前回の試走で伴走しながら聞き取り調査をしてくださった大河原氏の 「僕が感じたメタボ会長のリクエストの答えは、各ハイエンドモデルのなかで振動吸収性がかなり高いバイクです」 という助言をもとに、編集部一同が一丸となってメタボ会長のための「ドリームバイク探し」という宿題に取り組んできた。

様々なヒアリングと検討を繰り返した結果、我々が辿り着いた答えがムセーウのフラックスファイバーフレーム。以前、インプレを行った際にも、各テスターさん達の間で「このバイクの振動吸収性能は半端なレベルではない」という意見が圧倒的だったのだ。

ひょっこりお借りできた ひょっこりお借りできた "ムセーウMF-5" こうして、ドリームバイク候補の最右翼が決まったまではいいのだが、問題は、このバイクをどうやってゲットするかである。
本社からの予算援助が期待できない以上は、購入という選択肢は100%存在しない。

「ウチのメタボが乗りたがっているので貸して下さい」と言った所で、メーカーさんにお借りできる可能性も限りなくゼロに等しい。

編集部員の友人や知り合いに片っ端から当っては見たのだが、運良くムセーウを所有する人には到達できなかった。

完全に行き詰った私がダメ元で、総輸入元であるフタバ商店の角社長に電話で相談をしてみると、
「丁度、試乗車がかえってきてますからいいですよ。」
思わず耳を疑ってしまう程の有り難いお言葉がすんなりと帰ってきた。正直、拍子抜けという表現がピッタリな展開である。

なんでまた、すんなりオッケーを頂けたのかを角社長に訪ねてみると、
「メタボ会長がフタバ商店が取り扱っているBMCのジャージを着てくれていたから(笑)」との事。

「このフラックスファイバーとやらがなかなかイイらしいぞ。」「このフラックスファイバーとやらがなかなかイイらしいぞ。」 世の中、何が幸いするか判らないものである。

実はあのBMCのジャージは編集長の私物で、唯一Lサイズのモノだった為に、メタボ会長が勝手に強奪していっただけのモノなのだ。

早い話が、あれ以外のジャージは小さ過ぎて着れなかっただけの事なのだが・・・。

どんな理由であれ、試乗車の手配に漕ぎ付ける事が出来た編集部。風は我々に吹いているといった感じである。

早速、編集部が辿り着いた結論を大河原氏に報告すると、

「ムセーウのMF-5ですか?シクロワイアードのインプレでもかなり高い評価だったバイクですよね?それなら問題解決の可能性は高いですね(笑)」
予想通り、評価は上々のようである。この選択は万人が正しいと認める内容に違いないと自己満足に浸る私であった。

こうして意気揚々と迎えた試乗当日。有り難い事に、大河原氏が再び同行してくださる運びとなった。(大河原さんも懲りない人なんですね・・・。)

晴天に恵まれて試乗会のスタートです晴天に恵まれて試乗会のスタートです 「これカッコイイだろ?」 大河原さんに自慢してます。「これカッコイイだろ?」 大河原さんに自慢してます。


集合場所の多摩湖新堤防でメタボ会長と合流を果たした私は、真っ先に今日に至るまでの流れを説明したのだが、

「そっか、ご苦労さん。ところでこのムセーウってのは有名なバイクなのかい?見た目がちょと地味だな。」
と、乗っけから私の気分を害する言葉を吐いてくる。

「クラシックハンターとまで呼ばれたヨハン・ムセーウ氏が開発したバイクですよ!素材のフラックスファイバーの振動吸収性能が抜群なんです!」

息を荒げて説明するものの、当のメタボ会長は全くピンと来ていない様子で「ふ~ん。そうなんだ。」と一言。
こんなオヤジの為に、試行錯誤を繰り返していたかと思うと、悲しい気持ちで心が折れそうになる。

「じゃ、ちょっくら行ってみるかい?」前回同様、マイペース丸出しなメタボ会長の掛け声で試走がはじまる。
しかし、前回と明らかに違っているのはメタボ会長の表情である。

