2014年クォータの新たなラインナップに加えられた「KIRAL(キラル)」。ホイールベースを伸ばし、長めのヘッドチューブを備えて、同社のラインナップで最もコンフォートな設計としたエンデュランスライド対応のモデルだ。またディスクロードの流行にも素早く対応して、ディスクブレーキを搭載できる仕様のKHYDRA(キドラ)も兄弟モデルとしてラインナップされる。

複雑なフレームワークとラグジュアリーな走りを演出する

クォータ KIRAL(グリーン)クォータ KIRAL(グリーン)
「ラインナップとしてはKOMやK-UNO(クノ)の下に位置づけられるモデルだけど、それらとはまったく異なるコンセプトで、それはフレームの設計にも現れている。ホイールベースは他のモデルよりも長めに設計されて(チェーンステー長はKURAROに比べて6mm長い)、チェーンステーやシートステーも細さのある形状になっている。

さらにシートステーは横方向へ扁平した薄型の仕様で、パワーロスになる横方向へのたわみを抑えながら垂直方向の力に対しては素直にステーが動く。そしてチェーンステーはそれを助けるような形状なので、パワーロスを抑えながら乗り心地を高められている」と今中さんが語るように、KIRALは他のモデルにも増して複雑なフレームワークが印象的だ。

最適なねじれ剛性のためのボリュームを保持しながらも、空力とフォルムの美しさを追求したヘッド周り最適なねじれ剛性のためのボリュームを保持しながらも、空力とフォルムの美しさを追求したヘッド周り
側面に反りが与えられたトップチューブの形状。ヘッド部のねじれ剛性と快適性をバランスするためだ側面に反りが与えられたトップチューブの形状。ヘッド部のねじれ剛性と快適性をバランスするためだ ダウンチューブのBB側の接合部はユニークな形状だ。過剛性を防ぐために断面積を抑えているのだろうダウンチューブのBB側の接合部はユニークな形状だ。過剛性を防ぐために断面積を抑えているのだろう


「KIRALの最も特徴的な部分はダウンチューブで、チューブの側面を凹ますように成型されている。これはクォータの最初のモデル、KSANO(クザーノ)が取り入れた形状。おそらく凹んだ側面は肉厚が薄くて、上下の面は肉厚に設計されている。ライダーがバイクに乗って荷重がかかると、このダウンチューブの側面に極僅かなたわみが生まれ、縦方向に乗り心地のよさを発揮してくれる。

KSANO(クザーノ)が登場した時代はまだチューブの肉厚コントロールが難しく、走りの効果よりデザイン的な印象の方が強かったけれど、KIRALは形状の効果を体験することができる。実際に走らせると乗り心地はいいけれど、踏力に対するねじれ剛性にはしっかり対応していて加速レスポンスも優れている」

シートポストはトップチューブに内蔵されたウスによって固定される。シート周りはとてもスマートな仕上がりだシートポストはトップチューブに内蔵されたウスによって固定される。シート周りはとてもスマートな仕上がりだ 左側はしなりを与えるために強烈な扁平加工を行なう。ここまで左右で形状が異なるチェーンステーも珍しい左側はしなりを与えるために強烈な扁平加工を行なう。ここまで左右で形状が異なるチェーンステーも珍しい
シートステーは横方向へしっかりと扁平加工され、優れた乗り心地を実現するための柔軟性を発揮するシートステーは横方向へしっかりと扁平加工され、優れた乗り心地を実現するための柔軟性を発揮する

ダウンチューブ自体の形状もさることながら、ハンガーシェルは最新規格のワイドシェルタイプのBB386を採用して、ペダリングにおけるねじれ剛性が高められている。ヘッド部については、レーシングモデルのKOMやKURAROが1-1/2インチのロワーベアリングなのに対して、サイズダウンした1-1/4インチとすることで、必要なヘッドまわりの剛性と乗り心地をバランスしている。またヘッドチューブはクノよりも5mmほど長いコンフォートな設計で、ロングライドやグランフォンドに挑戦するライダーに、前傾の少ない体への負担を抑えたライディングポジションを提供することを可能にしている。

KIRALの大きな開発テーマは、高い快適性と軽快なレスポンスを両立するかにあるが、その仕組みはコンパクト設計の後三角にも現れている。

側面に反りを与えた特徴的なダウンチューブ。必要な剛性を得ながらも快適性を得られる仕様だという側面に反りを与えた特徴的なダウンチューブ。必要な剛性を得ながらも快適性を得られる仕様だという 「K-UNOではトップチューブを湾曲させてシートステーに繋げていたけれど、KIRALでは後三角を小さくして(シートステーの接合位置を下げる)ロングホイールベースで起こりやすいレスポンスの低下を抑えている。

