インド・ニューデリーにて3月15日に終えたジュニアアジア選手権ロード。男子TT2位、女子ロード2位、男子ロード3位の結果を出した日本チーム。そこには数字に表れないチームとしての戦いがあった。帯同した柿木孝之コーチによるレポート前編をお届けする。

ジュニア男子ロードゴール 黒枝咲哉(日出暘谷高校)がカザフスタン選手に先着し3位ジュニア男子ロードゴール 黒枝咲哉(日出暘谷高校)がカザフスタン選手に先着し3位 photo:Kenji NAKAMURA
男子ロード3位に見るチームの戦い

まずは上の写真を見て欲しい。男子ロードで黒枝咲哉(日出暘谷高校)が3位に入ったシーンだ。これはただの3位ではない。カザフスタンが逃げてワン・ツー、その次のメイン集団の頭を取ったのが黒枝。その横に、付き位置だったはずのもう一人のカザフ選手が悔しそうに4位に入っている。普通の展開ならばカザフがワン・ツー・スリーの状況だ。

スプリンターの黒枝が、バラバラのゴールに単独でこのポジションに入れたとは考えにくい。直前まで誰かが黒枝のアシストをしたはず、もちろん自分の成績は捨てて。今年の3位は昨年のワン・ツーより数字では劣るかもしれない。だが明確な日本のチームプレーがあったことがこの写真からは想像できる。

強化合宿で選ばれた精鋭たち

今回のジュニアメンバー全員今回のジュニアメンバー全員 photo:Takayuki KAKINOKIここ数年、日本のジュニア世代は飛躍的にその戦闘力を増している。これはJCFジュニア強化育成部会の熱心な取り組みによるものにほかならない。アジア選手権でのトラック種目での優勝は多数に上り今年もその数を伸ばした。ロードは昨年にワン・ツー勝利という最高の結果を出した。特徴的なのはチームで戦うということ。戦略パターンに応じたエースを定め、そのために全員が協力する。

選手は誰もが本来は自分が勝ちたいと考える。だが個を殺してチームのために走るには深い相互理解と信頼が必要。それを醸成したのが強化合宿だ。ジュニアの強化指定選手は、基本的に志願制で随時行われる強化合宿で選考される。それは指定選手が随時変わることを意味する。さらにそこでは近い大会の選手選考をしており、風邪や故障で本来の力を発揮できなかった選手は除外されることもある。

合宿に向けて体調管理を万全にすることから戦いは始まっている。厳しい合宿を経て、競争意識と同時に相互理解と信頼も醸成されていく。晴れて選ばれた選手たちは、選ばれなかった選手たちの思いを胸に走る。かくして選ばれた精鋭たちが、今回のジュニアアジア選手権に出場した。

ここにレースに帯同した柿木孝之コーチのレポートを紹介しよう。柿木氏はJCFジュニア強化育成部会のロード担当の一人。レースあるいは練習の現場で、世界へのステップを見据えるもっとも熱心な指導者の一人だ。



2013ジュニアアジア選手権ロード インド レースレポート 前編~男子TTまで

男子4名、女子1名を選考

ジュニア女子ロード スタート前の坂口聖香(パナソニックレディースチーム)ジュニア女子ロード スタート前の坂口聖香(パナソニックレディースチーム) photo:Takayuki KAKINOKI3月中旬にインドのデリーで開催されたジュニアアジア選手権ロードには1月末の選考合宿で選ばれた男子4名と女子1名が参加した。男子はゴール前のスプリント力とレースを読む目に長けている黒枝咲哉(日出暘谷高校)、どのようなコースにも対応でき、昨年世界選手権とドイツのネイションズカップを経験している横山航太(篠ノ井高校)、独走力とゴール前のスピードを持ち合わせた吉田優樹(学法石川高校)、平坦の独走力に長け、攻撃的な走りをみせる山本大喜(榛生昇陽高校)。

女子は平坦コースではペースが上がっても男子集団の中に問題なく入っていける力とテクニックを備えた坂口聖香(パナソニックレディースチーム)。昨年10月から直前合宿を含めて5回の合宿で選手同士意思疎通がとれており、お互いの脚も性格もよく理解してどのようなレース展開にも対応できるメンバー構成となった。

個人タイムトライアルには男子のみ参加で、選考合宿において力をみせた山本が参加した。アジア選手権は日本チームとしてこのあとに続くヨーロッパのネイションズカップのように強豪海外チームのレースの流れに乗っていくだけではなく、自分達でレースを組み立て、そして勝つことが求められる。

劣悪な環境下でのレースへの準備

日本チームの自転車保管場所。明日からロードが始まるが、まだロードコースが決定していない状況日本チームの自転車保管場所。明日からロードが始まるが、まだロードコースが決定していない状況 photo:Kenji NAKAMURAインドに到着してからレースまでは練習環境が劣悪なため、ホテルから15分ほどのトラック競技場の外周コース2kmを回ることしかできなかったが、インドの交通事情をみる限りまだ練習できるコースがあるだけましであった。練習にスタッフが同行できない日はジュニア選手だけでは非常に危険なため、アンダー23の選手やエリート女子選手らがジュニア選手に同行してくれたのがとてもありがたかった。

