2015年のEVO3登場より約4年の歳月を経て、いよいよデビューを果たしたRACE EVO4。前モデルのリリース後から水面下で進められていたEVO4の開発には宇都宮ブリッツェンが深く関与し、プロトタイプを頻繁に使い続けてきたという。今回のページではプロ選手がレースで使用するチューブラーにフォーカスし、阿部嵩之、小野寺玲の両選手が開発時に寄せたコメントなどを含め、EVO4に進化したタイヤを徹底インプレする。

プロトタイプから使い込んだ宇都宮ブリッツェンが語る新型チューブラー

RACE A EVOチューブラー開発を牽引した宇都宮ブリッツェンから阿部嵩之と小野寺玲がインプレに登場RACE A EVOチューブラー開発を牽引した宇都宮ブリッツェンから阿部嵩之と小野寺玲がインプレに登場

選手が求めるものとは、グリップ力について語る

― テクノロジーの面を三上さんに説明していただきました。これからは選手の皆さんにインプレや開発面での話を伺っていきます。まず、ブリッツェンの選手はタイヤにどの様な性能を求めていますか。

小野寺:タイヤは地面との唯一のコンタクトポイントなので、命を預けられる信頼関係をタイヤには求めています。相性の悪いものだとタイヤを履いているという実感を得られないものもあるので、実感を得られるものというのが僕にとっては重要です。具体的にはグリップ力があり、しなやかというポイントです。アベタカさんはどうでしたか?

阿部:僕は結構リクエストを出したほうだと思いますよ。タイヤに求めているのは路面状況や滑り出しのインフォメーションをライダーに伝えられる性能。というのも、極限まで高いグリップ力のタイヤがあったとしても、いつスリップするかわからないと、人間がグリップの限界まで到達することはできないんですよ。結局、限界まで攻められない怖さを残したままだと、使いにくいタイヤとなってしまうこともあるので、僕としてはグリップ力よりも人間との感覚をすり合わせて欲しいと伝えています。

レース現場で鍛えられたパナレーサーのチューブラータイヤ「RACE A EVO4」レース現場で鍛えられたパナレーサーのチューブラータイヤ「RACE A EVO4」 「パンクの回数が減っていますよね」阿部嵩之「パンクの回数が減っていますよね」阿部嵩之


小野寺:グリップが突然抜けるというのは実際に身に覚えがあります。3年前のツール・ド・熊野で、他のチームの選手と同じラインで走っていた時、僕のタイヤだけが急にグリップ力を失い、落車してしまった事がありました。同じくツール・ド・熊野の話になりますが、今年の第3ステージはウェット路面と非常に難しいコンディションで、何度かタイヤを滑らせてしまうことがありましたが、滑り出しが穏やかだったので反応することができ、落車は免れました。

阿部:僕も2回ぐらいは助けられました。EVO4はゴム厚がある割には手で触ってもわかるくらい変形するので、細かい石が露出しているアスファルトでも滑り出しを伝えてきてくれたので、バイクを立て直すことができたんですよ。ゴムのグリップ力自体は僕も怖さを感じるほど限界点は高いので、もう少し滑り出しのインフォメーションを伝えてきても良いとも思う。

小野寺:確かにトレッドパターンが設けられたことでゴムが変形している感覚はありますね。タイヤ全体として柔らかすぎると抵抗になっている気がするし、スプリントのかかりもフニャフニャしてしまうので、あまり好みではないのですが、EVO4の柔らかさ具合は現状満足しています。それにしても今作はEVO3よりも柔らかく作られている気がします。アベタカさんは空気圧を以前より上げているのは、それが理由ですか。

「練習とレースは同じ感覚で攻めたい」小野寺玲「練習とレースは同じ感覚で攻めたい」小野寺玲
阿部:今の空気圧はフロントが7.6気圧、リアが7.8気圧に設定しているね(体重は72kg)。前作で最も低かった頃は6気圧台まで落としていたはずなので、その時と比べると確かに上がってきています。体重の変化も理由の1つではありますが、EVO4では低圧では走れないんですよ。理由は柔らかさもそうですが、グリップ力が驚異的に良いから。

