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スロベニア北部のアルパインリゾート、クラニスカゴーラを拠点に開催されたXTRメディアキャンプからライドインプレッションをお届けする。XCやエンデューロなど用途別にセッティングされたタイプの異なるバイクを3日間に渡って乗り比べるという前例のない本格的なものだった。



地元在住のガイドライダーの案内によりクラニスカゴーラ近郊を走る地元在住のガイドライダーの案内によりクラニスカゴーラ近郊を走る photo:Makoto.AYANO発売前の新型XTR M9100を組み付けて用意されたマウンテンバイクは約40台あまり。XTRメディアキャンプには、世界中から有力メディアのジャーナリスト約15人が招かれていた。拠点となるクラニスカゴーラは、スロベニア、イタリア、そしてオーストリア国境に近いアルパインリゾートで、トレッキング、スキー、そしてマウンテンバイクの一大メッカとなっている「ユリスケアルプス」の小村だ。

3日間のキャンプはワークショップ、午前・午後とライドプログラムが組まれ、タイプの違うMTBを乗り換えつつ、地元MTBプロガイドの案内のもと本格的なライドフィールドで乗り込むことができるという贅沢なもの。有名なソチャ渓谷と周辺の美しい山岳地帯を巡る、まさにMTBを乗り倒して新XTRの性能を体感する3日間となった。ライドを通じてのインプレッションをお届けする。

イタリア、オーストリア国境に近いスロベニアのユリスケアルプスを堪能するライドだイタリア、オーストリア国境に近いスロベニアのユリスケアルプスを堪能するライドだ photo:Irmo Keiser
まず私自身の経験について。XTRは1996年に登場した初代XTR M950から現行M9000まで、主にクロスカントリー用途ながらもほぼすべての世代を使ってきた。M9000シリーズでは2種のMTBを所有し、Di2での1✕(ワンバイ)でもメカニカル仕様のフロントダブルのトレイル用途としても使用している。また、近年台頭著しいスラム社のオフロードコンポ各モデルも使用しており、ここで書くインプレッションのフィーリングについての記述は、それらとの比較になるという前提をまず記しておきたい。フィットネスレベルはマスターズクラスの中〜上級レーサーといったところだから、ホビーサイクリストの平均値として参考にしてほしい。

輝くような鏡面仕上げのチェーンホイール。XTR M9100の美しいフィニッシュは息を呑むほど輝くような鏡面仕上げのチェーンホイール。XTR M9100の美しいフィニッシュは息を呑むほど photo:Irmo Keiser
M9100新XTRのコンポを前にすれば、誰でもまずその仕上げの美しさに目を奪われることになるだろう。エッジ感あるシャープなデザインで、アルマイトやバフ掛けによって鏡面のように仕上げられた表面処理は、ある意味デュラエース以上。傷つき前提のオフロードコンポとしては酷使するのがためらわれるほどだ。

チェーンホイールはダイレクトマウントにより容易にチェンリング交換が可能だチェーンホイールはダイレクトマウントにより容易にチェンリング交換が可能だ photo:Makoto.AYANOロー51Tの状態。45Tの場合はショートケージのディレイラーにより路面クリアランスが大きくできるロー51Tの状態。45Tの場合はショートケージのディレイラーにより路面クリアランスが大きくできる photo:Makoto.AYANO

ペダリングしているときも、クランクの高い剛性感や精度・精密さが、そのルックス通りに伝わってくる。上からクランクを見下ろせば、磨き上げられたクランクが輝きながら歪みなく正確に回っている様子が見える。まるで時計のような精巧さ、シャープさだ。そんなパーツ自体の高い精度を目視しながら体感できるのは不思議な感覚だ。どの世代においてもXTRは特別な存在だったが、M9100はなおさらその感が強い。

ここからの3日間の「乗り倒しインプレ」は、それぞれのパーツごとに記していこう。

軽快なシフトフィール フロントシングルで510%のギアレンジ

まずは新XTRの目玉となる12スピード化と、大きな51Tスプロケットのドライブトレインについて。今回のテスト時にはフロントダブルの製造が遅れていて試せるバイクがなかったため、フロントシングルの1✕12、リアカセット10-51Tで使用した。

乾いたサウンドを発するアルミ製の3枚の大スプロケット。ミドル5枚はチタン、トップ側4枚はスチール製だ乾いたサウンドを発するアルミ製の3枚の大スプロケット。ミドル5枚はチタン、トップ側4枚はスチール製だ photo:Makoto.AYANO
シフター操作によって発生する変速音は静かで、とても軽いクリック感で操作できる。ロー側3枚の大スプロケットはアルミ素材独特の乾いた音がするものの、大ギア側にシフトするときもスムーズ。最大歯数の51Tに変速するときにペダルを踏む力を少し緩めたり、変速レバーを操作するのに「タメ」が必要と思い込んでいたが、それらの配慮をすることなく滑らかに変速する。チェーンをギアに乗せるのに、勢いをつける「押し込み」操作は必要がなく、小ギア側で変速するのとほぼ同じアクション、入力で変速が完了するのだ。

