筆者はブランドキャンプでカステリのブランドマネージャーを務めるスティーブ・スミス氏にインタビューを行なった。チームイネオスと共に作り上げたRoSコレクションについて、Gabbaが担ってきたものについて、カステリが考えるウェアの理想像や、日本市場も見据えた東京五輪用夏用ジャージのヒントについても聞いた。

ブランドマネージャーに聞く、新しいRoSコレクション、そしてカステリのこと

インタビューに応じてくれたスティーブ・スミス氏。カステリの欧州ブランドマネージャーを務めるインタビューに応じてくれたスティーブ・スミス氏。カステリの欧州ブランドマネージャーを務める photo:So.Isobe
今回話を聞いたのは、発表会でプレゼンターを務めたスティーブ・スミス氏。欧州ブランドマネージャーとしてカステリのブランディングから現場での製品開発も担う看板役。Gabbaはもちろん、ポケット付きのワンピースジャージ「エアロレースジャージ」などを手がけ、レースジャージの常識を変えてきた。

まずは今回刷新された新しいRoSコレクションについて聞いてみた。いかにしてチームイネオスと共同開発を行なったのか、選手たちから出た意見や、そして目指したものとは?

― 今回はご招待ありがとうございます。雨こそ降りませんでしたが、2日間のライドで新しいRoSコレクションの"Shine(晴れでも使える)"を実感できました。レインジャージの歴史を変えた製品だけに、改良も難しかったのでは?

「新しいRoSコレクションはこれまでの10年で最も進化している」「新しいRoSコレクションはこれまでの10年で最も進化している」 photo:So.Isobeそうですね。第1世代のマイナーチェンジ版である第2、第3世代のGabbaとは異なり、第4世代は全てをアップデートすべく、全く新しくゼロからの開発を行いましたから。試作第1号が形になるまで、コンセプト決めから素材やフィッティングの検証など長く時間を費やしました。

あちこちのブランドがGabbaに似たレインジャージを作っていますが、客観的に、まだGabbaを上回る製品はありません。それだけにチームからの改善要求が無く、コンセプト決めも難しいものでした。贅沢な悩みですね(笑)。

新しいRoSコレクションに対する改善点は大きく3つ。まず防水性を強化すること、次にPERFETTO RoS LIGHTはポケットに収納できるようにコンパクト化すること、そして最後に快適性を高めること。これはカステリにとって初めてのアプローチですが、抜本的に性能改善を行うために、素材サプライヤー各社の数多ある生地をほぼ全てテストしました。

これらの中から3種類の生地を選び、それぞれ2着、合計6着の試作ウェアをチームスカイに渡し、ブラインドテストを行いました。テストではアップダウンのある周回コースを使い、1周することにジャケットを着替え、合計3周する工程を多くの選手に行ってもらいました。それも、厳密にそれぞれの試作品をどう感じるか見極めたかったので同日に。例えば透湿性能は外界の湿度によって大きく変わります。最終的に素材を決めるまでおよそ2年半ほどでしょうか。この工程に最も時間を費やしました。

厳しいコンディションに見舞われた今年の世界選手権。多くの選手がGabba/Perfettoを使用しているのが分かる厳しいコンディションに見舞われた今年の世界選手権。多くの選手がGabba/Perfettoを使用しているのが分かる photo:CorVos
実際にほぼ完成版に近い製品を届けたのが昨年の11月。モナコで行われたチームキャンプに赴き、とても良い評価を得ました。寒さに強いクウィアトコウスキーからは「新しいPERFETTO RoS LONG SLEEVEは僕にはちょっと暑すぎる」と意見が出ましたが、ほとんどのメンバーにとっては先代よりもずっと良いと言ってもらえました。今年は春先も暖かい日が続いたので、レースでも練習でもGabbaではなく、Perfettoが人気だったようですね。

