複雑な形状によって機能性を高めてきた昨今のロードバイクの中にあって、オーソドックスなスタイルを貫き通すオールラウンドモデルがFシリーズだ。そのセカンドグレードにあたる「F1」は今季より素材を強化し、Advanced+TeXtremeカーボンによって走行性能に磨きをかけている。

プロ御用達 ジャーマンブランドらしい堅実かつシンプルなフォルムが特徴の万能選手

フェルト F1フェルト F1
オールラウンドモデルとしてフェルトのロードラインナップの中核を成すのがFシリーズである。3シリーズある中、プロのレースシーンでの使用率が最も高く、2013年のツール・ド・フランスではハイエンドモデル「F FRD」を駆るマルセル・キッテル(ドイツ)がステージ4勝を挙げたのも記憶に新しいところ。

そんな生粋のレーシングマシンのキーワードの1つがシンプルさ。翼断面チューブを多用しエアロに特化したARシリーズと、振動吸収性に優れる湾曲したチューブ形状で快適性に特化したZシリーズの中にあって、円形断面のチューブを多用したフレームデザインは至ってオーソドックスである。

スムーズな造形を見せるトップチューブとシートステーの接点スムーズな造形を見せるトップチューブとシートステーの接点 スクエア断面のトップチューブ。ねじれ剛性の向上に寄与しているスクエア断面のトップチューブ。ねじれ剛性の向上に寄与している

チェーンステーに絞りを加えることで剛性を最適化したチェーンステーに絞りを加えることで剛性を最適化した メイン素材は大きな網目が特徴的なTeXtreamカーボンメイン素材は大きな網目が特徴的なTeXtreamカーボン

しかし、その開発過程は工業製品の基本に忠実。まず自社所有のスーパーコンピューター上で、フレームに変速機などの各パーツを取り付けた実車に近いデータを用いてシミュレーションを行い、各性能をチェックする。その結果をもとにサンプルを作り、実走テストを繰り返し、コンピューター上ではわからない点を煮詰めていく。Fシリーズはこの地道な作業を経てレーシングマシンとしての性能を磨きあげている。その中でもこだわっているのがカーボン素材とその積層、加えて製法だ。

まずは素材について。各グレードで価格以上の高品質カーボンを使用しているが、中でもハイカテゴリーのレースでの勝利をターゲットとする「F FRD」と「F1」はスウェーデンOxeon社製の「TeXtream」をメイン素材に採用。チェッカー柄の様な見た目もさることながら、その特徴は通常のカーボンが繊維を編みこむのに対して、シートを編み込んだ革新的な構造にある。

ダウンチューブはオーソドックスな丸断面とされているダウンチューブはオーソドックスな丸断面とされている
BB30規格を採用したボリュームあるボトムブラケット周りBB30規格を採用したボリュームあるボトムブラケット周り
他にもれずシンプルなフォルムのヘッドチューブ他にもれずシンプルなフォルムのヘッドチューブ

これによってカーボン同士の隙間を埋めるレジンの使用量が減り、相反する強度向上と軽量化に同時に成功。加えて、強度低下の大きな原因となる材料内の空隙を低減するために、カーボン間にくまなく浸透するナノテクノロジー採用のレジンを組み合わせた。

そして、今回インプレッションする「F1」はAdvancedグレードのカーボンを組み合わせることで、重量増や剛性低下を抑えつつ低価格化。それでも走行性能を大きく左右するフロントフォークの素材にはフェルトオリジナルの中では最高峰となるUHC Ultimateカーボンを採用している。

これら厳選されたカーボンの性能を引き立たせるのに欠かせないが積層である。Fシリーズの場合は具体的に、大きなサイズではカーボン繊維を直角に重ねる部分を増やして剛性を確保し、小さなサイズでは角度を開いて過剛性を防止。もちろんチューブの直径や肉厚もフレームサイズごとに調整されているという。

剛性を強化するためにシートチューブは根元を大口径化している剛性を強化するためにシートチューブは根元を大口径化している 直線的なリア三角のデザイン。チューブ径や積層を変えることでサイズごとに最適な乗り味を追求直線的なリア三角のデザイン。チューブ径や積層を変えることでサイズごとに最適な乗り味を追求 シートステーの根元はトラディショナルな双胴タイプシートステーの根元はトラディショナルな双胴タイプ

