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イタリアのプレスキャンプで試乗した新型Domaneのインプレッション。アップダウン込みのオン/オフロードで試した究極のエンデュランスバイクの詳細をレポートしたい。キャンプに出席したエドワード・トゥーンス(トレック・セガフレード)に聞いたバイクの印象もお届け。

舗装路で、グラベルで、Domane SLRを乗り倒す

ずらり勢揃いしたDomane SLR。全てプロジェクトワンのICONペイントが施されていたずらり勢揃いしたDomane SLR。全てプロジェクトワンのICONペイントが施されていた photo:So.Isobeゲスト参加したトレック・セガフレードのエドワード・トゥーンス(ベルギー)と女子チームのアビゲイル・ファントウィスク(イギリス)ゲスト参加したトレック・セガフレードのエドワード・トゥーンス(ベルギー)と女子チームのアビゲイル・ファントウィスク(イギリス) photo:So.Isobe

今回のプレゼンテーションの拠点となったのは、ヴェネツィア空港からクルマで1時間ほど南西に走ったスパリゾート「ガルツィニャーノ・テルメ」。ヴェネト州と言えば平野で有名(周辺をジロ・デ・イタリアが通過する際はだいたいスプリントで決着する)だが、ここガルツィニャーノは低いながらも急峻な山々が続き、それゆえ地元サイクリストが多く集まる場所。つづら折れの峠道や、山中に伸びるシングルトラックで思う存分にニューモデルを試すことができた。

Domaneのグループライドは、午前中には50kmのロードライドに、午後にはホイールを履き替えてグラベルライドに出かけるというDomaneの万能性を存分に堪能するためのプラン。ゲスト参加したトレック・セガフレードのエドワード・トゥーンス(ベルギー)と女子チームのアビゲイル・ファントウィスク(イギリス)も一緒だ。

大理石のような特殊ペイントを施したMolten Marbleカラー大理石のような特殊ペイントを施したMolten Marbleカラー photo:So.Isobe私の試乗バイクはこのカラー(色味補正なし)。目にも眩しい私の試乗バイクはこのカラー(色味補正なし)。目にも眩しい photo:So.Isobe

集団内で走る筆者。エンデュランスフィットのため若干ハンドルが高い集団内で走る筆者。エンデュランスフィットのため若干ハンドルが高い (c)TREK
今回のテストバイクは全てプロジェクトワンの"ICON"ペイントが施され、スラムのRED eTap AXSで組み上げられたSLR。足回りはロードライド用がボントレガーのAeolus XXX 4ホイールにR4 Classicタイヤ(28c)、グラベルライド用にはAeolus Pro 3V TLRホイールにR3タイヤ(32c)をセット。エアロシェイプのフレームに、カーボンディープリムホイールを装備したルックスはかなり戦闘的だ。総勢25名ほどのジャーナリストがはやる心を抑えつつペダルを踏み出した。

軽快で、余裕のあるDomaneらしい、それでいて進化した走り

小高い丘に登る直登区間を行く小高い丘に登る直登区間を行く (c)TREK
Domane SLRのフレーム重量は1,335g。複雑なトップチューブIsoSpeedやダウンチューブストレージを採用した結果、先代Domaneや見た目にボリュームのあるMadone SLRよりも200g重い。正直に言えばその数字に疑問を持ったが、実際に走りだすと、一定ペースでアップダウンをクルージング(平坦で40km/hほどのペース)している限り、走りの重さは一切感じない。むしろ、(普段自分が使うよりも太い)28cタイヤということを踏まえれば十二分に軽いと言える。

スプリント的に踏んだ時の瞬発力はMadoneの方が上だ。しかし、踏み込んだ時のフィーリングはMadoneともEmondaとも違い、ダウンチューブからBBにかけて力が凝縮されているような、フレーム下側からバイクを支えている感覚がかなり強い。ヘッド周りもIsoSpeedが投入されていることを忘れるほどにはがちっと硬く、それゆえダンシングも軽快。トレックらしい走りのスムーズさは新型Domaneにも共通しており、さすがに10%を超えるような勾配では重さを感じるが、おそらく(作り手の意図とは違うだろうが)25、あるいは26cタイヤならばもっと走りの軽さを演出できるはずだ。

