CONTENTS
SLATEと共に全国各地を巡るシリーズ第7弾の舞台は、遠江国(とおとうみのくに)、浜松。豊かに水を湛えた浜名湖から天竜へ、そして夕日沈む遠州灘へ。柑橘、お茶、うなぎといった名産物に、歴史深い旧街道、そして山中に延びる魅惑の未舗装林道たち。湖だけでは決してない、浜松の魅力を見つける旅に出かけた。



打ち合わせという名の前夜祭。ルート談義を重ねつつ、ホルモンと浜松餃子に舌鼓打ち合わせという名の前夜祭。ルート談義を重ねつつ、ホルモンと浜松餃子に舌鼓 浜松で焼肉といえばホルモンのことなんだとか浜松で焼肉といえばホルモンのことなんだとか


クルマを走らせていて気づくのは、車窓を流れる木々の緑が色濃く、そして密度が高いこと。3月末だというのに太平洋を渡ってくる空気は既に春の陽気で、なんとなく街並みの色彩も鮮やかに感じる。温暖な地域特有の光景を楽しんでいると、左手には太陽きらめく浜名湖が見えてきた。

古くは遠江国と呼ばれてきた浜松市は、東京から250km、名古屋からは100kmほどの場所にある静岡県最大の都市だ。今まで新幹線や東名高速で通過することは多くあれど、この場所を目的地にしたのは初めて。個人的な話で恐縮だが、私が生まれ育った房総半島の海沿いとよく似た雰囲気に、訪れて間もないのに不思議と肌が馴染んでいくのを感じる。

朝の光に包まれた浜名湖。多くの海の幸、川の幸を育む場所だ朝の光に包まれた浜名湖。多くの海の幸、川の幸を育む場所だ
SLATE購入をきっかけにアドベンチャーライドにはまったという渡辺さん。今回のアテンド役を務めてくれたSLATE購入をきっかけにアドベンチャーライドにはまったという渡辺さん。今回のアテンド役を務めてくれた 舗装林道で手早く高度を上げていく舗装林道で手早く高度を上げていく

パラグライダーの滑空場から浜名湖を一望。湖の形がよく把握できたパラグライダーの滑空場から浜名湖を一望。湖の形がよく把握できた
今回アテンド役を買って出てくれたのは、アドベンチャーライドに興味を持っている頃にティム・ジョンソンが出演したSLATEのプロモーションムービーに一目惚れし、キャノンデール・ジャパンのカズこと山本和弘さん出演の国内プロモーションムービーでトドメを刺されてしまったという渡辺さん。ここにロングライドからシクロクロスまで一台でこなす女子SLATEユーザー、鈴木さんたちも加わり、生粋の浜松っ子4名とカズさん、そして私を含めた総勢6両編成のSLATEトレインが小春日和の中を走り始めた。

朝日霞む浜名湖を横目に見つつ、アップダウンに富む奥浜名オレンジロードを経由して最初のお目当てである姫街道の石畳へと向かう。旧街道というと観光地化されてしまったものも少なくないが、重要な脇街道として見付から御油までを通していた姫街道の引佐峠区間は、往時の姿をよく残す貴重な区間だ。

石畳かつ急勾配の象泣き坂。サスペンションのロックアウトを解除してスムーズに下っていく石畳かつ急勾配の象泣き坂。サスペンションのロックアウトを解除してスムーズに下っていく 本坂越とも呼ばれた姫街道。引佐峠区間は往時の姿をよく残していた本坂越とも呼ばれた姫街道。引佐峠区間は往時の姿をよく残していた

一番軽いギアを使って何とかクリアできる急勾配と、一体いつから敷かれているのかも分からない不揃いの石畳。古くは旧石器時代から人々の営みを支え、戦国時代には徳川家康が拠点を置くなどしたこの地の歴史深さを垣間見る。「象泣き坂(将軍徳川吉宗に献上された象が急勾配に悲鳴をあげたことが由来だという)」と名付けられるのも納得のつづら折れを、30mmトラベルのLeftyサスペンションを装備した現代の駿馬でクリアする喜びは、ロードよりも走破性が高く、MTBよりも技術を必要とするSLATEだからこそ最大になるものだ。

