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シマノのバイクフィッティングを実際に受けたCW編集部村田の体験レポートを紹介しよう。遠く低くを地で行く「ザ・レーサー」だった彼のポジションに起きた大変化とは?フィッティングを活用するシマノレーシングの入部正太朗選手の声、そして本国スタッフへのインタビューも交え、実践的に特徴とメリットを紹介していきたい。

CW編集部員村田がバイクフィッティングを体験

シマノ鈴鹿ロードにて行われたバイクフィッティングデモ。シマノレーシングの入部選手も参加シマノ鈴鹿ロードにて行われたバイクフィッティングデモ。シマノレーシングの入部選手も参加
ショップ関係者も実演しフィッティングの理解を深めたショップ関係者も実演しフィッティングの理解を深めた ちゃりん娘の松本奈々さんも自身のバイクを持ち込みポジションを分析ちゃりん娘の松本奈々さんも自身のバイクを持ち込みポジションを分析

8月に開催されたシマノ鈴鹿ロードレース会場では、2日間で計8回に渡りバイクフィッティングのデモンストレーションが実施された。本企画に合わせbikefitting.comの本国からマネージャーのマテュー・アランブール氏がフィッターとして来日し、ちゃりん娘の松本奈々さんや、シマノレーシングの入部正太朗選手をゲストに迎え実演フィッティングが行われたのだ。フィッティングに興味を持つ多くの一般来場者もその様子を見に集まった。

その中で私ことシクロワイアード編集部員の村田もフィッティングデモに参加させて頂いた。愛車のポジションをXYツールを用いポジションシミュレーターへコピーし、3Dモーションアナライザーで評価、修正していった。

受け手:村田悠人(CW編集部)

CW編集部員村田(左)、マテュー・アランブール氏(右)CW編集部員村田(左)、マテュー・アランブール氏(右) 大学の自転車部に所属し競技をスタート。学連に始まりヒルクライムや実業団レースをメインに走り、JBCFのE3にて優勝経験も持つが、忙しい毎日に現在は競技意欲がダウン中。

レーサー上がりらしく、その乗り方は通常よりも1サイズ小さいフレームに120mmステムを組み合わせ、シートポストを出しサドルを後ろにセットした、遠く低い「ザ・レーサーポジション」。自身の美学のためにフォークコラムは最大限カットしているが、これが大きな間違いだったわけである...。

フィッター:マテュー・アランブール氏(bikefitting.com本国マネージャー)


もともと学連や実業団レースを走っていただけにレーシーなセッティングこそ至高と考えていた私だが、まず自身のポジションをマテューに見てもらうや否や、「そんなに腕を伸ばして君はスーパーマンかい?(笑)」と大爆笑。なんでもステムが長過ぎるらしく、肘が伸び切った姿勢はバイクコントロール性を悪くし、さらには首や背中の痛みにも繋がるのだという。コーナリングが下手なのはもしかしたらポジションのせい?などと思いを巡らす。

専用ソフトで現状のポジションを評価すると、膝の角度などいずれの項目も軒並み”赤”、つまり修正が必要なことを示しているではないか。競技を始めて8年、自己流でポジションを煮詰めてきたが、やはり自己流は自己流でしかなかったようで、結構ショック(汗)。仮にも実業団(一番下のカテゴリー)で勝ったことがあるんだぞー!と言う暇も無く、ポジションはどんどんと修正されていく。

ハンドルを低く遠くのセッティングを好むCW編集部員村田ハンドルを低く遠くのセッティングを好むCW編集部員村田 フィッティングで決定した寸法を自身のバイクに反映させる「XYポジションツール」フィッティングで決定した寸法を自身のバイクに反映させる「XYポジションツール」
体の柔軟性や左右バランスなどを検査しポジション決めに反映していく体の柔軟性や左右バランスなどを検査しポジション決めに反映していく サドルの前後位置を調整することで膝の位置と屈折角度を修正していくサドルの前後位置を調整することで膝の位置と屈折角度を修正していく
フィッティングの結果、ステムは20mm短いものへ変更し無理のない体勢を作り出すフィッティングの結果、ステムは20mm短いものへ変更し無理のない体勢を作り出す
サドルの高さや前後位置の修正はもちろんだが、一番大きく変わったのはハンドル周りだった。上半身に無理のない体勢になるようステムを短くかつハンドルを高くすることでストレスを減らすポジションへ変更していく...のだが、コラムを下限まで切ってしまっているために、10度ステムを上向きに付けざるを得ないことに。な、なんてカッコ悪いんだ。コラムに余裕を残しておけば、もっと自然なルックスになるだったはずなのに...(汗)。

