CONTENTS
フルモデルチェンジを遂げたキャノンデールの新型SuperSix EVOを、デビュー前から乗り込んでいた日本人選手たちがいる。世界トップクラスの舞台で戦うことを夢見て武者修行を続けるEFエデュケーション・NIPPO ディベロップメントチームの選手たちに、既に実戦投入を果たして久しい新型EVOについて聞いた。ジローナにあるEFワールドチームのチーム倉庫を訪ねた様子も併せてお伝えします。

EF・NIPPOの選手にインタビュー:新型EVOについて

EFエデュケーション・NIPPO ディベロップメントチームの選手たち。ジローナで新型EVOについて話を聞いた photo:So Isobe

「ダンシングが段違いに軽くなりました。エアロ効果が高まっているのが何より嬉しいし、しかも軽い。機材で言い訳はできませんね」と言うのは、U23タイムトライアル全日本王者の留目夕陽だ。

NIPPOがスポンサードする「EFエデュケーション・イージーポスト」直下型の育成チーム「EFエデュケーション・NIPPO ディベロップメントチーム」の面々は、年明け早々に新型SuperSix EVO(Hi-MODモデル)を受け取って乗り込み、既にヨーロッパやアフリカのUCIレースを戦ってきた。

今年チームには、留目を筆頭にU23ロード全日本王者の仮屋和駿、経験豊富な門田祐輔、シクロクロス全日本王者の織田聖、U23カテゴリーの橋川丈(少し説明を付け加えておくと、橋川の父はかつてのプロ選手であり、現在チームユーラシア代表を務め若手育成に注力する橋川健さん)、そして山田拓海という6名の日本人選手が所属。世界から集まった才能溢れる若手選手と共に武者修行を続けている。

EFエデュケーション・NIPPO ディベロップメントチームが駆る新型EVO。Hi-MODフレームにDI2lコンポとヴィジョンのホイールを組み合わせる photo:So Isobe

トップチューブ上面はマーブル柄のカーボン地が透けて見える(日本未展開カラー) photo:So Isobe
タイヤはIRC。FORMULA PROをメインユースする photo:So Isobe



今回スペイン北東部カタルーニャ地方のジローナで開催された新型SuperSix EVO発表会に参加した筆者は、同じ街にチーム拠点を置く彼らにインタビューする機会を得た。新旧EVOを乗り比べている留目を中心に、仮屋、橋川、そして山田という選手4名が感じる、新型SuperSix EVOの走りや進化、そして魅力とは?

「本当に良いバイク。乗っていて楽しい」

CW:本日はお集まりありがとうございます。それぞれもうすでに新型EVOで距離を乗り込み、アフリカやトルコのレースで実戦投入していると聞いています。まずは新旧EVOを乗り比べている留目選手から第一印象を教えて下さい。

U23タイムトライアル全日本王者の留目夕陽。「去年より明らかに成長できている」とワールドチーム昇格を目指す photo:So Isobe

留目:いえいえ、発表会会場がチーム拠点からすぐでしたから(笑)。新型EVOは本当に良いバイク、という言葉に尽きますね。先代EVOと比べると剛性が高く、ダンシングの軽さが段違いで、空力性能が良くなっていることを強く感じます。それでいてしかも軽い。乗っていてすごく楽しいバイクです。

同じHi-MODグレードでの比較ですが、新型の剛性が上がっているのは間違いありません。硬いからこそ乗り始めた当初は今までと違う部分が疲れたりして戸惑いましたが、乗り方を理解するにつれて速さを実感できました。登り、下り、平坦、それにスプリントと、あらゆる面で先代を上回っている。

「登り、下り、平坦、それにスプリントと、あらゆる面で先代を上回っています」 photo:Sonoko Tanaka

僕が一番気に入っているのはエアロ性能です。しかも軽いくというのが更にいいですよね。下りを飛ばすのが好きなんですが、同じ速度で突っ込んだ時も先代以上に余裕を持てる感覚がありました。

トルコを走った今シーズン初戦の途中、僕と山田、橋川の3人で逃げる状況になったんです。下りでローテーションを回している時に他の選手と比べて明らかに速かった。先代と比べると明らかにスピードが乗ってますよ。

CW:なるほど。レースではすごく大きな武器になりそうですね。他の皆さんは新型EVOをどう感じましたか?まずは仮屋選手から伺いましょう。

仮屋和駿:KINANから移籍したU23全日本チャンピオン。パンチ力あるアタックやスプリント力に定評がある photo:So Isobe

仮屋:キャノンデールのバイクに乗るのは初めてでした。正直、最初に手で持った時は軽くないな、と思ったんです。でも、乗ってみると印象がかなり違いました。走り心地は軽く、エアロ。今まで乗ってきたバイクと比べると、同じように走っていても速度域がかなり違います。

僕は留目選手と違って硬さは気にならず、むしろガチガチじゃないな、硬すぎないな、と感じたんですが...。スプリントでしっかりもがけるし、気付くとスピードが乗っていることに驚きました。高剛性じゃないのに「掛かる」感じが強く、エアロ効果も相まってかすごく伸びがいいんです。高速域でのローテーションや、そこからのスプリントもとてもイイ感じ。きっと剛性のバランスが良いんでしょうね。個人的にはしなるタイプのバイクが好きなんですが、そういう意味でも好みでした。良いバイクに乗ることができて嬉しく思っています。