エンデューロorオールマウンテンセッティングのスコットGENIUSエンデューロorオールマウンテンセッティングのスコットGENIUS photo:Irmo Keiser
美しいマウンテンリゾートがXTR M9100のフィールドテストの舞台だ美しいマウンテンリゾートがXTR M9100のフィールドテストの舞台だ photo:Irmo Keiser「カチン、カチン」と硬質でクリック感の強めのレバー操作で、アップもダウンも同じような間隔・感覚でショックが少なく変速していく。M9000と共通した作動感ではあるが、ストロークは短く、軽さを感じる。ペダルを強めに踏み込みながらのシフトでも「ガチッ」というようなショックは無い。変速の際にペダリング力を一瞬緩めるということをしなくても良いのだ。1✕12スピードにおける変速においては不満は全くなし。むしろ今までにないスムーズさを手に入れていると感じた。

「ペダリングしながらでも変速が可能」と製品特徴に謳われているが、わざとペダルを踏む力を強めながらの強引なシフティング操作においてもショックや異音は発生せず、何事もなかったかのようにスムーズに変速するのは驚きだ。3日間のライド中、チェーン外れや切れなどのトラブルも皆無だった。

リア最大51Tにシフトしてのクライミング。1Xでも大抵の急勾配は登れてしまうリア最大51Tにシフトしてのクライミング。1Xでも大抵の急勾配は登れてしまう photo:Makoto.AYANO
1✕12スピード「ワイドレンジ」の10-51T(10-12-14-16-18-21-24-28-33-39-45-51T)で510%のギアレンジとなる。今回のスロベニア山中のライドでは急斜面の勾配のみさらに軽いギアが欲しかった場面があったが、逆に言えばその限られた箇所のみ。レースでなくとも、通常のトレイルライドなら1✕12で満足してしまえるだろうと感じた。ワイドレンジでもロー側3枚におけるピッチ(歯数差)も、大きすぎることはないと感じた。

「軽い負荷で一日中走り続けたい」あるいは「登りで軽いギアが足りない」と感じる急勾配のトレイルに行くならば、フロントチェーンリングを軽い歯数に交換する。あるいはツーリングとレースではチェーンリングを使い分けるなど、1✕(ワンバイ)の場合はカセットスプロケットでなくチェーンリングを交換することによりギアレンジを調整するという発想になる。

XTR M9100搭載のスコットGENIUSで雨のなかテストライドする筆者XTR M9100搭載のスコットGENIUSで雨のなかテストライドする筆者 photo:Irmo Keiser
シャドーデザインにより横方向への張り出し量が少なく、岩へのヒットなどによる破損が少ないシャドーデザインにより横方向への張り出し量が少なく、岩へのヒットなどによる破損が少ない photo:Makoto.AYANOXCセッティングのスコットSPARKXCセッティングのスコットSPARK photo:Irmo Keiser

今回は用意がなかったが、「リズムステップ」と呼ぶ 1×12のリア10-45T(10-12-14-16-18-21-24-28-32-36-40-45T)の組み合わせは、パワーのあるXC上級レーサーのためのものだろう。私も普段から 1✕10SでM9000をDi2で、スプロケットの最大ローギア40Tで使用しているので、1✕による軽量化と引き換えに失うものは身にしみている。つまり、通常のトレイルライドではトップ側とロー側のギア比どちらもが足らないのだ。こうしたギア比はレースでの使用と割り切ることと、急勾配箇所では早々に降りて押したほうが速いということ。しかしもちろん上級レーサーにとっては武器になるギアだ。

リアディレイラーは最大51Tと45Tの場合、あるいはフロントダブルの場合により3タイプから選択する。45Tスプロケットを使用する場合、ディレイラーケージ内側に刻まれた45Tのライン目盛りに歯先が沿うようにすれば良く、アライメントツール要らずとなっている。

軽量の2ピストン、制動力に余裕のある4ピストンから選べるブレーキ

XCセッティングとエンデューロセッティングのMTBを乗り換えつつ走った山岳ライド。エンデューロバイクの場合はガレた岩場に急勾配のダウンヒル、雨のなかのマディなスロープと、ありとあらゆる厳しいコンディションのライド体験ができた。

