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2020年、メイド・イン・USAを貫くジップのホイールラインナップが大幅刷新される。中でも40mmハイトのフックレスチューブレスリムと新型ハブをひっさげ、フルモデルチェンジを果たす303 Firecrest Tubeless Discはその中心だ。本章ではラインナップの変更点を総括しつつ、303 Firecrestに投じられたテクノロジーを掘り下げていく。

2020年、ジップホイールラインナップは新時代へ

新ロゴと共に正式デビューを飾る新しいジップホイールラインナップ(写真は303 Firecrest Discチューブラー)新ロゴと共に正式デビューを飾る新しいジップホイールラインナップ(写真は303 Firecrest Discチューブラー) (c)CorVos
衝撃のアンダー15万円を達成しつつ、内幅23mmの超ワイドフックレスリムを投入した「303 S」は、ジップホイールラインナップ刷新の狼煙だった。

創業から23年目を迎えた2020年、ジップはブランドロゴを刷新するとともに、今までクリンチャー仕様だった各ホイールを、一斉にトレンドに沿ったチューブレスレディ仕様へとアップデートさせる。

303シリーズを筆頭に刷新されるジップホイールラインナップ。長く親しまれてきたロゴも新型に役目を譲る303シリーズを筆頭に刷新されるジップホイールラインナップ。長く親しまれてきたロゴも新型に役目を譲る photo:So.Isobe
454 NSWのクリンチャーはTLR化454 NSWのクリンチャーはTLR化 (c)ZIPPディスクホイール「Super-9」は新型ハブに。クリンチャーはTLR化を果たすディスクホイール「Super-9」は新型ハブに。クリンチャーはTLR化を果たす (c)ZIPP


Firecrestシリーズではリムブレーキ仕様の303、404、808が、NSWシリーズでは454と858がリム/ディスク版共に、そしてディスクホイールのSuper-9もリム/ディスク版共に、そしてラインナップに残る302とその数は10にも及ぶほか、多くのホイールには新型の「ZR1」ハブを投入。ラインアップのほとんどが次世代モデルへの移行を果たす。

先に303 Sで正式デビューしたグラフィックもジップ新時代到来を告げるアイコンだ。長年使われてきたZIPPロゴは、シーズン序盤にモビスターが実戦投入し話題を呼んだ大胆なグラフィックへと刷新されることとなる。ラインナップ一覧と、その変更点は以下の通りだ。
ジップ ロードホイールラインナップ一覧&変更点
モデル名 リム形式 ブレーキ形式 リム変更点 ハブ変更点
202 Firecrest チューブレス ディスク - ZR1DB、センターロック
202 NSW チューブレス ディスク - -
302 チューブレス リム クリンチャー→TLR -
303 Firecrest チューブレス リム クリンチャー→TLR ZR1
303 Firecrest チューブレス ディスク 40mmハイト、フックレス ZR1DB、センターロック
303 Firecrest チューブラー リム - ZR1
303 Firecrest チューブラー ディスク - ZR1DB、センターロック
303 NSW チューブレス リム - -
303 S チューブレス ディスク TLR、フックレス -
404 Firecrest チューブレス リム クリンチャー→TLR ZR1
404 Firecrest チューブレス ディスク - ZR1DB、センターロック
404 NSW チューブレス リム - -
404 NSW チューブレス ディスク - -
454 NSW チューブレス リム クリンチャー→TLR -
454 NSW チューブレス ディスク クリンチャー→TLR -
454 NSW チューブラー リム - -
454 NSW チューブラー ディスク - -
808 Firecrest チューブレス リム クリンチャー→TLR ZR1
808 Firecrest チューブレス ディスク - ZR1DB、センターロック
808 NSW チューブレス リム - -
808 NSW チューブレス ディスク - -
858 NSW チューブレス リム クリンチャー→TLR -
858 NSW チューブレス ディスク クリンチャー→TLR -
Super-9 チューブレス リム クリンチャー→TLR ZR1
Super-9 チューブレス ディスク クリンチャー→TLR ZR1DB、センターロック
Super-9 チューブラー リム - ZR1
Super-9 チューブラー ディスク - ZR1DB、センターロック

