2000年代中盤以降カーボンフレームが世界を席巻するようになり、ロードバイクの勢力図は大きく変わった。ロードバイクの神髄と称されるイタリアンブランドでさえ、ひと昔前のように安泰ではなく、世界各国のブランド相手に厳しい闘いを強いられている。

そんな中にあって世界的にシェアを急速に伸ばしているイタリアンブランドがクォータだ。この今をときめくブランドの哲学と魅力を、本スペシャルコンテンツのナビゲーター、今中大介氏(インターマックス代表)の言葉とともに紹介しよう。

フォークメーカーとして技術を磨き、カーボンフレーム時代に躍進する

クォータの出発点は1992年、ミラノ郊外に創設されたフロントフォークを製造するシンテマ社にある。創業当初はスチール素材の製品を手がけていたが、1990年代中ごろに転機が訪れる。重量が軽く振動吸収性に優れるカーボン製フロントフォークの台頭だ。同社はその時代が来ることを見据えてカーボンフォークの生産にいち早くシフトし、国内外のバイクメーカーのOEMによって大きな成功を収めた。

クォータを代表する「K」ロゴ。既に大きな知名度を得てきたと言えようクォータを代表する「K」ロゴ。既に大きな知名度を得てきたと言えよう
サイクルモードなど大規模サイクリングショーでも、常に大きな注目を集めるようになったサイクルモードなど大規模サイクリングショーでも、常に大きな注目を集めるようになった
スタッフとしてかつての山岳王C・キアプッチが開発に関わっているスタッフとしてかつての山岳王C・キアプッチが開発に関わっている (c)www.kuotacycle.it


同時にバイクメーカーからの厳しい要求をクリアすることでカーボン技術にも磨きをかけ、それを基にカーボンフレームの製造にも着手。まだイタリアのトップメーカーの多くが、アルミをはじめ金属系のフレームをフラッグシップに据えていた時代だ。そして2001年のミラノショーで「KSANO(クザーノ)」を発表し、クォータはバイクメーカーとしてスタートを切る。この時、すぐに注目したのがインターマックスだった。

「2001年のミラノショーで初めてクォータの製品を見たけれど、手抜きのない作りで高い技術力を持っていることが分かったね。翌年から取り扱いを始めたけれど、当時はまだ知名度は低く、「インターマックス/クォータ・コルサ」というダブルネームのモデルを販売し、まずは日本のみなさんに信頼してもらうことから始めたんだ。そして、その後に樽型のヘッドチューブが特徴的なKHAN(カーン)など、次々に優秀なモデルが発表されてね。そのお陰で今では信用されるブランドになったんだ。」と今中氏は語る。

常にオリジナリティを大切にし、デザインと機能を高次元で融合させる

近年でこそフランスのAg2r(アージェードゥーゼル)などのトップカテゴリーのチームをサポートする実績もあるが、クォータは派手なスポンサーシップというよりも、優れた製品の数々がロードバイカーに評価されてシェアを伸ばしてきた印象が強い。実際のところフレームメーカーとなってからというもの、ずっと販売台数を伸ばしいているそうだ。

2009年のツールでKOMを駆るブリス・フェイユー。この時の走りはクォータの知名度を一気に上げた2009年のツールでKOMを駆るブリス・フェイユー。この時の走りはクォータの知名度を一気に上げた photo:Cor.Vos
2012年まではAg2rをサポートした2012年まではAg2rをサポートした photo:Makoto Ayano
2014年、国内有力チームであるTeam UKYOをサポートする2014年、国内有力チームであるTeam UKYOをサポートする photo:Hideaki TAKAGI


「ユーザーを裏切らず、走る喜びを感じてもらうことを心がけた製品づくりをしている」
(今中大介)

「クォータの自転車作りは、何十万円もの金額を支払ったユーザーを裏切らず、走る喜びを感じてもらうことを心がけている。そして走る喜びと、作る喜びを感じている人たちの手によって製品が生まれている。生産自体はほかの多くのブランドと同じように国外だけれど、開発は全てイタリアで行なわれ、デダチャイでマネージャーを務めた経験を持つ現社長が先頭に立って指揮している。

他のイタリアブランドと違い、クォータは新しい設計は積極的に取り入れつつ奇をてらうことはしない。決してデザインだけじゃなくて、機能性がしっかりと伴っている。そして僕がすごいと感じるのは、デザインのインスピレーションが性能にしっかり結びついていること。」

「ミラノショーで見た際、手抜きのない作りで高い技術力を持っていることが分かった。」(今中大介氏)「ミラノショーで見た際、手抜きのない作りで高い技術力を持っていることが分かった。」(今中大介氏)
「例えばKIRAL(キラル)のダウンチューブ側面を凹むようにして大きく絞りを与えた形状は、縦方向の荷重に対してごくわずかなしなりがあり、脚に優しさを感じさせる乗り味を出している。もちろん開発には有限要素法など最先端の技術を用いているけれど、彼らはこうした解析しなくてもある程度、効果を想像してフレームをデザインしているんじゃないかな。そして、そのインスピレーションがしっかり性能に反映されている。性能の良さはもちろんだけど、こうしたセンスにすごみを感じるね。」