ロックセクションで、肘を開き、暴れるバイクを抑え込むように「ゴリラポーズ」でコントロールしつつ下るダウンヒル。2ピストンでも4ピストンでも基本は1フィンガー操作だ。XTRのブレーキは2ピストンタイプであっても制動力の立ち上がりが早く、かつパワーに余裕があるので1フィンガーで良いのだ。つい2本指を使ってしまうこともない。

かつてメリダ・マルチバンチームで走ったカローラ・フルーネワルトも開発スタッフ。共に走ったかつてメリダ・マルチバンチームで走ったカローラ・フルーネワルトも開発スタッフ。共に走った photo:Makoto.AYANOシフト&ブレーキレバーはI-SPEC-EV機構によりフィット感を追求できるシフト&ブレーキレバーはI-SPEC-EV機構によりフィット感を追求できる photo:Makoto.AYANO

エンデューロセッティングのキューブSTEREO 日本には入荷していないグラヴィティ系モデルエンデューロセッティングのキューブSTEREO 日本には入荷していないグラヴィティ系モデル
2ピストンに比べて4ピストンタイプは制動力に余裕がある。アルミレバーの剛性も高くカッチリ感があり、パワフルな効きで安心できるものだ。サーボウェーブ機構が付加されることにより、レバーの引きに応じて漸増曲線的にブレーキングパワーが強くなるため、強力なストッピングパワーと同時によりコントローラブルでもある。その効き味と懐の広さに慣れてしまえば、クロスカントリーにおいても4ピストンを選びたくなる。その場合は下りのスピードアップにつながる代わりにレバーとキャリパーのセット(片側)で146gの重量増加というトレードオフとなる。重量の軽さをとるか、ブレーキパフォーマンスをとるか、だ。

レバー取付バンドの位置変更と、シリンダー側にハンドルとの接点を設けるなどの工夫があるI-SPEC-EVにより、シフトレバーとブレーキレバー操作時の力の逃げがなくなり、コクピット周りのレバー操作時の剛性が上がったことでタッチが良くなっている。

コースティング時の内部抵抗を11%減少させることに成功したサイレンスハブ

SYLENCE(サイレンス)テクノロジー搭載ハブは、文字通りペダルの回転を止めたフリーの空転時に音がしないハブだ。プレゼンテーションにおいては「無音」とは表現されず、「ほぼ音がしない」という無難な表現だったが、ライド中に耳をそばだてても、フリーに顔を近づけてホイールを空転させてみても、クラッチが発するような音はまったく聞こえない。

サイレンスハブの無音ぶりは、後方から接近するライダーの距離も把握できるサイレンスハブの無音ぶりは、後方から接近するライダーの距離も把握できる photo:Irmo Keiser
コースティング(ペダルを回す足を止めて滑走する)時にクラッチ音が発生しないと、新鮮な発見がある。タイヤ周りの音がよく聞こえるようになり、グリップに集中できるようになるのだ。タイヤのノブが路面を捉える音が聞こえるようになり、コーナリング中においても路面との摩擦やタイヤが滑りはじめる音を耳が拾えるようになる。また、クラッチ音がしないことがフィーリング的にとても気持ちの良いことだとも感じた。

トレイルライドを楽しんでいるとき、フリーの発する耳障りな金属音が気分を損なっていたことも感じさせてくれた。自然との対話を楽しむMTBライドにおいては、よりフィールドに溶け込んでいくような感じが味わえる。トレイルにお邪魔している感じが少なくなるのだ。また、サイレンスハブの無音ぶりは、後方から接近するライダーの距離も把握できる。もっとも、そのライバルもサイレンスハブを使用していたとすれば、タイヤノイズやチェーンノイズだけが頼りにはなるが。

マイクロスプライン、サイレンステクノロジー採用のリアハブマイクロスプライン、サイレンステクノロジー採用のリアハブ photo:Makoto.AYANO
サイレントハブにより、土の表面とタイヤが接する摩擦音が聞き取れるようになるサイレントハブにより、土の表面とタイヤが接する摩擦音が聞き取れるようになる photo:Irmo Keiser
開発陣に聞けば、サイレンスハブの空転時の回転抵抗値は従来ハブ比で11%減だという。この数字が本当なら、今後あらゆるレースのハブで採用される可能性があるだろう。かつてデュラエースR9100ハブでリリース直前に採用が見送られた機構であり、開発は難しいのだろう。しかしより過酷な使用環境のXTRでトラブルが出なければ、それは安定を意味する。ロードハブにも採用される日は近いだろう。