しかし、いざ漕いで気づいたのは、全く違和感は無く身体も楽だったこと。ハンドルが近くなり肘を適度に曲げた体勢となることで上半身がリラックスし、腕のサスペンション効果を使えることで快適性が増している。また腕を前に出しすぎないから深い前傾をとったときも前方投影面積を減らすことができ、エアロなポジションも両立できるという。有名スプリンターのブアニもハンドル位置を上げてパワー向上したという(後述)し、効果アリなのだろう。

ペダリング解析ができることもシマノのバイクフィッティングならでは。昨今パワーメーターでの解析を活用するライダーも増えてきているが、さらに深く正確に知ることができるのは専用のツールだからこそ。実際に解析してみるとペダリング中の膝のブレやペダルへの荷重の分散などが浮き彫りになりややショックを受けつつも、クリート位置の修正やウェッジでの矯正などで改善可能とのことで一安心。


ペダリング中には引き足の際、踏み込む方向と逆向きの力、パワーを打ち消してしまう方向へも力が加わってしまうのだという。今回の計測でそのパワーロスはおよそ25%、100のパワーで踏んだ時に75ほどが進む力としてバイクに伝わる計算だ。パワーの大きい小さいに関係なく効率的にバイクを進ませるというのはこういうことなのか、と改めて認識させられる。

踏んだ力の4分の1もロスしているのか...と反省しつつも、一般ライダーの場合は約30%のロス率ということで特別悪い数値ではないらしい。これがトム・デュムランのような世界のトッププロ選手になると、僅か1%にまで抑えたペダリング効率を叩き出すそうだ。自分もまだまだ強くなる余地が残っているのは良い発見だった。

フィッティングを受けて

ステムを逆向きに取り付けたリラックスポジションへ変更ステムを逆向きに取り付けたリラックスポジションへ変更 バイクのポジションは体格に見合った無理のない、かつより効率的なペダリングができるようサドルを下げたりステムを短くしたりする調整を加えた。レース特化のアグレッシブなポジションは負担が大きく、よりニュートラルなセッティングを提案されたのだ。最近レースから遠ざかっている私からすると、”確かにな”と思える快適で妥当なポジションが出来上がったと思う。フィッティング前後の変化量が大きく正直に言えばまだ慣れていないが、これは時間が解決してくれるはず。

ライド中身体に痛みが出たり、思ったようにスピードに乗れなかったりなど、身体のトラブルや疑問を抱えている方も少なくはないと思う。実際私はそこまで違和感を感じていなかったのだが、今回シマノのバイクフィッティングを通して一つの解が提案されたことは今後自転車趣味を続けていく上で大きな糧となった。記事下部にはフィッティング実施店舗のリストに繋がるリンクを埋め込んでいるので、多くの方にフィッティングを受けてもらいたい、と思う。

バイクフィッティング体験者インタビュー

「自分のポジションを決める手がかりになる」入部正太朗(シマノレーシング)

入部選手を始めシマノレーシングの選手らはポジション決めにシマノのバイクフィッティングを活用している入部選手を始めシマノレーシングの選手らはポジション決めにシマノのバイクフィッティングを活用している photo:Satoru Kato
自分はすでに何度もこのフィッティングを受けていて、レースシーズンが始まる前にポジションを煮詰めていく際に大いに活用しています。シーズン中はパフォーマンスに影響してくるのでポジションは変えませんが、オフシーズンに自分のポジションを見直すための良い指標となってくれますね。冬場に調整した後、乗り込んで慣れていきシーズンに向けて準備していくんです。

このフィッティングは受けたデータが全て数値ではっきり分かるのが良いですよね。人それぞれ骨格や柔軟性は異なるので、受けた結果をそのまま反映するのではなく、それをベースとして自分なりに調整していくと良いと思います。フィッティングを受けた身としては、得られるデータはかなり的を射ている感触で、ほぼ自分に合った乗り方に近づけるのではないかと思いますね。

国内サーキットで抜群の存在感を見せる入部正太朗(シマノレーシング)国内サーキットで抜群の存在感を見せる入部正太朗(シマノレーシング) photo:Hideaki TAKAGIレーサーとしてはペダリング効率が非常に重要になってきますが、自分にマッチしたペダリングができなければ速く走れません。解析によってトルクの掛かり方を矢印で見ることができますが、踏みが強い人もいれば引きが強い人もいます。効率だけを求めてペダリングを矯正しても、苦手な動作を無理矢理するようなポジションでは疲れが出てしまいますよね。

