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ウィリエールのZero SLRを現地インプレッション。Zeroシリーズの新世代機は、ダンシングを得意とするクライマーバイクらしい俊敏な走りが最大の特徴だ。プレゼンに同席したリリアン・カルメジャーヌ(フランス、トタル・ディレクトエネルジー)のコメントと併せて紹介します。

個性的で軽やかな、ピュアクライマーのための走り

「なんと軽やかなバイクであることか」

雨の1級山岳モンテ・グラッパを登りながら、私こと磯部はそう思った。外見こそ現在の軽量オールラウンダーのトレンドに等しいが、その走りはかなり個性的。Zero SLRはまさしくピュアクライマーのためのバイクだ。

バイクのセッティングを進めるカルメジャーヌバイクのセッティングを進めるカルメジャーヌ (c)Wilier Triestina/Pocis Pix.新車に笑顔のテルプストラ。まさかのライド途中離脱だったためインタビューならず新車に笑顔のテルプストラ。まさかのライド途中離脱だったためインタビューならず (c)Wilier Triestina/Pocis Pix.

20名以上のジャーナリストと本社スタッフ、そしてゲストライダーと共に走り出す。右列3番目が筆者20名以上のジャーナリストと本社スタッフ、そしてゲストライダーと共に走り出す。右列3番目が筆者 (c)Wilier Triestina/Pocis Pix.
ウィリエール本社でプレゼンテーションを受けた我々は、その日のうちにモンテ・グラッパの麓にあるホテルを拠点にグループライドへと繰り出した。初日は周囲のアップダウンコースを縫うように走る30〜40km、フリープランの翌日はそれぞれ誘い合ってホテルから2分でアクセスできるモンテ・グラッパを登ることにした。初日のライドはゲストとして招かれたリリアン・カルメジャーヌ(フランス)とニキ・テルプストラ(オランダ)も一緒だ。

テストバイクのスペックを記しておこう。コンポーネントはシマノR9170系DURA-ACEで、足回りはウィリエールが独自開発した38mmリムの完組チューブラーホイールとヴィットリアのCORSA(28c)。細身のフレームと、同じく細身のINTEGRATED ZEROハンドルの組み合わせは、軽さを追い求めてきたZeroシリーズの新世代機としてふさわしいものだ。

Zero SLRの走りを一言で表すなら「俊敏」。その走りはかなり特徴的だZero SLRの走りを一言で表すなら「俊敏」。その走りはかなり特徴的だ (c)Wilier Triestina/Pocis Pix.
このバイクを一言で表すのであれば「俊敏」という言葉になるだろう。高剛性で豪脚に対峙するエアロロードとは異なり、Zero SLRは直近のレーシングバイクとしては珍しく、しなりを伴って加速するタイプだ。

それゆえ非常にペダリングしやすく、例えば、ウィリエールが隣町のライバルとして対抗心を燃やすピナレロの、DOGMA F12よりもずっと脚当たりの柔らかさは上。後に開発者に聞いたところ、これは新たにフレーム素材に採用された液晶ポリマーの素材特性(高弾性による衝撃吸収)によるものだという。BB周辺のしなやかさがペダル上の足を前へ、前へと進めてくれる。

もちろんブレに繋がるような剛性感の無さではなく、ライド中にディレクトエネルジーの山岳エースを務めるカルメジャーヌに聞くと「特にヘッド周辺の剛性が高まったので、アタックに対する反応が良くなった(詳しいインタビューは記事下部を参照)」と満足げ。ひと昔前の軽量カーボンフレームとは進み方も、完成度も違う。Zero SLRは実にモダンな軽量レースバイクだ。

名もなき山岳ポイントにペイントされていたノースウェーブロゴ。同社の本拠地はすぐ近くにある名もなき山岳ポイントにペイントされていたノースウェーブロゴ。同社の本拠地はすぐ近くにある photo:So.Isobeアーゾロの街中で記念撮影なぞを行うアーゾロの街中で記念撮影なぞを行う (c)Wilier Triestina/Pocis Pix.

2日目はモンテ・グラッパを登って下ることにした。ハンドリングはかなり機敏だ2日目はモンテ・グラッパを登って下ることにした。ハンドリングはかなり機敏だ photo:Kitto Kitamura
ハンドリングは非常に機敏で、安定したバイクが好みであれば「ちょっと落ち着きがない」と感じてしまう程度には軽い。装着されていたカーボンホイールの影響もあるだろうが、恐らく自分が試してきたどのバイクよりも下りコーナーでの切れ込みは鋭かったが、逆に登りでは、その鋭さがダンシングの軽やかさに繋がる。ヒラヒラと進み、ここにフレームの質量的な軽さが加わるため、一踏み一踏みに対する反応が素早い。

乗り心地に関しては、試乗車としてはかなり珍しくチューブラータイヤ(それも28c)がセットされていたのでやや曖昧だが、主にシートステーが仕事を担い、フォークやヘッドチューブも突っ張っるのではなく振動をいなしていくタイプ。走りのキャラクター的にもう少し細身のタイヤがベストマッチだろうが、わずか330gのINTEGRATED ZEROハンドルもエアロ一辺倒の一体型ハンドルとは違ってガチガチ感は無い。軽量一体型ハンドルは珍しい存在だけに、もし単品発売されたら(=外出しルーティングに対応したら)人気が出そうな予感。

