東京の臨海部にある流通センターで毎年恒例のハンドメイドバイシクル展が開催された。今年は会場が変わり、装いも新たに過去最多となる52のブースが出展した。ビルダー達のこだわりが詰められたユニークなバイクの数々を紹介していこう。


大田区の臨海部にある東京流通センターが会場となった大田区の臨海部にある東京流通センターが会場となった
毎年1月に東京で開催されているハンドメイドバシクル展。競輪選手にフレームを供給するビルダーが中心となり、1988年から開催されているハンドメイドバイクの展示会である。今年は例年使用している東京・千代田区にある科学技術館が改修中ということで、大田区にある東京流通センターに会場を移しての開催となった。

出展ブースは過去最多となる52ブース。クラシックなランドナーやロードレーサーを出展するブースや、ハンドメイドならでの特別なオーダーフレームを展示するブース、時代の流れに合わせてディスクブレーキに対応したロードバイクやグラベルロードなど、多種多様なバイクが登場。出展数は年を追うごとに増えており、ハンドメイドバイクと自転車文化の多様性が垣間見る事が出来るのだ。

BYOB Factoryの家庭でフレームビルディングが可能になるジグは多くの人が興味津々BYOB Factoryの家庭でフレームビルディングが可能になるジグは多くの人が興味津々 ロウ付け部分のヤスリがけ体験ができたロウ付け部分のヤスリがけ体験ができた

イタリアの「BIXXIS」は多くの人で賑わっていたイタリアの「BIXXIS」は多くの人で賑わっていた ドリアーノ・デローザ氏が来日しており、希望者には直接採寸しジオメトリーを決定していたドリアーノ・デローザ氏が来日しており、希望者には直接採寸しジオメトリーを決定していた


そしてこの展示会一番のポイントが実際にフレームを作るビルダー達と直に話をすることが出来るということ。各ブースに展示車両はあるものの、それは各ビルダーにとって一例に過ぎない。ハンドメイドというからには、可能な限り夢を現実にしたバイクを制作する事ができるのだ。そんなフレームを実際にビルディングするビルダーと話をすることにより、その信念や誇り、細かな技術手腕に共感し、ビルダーと共に最高の1台を作り上げることが出来るのが、ハンドメイドバイクの醍醐味とも言えよう。

会場奥に設けられたイベントスペースでは、ロウ溶接を施したパイプのヤスリがけ体験をすることができ、フレーム制作の一端を自らの手で体験することができた。また、「BIXXIS」を手がけるドリアーノ・デローザさんが来日しておりトークショーも開催。希望者にはその場でドリアーノさんが身体を採寸しジオメトリーを設計してくれる採寸会も行われた。

ここからは各ブースに焦点を当てて各ブランドを紹介していこう。


岡安製作所(TUBAGRA)

岡安製作所が作るTUBAGRA croMOZU275岡安製作所が作るTUBAGRA croMOZU275
埼玉県川口市にある岡安製作所は工業製品の溶接加工全般を行う事ができる工房。特にTIG溶接についてはフレームビルディング界の中でも屈指の技術力を誇り、他のビルダー達も工房へ見学に来ることがあるそうだ。そんな岡安製作所が制作しているのが、ストリート系マウンテンバイクチームTUBAGRAのMOZUシリーズだ。

TIG溶接というのは電気を用いたアーク溶接の一種。一般的なロウ付けに比べてパイプに対する焼入れの範囲が少なくなることから、パイプが持つ本来の強度を保つ事ができ、軽量にも仕上げることが出来るという。この溶接方法はフレームに大きな負荷がかかるトリックやジャンプをするためのマウンテンバイクに最適であり、TUBAGRAのライダーがこぞって使い始めたのブランド創設のきっかけだ。

そこから製品化やラインアップ拡充という形でブランドが成長していき、ハンドメイドバイクブランドとして確率されるに至っている。そんな中でも今回出展されたのがTUBAGRA croMOZU275。27.5インチ(650B)ホイールに対応しており、アクションしながらトレイルを下るようなアグレッシブなライドを楽しむコンセプトで作り出された1台だ。

精度の高いTIG溶接でパイプの美味しいところを余すとこなく頂く精度の高いTIG溶接でパイプの美味しいところを余すとこなく頂く ドロッパーシートポストにも対応ドロッパーシートポストにも対応

