“聖地”として、かつてのMTBブームを牽引した白馬岩岳のMTBコースが今年復活。ウインタースポーツの場として名高いこの地にリバイバルした、「世界基準の初級者向けコース」とは?そして「フロートレイル」とは?MTBにトライしてみたい、でも専用コースは敷居が高い気がする。そんな方にこそ訪れてほしいこの場所を尋ねた。



コースオープン前に駐車場に集合。マウンテンバイカーの朝は早いコースオープン前に駐車場に集合。マウンテンバイカーの朝は早い 鉄、カーボン、フルサス、リジッド。どんなバイクでも楽しめるのが白馬岩岳鉄、カーボン、フルサス、リジッド。どんなバイクでも楽しめるのが白馬岩岳


東京都内からは中央道と長野自動車道を使って4時間弱、名古屋から目指す場合も同じくらい。ちょっと遠いけれど、仲間と乗り合いならあっという間に到着するだろう。国内ウインタースポーツの中心地にあるIwatake Ski Fieldのゲレンデが、ここ最近、MTBファンの胸を躍らせている「白馬岩岳MTB PARK」の舞台だ。

白馬岩岳といえば、’90年代に巻き起こった一大MTBブームを牽引した中心地。かつてのコースは10年も経たず惜しまれつつ閉鎖したのだが、ひょんなことから2015年に復活。ローカルでMTBガイドをしていた堀さんと、ライダーの雨宮さんが、半ばボランティアとして白馬岩岳復活のために動き、そこにスキー場を管理運営する会社からの許可が降りた。あれよあれよという間にMTB事業部ができ、オーストラリアの世界的トレイルビルダーを呼び込んで、現在のコースが生まれたのだ(この辺りのストーリーは別レポートにて紹介します)。

SNSのタイムラインで、特に今年の夏から目立つようになってきた「岩岳ヤバい!」「岩岳サイコー!」といった投稿の数々。それを確かめるべく訪れたのだが、驚いたのが、ド平日にも関わらずMTBライダーが非常に多いこと。しかも東北や近畿関西ナンバーを付けたクルマも少なくない。誰かが「MTBが再燃してる」と言っていたが、それにも納得。はやる気持ちを抑えつつ、バイクと共にゴンドラへと乗り込んだ。

ゴンドラに乗り込んで、いざ標高1272mの山頂へゴンドラに乗り込んで、いざ標高1272mの山頂へ 頂上に着いたら、すぐコレ。これだけでも来る価値があると思う頂上に着いたら、すぐコレ。これだけでも来る価値があると思う

随所に現れる滑らかで気持ち良いコーナーとパンプ。頂上付近では白馬連山のパノラマが広がる随所に現れる滑らかで気持ち良いコーナーとパンプ。頂上付近では白馬連山のパノラマが広がる
多数のコースが引かれている白馬岩岳MTB PARKだが、今最もホットなのが、この夏にオープンした全長6.9kmにも及ぶアルプスダウンヒルコース。このトレイルがどうスゴいかと言うと、ものすごく上下左右にうねっているのだ。それも6.9kmの全域に渡って。

小刻みにターンを繰り返すコースの至る所にパンプがあって、下りはもちろん、ところどころに登りや平坦も。細かく流れるこのレイアウトにこそ、「世界基準の初級者向けコース」たる意味が込められている。

ダウンヒルと聞くと、フルフェイスヘルメットの猛者たちがDHバイクでカッ飛ばす、エクストリームな映像が目に浮かぶだろう。でも、このアルプスダウンヒルコースにも導入された、海外MTBブームの基盤を支える「フロートレイル」はそうじゃない。直滑降がほぼゼロで、自然な流れの中でパンプとコーナーが現れるから、むやみにスピードが出ずにビギナーだって怖くないのだ。そして少しだけでもプッシュ&プルのスキルがあれば、最初から最後まで浮遊感あるライドを味わえる。なんだか、人間の感性にピッタリと合ったリズム。これがサイコーに気持ち良い。フロー(流れる)トレイルとは絶妙な表現だなと、ここを走ったからこそ強く感じる。