また、「最大7.6°のクイックエンゲージメント」とされるフリーハブの噛み合わせは、漕ぎ出しの素早さ(タイムラグの少なさ)においてメリットが大きい。減速と加速を繰り返すほどに差が生まれるため、レースでは当然有利。トレイルライドにおいても、難しいセクションでのペダルへの入力・脱力を繰り返しながらのトラクションコントロールなどでもより一体感あるバイクコントロールが可能になる。

今回用意されたホイールはノーマルフランジハブにベンドスポーク、カーボンリムを用いて手組みされたものだった(ストレートプルスポーク用ハブは用意されず)。あいにく私自身MTBホイールの違いを判定できるほどの感覚を持ち合わせていないが、ライドサポート役の地元のガイドライダー氏がこのホイールを1週間以上酷使したところ、剛性が高く、ヨレも無い素晴らしいホイールに仕上がっているということだった。現況、新XTRの規格に沿ったシマノのコンプリートホイールの発表はまだ無い。

アジャスタブルシートポストレバーはスマートにコックピットに収まるアジャスタブルシートポストレバーはスマートにコックピットに収まる photo:Makoto.AYANO
フロントダブル用の変速レバーも、今回は机上でのみの試用となった。そしてドロッパーポストを操作するアジャスタブルシートポストレバーは、1✕の場合はあたかもFDのシフトレバーかのようにコックピットに収まる。指の移動量も少なく、軽いアクションで操作が可能だった。かつシマノ製のため当然ブレーキレバーのデザインとも統一感があり、視覚上も違和感なくスッキリとまとめることができるのは良い。


マイナーチェンジしたSPDペダル 泥捌け性能向上とショートスピンドル版も用意

マイナーチェンジされシャフト上面が丸みを帯びたデザインとなったSPDペダルマイナーチェンジされシャフト上面が丸みを帯びたデザインとなったSPDペダル photo:Irmo Keiser
最後にペダル。XCモデルのPD-M9100はマイナーチェンジを受け、スピンドル(胴軸)上のシューズとの接触面が丸みを帯びたことが大きな変更点だろう。シューズとのコンタクトエリアをさらに拡大しつつ、細部デザインの見直しによりドロ捌け性能を向上させたというのがアピールポイント。

今回はウェットな泥のエリアでのライドもできたが、ドロ詰まり無くクリアできた。また、これはペダルの性能と言いにくい面があるが、シマノ製のS-PHYREシューズ(XC9)との組み合わせで使用したが、ソールとの強い一体感を感じ、非常にダイレクト感あるペダリングが可能だった。

PD-M9120 フラットソールにも対応。クリートスペーサーとあわせフィットを追求できるPD-M9120 フラットソールにも対応。クリートスペーサーとあわせフィットを追求できる photo:Makoto.AYANOマッドコンディションで使用したPD-M9100ペダル  泥の抜けも良く感じられたマッドコンディションで使用したPD-M9100ペダル 泥の抜けも良く感じられた photo:Makoto.AYANO

トレイル&エンデューロモデルのPD-M9120も非常にスマートな造りで、バイクの暴れるロックセクションでのペダルキャッチ&リリースがしやすかった。フラットソールにも対応とのことだが、私の場合はそうしたグラヴィティ系シューズのペダルへのフィット感が好きになれず今まで敬遠していたが、今回ほとんど初のトライだったが非常に具合がよく、ケージ付きペダルにありがちな重量増も感じることなく、ペダリングも効率的に感じた。やはりエンデューロやオールマウンテン系ライドの場合は、こうしたペダル&ソールの組み合わせのほうが安心できる。

有名なソチャ渓谷を渡る。ハードなライディングテストによりXTRのタフさも見えてくる有名なソチャ渓谷を渡る。ハードなライディングテストによりXTRのタフさも見えてくる photo:Irmo Keiser
シマノ内においてはコンポーネント開発とシューズ&ペダルなどのフットウェアは別部門が担当しており、ごく最近になって統合されたそうだが、基本的には今までコンポと切り離して開発されてきたと聞く。しかしの2つのペダルもまたXTRの名前に恥じない手堅い仕上がりになっている。残念ながらPD-M9100のショートスピンドル版ペダルは試せなかったが、ロードSPD SLと同じQファクターということで、ペダリングによりシビアなシリアスレーサーやシクロクロスライダーにも勧められるものだろう。もともとはブースト化によって広がりがちなBB幅に対応した製品なのだろうが、シマノには今まで無かった選択肢であり、メリットが得られるユーザーは多いだろう。

まったく新規格のドライブトレインなど、大きな変化を伴って生まれ変わった新生XTR。前世代とはまったくの別物とはいえ、高い精度や耐久性、確実でありながら官能的とも言える素晴らしい操作感は代々のXTRで共通のものとして受け継がれていると感じた。
提供:シマノ、photo&text:綾野 真/Makoto.AYANO