9月1日、長野県野辺山を舞台に国内初となるRapha Gentleman's Raceが開催され、CWチームもここに参加。5人1チームでダートを含む険しい山岳コースを越えゴールを目指し、落車や相次ぐパンクを乗り越え感動のゴールを迎えた12時間のレポート。

アメリカから始まったRapha Gentleman’s Race

イギリス発のパフォーマンスサイクリングウェアブランドとしてお馴染みのRapha(ラファ)。他ブランドの追随を許さないデザインセンスに共感し、Raphaのホームページを覗いたことのある方ならば、一度はそこに掲載されているムービーを見たことがあるのではないだろうか。チームで揃いのジャージを着て大自然の中を走り、時に険しいダートを含む山岳路を越えていくその姿を。

早朝6時前、42名のジェントルマンたちが野辺山に集った早朝6時前、42名のジェントルマンたちが野辺山に集った 編集部員3名と強力な助っ人で構成されたCWチーム編集部員3名と強力な助っ人で構成されたCWチーム


Rapha Gentleman’s Race(ラファ・ジェントルメンズレース)は、自転車黎明期におけるロードライディングのルーツをリスペクトしてアメリカで発祥したライディングイベントだ。仲間同士で5名のチームを組み、常に一緒に行動して協力しながらゴールを目指すという特徴がある。その厳しいルートや独自のルールが話題を呼び、オーストラリアや本国イギリスでの開催を経て、今回国内で初の開催を迎えた。

エントリーフィーとして徴収されるのは各チームあたり地ビール1ケースエントリーフィーとして徴収されるのは各チームあたり地ビール1ケース Glory Through Suffering(苦痛の先の栄光)というスピリッツを持つRaphaだけに、そのルートは厳しいものが設定される。今回、山梨県の山岳地帯で開催されたRapha Koshin Gentleman's Raceも例外ではなかった。開催の2週間前、編集部に送られてきた招待状には、距離140kmで獲得標高4000mという驚きの数字が記されていた。

コースの中盤に控える大弛峠は、「車で越えられる最も標高の高い峠」として有名な場所だ。峠の片側は荒れたダートとなっているが、今回はあえてそのダート側から上るという。

国内初開催のユニークなイベントとあって、CW編集部も即決で参戦を決めたのだが、「とてつもなくガレている」「補給不可の区間が非常に長い」などという事前情報が入るにつれ、不安と期待は高まっていくばかり。

しかしそれでもなお、今思えば、誰もがあんなハードなコースを走るとは思っていなかったのではないだろうか。


黄金の朝日差し込む野辺山をスタート

迎えた当日朝。朝日が眩しい滝沢牧場横の会場には、13チーム63名のジェントルマンたちが集結した。我がCWチームのメンバーは、レポーターである私・磯部、綾野、細田の編集部員3名と、助っ人の久保田さん、女子レーサー安田さんの計5名。ちなみに、メタボ会長が完走できるコーススペックではないため、今回会長の登場は見合わせた。

素晴らしい天気に恵まれた野辺山の地を走りだす素晴らしい天気に恵まれた野辺山の地を走りだす
出走は、走るのが遅い(と思われる)チームを先頭に、3分間隔でのスタートだ。そこで我がCWチームは1番目の出走である。これについては、出場チーム中唯一女性が含まれていたことによるレディーファーストがあったとか、なかったとか。

朝6時10分、予定よりやや遅れて我がCWチームはスタートを切った。車の全く走っていない長閑な道を、眩しい朝日を受けながら走りだしていく。9月の始めで東京では早朝でも残暑が厳しい頃だが、標高1300mを超える高原地帯の空気はひんやりと気持ちが良い。先が長く厳しいので、ペースはおしゃべりができるほどゆっくりだ。

馬越峠のビュースポットで小休止馬越峠のビュースポットで小休止 美しい隊列を組むASTN BONSAI Gentleman。リスペクトがある。美しい隊列を組むASTN BONSAI Gentleman。リスペクトがある。


コースはすぐに標高差350mを降りる下りを経て、最初の峠へと差し掛かる。距離3kmで200mを上る峠道だが、とてつもなく道が細い。深い山の中を走る曲がりくねった道は、何百年前からの峠道をそのまま舗装したような雰囲気。案内状に「長野・山梨県境のディープマウンテンをお楽しみ下さい」とあったことが思い出される。最初の峠からとてつもなくディープだ。

峠に設定されたKOM峠に設定されたKOM このGentleman’s Raceでは、チーム内にガーミンのGPS付きコンピュータの所持が義務付けられる。峠にはKOM(キング・オブ・マウンテン)が設定され、走行データのアップロード/シェアサービスであるSTRAVAを用いて走行データを管理したり、ヒルクライムのタイムを競い合うという趣向だ。