「コイツは調子イイぞお!」 上機嫌のメタボ会長「コイツは調子イイぞお!」 上機嫌のメタボ会長 石畳も全く気にならないみたいです。石畳も全く気にならないみたいです。


「おぉぉぉ!こりゃいいぞ!」
「俺のヴィーナスちゃんに比べても全く遜色無い軽快さだぜ!乗り心地はコイツの勝ちだな!」

ワガママオヤジも今回ばかりは、かなり好感触の様子である。もっとも、走り始めはいつも機嫌が良いのが慣例になっているだけに、額面通りに受け取る訳にはいかないが・・・。

我々のホームコースである多摩湖サイクリングロードには、舗装が痛んでアスファルトが削れ、骨材が剥き出しになってしまっている区間が所々にある。中でも特に痛んでいるのが鹿島休憩所1km手前辺りの上り区間で、メタボ会長はいつもここで失速するのがお約束になっている。だが、今日は違う。

フラックスファイバーの実力は相当のモノのようですフラックスファイバーの実力は相当のモノのようです 「マジメに乗り心地は最高だよ!」 大満足のご様子「マジメに乗り心地は最高だよ!」 大満足のご様子


「いつもなら路面から突き上げを食らうととたんにスピードが落ちちゃうんだけど、この自転車は全然平気だよ。突き上げが来ないから、振動で出力をロスするって事が無いぜ」と、ブツクサ言いながらも至って満足げな表情で登り続けるメタボ会長。どうやら、この様子だとドリームバイク探しの完結は、すぐそこまで来ている様子である。

いつもの様に、ホームコース2周を小1時間掛けて試走を終えた私達は、メタボ会長相手にヒアリングに臨む。

「軽快感は合格!振動吸収性は98点!あとほんのちょっとだけ柔らかい乗り味なら完成だな。」
輝く表情で答えてくるメタボ会長。

いきなりの手応えに、思わず表情が緩む大河原さんと私達に対し、オヤジの熱弁は止まらない。

「こんなに調子のいいバイクってあるもんなんだな。ビヨーンビヨーンって感じで、どんどんスピードが乗ってく感じだよ。平坦から緩い登りまでなら、俺のヴィーナスちゃんより楽に走れそうだよ。(笑)」

「やっぱ、俺達ジジイ連中には体に負担が掛らないバイクってのは最高だな。コイツなら長距離イベント行ったって疲れ知らずの楽チンバイクだぜ!」

「これオレに、くれないかな?」 ダメです!(キッパリ!)「これオレに、くれないかな?」 ダメです!(キッパリ!) ヤラセ抜きに、オヤジ大満足って感じですヤラセ抜きに、オヤジ大満足って感じです


これで、ドリームバイク探しの宿題は決着に間違いなし!と私達の気が緩んだ頃合いを見計らったかの様に、オヤジの小言が始まった。

「唯一気になったのが、全力ダッシュした時に、このバイクの持ってるビヨーンビヨーンのリズムと、俺の漕ぐリズムが合わなくてバランスを崩してコケそうになる事があったな。」

はいはい、それはアンタのペダリング・スキルの問題で、このムセーウに罪はありませんから!(きっぱり!)

「それと、もうひとつ・・・ちょっとケツが痛い!」

素っトボケた感想に「知らねえよ!でっかいシートでも付けとけよ!」と、私が心の中だけで激しく怒鳴った事は言うまでも無い。
ただ、ムセーウの持つ抜群の振動吸収性能のおかげで、この場の空気は底抜けに明るい。メタボ会長も大満足の様子である。

その後、念のために用意してあったコンフォートシートと太めの25cのタイヤに換装したムセーウで再び試乗を行う。

「やっぱり、シートはこれじゃなきゃね!」「やっぱり、シートはこれじゃなきゃね!」 「チョット太いだけだけど、効果有るの?」「チョット太いだけだけど、効果有るの?」


