12速化&無線化を果たした新型R8100系アルテグラ。同時発表されたデュラエースの影に隠れがちだが、目を凝らしてみるとそこにはデュラエースとは違う方向性への正当進化があった。これからの「ロードバイク」のあり方を示す新型コンポの魅力と用途に迫る。

シマノR8100系ULTEGRA シマノR8100系ULTEGRA photo:MakotoAYANO
「この新型アルテグラは、変速性能だけじゃなくすべてにおいて11速デュラより良くなっていますよ」と、なるしまフレンド神宮店でメカニックチーフを務める小西祐介さんは驚きを隠さない。20年以上のレース経験を持つ強豪ホビーレーサーの顔も持つ彼が、一世代前のデュラエースより良いと語るその真意は?

小西祐介さん(なるしまフレンド神宮店)には実際に新型アルテグラを組んでもらってお話を伺った小西祐介さん(なるしまフレンド神宮店)には実際に新型アルテグラを組んでもらってお話を伺った photo:Makoto AYANO
「11速のデュラエースを使っているときは、最高だと思っていたんです。文句はなかったですよ。しかし、このR8100系アルテグラはそれを超える良さだと感じました。変速性能も、ブラケットの握りやすさ、扱いやすさも。11速の時にはデュラとアルテの性能差は明確にありましたが、今回の12速ではそこまで感じないというのが正直なところです。デュラには期待も大きいので、単純比較は難しいですが」

ここからは、新型R8100系アルテグラのポイントを小西さんに伺っていく。

セットアップが容易で、トラブルを減らす無線化

インジケーターが緑色に光れば無線通信用の電池残量が十分にある証拠インジケーターが緑色に光れば無線通信用の電池残量が十分にある証拠 初期設定ではディレイラーとレバーを通信させて接続する初期設定ではディレイラーとレバーを通信させて接続する

「やはり一番の変化は、完全ではなくとも無線化を果たしたことですね。ワイヤレス化によりジャンクションAを無くせることはユーザーメリットも大きいです。輪行時や、ライトとの接触などで断線してお店に持ち込まれるケースがしばしばあるんですが、こうしたトラブルが少なくなりますね。

レバー裏のQRコードをアプリで読み込んで設定を行うレバー裏のQRコードをアプリで読み込んで設定を行う STIレバー頭部に通信用のボタン電池を内蔵するSTIレバー頭部に通信用のボタン電池を内蔵する


ショップ目線では、ハンドル周りが無線化したことで組み立てやすくなるのはメリットです。また、E-tubeプロジェクトも無線で使えるようになります。既存モデルではワイヤレスユニットが必要だったこともあり利用率は高くありませんでしたが、これでPCとバイクを無理に近づけなくてもDI2の設定が容易になります。」

スムーズさに磨きをかけた変速性能

ロングケージ化&ワイドギア対応を果たしたRD-R8150リアディレイラーロングケージ化&ワイドギア対応を果たしたRD-R8150リアディレイラー photo:Makoto AYANO
「『変速時に足の力を抜く』という技術を過去のものにしてしまった感のあるDI2の変速性能ですが、このR8100系アルテグラにおける進化には目を見張りますね。デュラとの差もほとんど感じません。すでにMTBコンポで採用されていたHYPERGRIDE+(ハイパーグライドプラス)を導入、さらにロード向けにブラッシュアップしたことの効果も大きいでしょう。

「フロントもリアも、この変速スピードと軽さは驚異的ですね」「フロントもリアも、この変速スピードと軽さは驚異的ですね」
低速で乗った時は、さらにその性能向上が際立ちます。ワイヤー式だと変速しきれなかったり、機材に負担をかけてしまったりしますが、10〜15km/hでの走行時でも変速がスムーズなのには驚きました。

アプリE-TUBE PROJECT Cyclistを使用して変速速度を変えることができるのですが、これはケイデンスの高い人は変速を速くし、低い人は遅くすることで機材に負担の無い変速をするという調整機構ですが、それが不要に感じるほどの変速性能の高さです。」

変速スピードが著しく向上したフロントディレイラー変速スピードが著しく向上したフロントディレイラー

ポジションの自由度を高めるブラケット形状

エアロポジションへの対応と握り心地を向上させたST-R8170エアロポジションへの対応と握り心地を向上させたST-R8170 photo:Makoto AYANO
「ブラケットレバーは握りやすいですね。ボタンの押しやすさとクリック感がいい。これに関してはデュラエースが9070から9150に変わったときに大きく改善しました。でも今回はよりボタンの押しやすさが明確になる進化を遂げていて、初めて乗る方にもわかりやすいくらいだと思います。ボタンに段差がつけられて、冬用グローブでも操作しやすい。

「ボタンの押しやすさとクリック感がいい。冬用グローブでも操作しやすいでしょう」「ボタンの押しやすさとクリック感がいい。冬用グローブでも操作しやすいでしょう」 「ブラケットは4mm長くなっていますが握り部の距離感は違いを感じません」「ブラケットは4mm長くなっていますが握り部の距離感は違いを感じません」