ツアー・オブ・ジャパンの伊豆ステージは路面が綺麗なのでレースが高速で進みます。コンパウンドのグリップ力が良すぎて、ゴムは地面を捉えているけど、コーナーでの圧力にタイヤ自体が耐えられず砕けてしまうんです。グリップ力に負けない空気圧を探っているうちに高圧になっていきました。それほどトレッドのグリップ力は高いレベルにあります。実際に雨の熊野でも落車はしませんでしたしね。正直言ってしまうと、先程言ったようにグリップ力が強いので、その分インフォメーションを伝える性能が加われば最高です。

― グリップ力についてはどのような試験を行っているのでしょうか。

「パナレーサーは選手と緊密にコミュニケーションを取りながら製品開発を進めています」三上勇輝「パナレーサーは選手と緊密にコミュニケーションを取りながら製品開発を進めています」三上勇輝 三上:試験は、キャンバー角で0~45°まで一定の間隔で倒していき、負荷をかけた状態でもタイヤが旋回中の遠心力に対応できているか確認するという内容で行っています。ウェットの状況も再現し、同じ様な試験を実施しています。自転車の旋回では大体30°くらいまでの範囲に収まっていて、45°となるとサイドのラベルが擦り減るほどです。

小野寺:でも、実際の路面でタイヤを滑らせる原因は水だけではないんですよね。流れ出てきた小石などもあると考えると、トレッドパターンは理にかなっているのではないでしょうか。レース序盤は晴れていて、途中から雨が降り出すシチュエーションに直面しても、ドライ用の空気圧セッティングでもタイヤはしっかりとグリップしてくれていましたしね。

「そういえばパンクの回数も減りました」阿部嵩之

阿部:雨の熊野と言えば、レースでパンクすることはありませんでしたね。TOJでも譲さんのサイドカットくらいで、全体としてのパンク回数は減っていますよね。

中里聡史メカニック(宇都宮ブリッツェン):今シーズンのチームはサイドカット以外のパンクをほとんどしていません。釘のようなものを踏んでしまうどうしようもないケースはゼロではありませんが、石粒の食い込みなどでのパンクは非常に減っています。中にはProTiteまで到達してしまっているケースも有りましたが、レース中に空気が抜けるまでに至ってはいません。

2019年のツール・ド・熊野:第3ステージはレインコンディションだったが落車、パンクに見舞われることは無かったという2019年のツール・ド・熊野:第3ステージはレインコンディションだったが落車、パンクに見舞われることは無かったという photo:Satoru Kato
小野寺:前作は雨でのパンクが目立ちましたね。スリックタイヤだったのでトレッド面に小石などが貼りついてしまい、それがパンクの原因となっていたかと思います。それでチームの皆は雨の日は怖さを感じていましたが、新型になってからはパンクが少なくなり、有り難いです。

阿部:タイヤの状態はメカニックさんが診ている場面が多いのですが、僕がレース後にざっと見た範囲だと刺さり傷やカット傷が少ない傾向は新型のコンパウンドが採用されたプロトタイプからでしたね。それが今製品化されていると聞いています。

ただ以前のグリップ力が伝わりやすいコンパウンドを好んでいたユーザーも多かったですよね。僕らとしてはパンクしてしまったら全てが水の泡になってしまうので、選手としては耐パンク性能が高いということは有り難いことです。一般のサイクリストの皆さんは少なくないお金を出して購入されるので、パンクしないタイヤというのは選択肢としては良いと思います。