DomaneをDomaneたらしめるIsoSpeedは、前章で紹介した通り、調整スライダーを備えるトップチューブ式にアップデートされた。その効果は言わずもがな「最高」の一言だ。道路際のアスファルトがひび割れている場所に突っ込んでも、あるいは石が転がるバンピーなグラベルでも、大きく弾かれることなく衝撃をいなしてしまう。今回はDomaneが生まれるきっかけとなった、パリ〜ルーベのような極荒れ石畳は登場しなかったが、きっとその場合にメリットは最大化されるのだろう。フロントIsoSpeedや新型ハンドルの効果も高いと感じる。

ライド中にIsoSpeedを調整してもらった。個人的な好みは最もソフトな設定から少しだけ戻したセッティングライド中にIsoSpeedを調整してもらった。個人的な好みは最もソフトな設定から少しだけ戻したセッティング photo:So.Isobe全試乗車のダウンチューブストレージにはHARIBO全試乗車のダウンチューブストレージにはHARIBO photo:So.Isobe

ハンドリングは直進安定重視。54以上にはH1.5フィットが用意されるハンドリングは直進安定重視。54以上にはH1.5フィットが用意される (c)TREK
そして、そういった分かりやすい場面だけではなく、IsoSpeedは普段気にも留めないような路面のうねり、あるいは細かい凹凸に対しても大きな役割を担っていると思う。例えば、普通のロードバイクなら無意識で行なっている(はずの)僅かな体重移動や、衝撃へのいなしがDomaneやMadoneには必要なく、ただサドルにどっかと体重を預け、ペダリングするだけでスーッと走ってしまう。その差はおそらく2台を乗り比べなければ分からないが、距離を走るほど、あるいは獲得標高を積み重ねるほどに体力の残り具合は変わってくる。このあたりは既にIsoSpeed搭載バイクに乗っている方ならお分かりだろう。

ライドの休憩中には何度かIsoSpeedのスライダーを調整してもらったが、個人的には最もソフトな設定から少しだけ戻したセッティングが好みだった。路面の細かい凹凸をほとんど打ち消しつつ、それでいてサドルが動きすぎないように設定すると、快適性とリジッドな乗り味を両立できた。それぞれの好みでフレームの硬さを設定できるだなんて、この面白みは今Domane SLR、Madone SLR、そしてMadone SL(2020年モデル)と世界で3モデルでしか味わえない貴重なものだ。

午後からはグラベルライドに出かけた。比較的路面が整ったハイスピードライドだ午後からはグラベルライドに出かけた。比較的路面が整ったハイスピードライドだ photo:So.Isobe
唯一の残念ポイントは、アグレッシブなポジションを可能とする「H1.5フィット」ジオメトリーが54サイズ以上での設定となってしまうこと。身長176cmの筆者は52でも54でも乗れるが、54であってもトップチューブ長が短く、いまひとつ下りを攻めきれなかった。同行してくれたトレック・セガフレードの女子選手は52もしくは50サイズのH1.5フィットと見受けられたので、一般発売にぜひ期待したいところだ。

とは言いつつも、Domaneの本懐はエンデュランスロードだ。そもそもH1.5を望む声はプロのクラシックハンターを除けば少数派だろうし、Domaneのエンデュランスフィットは非レース派(もしくはレースのように走らない人)に対しては大きな味方となる。 長いホイールベースと大きくとられたBBドロップがもたらす地面を掴むような安定感と直進安定性は、距離を重ねれば重ねるほど、体力が削がれれば削がれるほどに大きな効果を持つ。ハイスピードでグラベルを下ったときも、IsoSpeedとの相乗効果によって怖さはほとんど感じなかった。

もしかすると、新型Domaneは最も未来に近いエンデュランスロードバイクなのかもしれない。例えば軽さと空力など、従来相反していた要素を兼ね備えるバイクが続々と登場している中、Domaneはトレックらしい、Domaneらしい滑るような走りはそのままに、エアロを身につけ、更にはグラベルロードという別領域にまで踏み入れてしまったのだから。2020年のエンデュランスロード最注目機であることは間違いないだろう。