フレームを保護するために巻いてあるチューブが玄人感を演出フレームを保護するために巻いてあるチューブが玄人感を演出 ダートジャンプなどのトリックがしやすいよう、リアセンターを詰めたジオメトリーだダートジャンプなどのトリックがしやすいよう、リアセンターを詰めたジオメトリーだ


フロントアップなどのトリックをしやすいようにチェーンステーを極限まで短くしているのが特徴で、バニーホップやダートジャンプなどがしやすいアクション系バイクに仕上がっている。またそういったトリックはフレームに大きな負荷を与えるため、一般的な工法のフレームだと短期間でクラックが入ったりしてしまうのだが、高精度なTIG溶接により、ハードな使い方をしても3年ほどの期間使えるフレームとなるのだとか。

今回は27.5インチに対応したフレームを持ち出し展示。エアボリュームのあるタイヤがアッセンブル可能となっており、ストリートだけでなくトレイルに持ち出して飛び跳ねながらトリッキーにライドを楽しむためのバイクだという。印象的な溶接痕が記憶に残るバイクでした。


Helavna Cycles(ヘラブナサイクルズ)

ヘラブナサイクルズ Helavna Signature Road Racerヘラブナサイクルズ Helavna Signature Road Racer
東京の東麻布という都心のど真ん中に工房を構えるHelavna Cycles(ヘラブナサイクルズ)。来年で10周年という節目を迎えるということで、これまでの制作を振り返り、その集大成として作り出したのが、Helavna Signature Road Racerだ。これまで街乗りバイクやランドナー、カスタムキャリアなど様々なバイクを制作してきたとのことだが、シンプルであることに着目し、純粋に自転車で走ることの楽しさを追求したロードバイクとなっている。

コンセプトは「近代スチールの黄金時代」。スチール素材がプロレースで使われていた時代をイメージしており、細部に至るまでこだわり抜いた1台だ。

最新のテクノロジーで作られているコロンバスのSPRITを使用最新のテクノロジーで作られているコロンバスのSPRITを使用 アメリカの名フレームビルダーであるリチャード・ザックス氏から提供を受けたラグを使用アメリカの名フレームビルダーであるリチャード・ザックス氏から提供を受けたラグを使用

ヘラブナサイクルズ The Urban Grinder PROヘラブナサイクルズ The Urban Grinder PRO ヘッドバッヂはよりモダンなデザインへ変更されたヘッドバッヂはよりモダンなデザインへ変更された


伝統的なラグドフレームだが、このラグはアメリカの名フレームビルダーであるリチャード・ザックス氏から提供を受けており、フレームの制作についても多くの技術的アドバイスを貰いながら進めたという。チューブには最新のテクノロジーで作られているコロンバスのSPRITを使用。本格的なロードバイクとしての走りを楽しめる。

この他にもオールロードバイク、The Urban Grinder PROも展示していたヘラブナサイクルズ。オーダーしてもらったお客様と納得行くまで打ち合わせし「本当に欲しい1台」を作り上げるために、手作業に限らず様々なアプローチでフレームを制作する事が出来る工房だ。


あぶくま自転車工房

あぶくま自転車工房の代表である坂田さんあぶくま自転車工房の代表である坂田さん
福島県に拠点を構えるあぶくま自転車工房。代表である坂田さん曰く「ユーザーの妄想をカタチにするお手伝いをしています。」とのことで、可能な限り要望に答えてくれる工房だ。今回展示されていたタイムトライアル用ロードレーサーもオーナーさんのスケッチを元にイチから作り出した作品になっているという。

元々はカンパニョーロのエアロクランクを入手したところから始まったとのことで、そこからクロモリのタイムトライアルバイクを作ろうということになったとのこと。カーボンのエアロフレームのようなフレーム形状を目指し、専用のチューブなどをチョイス。カーボンで制作する方が簡単ではあるものの、それをクロモリで行うところに趣があると言えるだろう。

オーナーの妄想をカタチにしたクロモリタイムトライアルバイクオーナーの妄想をカタチにしたクロモリタイムトライアルバイク
ハンドルもすべてクロモリで制作しているハンドルもすべてクロモリで制作している フォークからベースバーが伸びる個性的な設計フォークからベースバーが伸びる個性的な設計