ふとすると古の時代に思いを馳せるイベントかと思いがちだが、最新機材を使ってゲーム性を高めるなど、単なる懐古主義だけには留まらない。各チーム、ハッシュタグ「#RGR」をつけて、TwitterやInstagram、FaceBookに写真を投稿したりしながら走る。時代はSNSである。

上りと同じく曲がりくねったダウンヒルをこなし、次は距離5kmで400mを上る馬越峠にかかる。立派な厳しい山道だが、先程に比べれば幾分か道幅も広く走りやすい。頂上付近ではパノラマビューを楽しむなど、まだまだ脚には余裕がある。

テクニカルな下りをクリアして、この次の峠は最難関である大弛峠。ゴールの制限時間は18時までとスタートから12時間があるが、余裕をもって進まないとどんなトラブルが待ち受けているか分からない。当CWチームは濡れた路面にタイヤを滑らせ、下りで2名が落車。慎重になっていても、険しいコースの洗礼を受ける。


距離10km 標高2365mを目指すダートクライム

そしてスタートから50kmを過ぎ、大弛峠のヒルクライムに突入した。最初こそ舗装路が続くが、それも登山道を舗装した程度のもので、普通車が通るのがやっとといったところ。

大弛峠。あまりの厳しさの押しが入る大弛峠。あまりの厳しさの押しが入る
すぐに舗装は途切れ、未舗装路が始まった。踏み固められたダートを想像していたのだが、つづら折れを繰り返し高度を上げる道には、握りこぶしほどの石がガラガラと転がっている。

「本当にこんな悪路を上るのか....」 思わず気が遠くなる。

10kmで獲得標高800mを稼ぎだすため、単純に平均勾配は8%。それも荒れた石だらけの道をロードバイクで走るためとにかくハードだ。苦しくても先を見ていないとラインが読めず、障害に当たって脚をついてしまうことになる。行き場を失ったことによる立ちごけ落車も頻発した。

ロードレース黎明期を思い起こさせるルートロードレース黎明期を思い起こさせるルート 大弛の中盤は、それまでに比べればやや走りやすい大弛の中盤は、それまでに比べればやや走りやすい


私は34×28のギアに助けられ足攣りは無かったものの、スピードが出ずに前に進まない。雰囲気は完全にSDA王滝のそれと同じだ。39Tのノーマルフロントギアを装備した人はさぞかし大変だっただろう。

ダートの約束事だが、勾配がキツい部分は水が流れるため決まって路面状態が悪い。大弛は後半になってその急峻なガレ場区間が長く待ち受けていた。

静かな山道に響くのは、石と砂を踏む音と、自分の息遣い、そして時折聴こえる鹿の鳴き声。白い雲が辺りを包むその様は、まさにグレートジャーニーそのものだ。幸いにも私はパンクには見舞われず、激坂区間で歩きを入れつつも、1時間半をかけて上り切った。

山小屋にあった薪ストーブで暖を取る。最高にありがたい山小屋にあった薪ストーブで暖を取る。最高にありがたい

寝たら走り出せなくなりますよ...寝たら走り出せなくなりますよ... こだわりの自転車も多かった。写真は「...andBicycle」の店長渡辺さんのドバッツこだわりの自転車も多かった。写真は「...andBicycle」の店長渡辺さんのドバッツ


標高2365mの峠の頂にある山小屋ではカレーが準備され、暖炉で暖まりながら大休憩を取る。普通のカレーなのに、やたら美味しい。カレーってこんなに美味しかったかな。


雨、荒れた舗装、パンクに苦しめられたダウンヒル

霧状の雨が止み、晴れ間が差してきたので準備を整えて再出発。ここからは15kmほどのダウンヒルだが、ここに来て土砂降りに見舞われてしまう。標高2000mオーバーの下りで豪雨だなんて、まるで何かの罰みたいだ。一瞬雨宿りをするものの、雲の切れ目は無く、寒さに耐えながら先に進むことにする。

あまりの土砂降りに緊急避難あまりの土砂降りに緊急避難

舗装路でも崩落があって気が抜けない舗装路でも崩落があって気が抜けない 後半の荒れた下りではパンクが頻発 ダートの上りよりも実は厳しかった後半の荒れた下りではパンクが頻発 ダートの上りよりも実は厳しかった