そして素材本来の軽さを犠牲にしないために開発されたフェルト独自の製法は、もちろんFシリーズにも採用されている。その1つが、製造過程で発生するフレーム内部の残留物を大幅に減らすことで軽量化を図った「inside out(インサイドアウト)」テクノロジーだ。通常のカーボンフレームでは内部に挿入したバルーンを膨らませて型に押し当てるのに対し、フェルトでは複数のフレキシブルシリコンとポリウレタンを組み合わせた専用のインナーモールドにカーボンを積層させることで成型する。

インナーモールドは完全にフレーム内部から引き抜かれ、内部にはほとんどゴミが残らないことから重量増は発生しない。かつ、内部は滑らかな仕上がりとなり、強度を確保するために必要な素材の量も大幅に低減。パイプを細かく分割して部位ごとに製造し、その後にモノコックフレームとして成型する「MMCテクノロジー」とあわせて軽量化を達成している。

ブレーキワイヤーを外装とするなど細部も堅実な造り込みがなされているブレーキワイヤーを外装とするなど細部も堅実な造り込みがなされている
機械式コンポを使用する際はダウンチューブ下にアウター受けを装着する機械式コンポを使用する際はダウンチューブ下にアウター受けを装着する
ストレートブレードのフロントフォークはUHC Ultimateカーボン製だストレートブレードのフロントフォークはUHC Ultimateカーボン製だ

その他、駆動効率を高めるためにボトムブラケットにはBB30、優れた旋回性能と制動力を実現するためヘッドには下側1-1/2インチのテーパードデザインと走りの要となる部分にはトレンドの規格を採用する。これだけのテクノロジーを投入しながらもフレームセットで268,000円と、フェルトらしい優れたコストパフォーマンスを実現。フェルトらしい堅実な開発によって走行性能を煮詰められたオールラウンダー「F1」の走行性能は如何に?

インプレッション

「車重以上に軽やかな乗り味 TeXtreamカーボンのポテンシャルを感じるオールラウンダー」
吉田幸司(ワタキ商工株式会社 ニコー製作所)

軽さが際立ち、低・中・高、どの速度域でも気持よく加速してくれるバイクですね。ヒルクライムはもちろん、平地でも速度が伸びていくことからクリテリウムレースにももってこい。オールラウンダーの名に恥じないマルチな走行性能をみせてくれました。

重量自体も非常に軽量ですが、それ以上に乗った際のフィーリングが軽いことが特徴であると感じます。これはBB周りとハンドル周り、フロントフォークをはじめとするフレーム剛性の高さに起因するものでしょう。ペダリングパワーをロスなく推進力へと変えてくれるだけの硬さがありながらも、踏み込むとリアに若干のウィップがします。体重が60kg台の私がパワーをかけても反発が少なく、物質的な軽さと合わせて、レースでは脚を温存できるという点で大きなメリットになるはずです。

「車重以上に軽やかな乗り味 TeXtreamカーボンのポテンシャルを感じるオールラウンダー」吉田幸司(ワタキ商  工株式会社 ニコー製作所)「車重以上に軽やかな乗り味 TeXtreamカーボンのポテンシャルを感じるオールラウンダー」吉田幸司(ワタキ商 工株式会社 ニコー製作所)
この特徴的な剛性感はカーボン素材によるものだと感じました。TeXtreamという最新鋭のカーボンを使用していますが、従来のハイエンドカーボンのように絶えず入力し続けないと進まないという印象はありません。セカンドグレードのレースマシンながらライダーのレベルを問わない乗りやすさがありますね。剛性の向上だけを目指していた時代から一歩先に踏み出した次世代のバイクであると言えるでしょう。

フェルト F1フェルト F1 このバイクはトルクやケイデンスに関わらず、テンポよく加速してくれます。激坂はもちろん、緩斜面でトルクをかけて踏んでも、独特なウィップ感によって足の疲労を最小限に抑えてくれるでしょう。平地においても20km/h後半から40km/hまで踏んだ分だけ気持ちよく速度が伸びてくれました。