現地ではレースに関しての情報も毎日変更で、レース当日までは何も信用できない状況であり、数か国のチームは予約していた大会側が用意するホテルに入れず、ロビーで生活する状態であった。レース会場に向かうバスも選手分の座席が用意されておらず、バスが来ると各チーム座席の奪い合い。

席がなくなるとバスの汚い通路で荒れた道路を1時間以上耐えなければならない。自転車もホテルでメカニックがしっかり整備していても、トラックに乱雑に載せられての移動中に段差で自転車が飛んだり倒れたりするため、レース会場で再整備が必要な状態であった。


3月13日 ジュニア男子タイムトライアル 山本大喜

会場のサーキット、ここの内外を走る。その間は何と平面交差会場のサーキット、ここの内外を走る。その間は何と平面交差 photo:Kenji NAKAMURAレース当日も選手を乗せたバスがスタート地点に到着したのがスタート時間間近。レース時間が変更になるか否かゴタゴタして、結局第1走者は公式発表もなく予定から40分以上遅れてスタートする。UCIのチーフコミッセールもすでにインド車連のいい加減さにやる気を失っている状況で、ロード種目初日をみただけでも今後の大会運営が大きく荒れることが伺えた。

決まらないスケジュール、平面交差のコース

ジュニア男子TTは1周14.2kmのコースを2周する28.4kmで争われたが、スタート時間がなかなか決まらず事前の試走をどのチームも行なうことが出来なかった。前日の午前中にようやくレースコースが決まり、試走のためコースまでバスが出ることになっていたが、それも突然のキャンセルに。どのチームも条件は同じなので仕方がない。

F1サーキットコースとその外周の直線路の路面状況は良く問題はないのだが、サーキットから外周に出ていく際と外周からサーキットに戻る際にはコースが狭く、さらに数か所のコーナーではコンクリート製の大きな段差がある危険なコース設定。さらにありえない話だがレース中に選手同士がX字に交差する箇所もある。

男子ジュニアTTは17名参加で山本大喜(榛生昇陽高校)は後ろから2番目スタート。無線が使えるため他の選手のタイム差を確認しながらレースを進めることが出来る。この日は風もなく前輪にバトンホイール、後輪にディスクホイールの装備。

1周目で2番手タイム

ジュニア男子個人TTスタート 山本大喜(榛生昇陽高校)ジュニア男子個人TTスタート 山本大喜(榛生昇陽高校) photo:Kenji NAKAMURAスタートして最初の3分は最初の加速以外は強度を上げすぎないように注意する。直前合宿のTTでは前半で上げすぎて中盤失速していたので、レース全体で、特に直線の長い平坦部分と緩い下り箇所で高い出力を維持することと、ちょっとした登り区間では出力を上げすぎないように徹底する。

1周目のサーキット周回を終えて外周に出るところでは審判は立っているもの合図を出してくれないので曲がる場所がよく分からず、ブレーキを大きくかけてしまいタイムを失う。それ以外のコーナーもどちらに曲がれば良いか分からず、またコーナー直後の段差で危ない場面もありタイムを失ったが落車しなかっただけ良かった。

平坦直線では非常にスピードに乗り50km/hあたりで回す。1周目終了時点ではカザフスタンの選手に16秒差をつけられ2位。2周目からはコースも分かり快調に飛ばし続け、レース全体でみてペース配分はうまくいった。結果、山本は優勝したカザフスタンの選手から12秒差の2位。

世界選14位の選手とわずか12秒差の2位に

ジュニア男子個人TT 山本大喜(榛生昇陽高校)ジュニア男子個人TT 山本大喜(榛生昇陽高校) photo:Kenji NAKAMURA惜しくも優勝は逃したが、ジュニア1年目の選手であり、コースも分からない状態でのTTであったが集中力を切らさずゴールまでしっかり走りきることが出来た。優勝したカザフスタンのDMITRIY RIVE選手はカザフスタンのTTのエース選手で、昨年のオランダでのジュニア世界選手権TTで14位に入った強豪選手であった。彼もレース中に突然現れた段差にハンドルをとられて1回コースアウトしたそうだ。

TTではバイクの性能、そしてバイクのポジション出しも重要なポイントとなるが、TTバイクをもっていない山本のために今回はコルナゴジャパンから電動変速のついた完成車で貸与された。レースだけではなく合宿の際から貸していただけたお陰で、事前にポジション出しにも時間をかけることが出来、しっかり乗りこなすことができた。このために尽力していただいたコルナゴジャパンの中田真琴氏に感謝したい。

結果
男子ジュニア個人タイムトライアル28.4km
1位 RIVE, DMITRIY  カザフスタン 36分12秒318
2位 山本 大喜    日本     36分24秒222
3位 EBADALLAHIRAFSANJANI, MAHDI  イラン 37分28秒706


text:柿木孝之(JCFジュニア強化育成部会)
edit:高木秀彰
photo:中村賢二(JCF)、柿木孝之(JCFジュニア強化育成部会)