緩斜面の心地良い下りがずっと続く。その延長は6.9kmにも及ぶのだ。楽しくないわけがない緩斜面の心地良い下りがずっと続く。その延長は6.9kmにも及ぶのだ。楽しくないわけがない 路面が滑らかだから、頑張ればグラベルロードでも走れる。この日はキャノンデールのSLATE使いに遭遇した路面が滑らかだから、頑張ればグラベルロードでも走れる。この日はキャノンデールのSLATE使いに遭遇した

あちこちにある無数のパンプ。スキルがあれば飛べるし、スキルがなくてもスピードを殺してくれるので怖くないのだあちこちにある無数のパンプ。スキルがあれば飛べるし、スキルがなくてもスピードを殺してくれるので怖くないのだ
ところどころには休憩用のバイクラックも。たまには一休み、入れませんか?ところどころには休憩用のバイクラックも。たまには一休み、入れませんか? 絶景を楽しみながら一休み。ハイカーとの交流も楽しいもの絶景を楽しみながら一休み。ハイカーとの交流も楽しいもの


それに加えて白馬岩岳をオンリーワンにしているのが、コースのあちこちから望む絶景の数々だ。北には荘厳な白馬連山がそびえ、眼下には白馬村を見渡す大パノラマが広がる。コース途中のビューポイントにバイクラックとベンチが備わるのは、しゃかりきに下るだけじゃなくて、たまには休憩しましょうぜ、というメッセージだ。

そんなわけで、身構える必要は一切ない。フルリジッドだって、頑張ればグラベルロードだって、どんなバイクで走っても楽しいし、ウェアもスニーカーと長袖長ズボンでOK。大人も子供もスキルの違う人が一緒に走って楽しいと言える、稀有なトレイルがここにはある。これが世界基準の遊び方なのだ。

ローカルMTBガイドとして、岩岳復活の物語を動かした堀勇さんローカルMTBガイドとして、岩岳復活の物語を動かした堀勇さん ビルディングの中心メンバーで、トレイルのパトロールやメンテナンスを行う牧村遼さんビルディングの中心メンバーで、トレイルのパトロールやメンテナンスを行う牧村遼さん

白馬岩岳MTB PARKではレンタルバイクも完備。フルサスとハードテイルの2種類が選べる白馬岩岳MTB PARKではレンタルバイクも完備。フルサスとハードテイルの2種類が選べる 売店のお土産コーナーには信州ならではの味も。一つお土産にいかがでしょう?売店のお土産コーナーには信州ならではの味も。一つお土産にいかがでしょう?


「やっと国内にこんなコースを作ることができました」と、トレイル制作の中心役を担った堀さんは言う。「実は、岩岳に来るお客さんの多くがMTB未経験者なんです。ハイキングに来て、”お、MTBって面白そうだからちょっとレンタルしてみよう”って方が本当にたくさんいる。従来のコースはどうしても初心者には危なかったけれど、ここならどうぞ楽しんで!と心から言えるんです」。

だからといって、堀さんたちはこれで満足したわけじゃない。ゆくゆくは上級者向けの世界基準コースを作成して、しかも”魅せる”作りにすることで、MTBが持つエンターテイメントとしての側面も押し出すつもりだ。地域の子供たちが見て憧れる環境を作り、その中から輝く選手が生まれることで、よりスポーツとしての価値を高めたい、とも。

初心者だって、上級者と同じように楽しめる。それが白馬岩岳MTB PARKの魅力だ初心者だって、上級者と同じように楽しめる。それが白馬岩岳MTB PARKの魅力だ
まだまだ発展途上だという白馬岩岳MTB PARKだが、その充実ぶりや幸せ度は、写真に写った人たちの表情が十分に説明してくれていると思う。来夏のオープンは、雪解け明けの5月頃。随時コースの改良や増強を行っていくとのことで、訪れるたびに新しい楽しみが待っているはず。

最後に、コースではなくパークと名付けられた理由を。競技色の強い「コース」と違って、「パーク」は誰もが楽しめる”公園”だからだ。リピート確定、中毒注意。ちょっと遠いかもしれないけれど、わざわざ海外から訪れるユーザーも増えているというこの白馬岩岳MTB PARK。国内から訪ねない理由はどこにもない。

text&photo:So.Isobe