レバー自体は数字では4mm長くなっていますが、乗った時に握っているところの距離感は違いを感じませんでした。ブラケットの上の方を握れば肘を絞ってのエアロポジションもとりやすく、独走する時の握り方に合います。以前の型のレバーだと段差で不意に手が外れて浮いちゃうことがあったんですが、こちらは握りがいいので心配が減りますね」

ワイド化したギア比が道を選ばない

インナー34T✕ロー34Tで1対1のローギアを実現するインナー34T✕ロー34Tで1対1のローギアを実現する photo:Makoto AYANO
「リアディレーラーのケージが長くなっていますね。これは2種類のスプロケット11-30Tと11-34Tに対応するためですね。12速化にともなうワイドレシオギアが選択できることで、どんな道でも走れるようになります。フロントは脚力に応じて、52-36Tか50x34Tを選びながら、ある程度オンロードで道のわかる「怪しくない」ライドなら11-30T、未知のルートやグラベルを含む時には11-34Tを使い分けたいですね。

ワイドレシオ化に伴って大きく、ケージが長くなったRDワイドレシオ化に伴って大きく、ケージが長くなったRD 通電ケーブルをまとめる小物もRDに備わっている通電ケーブルをまとめる小物もRDに備わっている

ギアの選択肢が増えたことは、入門者や女性サイクリストの増加にも一役買うと思います。今日ではフレームの剛性が増して走り方のトレンドが変わってきました。フォームを崩さず、ケイデンスを保つ効率の良い走り方。今ではプロ選手だってローに30Tをメインで使っているのですから、その有用性は疑いようがありません」

隣で作業を見守っていたなるしまフレンドのメカニック、小畑さんも新型R8100系アルテグラを触ってみての感想を語ってくれた。

現役レーサーでもあるメカニックの小畑郁さん(なるしまフレンド)現役レーサーでもあるメカニックの小畑郁さん(なるしまフレンド) 「DERA-ACEと違ってインナー✕トップに入るのは用途の広さを感じます」「DERA-ACEと違ってインナー✕トップに入るのは用途の広さを感じます」

「軽量化を追求しているデュラエースよりもアルテグラの方がリアメカは大きく、キャパシティがありますよね。つまりワイドレシオを多用する人はアルテがいいんです。それは、アルテグラではインナートップに入るけれど、デュラは入らない設定になっていることにも現れています。前作まではアルテグラもインナートップに入らなかったんですが、変わりましたね。『本当に2x12のギアをすべて使い切れる』のはアルテグラ。ユーザーの多様な使い方に対応している、ということでしょう。

リアがトップに入らないのって、ホイールの着脱がしにくい問題にもつながります。チェーンのテンションが高いとホイールをつける時にローターをキャリパーに入れにくいですから」

熱に強く、扱いやすいブレーキ

ディスクブレーキモデルのBR-R8170ディスクブレーキモデルのBR-R8170
「クリアランスを10%向上したという触れ込み通り、ブレーキパッドとローターとのコンタクト感も良くなりました。クリス・フルームが言っていた『下りでのローターの熱膨張でシャリシャリと接触音がするようになる』という問題はだいぶ解消されました。もっともこれは、ローターもMTBのXTグレードと同様のものにして熱に強くなったことも大きいですね」

新型デュラエースとあわせ新設計となったBR-R8170キャリパー新型デュラエースとあわせ新設計となったBR-R8170キャリパー ブレーキパッドの間隔が10%以上広がりローターとの接触を抑えるブレーキパッドの間隔が10%以上広がりローターとの接触を抑える

簡便になった変速調整

「フロントディレーラーの位置調整の方法は、すべてDI2で対応する方向に変わりました。これまでは、調整ボルトでこれ以上動かないようにと物理的に制限していたのですが、それを無くしました。アウタートップにしてフロントディレーラー位置を調整、記憶させてあげて、次にアウターローにしてチェーンが当たらないように位置を調整。そしてインナーに変えて、ここでも位置調整をして追い込んであげればOK。作業がシンプルに、わかりやすくなりました。

小西祐介さん(なるしまフレンド神宮店)には実際にULTERGRAを用いたバイクを組んでいただき、お話を伺った小西祐介さん(なるしまフレンド神宮店)には実際にULTERGRAを用いたバイクを組んでいただき、お話を伺った photo:Makoto AYANO
あと、セミワイヤレスになったことで、ブラケットにボタン電池を搭載するようになりましたが、そのバッテリー残量が確認できるのはシマノならではの機能。案外見落としがちで、度々お客さんからも受ける『変速しなくなった』というトラブルの原因がこの電池切れであることも多いんです。」

新型アルテグラの描く大きな絵
ピュアロードレーサーから幅広い用途に対応するロードバイクへ

この企画のためにR8100系ULTEGRAを用いて組まれたサーヴェロCAREDONIAこの企画のためにR8100系ULTEGRAを用いて組まれたサーヴェロCAREDONIA photo:Makoto AYANO
ここまで見てきた新型R8100系アルテグラの進化のポイントをみていると、シマノがコンポメーカーとしてこのアルテグラで描きたい絵が見えてくるようだ。