短時間で距離を稼げる下りだと喜んだのに、寒さが苦痛で仕方がない。頻発するグレーチングはご丁寧に全てが路面から浮き上がり、その段差はチームにパンクを頻発させた。一人なら確実にリタイアしているだろうが、これはジェントルマンたちのレース。仲間がいて、困ったときは助けてくれる。この時あたりからチームの仲間意識が自然と高まっていたように思う。

エイドステーションで補給を入れて、もうひと踏ん張りエイドステーションで補給を入れて、もうひと踏ん張り 長い下りをクリアし、200m登ったら500m下り、そしてまた500mを登り返す。雨は勢いを弱めたものの止む気配が無く、コンディションは依然として厳しいまま。激しさ・厳しさは大弛に及ばないが、後半になっても道は険しさを失うことを知らない。

この上りはいつまで続くのだろう? 次はどの位? もうどんな道が現れても驚かない。時間的に完走は厳しいかもしれない。

思えばあの王滝100kmの後半にも、これと同じ心境だった。今は一刻も早くゴールしたい気分だけれど、ゴール後少し経てば、きっとまた参加したい、走りたいと思うんだろう。いつだってそうだけれど、今回はそれがより大きい予感がする。

後半には2ヶ所のチェックポイントが準備され、サインをすると同時にエナジードリンクやフードの補給を受ける。でも長時間休んだり、座ったりしてしまったら最後、二度と動けなくなりそうだ。


夕暮れが近い。感動のゴールへ

最後のチェックポイントで、「下ったらあと3km上るだけだよ!」と言われていたのに、ずっと登り基調なのでそれがどこからなのかさっぱり分からなかった。「この道を走る車における軽トラ率って、ほぼ100%なんだろうな」とか、そんなことを思わせる畑の中の登りをこなしていく。

コースは終盤。目の前の頂上に向けてもがくコースは終盤。目の前の頂上に向けてもがく

メーターは残り距離がわずかな事を教えてくれるが、確信が持てない。この激坂区間で追いついたTeam Blue Lugは、遅れたメンバーを皆で待っていた。このチームがレース後には「ベストジェントルマン賞」を獲得することになる。頂上にやっとの思いで辿り着くと、そこからは夕暮れに染まる野辺山の市街地を見渡すことができた。そこでやっと、ゴールが近いと意識することができた。

雨は少し前に上がっている。
雄大な八ヶ岳の稜線が、雲の切れ目から薄い光に照らされている。
残りは時間はわずかだが、ゴールは近い。急げば完走できそうだ。自然とペダルを踏む脚にも力が入る。

最後の小休止 ゴールは近い最後の小休止 ゴールは近い

畑の間のガタガタ道を下ると久しぶりに出逢う平坦路。ここまでの道のりは、文字通り平坦では無かった。下ハンドルを持って一列棒状で進む。ゴールの少し手前でウインドブレーカーを脱ぎ、揃いのジャージで最後は進む。そして18時を少し回った頃、11時間47分のタイムをもって、全員が笑顔でゴールに滑り込んだ。制限時間ギリギリである。

落車、パンク、高地での土砂降りなど、トラブル全部盛りの様相を呈したCWチーム。成績的には下から数えたほうがずっと早いものだったが、そんなのはもうあまり関係無かった。5人揃って完走できたこと。それに尽きる。


Glory Through Suffering

その夜は、走り切った仲間たちとオーガナイズしてくれた関係者一同で、滝沢牧場へ場を移してのバーベキューパーティ。各自持ち寄った地ビールを楽しみながら、チームの垣根を越えて大きく盛り上がったのことは言うまででも無い。

互いに健闘を讃え、大いに盛り上がったバーバキューパーティー互いに健闘を讃え、大いに盛り上がったバーバキューパーティー 楽しくなかったわけが無い!最高の笑顔!楽しくなかったわけが無い!最高の笑顔!


こんな過酷で、美しくて、独特の世界観のあるイベントを実現できるのはきっとRaphaだけだろう。過酷なイベントは数あれど、ここまで仲間と一緒に達成感を味わえるイベントは聞いたことが無い。

誰しもが気軽に参加できるイベントでは決して無いが、その道は険しくとも、最高に楽しいイベントだった。次回は春先、関西方面に場所を移して開催が予定されているという。今イベントのさらなる発展に大いに期待したいところ。そして、その折にはまたぜひとも参加したい。





今回、私たちが取材参戦をさせて頂いたRapha Koshin Gentleman's Raceを支えて下さった大会関係者並びにサポートスタッフの皆様に心より御礼申し上げます。


フォトギャラリー(Google Picasaウェブアルバム)

走行データ (GARMIN Connect)



text:So.Isobe
photo:teamCW,yufta

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