今回のテストライドに準備されたZero SLR。マットブラックの車体にDURA-ACEとカーボンチューブラーホイールという組み合わせ今回のテストライドに準備されたZero SLR。マットブラックの車体にDURA-ACEとカーボンチューブラーホイールという組み合わせ photo:So.Isobe
休憩中に、目の前のバイクに目線を落としてみる。

細身の直線で構成されたフォルムはいかにもモダンなレースバイクであり、デザインを重視することが多いイタリアブランドの中では稀有な存在だ。シートポストクランプ部分が唯一の残念ポイントだが、「デザインよりも軽さを追求した」とのこと。個人的にはシンプルな見た目を補うためにメタリックブルーやアノダイズド調のレッドを選びたいが、マットブラックで軽さを追求するのも悪くない。Zero SLRはフレーム素材がスチールからアルミ、そしてカーボンへと変遷した時代にいち早く対応した、ウィリエールらしい先進性の表れだ。

ライバルのDOGMA F12が高出力のイタリアンスーパーカーだとしたら、Zero SLRは軽さと運動性能で格上のクルマを追い立てるライトウェイトスポーツカーだ。ルーラーのパワーに耐えない、ということではないにせよ、Zero SLRは軽量ヒルクライマーがダンシングで登坂を攻めるためのバイクだ。

コンセプト通りではあるが、それはもしかすると、かつてウィリエールでラルプ・デュエズ最速記録を打ち立てたパンターニをオマージュした作り...という妄想もあながち間違いではないかもしれない。

以下は、初日のライド後にウィリエール公式ムービー班へのインタビューに答えた私のコメント。喋り慣れていないのがアレですが、ご笑覧頂ければ幸いです。



リリアン・カルメジャーヌにZero SLRの走りを聞く

ライドに向かうリリアン・カルメジャーヌ(フランス、トタル・ディレクトエネルジー)ライドに向かうリリアン・カルメジャーヌ(フランス、トタル・ディレクトエネルジー) photo:So.Isobe
1級山岳レ・ルッスにフィニッシュする2017年のツール・ド・フランス第8ステージ。逃げグループから抜け出し、脚攣りに見舞われながらも劇的な逃げ切り勝利を挙げた選手を記憶している方も少なくないだろう。彼の名はリリアン・カルメジャーヌ(フランス)。トタル・ディレクトエネルジーの山岳エースを務める26歳であり、ニキ・テルプストラ(オランダ)と共に今回の発表会にゲスト参加した一人だ。筆者は1日目のグループライド終了後、現在開催中のツール・ド・フランスでZero SLRを駆る彼に走りの印象を聞いてみた。

「安定性とヘッド剛性が増したことが好印象」

リリアン・カルメジャーヌ(フランス、トタル・ディレクトエネルジー):「安定性とヘッド剛性が増したことが好印象」リリアン・カルメジャーヌ(フランス、トタル・ディレクトエネルジー):「安定性とヘッド剛性が増したことが好印象」 photo:So.Isobe― 今回初めてZero SLRに乗ったと聞きましたが、印象はどうでした?

プロトタイプには数km乗ったことがあったけれど、マイサイズで試したのは今回が初めて。急勾配が含まれたアップダウンコースだったし、グループライドで動きを確かめられたのは良かった。バイクは好印象だったし、早く実戦で使ってみたいよ。公式戦としてはナショナル選手権が最初だと思うけれど、今年は平坦コースなので真価を発揮するのはツール・ド・フランスだろう。

― 開発にあたってウィリエール側に伝えたことはありますか?

多くはないけれど、実際にはある。例えばZero.6は軽いホイールで組めば簡単に6.8kgを下回るほど軽いし、瞬間的に加速してくれるけど、唯一下りでの安定性が足りていなかった。頂上フィニッシュでない限り頂上を越えたら必ずダウンヒルがやってきて、登りで稼いだアドバンテージを維持しなければならない。

Zero SLRはディスクブレーキ化も手伝ってかその部分が改善されていたので嬉しかったね。グランツールでは時として100km/hに達するダウンヒルが登場する。自信を持ってダウンヒルできることはとても大切なんだ。

登り性能はZero.6の時点でかなり良かったし、ヘッド周りの剛性が上がったのでダッシュした時の反応性も上がっていた。フレームの素材の改善はフィーリング的にも良く分かったよ。挙動に慣れているチーム仕様のカーボンホイールとチューブラータイヤを組み合わせたら、もっと感触も良くなるだろう。このバイクと共にツールのステージ優勝を挙げられたら最高さ。

リリアン・カルメジャーヌ プロフィール

リリアン・カルメジャーヌ(フランス、トタル・ディレクトエネルジー)リリアン・カルメジャーヌ(フランス、トタル・ディレクトエネルジー) (c)CorVos1992年生まれのフレンチピュアクライマー。ヴァンデUから2016年にディレクトエネルジーへと加入し、翌2017年のツール・ド・フランス第8ステージでは脚攣りに見舞われながらも1級山岳フィニッシュで後続の猛追を振り切って逃げ切りステージ優勝を挙げた。

トタル・ディレクトエネルジーの山岳エースの座を確立しており、今季は序盤に2勝。ツール・ド・フランスでの2勝目に期待が掛かる。


次章では、Zero SLRの開発を担ったクラウディオ・サロモーニ氏とエンリコ・フリゾン氏、そしてウィリエールCEO、アンドレア・ガスタルデッロ氏へのインタビューを紹介します。

提供:服部産業 text&photo:So.Isobe