2015年に登場し、今年で3シーズン目を迎えたSLATEだが、そのオリジナリティは同じようなコンセプトのバイクが各社からリリースされた今でも全く色褪せていない。カズさんに聞けば年々ユーザーも増殖中で、今回借り受けた鮮やかなパールブルーの「APEX 1」は発売直後に全て売り切れてしまったそう。

天浜線都田駅の駅舎を利用したカフェ。ヴィンテージバイクも多数飾られていた天浜線都田駅の駅舎を利用したカフェ。ヴィンテージバイクも多数飾られていた 山中の牧場でまだ小さな子ヤギと遭遇山中の牧場でまだ小さな子ヤギと遭遇

三ヶ日地区に多い柑橘畑。「三ヶ日みかん」は高値で取引される人気ブランドだ三ヶ日地区に多い柑橘畑。「三ヶ日みかん」は高値で取引される人気ブランドだ どこへ行っても目に入るお茶畑。浜松では地域の天候差で3種類が育てられているどこへ行っても目に入るお茶畑。浜松では地域の天候差で3種類が育てられている

尉ケ峰のパラグライダー滑空場から浜名湖を一望する大パノラマを楽しんでから三ヶ日地区を離れ、ヴィンテージバイクをオマージュした天浜線(天竜浜名湖鉄道の愛称)都田駅の「駅Café」を見学してから(残念ながら営業時間前だった)旧天竜市へと向かう。ちなみに、駅舎に食堂やカフェが多く併設されているのは天浜線だけに見られるオリジナル。

その途中、ロードバイクに乗ったライダーと、どれだけすれ違っただろう。日曜日ということもあれど、のんびり走る方、いかにもこれから練習会に向かうような雰囲気の方を何人と見かけたことか。1周65kmの「ハマイチ(浜名湖1周)」を軸にした自転車ブームが継続中と聞くが、それも納得できてしまうほど多くのサイクリストが目に入ってくる。そういえば、2017年に創業120周年を迎えた日本最古参のサイクルショップ、ミソノイサイクルもここ浜松がお膝元。日本史に深く携わってきたように、浜松は日本の自転車史にも大きく貢献してきたようだ。

視界が開けた林道観音山1号線で思い切りダウンヒルを楽しんだ視界が開けた林道観音山1号線で思い切りダウンヒルを楽しんだ
「人が歩ける場所ならどこでも行ける」と木の根が張り出した激坂を降るカズさん「人が歩ける場所ならどこでも行ける」と木の根が張り出した激坂を降るカズさん 中代峠では山芋掘りをしていた地元の古老と遭遇。これまでのルート情報を共有した中代峠では山芋掘りをしていた地元の古老と遭遇。これまでのルート情報を共有した

Above Bike StoreでSLATEを購入して、一台で様々な遊び方を楽しむ鈴木のぞみさんAbove Bike StoreでSLATEを購入して、一台で様々な遊び方を楽しむ鈴木のぞみさん
踏み締められた砂利と開けた視界が心地良い林道観音山1号線を東から西へ。中間地点の中代峠では山芋掘りをしていた地元の古老と遭遇し、ここまで通ってきたルートの情報を共有する。この辺りはよく古道が整備されていて、私たちも脇道に逸れつつ極上のシングルトラックを、思いっきり楽しんだ。

いくつもの沢を「洗い越し」で横切り、もう何十年と4輪が通っていないであろう極上のシングルトラック(になったジープロード)を経由して浜松の奥座敷、熊(くまが正しい読み方だが、地元では”くんま”と読ばれるという)地区へ。知らなければ絶対に通り過ぎてしまう食事処「熊香苑」では人懐っこいマスターに勧められるまま、この地で獲れた猪を使った丼に舌鼓を打った。ローカルのアテンドあってこそ、そして普段からSLATEに乗り込む渡辺さんが引いたルートだからこその小気味良いリズムに、思わず笑顔がこぼれてしまう。

