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本章では、Zero SLR開発に携わった2人の中心人物と、ウィリエールのCEOを務めるアンドレア・ガスタルデッロ氏のインタビューを紹介。チームから求められていたことや、新世代軽量モデルに込められたメッセージ、そして日本のユーザーに向けたメッセージとは。隅々まで見て回った本社内部の様子もレポート。

開発スタッフインタビュー

話を聞いたクラウディオ・サロモーニ氏(左)とエンリコ・フリゾン氏(右)話を聞いたクラウディオ・サロモーニ氏(左)とエンリコ・フリゾン氏(右) photo:So.Isobe
エンリコ・フリゾン(右、R&Dエンジニア)

大学でエンジニアの専修を終えたばかりのウィリエールの新鋭エンジニア。専門は電子系とカーボンなど複合素材で、社内ではEバイクと各モデルのカーボン積層などを主に担当する。今回のZero SLRでは新規採用されたHUS-MODカーボンや液晶ポリマーを手掛けた。

クラウディオ・サロモーニ(左、プロダクトマネージャー兼エリアセールスマネージャー)

イタリアの自転車業界を渡り歩き、ウィリエールでは長年プロダクトマネージャー兼エリアセールスマネージャーを務める顔役の一人。「エンジニアではない」と言うものの、ほぼ全ての製品に開発段階から関わるためテクノロジー系の知識も豊富。ニックネームは「ウィリエールのリチャード・ギア」。


― 今日はお時間を頂きありがとうございます。まずはZero SLRの開発した理由を教えて下さい。

「Zero SLRはイタリアを代表する軽量バイクであり、世界的にも最も進んだバイク」「Zero SLRはイタリアを代表する軽量バイクであり、世界的にも最も進んだバイク」 photo:So.Isobe従来から我々は超軽量、超エアロ、超コンフォートという3つのロードバイクをラインナップしてきました。軽量カテゴリーに関してはZero.7、Zero.6をリリースし成功を納めてきましたが、ディスクブレーキという部分が抜けていた。これがZero SLRを開発した主だる理由です。

日本のマーケットが比較的コンサバティブであることは承知の上ですが、ミドルグレード以上に対する世界のニーズはディスクブレーキに切り替わりました。

― キーワードである「Nothing will be the same」の本当の意味は?

「初のフルインテグレーテッド軽量バイク」という言葉に尽きますね。例えば現在の最軽量ディスクブレーキロードはトレックのEmondaですが、インターナルルーティングではない。スペシャライズドのTarmacもそうだし、サーヴェロのR5も違います。イタリアンブランドとして見た場合、他にここまで軽いバイクがあるでしょうか? ピナレロにも無いし、ビアンキにもコルナゴにも無い。Zero SLRはイタリアを代表する軽量バイクであり、世界的にも最も進んだバイクと言えます。

― 選手たちの求めることとは何だったのでしょう?

彼らは6.8kgのディスクブレーキバイクを求めていました。今日リムブレーキで6.8kgに達するのは簡単ですが、例えば雨の超級山岳の下りでカーボンリムを使うのは、ディスクブレーキが登場している今現在においてはナンセンス。ただし重量は見逃されてきたポイントでした。極限まで身体を追い込む彼らが1kgのハンデを背負って走るなんて考えられません。私は彼らに選択肢を与えたかったのです。6.8kgのリムブレーキバイクと、6.8kgのディスクブレーキバイクをね。

「選手たちには6.8kgのディスクブレーキバイクを渡したかった」「選手たちには6.8kgのディスクブレーキバイクを渡したかった」 (c)Wilier Triestina/Pocis Pix.
今回のテストライドでリリアン(カルメジャーヌ)に「クラウディオ、このバイクはすごく良いよ。登りではZero.6みたいに反応するし、下りでは安定感が高まった」と言われました。嬉しかったですね。ハンドルバー形状もALABALDAより気に入ってくれたようです。

チームとは絶えず意見交換を行っており、例えば彼らがアフリカのレースに参加したり、あるいはチームカーの車内にバイクを置いたりとバイクが高温状態にさらされた場合、ほんの僅かに乗り味が変化するという意見が出たこともあります。確かにプラスチックは高温状態で硬度を失うため、SLRには例え100℃でも状態が変わらないよう徹底的に素材の見直しを行っています。非常に小さなことではありますが、問題点に対しては実直に改善を行うのが我々ウィリエールのスタイルです。

― しなやかなBB周辺の動きは最近の他社ブランドにはあまり感じないもので、驚かされました。

「ウィリエールの強みはノウハウの積み重ねと、積極的に新素材を取り入れる社風」「ウィリエールの強みはノウハウの積み重ねと、積極的に新素材を取り入れる社風」 photo:So.Isobe
そうですね。意図したものであり、そしてそれには新しい素材を投入したことも大きく関わってきます。三菱レイヨンや東レなど日本産の3つのカーボン素材をブレンドしたHUS-MODと、耐衝撃性と振動吸収性に長けた液晶ポリマー。HUS-MODが芯となる剛性を確保し、液晶ポリマーはペダリング時の脚当たりを和らげる効果も持ち合わせています。

カーボンブレンド率などについては企業秘密ですが、それらカーボン素材自体は広く企業向けに市販されているもの。ウィリエールの強みはそれらを効果的に組み合わせる独自のノウハウの積み重ねであり、更に今回の液晶ポリマーのような特殊素材を意欲的に採用することでもあります。同じ素材を使おうとも技術のレベルでその性能を100%引き出すことも、あるいは殺すこともできるのですから。

フレームのデザインや、各フレームサイズ間で乗り味が均一になるよう調整したことも相乗効果を生んでいます。開発段階では液晶ポリマーを加えた場合と使わない場合の2パターンを検証しましたが、明らかに液晶ポリマーをミックスした方が良い結果を得られました。もちろん我々にはCento10NDRがありますが、Zero SLRは長距離を乗るバイクとしても効果を発揮してくれると信じています。

「ふわっと軽いZero SLR」「ふわっと軽いZero SLR」 (c)Wilier Triestina/Pocis Pix.
「性能を追求するために一切妥協しなかった」「性能を追求するために一切妥協しなかった」 photo:So.Isobe― 電動コンポーネントオンリーの理由は?