ロングホイールベースのデメリットをつぶして、メリットを最大化する優れた設計だね。シートステーはエンドに向かって微妙に弓なりになっているので振動吸収性も高められている。しなやかさのあるバックステーに合わせてフロントフォークはソフトな仕様にしているけれど、他のメーカーと比べると標準的なレースモデルぐらいの剛性はあるね」

快適性とレスポンスの良さを両立するための複雑なフレームワークは、流麗な機能美あふれるフォルムを実現したといえる。そして重量もフレーム単体で1020g、フロントフォークは480gという実用的にして不足のない軽量性だ。こうした充実のパッケージながら、フレームセットで236,190円という比較的求めやすい価格もKIRALのもう1つの魅力といえるだろう。

「KIRALはフレーム設計とカラーリングがマッチしていて、やさしさがありながら、必要な時にはかっ飛んでゆけるほどのレスポンスを持つメリハリのあるライディングを実現している。個人的にもとても気に入っている1台です」

クォータ KIRAL スペック

フレームカーボンモノコック
フロントフォークカーボン製 トップ=1-1/8インチ、ボトム=1-1/4インチ インテグラルオーバーサイズ
重量フレーム単体1020g、フロントフォーク480g
BBBB386
サイズXS(440)、S(465)、M(490)、L(510)C-T
カラーグリーン、ホワイト
税抜価格236,190円(フレームセット)
499,045円(アルテグラDi2仕様完成車)
380,950円(アルテグラ仕様完成車)
299,045円(105仕様完成車)


KHYDRA ディスクブレーキを搭載した瓜二つの兄弟モデル

クォータ KHYDRA(ホワイト/レッド)クォータ KHYDRA(ホワイト/レッド)
リヤエンド部分もディスクブレーキ化に合わせて、しっかりとボリュームアップしている  リヤエンド部分もディスクブレーキ化に合わせて、しっかりとボリュームアップしている 今回はKIRALのみインプレッションを行ったが、さらに注目すべきディスクブレーキを搭載の兄弟モデル「KHYDRA(キドラ)」についても触れておきたい。これもあくまでオンロードをターゲットにしたディスクロードだ。

「KHYDRAはKIRALと基本コンセプトは変わらないけれど、ディスクブレーキを装備するにあたってフォークやバックステーの剛性をアップしている。しかしながら重量差は殆ど無く、ライディングフィールもKIRALの良い部分が踏襲されている。見た目のすっきり感もあるし、太いタイヤを装備できるのも安心だよね。

ロード用のディスクブレーキはシマノが製品を投入してきたけれど、ブレーキング性能のちょうどいいところはまだ手探り状態だと思う。そんな中にあってもディスクロードを他に先んじて出してくるあたりはクォータらしいよね」

とはいえ安定した制動力を得るためにリヤのディスクキャリパーをチェーンステー側に装備し、オイルホースもフレームに内蔵するなど、その仕様を見るとしっかりと作り込みされている。ディスクブレーキはリムブレーキと比べて完成度はまだ及ばないかもしれないが、全天候で安定した制動力を発揮するKHYDRAは、ブルベやロングライドといった天候の変わる可能性が高いライドでは大きなメリットとなるだろう。 

クォータ KHYDRA スペック

フレームカーボンモノコック
フロントフォークカーボン製 トップ=1-1/8インチ、ボトム=1-1/4インチ インテグラルオーバーサイズ
重量フレーム単体1020g、フロントフォーク480g
BBBB386
ディスクローター径140mm
サイズXS(445)、S(465)、M(490)、L(510)C-T
カラーホワイト/レッド、ダークグレー
税抜価格236,190円(フレームセット)


インプレッション

あらゆるコースと路面状況で大きな安心感を持って乗れる1台(吉本司)

脚のストレスが少ない巡航走行。踏んだ分だけ応える反応のよさが魅力(今中大介)


吉本 : 過去に発売されていたカーンを思わせる横扁平した左側のチェーンステーや、側面を反らせたトップ&ダウンチューブ形状など、凝った作りが印象的なフレームですね。見ても乗っても楽しめる自転車だと感じました。

あらゆるコースと路面状況で大きな安心感を持って乗れる1台(吉本司)あらゆるコースと路面状況で大きな安心感を持って乗れる1台(吉本司) 今中 : チェーン側は駆動時に圧縮がかかり強さが必要なのでまっすぐな形状にして、反対側は扁平形状にしてしなりを持たせて、優しさのある走りを演出している。左右で形を変えてもバックステーの剛性はしっかり確保したので、パワーをロスするようなしなりはないだろうね。KIRALの特徴はエンデュランス系ということで、走りに優しさを演出しているのだけれど、それを最も感じるのは、巡航で踏んでいる時にかかる脚へのストレスの少ないことだろうね。