「中にはProTite Beltまで異物が到達しているケースもありますが、レース中にエア抜けが発生するまでに至ってないです」中里聡史「中にはProTite Beltまで異物が到達しているケースもありますが、レース中にエア抜けが発生するまでに至ってないです」中里聡史
小野寺:話がパンクから変わってしまいますが、新型のトレッドパターンとコンパウンドになってからの乾いた走行感は好印象を受けています。直進時のベタつき感やタイヤから伝わる振動が、トレッド中央のダイヤモンド型のパターンによって薄くなっていて、走行感が軽くなっていると感じています。僕はスリックタイヤの方が好みなのですが、綺麗な路面だけを走るわけではないと考えると、パンクもしにくくなる、滑り出しが伝わる現行モデルは総合的に良いタイヤだと思います。

「練習とレースは同じ感覚で攻めたい」小野寺玲

― EVO3からEVO4への進化で最も大きく影響を与えたのはコンパウンドやトレッドの変更だったのでしょうか。

阿部:いや、形状が最も大きな変化であると感じています。従来のチューブラータイヤは丸型断面を採用していたのですが、普段練習で使用するクリンチャーはRACE C以外は山なり形状のオールコンタクトトレッドシェイプでした。そこに疑問があり、フィードバックとして伝えていたことはありました。

「このタイヤのグリップ力はピカイチ」阿部嵩之「このタイヤのグリップ力はピカイチ」阿部嵩之 「トレッドパターンによって小石が食い込まないので理にかなっていますよね」小野寺玲「トレッドパターンによって小石が食い込まないので理にかなっていますよね」小野寺玲


小野寺:練習での感覚はそのままレースに持っていきたいですからね。練習では攻められていたのに、レースでは同じ感覚で攻められなくなってしまう違和感は確かに生まれていて、そこが軽減されているのは感じています。山が設けられたとは言え、EVO3のクリンチャーよりはなだらかな形状となっているので、コーナリング時の挙動が急に変化するということはありません。

阿部:僕はRACE Cというラウンド形状のタイヤを普段使用しているんですが、山の形状を変えてくれたおかげでチューブラーに乗り換えた時に感覚が変わることはありません。しかも、現在の太めのタイヤでは山なりの形状が与える影響は大きくないとも思います。以前の23Cの場合は「パタパタするなぁ」と、タイヤに少し癖がありましたが、今はもうそれを感じにくくなっていますよ。

EVO4チューブラーを使い全日本選手権タイムトライアル男子エリートに優勝した 増田成幸(宇都宮ブリッツェン)EVO4チューブラーを使い全日本選手権タイムトライアル男子エリートに優勝した 増田成幸(宇都宮ブリッツェン) photo:Makoto.AYANO
三上:練習でも既に太いタイヤのみを使っているんでしょうか。

小野寺:そうです。それには理由があって、レース用のタイヤが既に幅広い物をメインとしており、オールコンタクトシェイプの要望を出したときと同じで、練習とレースで感覚を共有したいからです。今はホイールによっては23Cが装着できなかったり、リムにダメージを与える可能性が大きくなりますしね。

三上:実は23Cから25Cへと拡幅したことにより、今回のチューブラータイヤは10g程度増量してしまっているんですよ。

二人揃ってグリップ力は高いと評価する二人揃ってグリップ力は高いと評価する
阿部:それは聞いてしまうと意識してしまいますね(笑)。知らなければわからないと思います。カタログ値は気にする人もいるからなんとも言えませんが、タイヤは重量だけではなくグリップ力や耐パンク性能など考慮するポイントが他にもあるので、そこは選んでほしいと思います。この性能の状態で10g削れるのであれば、僕ら選手としては有り難いですが、この状態でも十分な重量だと思います。

小野寺:EVO3から変更されるタイミングで、供給されるホイールも同じ様に切替のタイミングだったので、重量増はそれほどシビアに感じません。クリンチャーの場合は種類ごとの違いは感じますが、チューブラーに関しては重量の面で気になることはありませんね。

R-AIRというチューブとは

三上:パナレーサーのチューブラーにはブチルチューブを使用しているのですが、ラテックスチューブの他製品と比べると空気の抜けはどの様に感じますか。

阿部:ラテックスチューブのチューブラータイヤを最後に使ったのは7年ほど前になってしまいます。その時は、スタート前に空気をしっかり入れていたのですが、レース後に触ってみるとなんとなく空気圧が緩くなっているんじゃないかという気がしていましたね。

