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パナレーサーのフラッグシップロードタイヤ「RACE EVO 4」とは

サポートするプロチームと緊密なコミュニケーションを取ることで進化させたパナレーサーのレースタイヤ「RACE EVO 4」サポートするプロチームと緊密なコミュニケーションを取ることで進化させたパナレーサーのレースタイヤ「RACE EVO 4」 (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
パナレーサーのレーシングタイヤシリーズ「RACE EVO」。RACEシリーズの歴史は名前の通りレースと共にあり、かつてはフランス籍のプロコンチネンタルチームであったソジャサンがツール・ド・フランスに出場した際に採用していたタイヤがパナレーサーであった。世界中のサイクリストの目が集まる場所で、パナレーサーのロゴが輝いたのだ。

現在は国内のトップチームをサポート。宇都宮ブリッツェンとマトリックスパワータグを筆頭とするサポートチームの活躍はご存知のとおりだ。これらのチームからのフィードバックをもとにレースタイヤであるRACE EVOは開発されており、パナレーサーは選手たちと密にコミュニケーションを取ることでレースの現場で求められる性能を突き詰めている。

2013年ツール・ド・フランス。ラルプ・デュエズをこなすソジャサンの選手達2013年ツール・ド・フランス。ラルプ・デュエズをこなすソジャサンの選手達 photo:Makoto.AYANO
マトリックスパワータグもパナレーサーのサポートチームだマトリックスパワータグもパナレーサーのサポートチームだ photo:Satoru Katoチーム創立当時より足元はパナレーサーの那須ブラーゼンチーム創立当時より足元はパナレーサーの那須ブラーゼン photo:Satoru Kato


プロチームと共同で進めた開発は第3世代の登場より4年掛け結実。RACE EVO4として2019年シーズンよりデビューを果たしている。今回の特集では宇都宮ブリッツェンの阿部嵩之選手と小野寺玲選手によるインプレッションをお届けする。EVO3からEVO4に至る過程でフィードバックをパナレーサーにもたらしてきた二人は、新型RACE EVO4にどのような感想を抱いているのか。レースで実際に使用しているチューブラーとチューブレスコンバーチブル、クリンチャーの各タイプの意見を伺った。

まずはRACE EVO4に使用されるテクノロジーをパナレーサーの三上勇輝さんによる解説で紹介していこう。

コンパウンドの変化が大きな決め手となったRACE EVO4

RACEシリーズの性能を引き上げたZSG Advanced COMPOUND

ブリッツェンの選手も交えRACE EVO4のテクノロジー解説を聞くブリッツェンの選手も交えRACE EVO4のテクノロジー解説を聞く
「ゼロ・スリップ・グリップ」という言葉の頭文字を取ったZSGアドバンスドコンパウンド。このZSGというネーミング自体はRACEシリーズが登場した当時から使われているものであるが、コンパウンドそのものは世代ごとに進化の歩みを止めること無く改良が重ねられている。そのため、EVO3からEVO4へと進化しても名前に大きな変化はないものの中身は全く異なるという。

EVO4に使用されるコンパウンドについて、三上さんは次のように語る。「新しいコンパウンドは2017年発売されたGILLARに使用されたものをベースとし、そこから宇都宮ブリッツェンらのフィードバックを受けながら改良を加えた新コンパウンドです」。その結果生み出されたコンパウンドは、クリンチャー(RACE A 25C)で比較して転がり抵抗が10%低減し、グリップ力が20%も向上したという。

「タイヤはゴムの中に補強材を加えて作るのですが、その補強材の粒子を細かいものに変更することで、従来では作ることのできなかったコンパウンドを開発することに成功しました。この技術的なブレークスルーの背景には、パナレーサーのコンパウンド製造に関する設備を新しくしたことにもあります」とも。

パナレーサーからは三上勇輝さんが取材に同行。テクノロジー面を解説してくれたパナレーサーからは三上勇輝さんが取材に同行。テクノロジー面を解説してくれた

パナレーサーは独自の試験機を用いた性能試験を行い、製品開発を進めている。「タイヤの耐久性に関するJIS規格では、走行試験の合格条件が700×25Cなら3,000kmと定められていますが、パナレーサーはより過酷なPIS規格という独自の規格を設けて試験しています」とは三上さん。新型RACE EVO4も例に漏れず、この試験を通過している。三上さんは「乗る人や走行シチュエーションによってタイヤの寿命は大きく変わってきますが、おおよそ3,000km前後をライフタイムと見ていただければ、その間はレースタイヤとしての性能は発揮してくれるでしょう」と言う。