これも軽量化を突き詰めるため。機械式の場合はインターナル用のケーブル口がフレームに必要で、穴を開けた周囲を強化せねばならず、これが重量増を招きます。軽量バイクにとってのベストは穴を開けないこと。ベストを追い求めるために穴を開けませんでした。加えてハイエンドバイクユーザーの電動コンポ普及率が極めて高いことも機械式を見送った理由です。将来的にミドルグレードのSLRを作るのであれば、当然ある程度の重量増には目をつぶりつつ、機械式コンポを使えるように設計するでしょう。

― シートステーブリッジを残した理由は?

横剛性を維持するため。もちろんディスクブレーキ化しているので取り払った方が見た目はスマートですが、ここにブリッジを残すのは理に適ったデザインです。モノステー的なデザインは剛性の代わりに重量がかさんでしまいますから。隣町にはそういうのが大好きなピナ...某ブランドがありますが、私たちのやり方はそれとは異なります。

― ウィリエールと言えば、これまで美しいフレームデザインが特徴でした。直線基調のシェイプやコンパクトなリアバックなどZero SLRのフォルムは他ブランドと似通っていますが、その意味を教えて下さい。

デザインよりも、シンプルで軽く、剛性があり、そして快適というトータル性能を重視しました。軽量であることが最優先事項であるため、残念ながらフレーム設計上でデザインの余地はありません。もちろん美しいデザインは我が社の特徴ではありますが、ここにデザインを落とし込めばどうしても重量がかさんでしまう。ただしその分、塗装にはこだわりました。レッドやブルーもなるべく軽くなる仕上げですし、近くカラーオーダーシステムにも対応させる予定です。日本からカラーオーダーをできるようにも進めていますよ。

アンドレア・ガスタルデッロ氏(ウィリエールCEO)

「マーケットで最も競争力を兼ね備えた一台」

アンドレア・ガスタルデッロ氏(ウィリエールCEO)アンドレア・ガスタルデッロ氏(ウィリエールCEO) photo:So.Isobe
― Zero SLRの発表おめでとうございます。コンセプトも、走り自体も2020年モデルの中で注目の一台になりそうです。ウィリエールにとってZero SLRが持つ意味を教えて下さい。

Zero SLRとガスタルデッロCEOZero SLRとガスタルデッロCEO photo:So.Isobeありがとう。ようやくラインナップに欠けていたものを埋めることができたので嬉しいですね。我々にとってZero SLRは"新時代の幕開け"。軽量性とパフォーマンス、内装ルーティング、そして乗りやすさを兼ね備えた高い次元で融合させたバイクですから、マーケットの中でも最も競争力を兼ね備えた一台であり、ユーザーのニーズを満たした一台だと自負しています。

日本のマーケットでは軽量バイクが人気ですから、Zero SLRに期待する声も大きくなるでしょう。ディスクブレーキに対して保守的なことも理解していますが、ハイエンドモデルのディスクブレーキが過半数となるのも間近です。「新しいものが良いからディスクブレーキ」なのではなく、「ディスクブレーキが良いからディスクブレーキ」なのです。

個人的にもZero SLRは大好きなバイクです。スムーズで、クライミング中でも非常に軽く快適。荒れた路面でも快適性が損なわれることはありませんでした。ある程度疲れが溜まったとしても、もう100km走れるバイクだと思いますね。通常プロスペックのバイクは一般ユーザーにとって乗りにくいことが常ですが、Zero SLRは違います。

― ありがとうございます。インタビューの最後に、日本のサイクリストやウィリエールを愛する人へのメッセージをお願いします。

まずは日本のユーザーに感謝を。ウィリエールの取り扱いが始まって12年が経とうとしていますが、その中での伸び率を見るに、とても我々のブランドを愛してくれていることが分かります。私自身何度も日本に足を運んでいるので日本が好きですし、いつも暖かく迎えてくれるのでありがたく感じています。

さて、ウィリエールはビッグニュースを用意しています。まだ具体的な名前は明かせませんが、2020年よりワールドツアーに復帰することが決まりました。発表は2020年になってからですが、東京オリンピックの年でもありますし、ウィリエールに乗るトップレーサーが日本を走ることになるでしょう。PR的にも大きなことですし。私自身今から非常に楽しみです。

写真で見る、ウィリエール本社のあれこれ

Zero SLR特集の最後に紹介するのは、隅から隅まで案内してもらった本社内部のフォトギャラリー。今回はR&Dルームや組み付けライン、倉庫、専用スペースが与えられているただ一人のマエストロ(専門的な技術を持つ職人)エリアも見学することができた。スライドショー形式でお楽しみ下さい。
提供:服部産業 text&photo:So.Isobe