フルモデルチェンジを果たす中核モデル 303 Firecrest Tubeless Disc

先に発表された303 S Tubeless Discとともに今季最注目となるホイールが、フルモデルチェンジを果たした303 Firecrest Tubeless Disc。ディンプルテクノロジーを脈々と受け継いできたFirecrest(ファイアクレスト)シリーズの中で最も汎用性に優れるモデルで、今回TSEテクノロジー(Total System Efficiency)を投入したことで、よりハイレベルな走りを獲得している。

フルモデルチェンジを遂げる303 Firecrest Tubeless Discフルモデルチェンジを遂げる303 Firecrest Tubeless Disc photo:So.Isobe
TSEテクノロジーとは、風の抵抗、転がり抵抗、重力(重量+耐久性)、振動損失という4つの項目に対し最適なアプローチを行うことで、さらなるスピード強化を図る考えのこと。その中でも、今作で最もアイコニックなテクノロジーが”フックレスリム”である。先に登場した廉価モデル303 S Tubeless Discと共に、他に先んじて投入されることとなった。

タイヤビードを保持するためのフックを廃し、より広いリム内幅を確保することでタイヤの変形量を抑えるフックレスリム。つまりライダーが乗車した状態でもタイヤが潰れにくく、変形することによる運動エネルギー消費を抑える。

ジップのテストによれば、28mmチューブレスタイヤ/空気圧55PSI/45kgの荷重という条件で、フック有りの旧型303 Firecrestと比較した際、タイヤの変形を10%以上抑えることに成功したという。旧型ではタイヤの変形量を少なくするためにより高い空気圧が求められ、そうすると乗り心地悪化や、跳ねることによるエネルギーロスも大きくなってしまうという。

先代303 Firecrest Discとの比較。リム形状がV断面に近づいたことが分かる先代303 Firecrest Discとの比較。リム形状がV断面に近づいたことが分かる photo:So.Isobe
フックレスリムを採用したことで、タイヤとの凹みを大幅に解消。空力改善に大きく貢献するフックレスリムを採用したことで、タイヤとの凹みを大幅に解消。空力改善に大きく貢献する photo:So.Isobeディンプルは先代よりも薄くなった。配置デザインもNSWに近い波状に変化ディンプルは先代よりも薄くなった。配置デザインもNSWに近い波状に変化 photo:So.Isobe


荒れた路面のパヴェ(石畳)を想定した走行シミュレーションでも、空気圧を下げるほど速度維持に必要なパワーを削減できるというテスト結果が得られている。同じ速度を維持するのに必要な出力が90PSIで約192W、60PSIで約167W、40PSIで150Wと低い空気圧ほど効率性が上がるという(28mmチューブレスタイヤ/体重85kgの条件)。

加えて、フックレスリムはタイヤサイドとの段差を可能な限り無くすことで、走行時によりスムーズな空気の流れを生み出し空気抵抗を減少させるメリットも持つ。ビードフックを廃すことで物理的に重量削減も叶え、ペア重量1,355g(旧モデル比で290g軽量)と、十分軽量ホイールにカテゴライズされる重量に生まれ変わった。

フックレス化したカーボンリムは、28mm幅以上のタイヤに最適化された内幅25mm、外幅30mmという超ワイド仕様。推奨される最大タイヤ幅は55mmまで対応と、グラベル対応も忘れられてはいない。チューブレスタイヤ専用であり、ビードを保持する前提で作られている既存のクリンチャータイヤは使用不可(パンク時は応急処置としてチューブを入れて走行可能)。推奨タイヤはジップのTangente Speed RT28 Tubelessだが、一般的なチューブレス/チューブレスレディタイヤも使用可能とのこと(適合リストは未発表)。

