世界最速のエアロロードバイクと銘打ってデビューしたプロペル。本項では、業界最大手のジャイアントが丸2年を掛けたプロペルの開発ストーリーと、車体に詰め込まれた最先端テクノロジーの詳細について迫っていく。ライバルブランドのハイエンドエアロロードと比較し、1km走る毎に1秒リードしていくという圧倒的な空力性能の秘密とは。

"最速ロードバイク"を具現化したPROPEL

プレゼンテーションを行うニクソン・ファン氏。プロペルのチーフエンジニアだプレゼンテーションを行うニクソン・ファン氏。プロペルのチーフエンジニアだ
発表会初日の夕方から開催されたプレゼンテーションは、ジャイアントのロードバイク開発チーフであるニクソン・ファン氏によって進行していく。スライドには競合他社との比較数値などが次々と提示され、「史上最速エアロロードバイク」たる理由が次々と語られていった。

プロペルの開発ヒストリーが次々と明らかにされていくプロペルの開発ヒストリーが次々と明らかにされていく エアロロードバイクが台頭してきた現在、「風洞実験」や「CFD解析」、「時速●kmで何秒を短縮」という言葉は既に一般化してきたと思う。もちろんプロペルもそうしたプロセスを経て誕生したバイクだが、プレゼンテーションで強調されたのは、実際の走行で想定されるシチュエーションをできる限り再現しテストを行ってきた、という点だ。

実際の走行環境を踏まえた空力性能を纏っている実際の走行環境を踏まえた空力性能を纏っている 実際にはプロ選手からかたどった独自の可動マネキンを作成し、現実のライディング環境により近い状態でのシミュレーションを行ってきた。エアロフレームで懸念される横風に対しても当然テストを行い、進行方向に対してヨー角0〜15°という現実に最も起こりうる範囲内のテストに力が入れられた。不動状態の一般的なダミー人形を乗車させ、単に前方からの風を当てた実験とは訳が違う。

90年代後半にスローピングトップチューブを世界に送り出したジャイアントだが、エアロダイナミクス追求のため、プロペルにはホリゾンタルデザインにごく近い、僅かなスローピングを伴ったトップチューブを採用してきた。

実際に目にしたプロペルはエアロロード然としたフォルムながら、極端なまでに薄い部分はライバルメーカーのバイクと比べ少ないように感じる。ヘッドチューブは真ん中がくびれたエアロデザインだが、上側1-1/4インチ、下側1-1/2インチのOVERDRIVE2はある程度の太さがあり、BB86規格のボトムブラケット周辺はTCRなどと比較してもひけを取らないボリュームを有している。



しかしボトルを装着したことを前提としたダウンチューブの造形や、薄いシートチューブとスートステーとの接合部の複雑極まるフォルム、専用のステム一体式ハンドル、そして翼断面形状のコラムスペーサーなど、細部に渡って非常に緻密な作り込みだ。

カーボンには東レ製T800グレードをベースとした最高峰クラスのものを採用し、製品そのもののグレード、軽量性、運動性能を高めている。TCRやDEFYのAdvanced SLにも奢られているカーボンの実力は証明済み。製造は全てジャイアントの自社工場において、ハンドメイドで行われている。

空力のみならず軽量性、走行性能にも妥協無し


単にエアロダイナミクスを追求したいのなら、TTバイクで良い。プロペルは空力のみならず、上りや下りも含めロードバイクとして必要な走行性能も同時に追い求めた製品だ。前項でも触れているが、このことはツール・ド・フランスでの難関山岳ステージで使用されている所からも明らかである。

ライバルとの空力性能比較ライバルとの空力性能比較
このことはライバルブランドとの剛性比較実験でも証明されており、ドイツの自転車雑誌「TOUR」の指標を用い、Mサイズでの比較を行ったところ、プロペルを含めた5車種中でヘッド剛性は112.46Nm/°で2番目、BB剛性は65.04Nm/°で3番目の値をマーク。それぞれの結果こそ目立っていないが、トータルでは最もバランスに秀でている。つまり安定した剛性バランスを実現したのである。

ライバルとのフレーム剛性比較ライバルとのフレーム剛性比較 ライバルとの重量比較ライバルとの重量比較

そしてやはり、プロペルの白眉は空力性能だ。時速40kmで、風の方向(ヨー角)を真向かいから徐々に増やしていくシミュレーションでは、ライバル車種と比較して常に低い空気抵抗値を記録し続け、特にヨー角10°では他を大きく上回る結果を出した。またプロペルで40km/hで距離40kmのタイムトライアルをした場合、2位に対して12秒、それ以下に対して30秒以上離す記録を計上。平均時速40km/hでの数値であることから、エリートアマチュアレベルのライダーにとっても大きなメリットを受けることができる。より高出力をキープできるプロライダーならば殊更大きなアドバンテージが生まれるはずだ。

ジャイアント PROPEL Advanced SL 3ジャイアント PROPEL Advanced SL 3
そうして生まれたプロペルは、エアロロードとしては最軽量クラスのフレーム重量1090g(ISP含)を達成している。その値だけならばジャイアントがライバルとして挙げた4車種と比較して2番目だが、フォーク、シートポスト(ISPクランプ含む)、ブレーキセット、ヘッド小物を含めた場合には最軽量、空力性能で2番手につけたC社のバイクに対しては406gも軽量である。

圧倒的なエアロダイナミクスと、従来のエアロロードバイクを上回る剛性バランス、そして走行性能を兼ね備えたのがプロペルである。

提供:ジャイアント text:シクロワイアード編集部