「万能だし、ありとあらゆる場所で武器になる」

ベルギー生まれ、ベルギー育ちの橋川丈。経験値は随一だが「実力はまだまだなのでもっとレベルアップをしていきたい」と意気込む photo:So Isobe
CW:橋川選手はいかがでしょう?クライマー(脚質)ということで登りの印象を中心に聞きたいのですが。

橋川:僕も留目さんと同じく慣れるまで少し時間が必要でしたが、今はすごく気持ちいいバイクだと感じています。登りでダンシングするときも機敏で身体についてくるし、それには先代よりずっとゴツくなったフロントとBB周辺が効いてるんだと思います。

僕は体重が軽く、登りではダンシングかつハイケイデンスな走り方なんです。だから柔らかいフレームはあまり相性が良くないと感じていますが、新型EVOはシャキッとしてる。踏めるのにエアロで軽いんです。ダウンヒルのコーナーも確実ですし、シビアなハンドリングが求められるレースではすごくありがたいと感じています。

CW:橋川選手はベルギー生まれベルギー育ちということで、ベルギーならではの「ケルメスクルス(非常にレベルの高いアマチュアレース。平坦レースであることが多い)」の経験も多いと聞きます。平坦レースでの走りはどうでしょう?

ハイスピードで、コーナリングの立ち上がりのたびに物凄いパワーが求められるのがベルギーのレースですね。ベルギーレースはまだ走っていませんが、新型EVOはひと踏み目からしっかり力が掛かるし、平坦区間もエアロが効いているから良い感じに走れそうです。万能だし、ありとあらゆる場所で武器になるバイクだと感じています。

CW:興味深いインプレッション、ありがとうございます。最後に山田選手の印象を聞かせて下さい。

山田拓海:早稲田大学を休学して渡欧。U23最終シーズンで憧れの本場欧州でのレースに挑む photo:So Isobe

山田:今まで古いリムブレーキのバイクだったので上手くは話せないんですが...(苦笑)、すごくカチッと走る良いバイクだなという印象が強いですね。特にヘッドチューブやフロントフォークなどフロント部分の剛性が強く、ダンシングした時に「前で進む」感覚があります。だからこそダウンヒルも安定していて、安心して攻められる。ヨーロッパレースのダウンヒルはとにかく速いですから、この安定感はすごく助けになります。

「新型EVOで目標のワールドチーム昇格を」

キャノンデール・ジャパン伊藤氏:キャノンデールはバイク開発において、乗り味が硬すぎないことを大切にしているんです。だから他ブランドの高剛性バイクに乗り慣れた人からすると柔らかいと評価されがちなんですが...。個人差はあれど、先代からは剛性が上がっているようですね。

留目:僕がそうだったように、先代のEVOから乗り換えるなら慣れるまで少し時間が掛かるかもしれませんね。

ただ、一般の方が乗るならワイドタイヤで乗り心地を増し、踏みごたえの部分と調整できる範囲ですよ。新型EVOはタイヤクリアランスが増えているので、無理なくそういうセッティングに対応できるのはすごくいい。ぎりぎりのクリアランスだったら、普段は良くても思いっきり踏んだ時にホイールやフレームがたわんで接触することがありますから。

「機材に言い訳なし。結果を出して、目標を掴みたい」 photo:Sonoko Tanaka

CW:ここがこうだったらもっと良いのにな、と感じる部分はありますか?

留目:いや、それは全く感じません。新型EVOの走りにはチーム全員とても満足しているし、コンポーネントもシマノDI2ですし、タイヤも良い。全く言い訳できませんね。ワールドチームの選手たちはLAB71モデルを使っているのでどんな走りなんだろうって興味があるんですが、とにかくこのバイクで結果を出し、目標のワールドチーム昇格を叶えたいと考えています。

EFワールドチームのサービスコースを訪問 無数の新型EVOに圧倒される

ジローナ郊外にあるEFチームのサービスコース。チームの機材拠点となる倉庫だ photo:So Isobe

新型SuperSix EVO発表会の会期中、筆者は同じくジローナ郊外にあるEFエデュケーション・イージーポスト(UCIワールドチーム)の活動拠点にお邪魔することができた。

"サービスコース"と呼ばれるこの拠点は、レースで使用するバイクや車両、機材のメンテナンスや管理を行う機材倉庫を兼ねた施設。チームカーやトラック、バスがすっぽりと入る建屋内にはピンクが眩しいキャノンデールバイクが数百台規模で並び、奥の作業スペースでは複数名のメカニックが忙しなく組み付け作業を行なっている。

建屋内を案内してくれた南野求さん。チーム在籍3年目。気鋭の若手メカニックだ photo:So Isobe

訪問時は1部隊がレースに出払っているとのことだったが、それでも倉庫内にずらりと並んだ新型EVOの姿には圧倒されてしまう。選手一人あたりに供給される台数は9台にも及び、内訳はロードバイクだけでレース用2台、スペア用3台、自宅などそれぞれの拠点用の練習用が2台、タイムトライアルバイクが合計3台。

さらにエース級選手や、グランツールなどでは特別バイクが供給されるため用意される台数はさらに増える。加えてグラベル、シクロクロス、MTBなどオフロード種目に出る選手も...。今年チームは30名の選手を抱えるため、どんなに少なく見積もっても300台分のバイクのメンテナンスを行うことになるのだ。

以下は南野求メカニックの案内で見て回った、サービスコース内の様子。フォトギャラリーを左右にスクロールしてお楽しみを。
提供:キャノンデール・ジャパン | text:So Isobe