303 Firecrest Tubeless Discを旧モデルやライバル製品と比較したチャート。如何なるパワーや空気圧で見ても効率良く走れるという303 Firecrest Tubeless Discを旧モデルやライバル製品と比較したチャート。如何なるパワーや空気圧で見ても効率良く走れるという (c)ZIPP
リムシェイプも28mmタイヤの装着を前提に大幅に変更された。先陣を切って投入したU字断面はV字断面に近づき、リム表面のディンプルも浅くなったほか、NSWシリーズに近い波状に配置されるようになった。

ジップのプロダクトマネージャーによれば、これら工夫によってエアロダイナミクス向上を果たしたため、リムハイトは45mmから40mmへと変わり、大幅なダイエットにも成功。それでもカーボン素材やラミネート、さらには製造プロセスまで見直したことで耐久性は損なわれておらず、ジップによれば同じくフックレスリムを採用したライバル製品と比較した際、28%も高い耐衝撃性を実現しているという。

Cda(空力抵抗の係数)とCrr(転がり抵抗の係数)の組み合わせに基づくジップのテスト(単純な空力試験だけではない部分が重要だという)によれば、新世代303 Firecrest Tubeless Discは先にデビューした303 Sよりも5ワット速く、先代303 Firecrestよりも15ワット速い。他社のライバル製品と比較した際も最大15ワット速く走れるという結果を得ているという。

新型のZR1ハブ。リム/ディスクブレーキ両タイプが存在する新型のZR1ハブ。リム/ディスクブレーキ両タイプが存在する photo:So.Isobe
ZR1ハブの爪数は6。従来の3爪から倍増しているZR1ハブの爪数は6。従来の3爪から倍増している photo:Makoto.AYANOハブ側のノッチ数は33段。6つの爪が3つごと2ペアとなって交互に噛み合うため、1周当たり66段のノッチを刻むハブ側のノッチ数は33段。6つの爪が3つごと2ペアとなって交互に噛み合うため、1周当たり66段のノッチを刻む photo:Makoto.AYANO


リムと同時に新作ハブ「ZR1」も開発された。フリーボディのラチェット機構を一新しており、噛み合う爪の数を従来の3つから6つへと増やしたことが最大の特徴だ。ハブ側のノッチ数は33段で、6つの爪が3つごと2ペアとなって交互に噛み合うため、1周当たり66段のノッチを刻む設計だ。ベアリングのシール性能も向上しているという。スポークがストレートプルからJベンドに変更されているが、これはトラブル時の入手性を優先しての決断だったそうだ。

ディスクローターはセンターロックに対応し、XDRまたはスラム/シマノのフリー仕様をラインナップ。カンパニョーロは別売りでフリーボディが用意される。

スポークはストレートプルからベンドタイプに変更スポークはストレートプルからベンドタイプに変更 photo:So.Isobeディスクローターはセンターロックを採用ディスクローターはセンターロックを採用 photo:So.Isobe


これら大幅な進化を遂げながらも、価格はフロントが114,100円(税抜)、リアが120,000円(税抜)と、先代から大幅なプライスダウンを果たしたことも注目ポイントだ。また、2021年モデルから生涯保証が適応され、事故や落車等で破損した場合でも同等製品への交換保証が受けられるようになっている。

ジップ 303 Firecrest Tubeless Disc スペック

ジップ 303 Firecrest Tubeless Discジップ 303 Firecrest Tubeless Disc photo:Makoto.AYANO
ホイールサイズ700c
リム材質カーボン
適合タイヤチューブレス
ブレーキタイプディスク(センターロック)
ホイールセット重量1,355g
リム内幅25mm
スポークSapim CX-SPRINT
スポーク本数24
ハブボディタイプSRAM XDR、SRAM/SHIMANO ROAD
アクスルタイプ前TA/12×100mm、後TA/12×142mm
税抜価格フロント:114,100円、リア:120,000円




次頁では303 Firecrest Tubeless Discのインプレッションを紹介する。
提供:インターマックス 制作:シクロワイアード編集部