ともかく、GabbaとPerfettoを主軸にする新しいRoSコレクションは私たちの自信作です。これからの10年を見据えたラインナップに仕上がりました。

― カステリは数あるサイクリングアパレルブランドの中でも特にプロチームと密接に関わっている印象があります。

プロと深い関係を築き、そのフィードバックを活かす方針は古くから変わっていません。実際に1950年代から90年代まで、カステリは同時に10ものプロチームへウェア供給を行っていたことがありました。特に先代のマウリツィオ・カステリは非常にプロチームとの関わりに熱心で、例えばジロ・デ・イタリアには毎年新しいスポーツカーを準備して3週間追いかけつつ、選手たちとコミュニケーションを取っていました。グランツアーの最初と最後では選手たちのウェアに対する考えも変わるので、それを全て情報収拾しようとしていたのです。

大雪に見舞われた2013年のミラノ〜サンレモ。多くのチームがこぞってGabbaを着用した大雪に見舞われた2013年のミラノ〜サンレモ。多くのチームがこぞってGabbaを着用した (c)CorVos
そうした中でプロからの信頼性は増し、サポート外のチームからも、特に性能に差が出る冬用ウェアのサポートを請われるようになったのです。例えば1995年のミラノ〜サンレモ開催前には合計20チームがカステリ本社にやってきて、ジャケットを手渡したこともありました(笑)。

マウリツィオが1995年に亡くなった後、会社は方針強化を行いました。より高機能で、レースに特化したラインナップを作り、他社の追随を許さない高性能ウェアを網羅しようとしたのです。サイクリングアパレル界のパタゴニアになろうとしました。

ちなみに、誰も知らないカステリの歴史の一つが、1930年代に強豪サッカークラブのユベントスとACミランにウェア供給を行っていたこと。1970年台にもイタリアナショナルサッカーチームにウェア供給していたこともありました。かつてのツール・ド・フランスでライバル同士だったコッピとバルタリがボトルを受け渡している有名な写真がありますが、その二人が着用していたのはどちらも我々のウェアです。

― 今回は秋冬コレクションの発表会でしたが、春夏ウェアのアップデートはいかがでしょう。特に来年は暑さとの戦いでもある東京五輪が控えています。

2016年にドーハで開催された世界選手権には冷却効果を高めた特殊なジャージを投入した2016年にドーハで開催された世界選手権には冷却効果を高めた特殊なジャージを投入した photo:Kei Tsuji
常に夏用、冬用といくつものプロジェクトを同時進行で進めています。同じく高温で、しかし乾燥した気候の中で開催されたドーハの世界選手権では冷却が鍵でした。そこで生地にシリコン系の特殊な素材を使い、通常の400倍も水分を保持させることで、気化熱を利用して身体を冷やすジャージを作りました。東京オリンピックでも似たようなアイディアが必要になってきますが、とにかく獲得標高が厳しい山岳コースと聞いているので、ジャージをあまり重たくしたくない。

現在我々はインドアサイクリング用のジャージをラインナップしていですが、これが大きなヒントになります。走行風がないローラートレーニングではとにかく汗を排出することが鍵で、夏用ベースレイヤーと同じ、UPF指数60を誇る通気性に優れた生地を使っているので、例えば37℃、38℃と極めて高温な状況下でも大きな武器になるでしょう。ただしこのジャージはインドア用なので、カッティングやポケットの作りなどが外向きではありません。このあたりを改善することがヒントですね。

インドア用のメッシュジャージ。新しい夏用ウェアはこのジャージがヒントになるというインドア用のメッシュジャージ。新しい夏用ウェアはこのジャージがヒントになるという photo:So.Isobe
実際に開発中のものについて触れることはできませんが、こうしたアイディアが製品となっていきます。そう遠くないうちに東京五輪を踏まえた高温多湿用のジャージがリリースされるでしょうから、日本のユーザーには良い選択肢になるはずです。

― カステリにとって、良いサイクリングジャージとは?

最も重要なのはフィッティング。そしてもう一つ、全ての製品に関して我々が取り組んでいるのがジャージ内側の湿度をできる限りドライに保つ能力です。我々を真似たコピー製品の多くはライクラとして知られるポリウレタン弾性繊維を使いますが、これは通気性が悪く、肌と接する部分に水分を多く貯めてしまう。蒸れによる不快感は誰もが嫌うものですし、運動強度も落としてしまう。これが我々が安価なポリウレタン生地を使わない理由です。そして、最後には使いやすいウェアであること。例えばジッパーは全て我々がベストだと信じているYKK製で統一するなど、徹底的にこだわっています。そのこだわりゆえにラインナップが膨らみ、分かりにくいという意見もいただいてしまいますが(笑)。

― 最たるこだわりはフィッティングとおっしゃいましたが、例えば日本人とヨーロッパ人では体格が異なります。それも考慮しているのでしょうか?