ハンドリングに関してはクイックな印象です。コーナーへの進入時には切れ込んでいきますが、その後はニュートラルでラインをしっかりとトレースすることが出来ました。試乗車には9000系DURA-ACEのキャリパーがアッセンブルされていましたが、その制動力をしっかりと受け止められるだけの剛性があり、ブレーキをかけた際にフロントフォークがたわむことなく、安心して下れました。

やはりF1が真価を発揮するのはヒルクライムを始めとしたレースシーンでしょう。もちろん、オールラウンドバイクという位置づけ通りクリテリウムでも十分にライダーをアシストしてくれるはずです。乗鞍ヒルクライムや修善寺のCSCといった上り下りが多いコースならば、優れた加速性が武器になりますね。

パーツアッセンブルについては試乗車の様にDURA-ACEを始めとしたハイエンドコンポーネントでも車格的に充分にマッチすると思います。しかし個人的にはULTEGRAかULTEGRA Di2として、その分でより高性能なホイールをアッセンブルしてあげたいですね。ロープロファイルとエアロ系という風にコースに応じてホイールを変えられる様に揃えるのも良いでしょう。

実業団で上位を目指していくレーサー、2台目を探している競技志向のライダーにオススメできるバイクです。新素材のTeXtreamへの興味だけで購入しても満足できるでしょうし、ロングライドユースでもアップダウンの大きなコースを好まれる方やハイスピードでハードに走る方にはオススメですね。

「硬い中にもバネ感のある絶妙な剛性感 レース終盤の勝負ポイントでこそ真価を発揮する」
中村仁(Hi-Bike)

乗り始めて最初に強く感じたのが、軽くて高剛性な中にもバネ感やマイルドさがあるということ。これでしたら、競技時間が5時間を超えるワンデーレースや、それが何日間も続くステージレースでも、レース終盤まで足を溜めておくことができ、最後まで集中して走りきれるのではないでしょうか。とにかく、トップグレードのフレームらしく剛性バランスに長けている1台ですね。

登りではダンシング、シッティング、前荷重、後荷重、どのような乗り方をしても安定して加速してくれました。個人的にはシッティングでテンポよく踏むと、バイクのマイルドさが活きる印象です。中でも緩斜面での気持ちの良い進み具合は特筆ものです。

「硬い中にもバネ感のある絶妙な剛性感 レース終盤の勝負ポイントでこそ真価を発揮する」中村仁(Hi-Bike)「硬い中にもバネ感のある絶妙な剛性感 レース終盤の勝負ポイントでこそ真価を発揮する」中村仁(Hi-Bike)
スプリント面では、より剛性の高いバイクに軍配があがるかもしれません。しかし、このバイクは長時間、長距離を乗った後の勝負を見据えて開発されたリアルレーシングなのです。ホビーレースで例えるならば、スプリントで決着することも少なくないツール・ド・沖縄210kmでは、疲労した状態での最後の加速でこそ、速度が伸びてくれるはず。ここぞ!という時に真価を発揮してくれるバイクといえるでしょう。

悪路での走行性能と快適性に関しても非常に優れています。ギャップを拾ってしまいタイヤが弾んでしまっても、振動の収束が速く、トラクションが抜ける心配はありませんでした。ハンドリングに関してはFシリーズに共通する癖のないニュートラルステアで、安心してコーナリングすることができます。

これだけオーソドックスな形状でジオメトリーも一般的ながら、優れたレーシング性能を実現できたのはTeXtreamカーボンに依る所が大きいのではと考えられます。下位グレードのF5に乗ったこともありますがF1のほうが格段に高性能で、改めて素材の影響力はとても大きいと思わされました

総じてレースユースに適しているバイクですが非常にコストパフォーマンスが高い。学生から実業団レーサーまで、特にヒルクライム指向の強いライダーにおススメできるバイクですね。クリンチャーのシマノ DURA-ACE C24や同C35、フルクラム Racing ZEROをはじめとした高剛性アルミホイールとの組み合わせると、比較的リーズナブルに戦闘力の高い1台が組めますね。

提供:ライトウェイプロダクツジャパン 編集:シクロワイアード