ・インターナショナルが日本総代理店となる。
そんな注目ブランドのニューバイク、BONDを2名のテストライダーはどう評価するのだろうか。早速インプレッションに移ろう。



インプレッション
「ボリューム感とは裏腹な乗りやすさ、幅広いレべルのライダーにおススメできる」新開竜太(Y's Road志木店)

私は普段マイバイクとしてRB1000に乗ってレースを走っていますので、それとの比較も意識しながら乗ってみました。
チポリーニの名がつくだけで硬いフレームを連想してしまいますが、BONDは乗りやすく、扱いやすいバイクでした。レーシングバイクというよりマイルドな乗り味のロングライド志向のバイクで、高剛性なハイエンドモデルのRB1000に比べて、初心者の方におすすめしやすいバイクです。ハンドリングが至ってニュートラルな点も、ロングライドモデルとして高評価なポイントです。

フロントフォークも見た目通り硬いのですが、「適度」という言葉がぴったりとはまる感じ。路面追従性が高く、下りでの安定感に貢献していると思います。加えて、ハードブレーキングした際には縦にも横にもたわみは感じず、しっかりと止まってくれました。
試乗車は105がアッセンブルされていましたが、デュラエースのような制動力の高いブレーキを装着しても全く問題ありませんね。

「ボリューム感とは裏腹な乗りやすさ、幅広いレべるのライダーにおススメできる」新開竜太(ワイズロード志木店)「ボリューム感とは裏腹な乗りやすさ、幅広いレべるのライダーにおススメできる」新開竜太(ワイズロード志木店)

上りではトルクで踏み込んだ時よりも、高回転で回した時にリズムよく進んでくれました。上位機種のRB1000は踏み込まないと進んでくれませんが、BONDはどんな踏み方をしても踏んだ分だけ進む印象があり、特にペダリングスキルの高いライダーであれば、BONDの特性をより引き出せると思います。短い上りよりも、長い上りに向いていると思いました。

BONDが最も生きてくる速度域は、40km/hあたりの中速域でしょうか。40km/hを超えると伸びが少し物足りない気がしました。加速、特に踏み出しにおいての初速の伸びは少し鈍さを感じる部分があり、RB1000に比べてしまうと劣る部分が出てしまいます。しかし、価格を踏まえれば問題になる範囲ではありません。

ロングライド向けのバイクですが、ホイールを交換することで様々なシチュエーションに対応します。例えば、レースであればマビック・キシリウム、フルクラム・レーシングZEROの様な剛性の高いホイールがおススメです。ロングライドであればマビックのR-SYSのような振動吸収性の高いホイールが良いでしょう。軽量なホイールを装着すればヒルクライムにも対応できますね。様々なホイールにマッチするニュートラルさがウリの一つでしょう。

レーサー目線で見ると、ツール・ド・おきなわや実業団の石川ロードレースのような、上りがある長距離レースにおススメです。もちろんロングライドにも使えますから、用途を選ばないオールラウンドなフレームと言えます。初心者からレース経験者まで幅広いレベルのライダーと用途に対応するバイクです。


「イタリアンバイクらしい直進安定性、新興メーカーながらバランスがとれている」
澤村健太郎(Nicole EuroCycle)


「イタリアンバイクらしい直進安定性、新興メーカーながらバランスがとれている」澤村健太郎(Nicole EuroCycle)「イタリアンバイクらしい直進安定性、新興メーカーながらバランスがとれている」澤村健太郎(Nicole EuroCycle) ダンシングでバイクを振った際、戻されるような感覚を覚えるほど直進安定性が高く、伝統的なイタリアンバイクという第一印象を持ちました。見た目のボリュームとは違い快適性が高く、グランフォンドなど長距離向けだと思います。しかし、下りでの安心感を支えるしっかりとしたフォークなど、単なる快適バイクとは異なる性格を感じました。