これまでアルテグラはデュラエースに次ぐセカンドグレードであることが存在意義であり、いかにデュラエースに近い性能を持ちつつコストパフォーマンスを発揮するかが、ユーザーにとっても焦点だった。

直線的デザインでパワフルで剛性感あふれるFC-R8100クランクセット  直線的デザインでパワフルで剛性感あふれるFC-R8100クランクセット photo:Makoto AYANO
しかし、「ワイドレシオギアが選択できることで、どんな道でも走れる」という小西さんの言葉に象徴されるように、アルテグラはその活躍するフィールドを、ロードレースの外側へと拡張しているようにみえる。北米に発するグラベルカルチャーや、バイクパッキングの世界的な流行を経て、ロードバイクはもはや、レースをするためだけの自転車ではなくなった。

RD-R8150、FD-R8150RD-R8150、FD-R8150 photo:Makoto AYANODURA-ACEを踏襲した形状のST-R8170DURA-ACEを踏襲した形状のST-R8170

設計を見直しブリーディング等もしやすくなったBR-R8170設計を見直しブリーディング等もしやすくなったBR-R8170 photo:Makoto AYANO
いまや、『ピュアロードレーサー』は定義できても、『ロードバイク』は定義できない時代に突入した。走るべき道はもはや舗装路に限定されない。その領域には未舗装路もあり、時速40km/h以上で走る必要などなく、ライダーのファッションだってピタピタのサイクルジャージに限定されない。

ロードバイクが今謳歌し始めているこの自由と歩調を合わせ、さらに推進するようなコンポーネントを、グローバルリーディングカンパニーのシマノが発表した意義は計り知れない。

マット基調フィニッシュのFC-R8100チェーンホイールマット基調フィニッシュのFC-R8100チェーンホイール チェーンリング内側には変速スピードを向上させるスパイクピンや切り欠きが備わるチェーンリング内側には変速スピードを向上させるスパイクピンや切り欠きが備わる

MTBコンポXTR譲りのHYPERGRIDE+ は歯先形状を計算し尽くして設計されたMTBコンポXTR譲りのHYPERGRIDE+ は歯先形状を計算し尽くして設計された スプロケット裏側にも変速性能を向上させる切り欠きがあるスプロケット裏側にも変速性能を向上させる切り欠きがある

ロードレースを20年にわたり楽しみ、日々ロードバイクのトレンドに触れている小西さんの言葉が印象的だ。

「ワイドレシオギアに、30Cのようなワイドタイヤ。ロードバイクはこうなるだろうな、というのが率直な感想です。自分が始めた頃、21Cのタイヤに9気圧を入れて乗っていた時代からすると、乗り心地の良さや走れる場所が増えたことに感動しています。それも当然で、自分が乗っていたのは『ロードレーサー』だったわけです。

そういうバイクに乗っていると『ここは行けない、行くべきではない』と考えがちです。全ての道は繋がっているけれど、自分からその選択肢を切っていたわけです。でも今回のアルテグラが出てきて、また太いタイヤの履ける広義のロードバイクが出てきたことで、山道のようなマウンテンバイクの領域を除けばどんなところにも行けるようになったと思います。」

ULTEGRA C36ホイールには今回シュワルベPRO-ONE TLE 32Cタイヤを履かせたULTEGRA C36ホイールには今回シュワルベPRO-ONE TLE 32Cタイヤを履かせた photo:Makoto AYANO
とかく私達は最新テクノロジーが投入された新型コンポを、1秒でも速く走るための機材として捉えがちだ。しかしこのアルテグラにあっては、テクノロジーはライダーの速度はもちろんとして、自転車の自由を自由たらしめるためにあるようにみえる。

DURA-ACE同様にC36、C50、C60がラインナップするULTEGRAホイールDURA-ACE同様にC36、C50、C60がラインナップするULTEGRAホイール photo:Makoto AYANOローターはMTBで実績のあるRT-MT800が標準となるローターはMTBで実績のあるRT-MT800が標準となる

次記事では、実際にライドでアルテグラの使用感とともに、このコンポの目指す地平を感じ、レビューしたい。果たして、待っているのはどんな道なのだろうか。

製品詳細については新製品情報 R8100系ULTEGRA登場を参照。

お話を伺った人

小西祐介さん(なるしまフレンド神宮店)小西祐介さん(なるしまフレンド神宮店) 小西祐介さん(なるしまフレンド神宮店)

なるしまフレンドのメカニックチーフにして20年以上のレース経験を持つ。かつてはホビーレーサーとしてツール・ド台湾などの国際レースにも参戦。現在はピナレロDOGMA F12を相棒に、険しい林道や山間部のロングライド、プチグルメを求めての休日ライドなどを楽しんでいる。

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text:小俣雄風太、写真:綾野 真、提供:シマノセールス