BB周りもクロモリとは思えないボリューム感が特徴だBB周りもクロモリとは思えないボリューム感が特徴だ ブルベ用ファストランナーも展示ブルベ用ファストランナーも展示


BB周りもカーボンフレームのようなボリューム感で、フォークからハンドルまですべて制作。フォークから生えたベースバーは過去の名車を連想させ、非常に魅力的だ。個性的なルックスだが、それでいて走るためのジオメトリーは長年の経験を元に設計しており、至って普通のバイクのように乗ることが出来るという。

まさにオーナーの妄想をカタチにしたバイクということで、工房コンセプトを体現していると言えよう。頭の中で様々な妄想をしている方の夢の具現化をお手伝いしたいという坂田さんの思いが現れた1台だ。


Sunrise cycles(サンライズサイクルズ)

サンライズサイクルズはランドナースタイルのフレームを参考展示サンライズサイクルズはランドナースタイルのフレームを参考展示
東京の新宿区にワークショップ構えるSunrise cycles(サンライズサイクルズ)の高井さん。誰でもバイクビルディングが可能なレンタルスペース「BYOB Factory」なども運営しており、ハンドメイドバイクの裾野を広げようと活動しているビルダーの1人だ。

今回はショーモデルというわけではなく、たまたまお客さんからオーダーを受けていたという。ランドナースタイルのフレームを展示。仕事で移動することも多いというオーナーからの要望を受け、フレームを半分にすることが出来るカップラーをつけることでホイールほどの大きさに畳む事ができ、輪行なども行いやすいバイクに仕上がっている。

フレームを分離出来るカップラーにより、ホイールほどの大きさに畳む事が出来るフレームを分離出来るカップラーにより、ホイールほどの大きさに畳む事が出来る ブレーキはセンタープル等に対応ブレーキはセンタープル等に対応

エンド周りの細かい装飾など、ディテールに凝った作りに定評があるエンド周りの細かい装飾など、ディテールに凝った作りに定評がある レザー製のチェーンガードを取り付ける事が出来るレザー製のチェーンガードを取り付ける事が出来る


ランドナースタイルだが700Cのホイールが装着出来るようにといった、オーナーの要望を実現しつつ、ヘッド周りのラグフェレットの装飾や、エンド周りの装飾などのディテールにもこだわっているという。


WELD ONE(Ogre)

WELD ONEは製作途中のチタン製フルサスペンションダウンヒルバイクを展示WELD ONEは製作途中のチタン製フルサスペンションダウンヒルバイクを展示
京都府に拠点を構えるWELD ONEの代表、小西さんはチタンバイクの作成が得意なフレームビルダー。今回出展したのはWELD ONEの名前を一躍有名にしたチタン製のフルサスペンションダウンヒルフレームだ。展示されたのは製作途中のフレームとなるが、メカ好きには堪らない造形美が印象的である。

このバイクの原型となったダウンヒルフレームはイギリスのビスポークUKHBS2015に出展し、喝采を浴びた1台。前作ではチタン板6枚を張り合わせ、六角形にしたダウンチューブとしたが、今回は丸チューブを使用。それでも絶妙な曲げ加工やトラス構造を採用したリアスイングアームなどは健在で、見るものを魅了する造形美がある。

メカ好きには堪らないトラス構造のリアスイングアームメカ好きには堪らないトラス構造のリアスイングアーム CNCマシンで削り出したリンクがサスペンションに接続されるCNCマシンで削り出したリンクがサスペンションに接続される

美しい焼き色が入った曲げ加から技術力の高さが垣間見える美しい焼き色が入った曲げ加から技術力の高さが垣間見える もちろんシンプルなロードフレームも制作可能だもちろんシンプルなロードフレームも制作可能だ


このバイクを使用して神社の石段を下るレッドブルホーリーライドに出場している小坂さん。乗り味についてはチタンならではの粘りがあるため、トラクションが必要なところで粘ってくれて、コーナーリングスピードで差をつける事が出来るという。またリアサスペンションをオフロードオートバイのリンク式のような構造にすることで、接地感のある動きをしてくれるのも大きな特徴の1つだという。

text&photo:Kosuke.Kamata