もちろん、と言いたいところですが、ここにはまだまだ多くの改善点があると捉えています。平均的に腕や脚、胴部分の長さが異なりますが、逆にいうと差はそれだけで、縦方向以外の寸法は基本的に同じ。現状日本市場からも良い評価を得ていますが、最近は日本在住のスタッフをカステリに招き入れたので、よりフィードバックを吸い上げやすい体制が整いました。特定の市場だけに特別な寸法のジャージを作るのはなかなか難しいのですが、世界的に見ても日本は大切なマーケット。努力していくべき部分です。

― 現在カステリとスポーツフルは同じ会社の別ブランドですが、その住み分けは?

もともとスポーツフルはスキーウェア用品として発足したブランドで、カステリよりもライフスタイル寄りの「遊び」や「楽しみ」「スタイル」というキーワードを元にしたブランディングを行なっています。カステリよりも広い層をターゲットにしていることが違いですが、あちらもマペイやサクソバンク、現ボーラ・ハンスグローエなどトップチームに供給してきた実績があり、性能面も全くひけをとりません。いつでもジョークやパフォーマンスで人々を魅了し、しかもトップクラスの実力を兼ね備えるペテル・サガン(スロバキア)と強いパートナーシップを組んでいるのは、彼とブランドのイメージがぴったりと重なるからです。

「最良を追い求めるチームイネオスとカステリのブランドイメージは完全に一致。パーフェクトなパートナーシップだ」「最良を追い求めるチームイネオスとカステリのブランドイメージは完全に一致。パーフェクトなパートナーシップだ」 photo:CorVos
チームイネオスはそのストイックさから時々「悪の軍団」のように捉えられますが(笑)、結果を第一にしているからそう見えるだけであって、選手やスタッフは全員ロードレースが、そして自転車が大好きな人ばかりです。機能性を最重要視する我々カステリもそのイメージにピタリと重なるため、最良のパートナーシップだと考えています。

― お付き合いありがとうございました。最後に、日本のサイクリストに向けてメッセージをお願いします。

今、サイクリングジャージブランドは世界中にたくさんあります。例えば暖かい日にリラックスして走りたい時にはデザインセンスにあふれた新しいブランドのジャージに袖を通すのも良いでしょう。でも、例えば気温2℃の時、150km以上走る時、高い峠を超えて行く時、雨の時。こんな時にもっとも味方になってくれるのは、ひたむきに性能を追い求める我々カステリの製品です。

特にRoSコレクションがモデルチェンジしたことで、我々の秋冬モデルは従来以上に幅広い場面、気温で使いやすく生まれ変わりました。一つのジャージが、今までよりも少し暑い気温でも、寒い気温にも対応するようになったのです。我々は、我々の製品に大きな自信を持っています。難しいPRは必要ではありません。ただお伝えしたいのは「Wear our jersey,and go out(カステリのジャージでライドしてみて下さい)」。そうすれば、自ずとカステリ製品の良さを理解してもらえるはずです。

スティーブ・スミス氏プロフィール

発表会でプレゼンターを務めたスティーブ・スミス氏発表会でプレゼンターを務めたスティーブ・スミス氏 (c)Castelliアメリカ、オレゴン州ポートランド出身。子供の頃からサイクリングに親しみ、ポートランドに本拠地を置くナイキに入社。サイクリングシューズやサンダルのプロダクトマネージャーとして同社で10年間を過ごし、得意のイタリア語を活かしてカステリに加入した。

現在は欧州ブランドマネージャーとしてカステリの看板役を務め、「最高のウェアを作るにはプロ選手の意見に耳を傾けることが大切」とチームとの関係性を最重視する。Gabbaはもちろん、ポケット付きのワンピースジャージ「エアロレースジャージ」などを手がけ、レースジャージの常識を変えてきた人物だ。

text:So.Isobe 提供:インターマックス