高性能カーボンパーツブランドとして確固たる地位を築いたエンヴィが、「スマート・エンヴィ・システム」と名付けられたリムの新シリーズをデビューさせた。フロントとリアが異なる形状になっており、単体ではなく前後システムとして開発された新思想のロード用エアロカーボンリムである。

元F1エンジニアが手掛けた完全前後別設計

スマート・エンヴィ・システムのラインナップは、3.4、6.7、8.9の3種類。モデル名はリムハイトを表しており、3.4はフロント35mm/リア45mm、6.7はフロント60mm/リア70mm、8.9はフロント85mm/リア95mmと、それぞれフロントよりリアが10mm高くなっている。
しかし、このスマート・エンヴィ・システムは単純に前後輪のリムハイトを変えただけでは無く、リムの設計思想そのものが前後で異なっていることが最大の特徴である。この設計を手掛けたのは、元F1エンジニアであり、数々のTTフレームを設計した空力スペシャリスト、サイモン・スマート氏。

空力を制するエアロロードホイールスマート・エンヴィ・システム空力を制するエアロロードホイールスマート・エンヴィ・システム
スマート氏は、走行中に横風が吹いたときにライダーが行う修正操舵のトルクを測定するという新しいアプローチで設計を開始。得られたデータを基に、風向きが急に変化しても操縦性が悪化しにくいリムの断面形状を導き出し、それを前輪専用リムとして採用したのだ。リム幅は26mmとかなり広く、ハイトは低め。全体的に太く丸みを帯びた形状となっている。ディープながら風向きが変わる中でも操縦性が悪化しにくいフロント専用のリム形状というわけだ。

リムハイトのほか、スポークホール数も選択可能。予算、目的によって選択できるリムハイトのほか、スポークホール数も選択可能。予算、目的によって選択できる 限界までワイド化されたリム。フロントの幅は26mm、リアは24mm限界までワイド化されたリム。フロントの幅は26mm、リアは24mm

ハブも数種類の中から予算や好みに合わせて選べる。試乗車はDTスイスを採用ハブも数種類の中から予算や好みに合わせて選べる。試乗車はDTスイスを採用 操舵輪ではないリアホイールは横風の影響を受けにくいため、フロントよりリムハイトを高く設定、空力を重視してリム幅を24mmと狭くした。フロントに比べるとわずかにスリムで、トラディショナルなVシェイプに近い断面となっている。

前後でハイトが異なるホイールセットはいくつか存在するが、このスマート・エンヴィ・システムはリムの断面形状を前輪は操縦性重視、後輪は空力重視と設計思想を大きく異としている点がトピックス。前後専用設計はリムハイトのみならず、断面形状に至るまで異なる。


6.7インプレッション

「スピード維持性能は感動できるレベルにある」吉田秀夫(盆栽自転車店)

ここまでディープなのに、あまりにニュートラルなのでびっくりしました。フロント60mmって結構ディープですよね。自分も60mmのフロントホイールを持っていますが、もっと風にあおられます。だから危なくて使う機会が少ないほどです。でも、この6.7だったらほぼどこでも使えます。ハンドリングも自然で安心できます。

スピードも伸びますね。一度スピードに乗せても速度が下がりにくく、脚を止めても高速を維持しやすい。リム形状でここまで違うのか、と驚きました。感動できるレベルです。加速やヒルクライムも重量以上に軽く感じます。

幅広リムの剛性が高いのでしょう。乗り心地も悪くなく、すごく完成度が高いホイールだと思います。トライアスロンやタイムトライアルなど、高いスピード域で単独で走ることが多い人や、横風が強い環境で乗ることが多いライダーにオススメです。ブレーキの効きもかなりよく、コントローラブルで安心して使えます。

まさに設計意図通りの性能が出ています。新時代のリムですね。お店でも売れているんですが、使った人はみんな絶賛しています。


「トータルで性能を考えた新しいディープリム」鈴木祐一(RiseRide)