タイヤをパンクから守る「ProTite」

RACE EVOシリーズをパンクから守るのがProTite(プロタイト)だ。特殊なコードをゴムでコーティングした生地であり、突き刺しに対して非常に強い耐性を備えている。タイヤの全幅を覆うもの、トレッド下のみに配されるものなどモデルによってProTiteを使用する量をコントロールしているという。

現在のRACE EVOシリーズに使われる耐パンク素材のProTite現在のRACE EVOシリーズに使われる耐パンク素材のProTite
今回の特集取材では普段見ることが出来ない素材、ProTiteと、比較用にPuncture Resistantそのものを三上さんは持参してくれた。そして三上さんは選手にボールペンを渡し「刺してみてください」と促した時は流石に驚いてしまった。阿部、小野寺両選手がそれぞれのベルトにボールペンを突き立ててみると、一方はいくらペン先を押し付けても貫通すること無く、もう一方は強い力をかけると穴が開けられてしまう結果に。もちろん無傷で済んだのは新たなProTiteだ。

実際に簡易テストを行った二人から「こうやってテストしてみると信頼感が大きくなりますね」と感嘆の声が上がる。「それでもタイヤがパンクする時はしてしまうもの」そう言うプロ2名だが、パンクする時は想像もできない大きな力がタイヤにかかっていることを実感したようだ。そして「タイヤとの信頼関係がなければ、コーナーを攻めることができない」とも。その信頼性の一部を司っているのがProTiteだ。

ProTiteにボールペンを突き刺すという簡易実験がロケの現場で行われたProTiteにボールペンを突き刺すという簡易実験がロケの現場で行われた 実際に使われる素材を手にし、レースや練習で使用しているタイヤの作りを実感する実際に使われる素材を手にし、レースや練習で使用しているタイヤの作りを実感する


ProTiteはPuncture Resistantと素材が異なる上、密度を高めることで耐パンク性能を向上させている。そのためProTiteは、やや硬めの素材となっているが、ベルトの幅やトレッドの厚みを工夫することで乗り心地に影響しないように配慮し開発を進めた。

タイヤの大部分を占めるケーシングとは

ケーシングもパナレーサーで生産しており、ナイロン素材にゴムのコーティングを施したものを使用している。繊維の方向によって伸縮性が異なるため、その点もコントロールしながらケーシングは開発しているという。クリンチャーに使用しているのは120TPI相当だ。

その話を聞いた阿部選手は「少ないと思った」と感想を抱く。320TPIという高い数値を出している他ブランドもあるからだ。それに対し三上さんは「素材によっては糸を細くし、しなやかさと耐久性を調整することができます。トレードオフで失われた部分を補うためにケーシングを何枚か重ねてそのような数値としているケースもあります」と言う。

ケーシングは一定方向には伸び、逆方向へは裂けるように作られているケーシングは一定方向には伸び、逆方向へは裂けるように作られている
TPIは安全性を確保した上で、耐久性や重量、しなやかさなどを考慮し、クリンチャー、チューブラーなど各タイヤ毎に最適な密度を決定する。RACEシリーズで言えばチューブラーは、クリンチャーよりレースでアドバンテージとなるように軽く、しなやかなケーシングを採用しているという。

RACE EVO4で変化したトレッド断面形状「ALL CONTACT TREAD SHAPE」

タイヤの断面を真剣に見つめる阿部嵩之タイヤの断面を真剣に見つめる阿部嵩之
「チューブラータイヤに関しては今作から製法を切り替えている」と三上さんは言う。通常のチューブラータイヤは丸型断面であることが一般的であるが、パナレーサーの新型RACE EVO4では従来のクリンチャーで採用していた山型のトレッド断面を採用。副次的な効果としてタイヤの真円度が向上しているとも。「チューブラータイヤは一つ一つ手作業で作り上げていくため、形が歪になることが一般的です。パナレーサーは製法を変更することで、チューブラータイヤの真円度を向上させることができたのです」。