まずは自分の踏み方を知る上でもペダリングアナリシスは大いに意味がありますし、それを元に人それぞれ身体の使い方やバイクポジションを探っていくといいでしょう。ペダルへの荷重位置も分かるので、適正なクリートポジションを見つけられるのも大きいですね。ポジションに関しても、ペダリングに関しても、まずは己を知ることができるという点でフィッティングは確実にプラスになってくれると思います。

bikefitting.com本国マネージャー マテュー・アランブール氏インタビュー

無理のないポジションとクリートセッティングが重要な要素

バイクポジションの問題は日本だけでなく、世界中で多くのライダーが抱えている悩みです。個々人で体格や筋肉の付き方、ペダリングの仕方が異なるので、一概に”これが正解”と言えるアドバイスをすることは不可能。ましてや自転車はサドル、ハンドル、ステム、クランク、ブラケットなど調整できる部分が多いですからね。

「快適なライドにはマッチしたポジションが不可欠」とマテュー・アランブール氏「快適なライドにはマッチしたポジションが不可欠」とマテュー・アランブール氏
その中で、どのライダーもまず一番に確認してほしいのは「クリートの位置」。私の見る限り90%もの人が間違った位置でクリートを装着しています。特に多いのは適正位置より前目に付けている人。クリートを後ろに下げれば足は前に出るため相対的にサドルが高く感じるはずです。そうなるとサドルを前に出すか、高さを下げるかの調整が必要になります。全てのポジションはクリート位置によって変化してくるのです。

バイクと身体との接点は手、尻、足の3つですよね。ポジションを考える時に多くの人が最初にステムの長さを気にしますが、私の考えではまずクリートのセッティング、その次にサドル、最後にハンドルという順番だと思っています。

またステムに関しても、長過ぎるサイズをチョイスしている人が多すぎます。ハンドルが遠くなり腕が伸びることで上半身に余裕がなくなるため、背中や首の痛みの原因となるのです。プロ選手に倣ったアグレッシブなポジションは、一般ライダーの体にはハードすぎるということを多くの人に理解してほしいのです。

「まずクリートを正しい位置に装着することが重要」「まずクリートを正しい位置に装着することが重要」 腕が伸び切った上半身に余裕のないポジションは首や肩の痛みの原因となる腕が伸び切った上半身に余裕のないポジションは首や肩の痛みの原因となる
様々なサイズのハンドル、ステム、サドル各種を揃えるPROのパーツ類様々なサイズのハンドル、ステム、サドル各種を揃えるPROのパーツ類 PROのハンドル、ステムはプロ選手らも愛用する製品だPROのハンドル、ステムはプロ選手らも愛用する製品だ photo:Makoto.AYANO

面白いエピソードを紹介すると、ナセル・ブアニは同じスプリンターであるマーク・カヴェンディッシュのポジションを参考にして、ハンドルを低くセットしていました。しかしそれはブアニにはマッチしていなかった。フィッティング後ハンドル位置を高くしたところ、100wもパワーが改善されたという結果も出ているんです。レーサーだからといってハンドルを低く遠くするのが正しいとは限りません。

自身のポジションを客観的に評価することが一番の近道

バイクフィッティングを行う際、始めに自転車の経験や乗り込み具合などヒアリングを行いライダーのレベルを把握します。その上でコンフォート、スポーツ、コンペティション、プロフェッショナルの4つのレベルに合わせてフィッティングを行っていきます。なのでレーサーからサンデーライダーまであらゆる人に対応したアドバイスが可能です。

ライダーにヒアリングを行いつつフィッティングを進めていくライダーにヒアリングを行いつつフィッティングを進めていく
スタティックフィッティングは価格も手軽でかかる時間も短めなので、多くの人に試してもらいたいですね。導き出される数値は80~90%のライダーにマッチするよう設定してあります。さらにダイナミックフィッティングまで受ければより深く、5mm単位でポジションを煮詰めていくことも可能です。

「自身の感覚に頼りすぎず、フィッターに客観的に評価してもらうことが大事」「自身の感覚に頼りすぎず、フィッターに客観的に評価してもらうことが大事」 例えばフィッティングを受けポジションが更新されたとき、それに伴い使う筋肉も普段とは変わってきます。最初は1~2時間のライドで体を慣らしてください。いきなり7~8時間も乗るようなことは禁物です。適正ポジションだからといってすぐに乗りやすくなるのではないことを覚えておいて下さい。

ポジションを決めていく際、主観に頼りすぎるのは良くありません。フィッターである私自身も自分のポジションは他人に見てもらうほどです。もちろん感覚は大事ですが、自身のペダリングは自分で見ることはできませんよね。経験を持った第三者の目で客観的に評価し、アドバイスをもらうことが最適ポジションへの近道になるはずです。



シマノのバイクフィッティングは、現在全国104のプロショップにて実施中だ。店舗によって各工程の取り扱い度合いが異なるためショップリストにて確認の上、お近くのディーラーにて一度体験してみてほしい。
提供:シマノセールス 制作:シクロワイアード編集部