チューブラーにも使われるR-AIRチューブチューブラーにも使われるR-AIRチューブ 「グリップ力が高いがゆえに、それに合わせた空気圧にセットしている」阿部嵩之「グリップ力が高いがゆえに、それに合わせた空気圧にセットしている」阿部嵩之

中里メカ:ラテックスチューブの場合は確かに抜けると思いますね。他のメカニックが朝の段階で多めの空気を入れていることは間違いないし、他のブランドでも長時間走ることを想定しているモデルはブチルチューブを使っています。パナレーサーの観点でいうと、ブチルではありますが、伸びが半端なく良いR-AIRチューブを使っているので、しなやかさについてはラテックスに敵わないかもしれませんが、他のブチルチューブと比較するとしなやかさは圧倒的に良いと思います。

私はサイクルショップも経営しているので実際にチューブをお客さんに販売しているのですが、お客さんにチューブを引っ張ってもらってしなやかさを各ブランドのものと比較してもらうようにしています。そこでR-AIRの伸縮性の良さに皆さん驚かれるんですよ。それほどチューブにも違いがあるということですよね。

タイヤは30km/hで走行したとすると、1秒間に5周程度回る計算になります。チューブラーとクリンチャーどちらも内部のチューブが潰れた時の変形しやすさと元の形状に戻るスピードの速さが、走行抵抗や走行感、グリップ力に影響を与えています。そういった観点で見てもR-AIRが採用されているRACE A EVO4のチューブラーはその恩恵を受けているはずです。

小野寺:R-AIRを使用したこのチューブラーはエアが抜けにくく、しなやかであると。そのアドバンテージは感じるところですね。僕自身も練習ではR-AIRを入れたクリンチャータイヤを使っているので、チューブ自体の性能が高いレベルにあることを実感していて、一度使ってしまうと他のものには戻れないほどです。僕がクリンチャーでレースを走るならR-AIRを使いたい。

4年間プロトタイプを使い続けた選手はEVO4をどうみるのか

サポートするプロチームと緊密なコミュニケーションを取ることで進化させたパナレーサーのレースタイヤ「RACE EVO」サポートするプロチームと緊密なコミュニケーションを取ることで進化させたパナレーサーのレースタイヤ「RACE EVO」 (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
― EVO3の発売後からプロトタイプを使用し始めたとお伺いしています。その頃の試作品から販売に至ったEVO4を見てどのようなタイヤだと思いますか。

阿部:頻繁にプロトタイプを送っていただいたので、ここ2年ぐらいは試作品を使い続けてきました。僕らの意見を吸い上げてもらって、それに応えようとするものを送ってもらっていましたね。性能が一気に変化することはないのですが、試作品ごとに特徴が少しずつ変化していった印象はありました。今のEVO4はグリップ力がピカイチなタイヤに仕上がっています。

小野寺:僕もそれは感じていました。良くなっていく部分、個人的に良かったと感じていた部分に変更が加えられてしまった部分もありつつ、全体的な性能が向上していきました。今のEVO4はどのシーンでも安心して使うことのできる総合的に強いタイヤだと思います。

― ありがとうございました。

RACE A EVO4(チューブラー)

プロ選手が信頼を寄せる決戦用チューブラータイヤプロ選手が信頼を寄せる決戦用チューブラータイヤ
テクノロジーZSGアドバンスドコンパウンド、プロタイトベルト、オールコンタクトトレッドシェイプ、R-AIRチューブ、ミックストレッドパターン
サイズ25mm、27mm
重量280g(25mm)、290g(27mm)
推奨内圧(kPa)600-900(25mm)、500-800(27mm)
価格9,800円(税抜)
提供:パナレーサー 取材協力:宇都宮ブリッツェン 制作:シクロワイアード編集部