このフレームの特徴である直進安定性の高さですが、ジオメトリーに理由があるのではないかと思いました。近年は真っ直ぐ走らせることに神経を使うバイクも多いですが、このバイクは何も考えずとも安定していて、乗ってすぐに両手離しもできました。真っ直ぐ走り、ふらつかない。つまりレースの際に集団内で自転車に乗りながら補給食を食べたり、ウィンドブレーカーを脱ぐような時も安心して走れます。これはレーシングバイクとして大事な要素です。

上りではサドルの後ろの方に座って低回転でトルクを掛けながら登るのが良いと感じます。直進安定性が高いが故にハンドルが戻されるような印象があり、ダンシングではリズムが取りにくかったです。下りでは、フォークの良さと相まって、しっかり体を倒し込むことで、不安感なく曲がってくれます。ただし、初心者やコーナリングが苦手な方は慣れが必要だと思いました。

一方で振動吸収性が高いことには驚きました。リア三角が小さく作られていますが、細いシートステーが上手く効き、路面からの突き上げがいなされていると感じました。

加速性能も良好で、踏んでから少し時間をおいて加速するあたり、コルナゴのような雰囲気がありました。新興メーカーでありながら路面追従性や快適性、剛性のバランスがしっかりとしているあたりは、さすがチポッリーニだと思った部分です。

完成車ではシマノ・105がアッセンブルさていますが、コンポーネントのグレードアップにも十二分に対応できます。ホイールをアップデートするのであれば、見た目も含めて50mm程度のリム高のエアロ系ホイールがいいのではないでしょうか。
メカニック的な目線で見ると、プレスフィット式BB(BB386)とケーブルが内蔵であることにより、ややメンテナンス性は落ちます。ヘッドチューブが太いので、ワイヤーによって傷が出来ないように工夫してあげる必要があります。

このフレームが生きる場面は、レースであればツール・ド・おきなわのような長距離のレースやサーキットエンデューロ、レース以外であればグランフォンドだと思います。コルナゴなどの直進安定性が高いイタリアンバイクが好きな方や、独特でマッシブな見た目に魅力を感じる方にもおすすめです。

チポッリーニ BONDチポッリーニ BOND photo:Makoto.Ayano/www.cyclowired.jp

チポッリーニ BOND
サイズ:XS、S、M、L、XL
フレーム素材:カーボン T700/UTS
BB規格:BB386EVO
ヘッド形状:上1-1/8、下1-1/2
フォーク:フルカーボン、テーパードステアリングコラム
ワイヤリング:機械式、Di2共用
シートステー:モノステー形状
重 量:1050 g (SizeM、未塗装)
コンポーネント:シマノ・105
ホイール:シマノ・WH-R501
価 格:399,000円(税込、完成車)、348,000円(フレームセット)




インプレライダーのプロフィール

澤村健太郎(Nicole EuroCycle 駒沢)澤村健太郎(Nicole EuroCycle 駒沢) 澤村健太郎(Nicole EuroCycle 駒沢)

東京都世田谷区駒沢に2010年12月にオープンした「Nicole EuroCycle 駒沢」のチーフメカニック。実業団ロードレースチーム「Maidservant Subject」ではキャプテンを務め、シクロクロスレースにも積極的に参戦している。同時にトレイル巡りやツーリングなど楽しく自転車に乗ることも追求しており「誰とでも楽しめるサイクリスト」が目標。愛称は「アルパカ」。

Nicole EuroCycle



新開竜太(ワイズロード)新開竜太(ワイズロード) 新開竜太(ワイズロード)

学生時代にトライアスロンでインカレ出場を果たした後、自転車競技に転向。2008実業団小川ロードBR2にて4位、2012年富士国際ヒルクライムE2クラス3位など、実業団の上り系レースを主戦場とする。チポッリーニのトップモデル・RB1000を駆るが、軽量化には一切こだわらず、遊び心優先のパーツチョイスで「走る楽しみ」も求している。過去にバンドを組んで活動していたことも。心にはいつもヘヴィメタル。

ワイズロード



ウエア協力:bici

text:So.Isobe,Yuya.Yamamoto
photo:Makoto.AYANO