かなり急な登り坂をヘロヘロになりながら漕ぎ続けるメタボ会長。ただ、その表情は真夏の太陽の様に輝いている。「タイヤが太いと更にイイね!最高かもな!(笑)」毒舌オヤジには珍しく、手放しで高評価を連発する。

一仕切り遊んだところで、毒舌メタボ会長から”完全合格”を告げる言葉が発せられた。
「おぉぉ!このバイクが欲しいぞぉぉ!」その表情は大満足以外のなにものでもない事は誰の目にも明らかである。

キツイ登りも楽しそうに上がって行きますキツイ登りも楽しそうに上がって行きます 「2mmの違いが大違い!このサイズはイイねえ!」「2mmの違いが大違い!このサイズはイイねえ!」


そんなオヤジが、満面の笑みを浮かべながら、最後の余力を絞って、我々に毒を吐いてくる。
「こんなナイスなバイクがいきなり見つかるんだから、いままでテストした自転車の中で一番振動吸収性に優れていた自転車を持ってきなさい。君達がやってるバイクインプレッションに、振動吸収性が良いとか悪いとかって書いてあるじゃない?」

今日のオヤジは全くの疲れ知らず。付き合いきれないかも今日のオヤジは全くの疲れ知らず。付き合いきれないかも 「だから!それがこのムセーウなんですよ!」

流石の私も我慢できずに激しい口調で反論してしまったが、全員の充実感のおかげで場の空気が悪くなる気配は、微塵も無い。

それどころか、メタボ会長を始め、その場の全員の表情が光り輝いているのが、とても印象的である。

湖畔に零れる春の日差しも手伝い、爽やかで穏やかな時間が私達を包みこんでゆく。この時間がずっと続く事を期さずにいられないほど、心地良い空気に満ち溢れている。

本当に自転車ってイイもんである。

「やれば、できるもんだな。ロングライドにはコイツで決まりだな!(笑)」
メタボ会長のこの言葉でドリームバイク探しの案件は終幕を迎えた。

これで、宿題は無事完結である。終わり良ければ全て良し!充実感と安堵感に満たされる私達であった。

初めはメタボ会長の単なるワガママから始まった案件ではあったが、我々の視野が少し広くなる良い機会だったような感情すら芽生え始めているのも確かな事である。


「俺達ジジイライダーにコイツは最高のバイクだぜえ!」 メタボ会長の輝く笑顔を見ると我々まで幸せな気分になります。「俺達ジジイライダーにコイツは最高のバイクだぜえ!」 メタボ会長の輝く笑顔を見ると我々まで幸せな気分になります。

海外のトップレーサー達が駆るバイクが素晴らしいモノばかりなのは確かではあるが、一般ユーザーが”乗る事自体”を高い次元で楽しめるバイクもまた同等以上に素晴らしいモノであると云う事を自転車愛好家の皆さんに伝えていかなければと、再確認させられた案件だったようだ。

我々編集部もこれを機に、今まで以上に、自転車を初めてみようと云う初心者から経験豊富なサイクリストさんまでを網羅できるような情報を発信していかなければと、身の引き締まる思いを感じるのであった。


これにて、今回の案件は無事終幕です。
フタバ商店さん、大河原さん、並びにご協力頂きました皆様に心より感謝申し上げます。 編集部一同。





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「ポイ捨てはダメだぞ!携帯灰皿を忘れずに。」「ポイ捨てはダメだぞ!携帯灰皿を忘れずに。」 メタボ会長
身長 : 172cm
体重 : 87kg→79kg→85kg
自転車歴 : 13ヶ月目

当サイト運営法人の代表取締役。
高校3年まで野球に明け暮れ、大学時代にオートバイのロードレースに夢中になり、卒業後メーカー系チームに所属し全日本選手権に3年間出場。鳴かず飛ばずで所属チームを解雇された後、平成元年に現法人を設立、平成17年に社長を引退。平成20年よりメディア事業部にて当サイトの運営責任者兼務となるが、その勤務実態や社内での立場は謎に包まれている。ゴルフと暴飲暴食をこよなく愛し、タバコは人生の栄養剤と豪語する根っからの愛煙家。