最近のフレームは、似たようなコンセプトや形状を持つフレームも少なくない。しかしクォータのフレームは、先に今中氏が語ったKIRALをはじめチューブ断面ひとつをとっても非常に複雑な形をしたモデルが多く見られる。さらには今や最新ロードバイクの定番である左右異形断面のチェーンステーや、快適性とヘッド部のねじれ剛性を両立する横扁平したアーチ型のトップチューブデザインなどは、2003〜2004年頃から既に取り入れられていたのだ。

側面に反りが与えられたKIRALのトップチューブ。ヘッド部のねじれ剛性と快適性をバランスするためだ側面に反りが与えられたKIRALのトップチューブ。ヘッド部のねじれ剛性と快適性をバランスするためだ ディスクブレーキを導入したロードバイク、KHYDRA(ホワイト/レッド)ディスクブレーキを導入したロードバイク、KHYDRA(ホワイト/レッド)

「ダウンチューブの形状を見ても、世間には似通ったフレームも多いよね。正攻法で考えれば、他社がやって実績のある形状や構造を真似ればいいのかもしれない。でもクォータは、他と同じではつまらないと常に考えている。例えば、現在はエンデュランスロードが世界的に流行っているけれど、彼らが作るモデルはただ単に快適性を高めただけじゃない。

KIRALを見てもそうだけど、ロードバイクらしい軽快な加速感があって快適性もある、メリハリのある走りを目指して作られている。単純に流行っているから、ほかがやって成功をしているから真似をするという姿勢はクォータには無いんです。」

ロードバイクの本質を忘れない硬派なフレーム作り

クォータのある本拠地は、かつてグランツールでも活躍したイタリアの名選手G・ブーニョ、C・キアプッチの出身地に近く、国内でも最も自転車競技の盛んな地域のひとつだ。毎週のようにどこかでロードレースが行なわれ、サイクリストたちのレースを見る目は肥えている。

当然ながら人々のロードバイクに対する要求もとても高い。イタリアンロードが世界的に評価されるのは、レースをバックボーンにした自転車作りがあるからだ。エンデュランスロードが世界的にシェアを伸ばそうが、イタリア人にとってのロードバイクといえばレースをするための機材であり、速く走るためのものである。

「より速く、より遠くへという欲望を満たしてくれることこそが、ロードバイクの醍醐味。そういったことが根幹にあって、その上でコンフォートだったら、より良いよね。クォータの自転車作りの基本もまさにそこ。エンデュランスロード系のモデルもあるけれど、まずは競技にちゃんと対応できるだけの性能があって成り立っていて、それはハイエンドに限らず、どのレベルのモデルもしっかりと貫かれている。

クォータは本場ヨーロッパで磨かれ、性能を高めてきたクォータは本場ヨーロッパで磨かれ、性能を高めてきた photo:Cor Vosクォータは強烈にレースをアピールしているブランドではないけれど、彼らの本拠地の周りにはプロ選手や元プロ選手といった連中がたくさんいて、現在の社長もプロレースの世界をよく知る人物。そうした環境や人々のつながりがあるから、自ずと作られるものはロードバイクの本質を目指したものになるんです。」

「プロの世界を知るスタッフが作るから、自ずとロードバイクの本質を求めたものになる。」「プロの世界を知るスタッフが作るから、自ずとロードバイクの本質を求めたものになる。」 ロードバイクの価値観は、日本でもそうだが世界的にも多様化しており、ひと昔前のようにレースだけが好まれるものではなくなった。しかしながらレースがある限り、ロードバイクの速く、遠くへというロードバイクの本質は変わらない。北米のブランドが世界を席巻しているが、それでもイタリアンロードが世界のロードバイクの本質と呼ばれるのは、レースととともに生きているからに他ならない。

クォータはフレームメーカーとなって十数年の若いブランドだがロードバイクの本質を見極めるという価値観は常にぶれることはない。イタリアのトッププロチームで活躍し、同国の色濃いレース文化を吸収した今中氏とクォータというロードバイクに対する価値観の一致する両者が十数年前のミラノショーで出会ったのは偶然にして必然だったともいえるだろう。今中氏の言う「ロードバイクの根源的な速く、遠くへ走る楽しみ」を追い求めるクォータ。次頁からは、その各モデルの性能をインプレッションしていく。

ナビゲーター

今中大介(いまなか だいすけ)

国内の主要ロードレースを制した後、94年にイタリアのトッププロチーム、ポルティに加入。95年にジロ・デ・イタリア、97年にはツール・ド・フランスに参戦し、近代ツールを走った初の日本人選手となる。97年のジャパンカップを最後に現役引退し、翌年にスポーツバイクの輸入商社インターマックスを設立。自らのブランドを手がけるほか、国内外の一流自転車製品を取り扱う。国内チームへの機材供給、各種イベントへの参加を通じて、スポーツバイクの普及や啓蒙にも力を入れている。

インプレッションライダー

吉本 司(よしもと つかさ)

各種自転車専門媒体で執筆活動を行なうフリーのサイクルジャーナリスト。30年近いスポーツバイク歴にして50台を上回るスポーツを所有してきた経験、繊細な感覚を生かして、ロードバイクを中心としたハードウエアの解説・試乗レポートを執筆する。またハードウエアだけでなく、レースから歴史に至るまで幅広いジャンルに造けいが深いことでも知られる。現在はホビーレースへの参戦やロングライドを楽しむ。
提供:インターマックス text:吉本司 編集:シクロワイアード