「トータルで性能を考えた新しいディープリム」鈴木祐一(RiseRide)「トータルで性能を考えた新しいディープリム」鈴木祐一(RiseRide) 空気の流れが抜群にいいにもかかわらず、ハンドリングやバイクの倒し込み、バイクの左右への振りなど、自転車を操作する上でのコントロールが自然にできます。ディープリムでコーナリングするとどうしてもディープ特有のクセが出るものですが、今回はそれが全く感じられませんでした。クセがなく自然に操れます。個人的に気に入りました。

空力はもちろんいいんですが、リムの軽さも感じます。踏み出しが軽く、高速域へ加速していくときによく進んでくれるのは、このリム形状のおかげでしょう。空気抵抗に加えて軽さがあるので、高速へのさらなる加速がいいんですね。伸び率が違います。これはスピード域の高いヒルクライムでも感じられる性能です。

重量だけ見るとほかにも軽いモデルがありますが、この中速から高速での走りの軽さはSES(スマート・エンヴィ・システム)ならではでしょう。空気抵抗の影響は大きいと実感しますね。
これからは重量だけを見てホイール選びをするのではなく、速度域を考えて空気抵抗の良し悪しも考慮しないといけないな、と思いましたね。

乗り心地もよかったです。ハイトが高いのにさほどガツガツとはきません。ストレスが少ないので、「ディープリムって横風に弱いんでしょ」と懸念されている方に使ってみてほしい。とにかく、ディープでここまで自然な操作性を持っているものは初めてで、衝撃を受けました。ロードレースには最適だし、アップダウンにも問題なく使えます。空気抵抗だけを見ているのではなく、トータル性能を考えた「新しいディープリム」ですね。


8.9インプレッション

「30~40kmからの加速が驚くほど楽に行える!」吉田秀夫(盆栽自転車店)

6.7と比べてしまうと多少ゼロスタートが重いですが、スピードに乗せてしまえば気にならなくなります。高速への伸びがさらによく、惰性がつきやすくて脚を止めてもずーっと回っている感じ。空力性能が効いているんでしょう。フロントが80mmもあるので低速クイックターンではさすがに曲がりにくいですが、ハイスピードになればコーナリング特性にクセはなくなります。80mmにしては扱いやすく、そこまでディープを意識させませんね。

「30~40kmからの加速がむちゃくちゃ楽に行える!」吉田秀夫(盆栽自転車店)「30~40kmからの加速がむちゃくちゃ楽に行える!」吉田秀夫(盆栽自転車店)

一定以上のスピードでの反応性はかなり良好です。速度を維持するために追加しなければならないパワーが少なくて済みます。すごくラクに巡航できますし、負荷が変動しないコースでは失速しにくいので武器になります。

リム精度もいいですし、乗り心地も思ったほど悪くないですね。縦方向の硬さや突き上げはそれほど感じません。初期加速では6.7に多少劣りますが、30~40kmからのさらなる加速は非常にラク。独自の断面形状の効果は確実にあると思います。40km前後の速度域では、他社製品に対して確実にアドバンテージがあります。速度域の高いタイムトライアル的な走りやトライアスロンなどに向きます。ロードレースには6.7のほうがいいでしょう。


「登りもこなせる究極のエアロホイール」鈴木祐一(RiseRide)

さすがにここまでいくと横風の影響は多少受けますが、リムハイトの高さにしては扱いやすいということはエンヴィ・スマート・システムのモデルに共通しています。6.7はヒルクライムでもイケる軽さや圧倒的な加速力がウリであるのに対し、8.9はスピードの持続力が非常に高いホイール。加速力より巡航能力に長けています。

スーパーディープの中にはジャイロ効果で曲がりにくくなるものも多いですが、この8.9はバイクの振りもそれほど大きなクセはなく、素直な操縦性を持っています。速度の持続力は素晴らしいの一言。次元が違う空力性能ですね。

でも、同じリムハイトのライバル製品に比べると外周部が軽いので、登りでもさほど苦になりません。80mmクラスにしては登りもこなせます。いくら空力性能がよくても、リムが重かったら意味ないですし、軽くても剛性がなかったら走らない。そのトータルの性能が大事です。この8.9はそのトータルバランスのレベルがすごく高い。精度のよさ、形状の優位性、軽さが効いているのでしょう。完成度が非常に高い、究極のエアロホイールです。
提供:トライスポーツ 編集:シクロワイアード編集部