吉本 : 今中さんのおっしゃる通り、脚へのストレスが少ないのでしっかりペダリングができて、無駄な力を使わずバイクを進ませることができますね。レースモデルに比べると全体的な剛性レベルは抑えられていますが、必要な部分には十分な剛性がある。一般のライダーにも扱いやすい剛性感ですね。

今中 : でもレスポンスは穏やかかというと、決してそうではない。踏んだ分だけ応えてくれて、個人的には反応の早いバイクだと感じている。

吉本 : 確かに出足は軽いバイクですね。レースモデルの鋭さとはまた違う、脚をペダルに置いただけでスッと軽く滑らかに前に出る感覚は、とても気持ちがいいですね。フレーム重量は1020gですけど、乗るともっと軽く思えます。

今中 : そうなんだよね。僕も最初に乗ったときに同価格帯のKURARO(クラーロ)より軽いんじゃないのって思ったほどだよ。

吉本 : その走りの軽さは上りでも生きますね。勾配や速度のちょっとした変化にもポンとトルクを与えるとスッとバイクが前に出てくれるので楽ですね。どちらかといえば、ぐいぐいとトルクを与えながら走るよりも、ギヤ一枚軽くして加速する方がスピードは伸びるような気がしました。シッティングでも軽めのギヤで回転を重視して走らせると滑らかに進みますね。

今中 : そうかもしれない。例えば同じ350Wペダリングの出力でも、初動でガツンと踏むより、きれいに回しながら走る方がより良いかもしれない。

吉本 : こうしたペダリング面での快適性に加えて、予想はしていましたが乗り心地もかなり高いレベルですね。チューブの肉厚と形状がうまく生かされていて、フレーム全体で振動を和らげてくれます。

脚のストレスが少ない巡航走行。踏んだ分だけ応える反応のよさが魅力(今中大介)脚のストレスが少ない巡航走行。踏んだ分だけ応える反応のよさが魅力(今中大介)
今中 : クォータの他のモデルは、わりと剛性に偏りがなくバランスがとれている。しかしKIRALでは、あえて剛性のメリハリを出す独特の味つけがなされているんだ。おそらくダウンチューブの上下部分は肉厚で、側面は反った形状と肉薄にすることで、荷重に対してしなりつつも耐える効果を生んでいるのだろうね。もしも側面を膨らませた設計にすると剛性は上がってしまい、その効果は得られないと思うよ。

吉本 : おそらくダウンチューブのカーボンの積層が増えたら乗り味は変わってしまうでしょう。この絶妙な形状と肉厚のバランスが、KIRAL独特のペダリングの軽さや脚当たりのいいペダリング、そして乗り心地の良さに大きく影響していますね。

話を乗り心地に戻すと、荒れた路面の下りでもばたつき感はなく、かなりの振動をカットしてくれますね。コーナリングでもタイヤに面圧を多くかけられるような安心感があります。

クォータ KIRAL(グリーン)クォータ KIRAL(グリーン) ロングホイールベースによる低重心化で安定性に優れているのも相まって、あらゆるコースと路面状況で大きな安心感を持って乗れる1台だなと。安心できる操作性というのは快適性のもうひとつの大きな要素なので、ブルベのような長距離走では心身の疲労にかなりのアドバンテージを得られそうです。また入門者も安心して乗れるでしょうね。

今中 : 確かに一日に300km走るようなシチュエーションだと、かなり違いは出るかもしれないね。

吉本 : KURAROと価格帯は近いモデルですけど、全然走りは違いますね。KIRALは誰にでもわかる、走りの軽さや快適性があります。

今中 : ライダーに対してとてもなじみのいいバイクだと思うよ。

吉本 : 安定志向なのに軽快感があってハンドリングも癖がなくて扱いやすい。必要な時に加速できるし、それを不足と感じることもない。加減速の多いレースを別にすれば、ロングライド、グランフォンド、ブルベ、エンデューロレースなどかなり幅広く快適に乗ることのできる1台でしょう。カラーリングもきれいだし、フレームワークも凝っているので持つ喜びも大きいですね。

今中 : 実は僕も初めて乗ったとき、もうこれ1台だけで良いかもって思ったぐらいなんだよね。

提供:インターマックス text:吉本司 編集:シクロワイアード