この山型断面はオールコンタクトトレッドシェイプというもので、クリンチャー(Cを除く)やチューブレスでは従来から使用されていた形状だ。EVO4ではトレッド部頂点の角を落とし、丸みを帯びた形状へとアップデートしていることもポイント。

RACE A(左)とRACE C(右)でタイヤの頂点部分の形状が異なるRACE A(左)とRACE C(右)でタイヤの頂点部分の形状が異なる
前作では、コーナリング中にタイヤの性能を発揮できる作りを狙っていたが、今作では集団内で狙ったラインで走行できない状況や、落下物を避けるなど不意な動きをせざるを得ない場面においてコントロール可能な範囲を広げる方向にチューニングしている。結果としてスリップを発生させてしまうアンコントローラブルな状態に陥りにくくなっており、一般のユーザーでも扱いやすくなっているはずだ。

また、宇都宮ブリッツェンの選手たちからも、トレッドの断面については意見があったようだ。小野寺選手は「(断面形状が異なると)練習とレースでは急に違う感覚でコーナーを攻めることになってしまいます。練習では攻められていたのに、レースで同じ感覚で走れない違和感は生まれていましたね」と言う。

阿部選手も、あくまでたくさんある意見のうちの1つとしてだが、その違和感についてはパナレーサーに伝えていたという。その上で「新型の形状になったプロトタイプからその違和感は少なくなった」という。極限の状態で、性能を最大限引き出すプロ選手からのフィードバックがここでも結実していたのだろう。

チューブラーにも採用されたMIX TREAD PATTERN

チューブラーにはトレッドパターンが設けられることにチューブラーにはトレッドパターンが設けられることに
チューブラーにトレッドパターンが設けられたこともEVO4での進化だ。「本来スリックタイヤのほうがグリップ力や転がり抵抗は良い数値を出すのですが、パターンが設けられていたほうがトレッドに砂が付着しにくいのです」と三上さんは言う。砂を拾ってしまうとパンクのリスクやグリップ力に影響を与えてしまうが、レースコースが綺麗な状態であるとは限らない。あらゆるシチュエーションにおいて性能を発揮させられるように、チューブラーではこのトレッドパターンが採用されている。

また、EVO3ではレース後のタイヤに小傷が目立つというフィードバックも影響している。これはコンパウンドの特性や天候によって左右される話であるが、タイヤ表面に小石などが貼りついてしまうことが原因と考えられ、それらを付着させないためにもトレッドパターンを設けた。現在のタイヤでは刺さり傷やカット傷は少なくなっていると阿部選手は言う。

パナレーサー RACE EVO4ラインアップ

ここまで第4世代に使用されているテクノロジーについて解説してきた。次のページよりチューブラー、チューブレスレディ、クリンチャーの3部構成でプロ選手のインプレをお届けしよう。プロトタイプ試用時のフィードバックの話なども折り込みつつ、新型レースタイヤの実力を紐解きたい。

第4世代へと進化を遂げたパナレーサーのロードレース用タイヤラインアップ第4世代へと進化を遂げたパナレーサーのロードレース用タイヤラインアップ
チューブラー RACE A EVO4 700×25mm 280g 黒/黒 9,800円(税抜)
700×27mm 290g 黒/黒 9,800円(税抜)
チューブレスコンバーチブル RACE A EVO4 TLC 700×25C 210g 黒/黒 6,500円(税抜)
700×28C 240g 黒/黒 6,500円(税抜)
クリンチャー RACE A EVO4 700×23C 200g 黒/黒、黒/青、黒/赤 5,400円(税抜)
700×25C 230g 黒/黒、黒/青、黒/赤 5,400円(税抜)
700×28C 240g 黒/黒 5,400円(税抜)
RACE D EVO4 700×23C 220g 黒/黒、黒/茶 6,000円(税抜)
700×25C 240g 黒/黒、黒/茶 6,000円(税抜)
700×28C 260g 黒/黒、黒/茶 6,000円(税抜)
RACE C EVO4 700×23C 200g 黒/スキン 5,400円(税抜)
700×26C 220g 黒/スキン 5,400円(税抜)
700×28C 230g 黒/スキン 5,400円(税抜)

提供:パナレーサー 取材協力:宇都宮ブリッツェン 制作:シクロワイアード編集部