渡辺さん行きつけの食事処でお昼休憩。何気なく出されたお茶の香り豊かさに驚く渡辺さん行きつけの食事処でお昼休憩。何気なく出されたお茶の香り豊かさに驚く 裏山で獲れたという猪を使った丼。大盛りご飯と一緒にかきこんだ裏山で獲れたという猪を使った丼。大盛りご飯と一緒にかきこんだ

人懐こいマスターとの話に花が咲く人懐こいマスターとの話に花が咲く まるで親戚の家を訪れたような素朴な雰囲気が心地よいまるで親戚の家を訪れたような素朴な雰囲気が心地よい

険道と呼んでも過言ではない、阿多古川沿いにうねる県道296号線のワインディングを駆け抜け、天竜川沿いに遠州灘を目指していく私たち。浜松は本当にバリエーションに富んだ場所だ。このライドが終盤に差し掛かった頃、序盤からぼんやりと浮かべていたその思いは確信へと変わっていた。

「うなぎ」の文字が躍る浜名湖沿い、柑橘畑が広がる三ヶ日地区。東海屈指の林業地帯である天竜区。平坦部と山間部のコントラストはくっきりと明確で、名産物の一つに数えられるお茶も、地域の天候差で浜松茶、天竜茶、春野の茶と3種類に分けられるのだという。「暖かい所」「浜名湖」という通り一遍のイメージだけでは語り尽くせない、かくも美しく変化に富んだ魅力、そしてアドベンチャーライドを愛する人を引き寄せる豊かなロケーションがこの地にある。

小川が路盤を越える洗い越し。天竜地区の水はどこまでも清涼だ小川が路盤を越える洗い越し。天竜地区の水はどこまでも清涼だ
険道と呼んでも過言ではない、阿多古川沿いにうねる県道296号線険道と呼んでも過言ではない、阿多古川沿いにうねる県道296号線 サスペンションをロックアウトして舗装路を飛ばしていく。SLATEならではの機動力が楽しいサスペンションをロックアウトして舗装路を飛ばしていく。SLATEならではの機動力が楽しい

天竜地区は東海地方屈指の林業地帯。いくつもの製材所が目に飛び込んでくる天竜地区は東海地方屈指の林業地帯。いくつもの製材所が目に飛び込んでくる
旅の終着地に選んだ中田島砂丘に到着する頃には、辺りはすっかりと暮れなずんでいた。薄いオレンジ色と灰色に染まる海岸線に出た瞬間、ドウッという轟音と共に遠州の空っ風が身体を取り巻き、ウインドブレーカーをばたばたとはためかせて後方へと飛び去っていく。今日の記憶を思い返しながら、足元に広がる砂の柔らかな感触を確かめる。

…ああ、いけない、なぜかモノトーンの海辺は感傷的になりがちだ。まだ日没まで15分ほどビーチライドを楽しむ時間があるじゃないか。それに気づけばお腹の減り具合も極限状態だ。浜松人はみんなそれぞれ通い慣れた鰻屋があるという。この後はどんな店をお勧めしてもらえるだろうか。

砂浜を遠くまで走って行ってしまったカズさんたちを追いかけて、慌ててペダルに力を込めた。

遠州灘に沈んでいく夕日。浜松を思いっきり満喫した1日が終わった遠州灘に沈んでいく夕日。浜松を思いっきり満喫した1日が終わった

今回の「路面」:中田島砂丘の柔らかな砂浜

どこか異世界のような、月面のような砂浜で今日最後のライドを楽しむどこか異世界のような、月面のような砂浜で今日最後のライドを楽しむ 旅の終着地に選んだ日本三大砂丘の一つ、中田島砂丘の波打ち際は、波に丸められた石たちの絨毯となっていた。この砂丘に限らず、この辺りの砂浜は遠州の空っ風と激しく打ち寄せる波によって砂が定着しにくく、足やタイヤが容易に沈み込むほど地盤が柔らかかった。

砂を運び込む天竜川の上流にダムが作られたことで波による侵食に追いつかず、年5mも海岸線が後退するという大きな問題を抱えている中田島砂丘。ウミガメの産卵の地として知られるこの場所の保護が急がれているという。
提供:キャノンデール・ジャパン text&photo:So.Isobe