トレック・セガフレードの選手から見る新型Domane SLR

「新型Domaneはすごく気に入った。早くパヴェで試したい」と言うエドワード・トゥーンス(ベルギー、トレック・セガフレード)「新型Domaneはすごく気に入った。早くパヴェで試したい」と言うエドワード・トゥーンス(ベルギー、トレック・セガフレード) photo:So.Isobe
来季、トレック・セガフレードの選手たちは新型のDomane SLRを駆りパリ〜ルーベを走ることとなる。今回テストライドに同行してくれたエドワード・トゥーンス(ベルギー、トレック・セガフレード)はDomaneについて「もともとDomaneに乗ってパリ〜ルーベでトップ10(2017年の8位)に入ったことがあるので、バイクに対してはすごく良いイメージを持っているよ」と言う。「大多数の選手はMadoneやEmondaを選ぶし、僕も普通のレースではアグレッシブに走りたいのでMadoneを選ぶ。でもルーベは僕の大好きなレースだし、そこでのDomaneの走りはマーケット内でベストだと思う。大好きなバイクさ」。

テストライド終了後、一目散にチームのトレーニングキャンプに向けて会場を離れたトゥーンス。その出発前の僅かな時間を割いて「すごく気に入った」と言う新型Domaneについてのインタビューに応じてくれた。トゥーンスは続ける。

メディア陣のライドに同行するエドワード・トゥーンス(ベルギー、トレック・セガフレード)メディア陣のライドに同行するエドワード・トゥーンス(ベルギー、トレック・セガフレード) (c)TREK
「エアロ効果が高いのでアップダウンコースで先代よりもずっと"流れる"感じが強いね。Madoneにも近くなったと感じたよ。今日はそこまで荒れた路面はなかったけれど、デフォルトの設定(真ん中よりも硬め)でスムーズな路面を走った時ですら先代よりも乗り心地が良くなったように思うし、不要なサドルの動きは明らかに無くなった。まだ自分の新型Domaneは受け取っていないけれど、早く自分の家の周りのパヴェで試してみたい。見た目が前よりカッコ良くなったのも良いね」。

エアロロードのMadone、軽量モデルのEmonda、そしてDomaneと3本柱が揃うトレック。その中で気になるのが乗り分け方だ。従来Domaneはパリ〜ルーベやストラーデ・ビアンケなど極一部のレースでしか使われてこなかったが、トゥーンスは「よりDomaneを選ぶ回数は増えると思う」と話す。

「空力が改善されたのでDomaneを使うレースは増えると思う」「空力が改善されたのでDomaneを使うレースは増えると思う」 (c)TREK
「今までよりもずっと乗り心地が良くなって、それでいてエアロだからフランドルクラシックではDomaneを使う機会が増えると思う。選択肢が増えるのは良いことだ。Madoneと比較するとDomaneはスプリント用バイクではない。でもそれを除けば完璧なオールラウンドバイクに進化したと思う」

「あと、今回のテストでハンドリングの良さも気に入ったんだ。前回のパリ〜ルーベから時間が経っているので先代Domaneとの違いは厳密には言えないけれど、空力が良くなって巡航速度が上がる分、ハンドリングの優秀さは誰にとっても味方になってくれるはずだ」。

「パリ〜ルーベは僕が最も愛するレースで、2年前に8位に入った時に”全てが噛み合えば、もっとこのレースで結果を残せる”と自信を持ったよ。そして僕は今、今までより進化したマシンを手にしたんだ。まだ来年の契約については正式に決まってはいないけれど、更新に向けて話している段階なのでこのDomaneで走れると思う。ニューバイクでモチベーションを上げて、成績を出せるように頑張るよ」。

エドワード・トゥーンス プロフィール

photo:Brian Hodes / VeloImages1991年生まれ、ベルギーはヘント出身のクラシックハンター。地元のトップスポート・フラーンデレンを経て2016年にトレック・セガフレードでワールドツアーデビューを果たす。

パリ〜ルーベ好きを公言しており、2017年大会ではDomane SLRを駆りキャリアハイライトの一つでもある8位入賞。持ち前のスプリント力でワールドツアーレースの集団スプリントを制した経験も持つ。2018年にサンウェブ加入、2019年は再びトレックに戻った。フランドルクラシック制覇を夢見る一人。


提供:トレック・ジャパン text&photo:So.Isobe