自転車×釣り、という楽しみ方を提案すべく始まった「釣-リング」企画。釣りをしているだけの前編に続き、サイクリストのみなさんお待ちかねのサイクリング編をお届けします。



川の近くまで降りることが簡単に出来るポイントもいくつかある。夏だったら思わず飛び込んでいただろう川の近くまで降りることが簡単に出来るポイントもいくつかある。夏だったら思わず飛び込んでいただろう
そうだそうだ、釣り場の全体図も撮っておかないと。そう考え、フィッシングフィールド中津川を見下ろす道の上でカメラを取り出すべく、バックパックを身体の前に回した瞬間。「パキ」。んん?今なんか乾いた音が聞こえたような……。おそるおそる足元を見ると、そこには無残に折れた愛竿の姿が。ケースのダブルジッパーを底辺側で留めており、その隙間からの先端が出てきたことに気付かず、バックパックと身体で挟み込むように折ってしまったのである。

ショックである。とはいえ、釣りを終えた後で良かったこともまた事実。とりあえず道に落ちている折れた部分を拾い、ケースに収める。ジッパーは上側にして。高い授業料だった……。竿は折れたものの、心まで折れているわけにはいかない。悲しいけど、これ、仕事なのよね。幸い一つ目の目的地である愛川景勝10選が一つ「塩川滝」はすぐ近くだ。気を取り直して、ペダルに足を乗せる。

自転車をとめて一分ほど歩く必要がある自転車をとめて一分ほど歩く必要がある 雰囲気のある渓谷雰囲気のある渓谷

塩川滝はアクセスが良いのにかなりの迫力塩川滝はアクセスが良いのにかなりの迫力
はるか頭上をいく国道412号線をくぐり抜けて、少しばかりヒルクライム。沢沿いの道を登っていくと、未舗装区間が現れる。とはいえ、車も通れるようなダートロードなので、ロードバイクでも問題ない。耐パンクベルトもないような軽量タイヤを履いているのでなければ、そのまま乗車して通過することも十分可能。その先に広がる駐車場に自転車を置き、少し歩くと結構な大きさの滝が現れる。なんと落差は30mほどもある本格的な滝が、こんな都心のすぐ近くにあるとは。溢れるマイナスイオン感にすごい勢いで体調が良くなっていく、なんてことはないけれど、ひんやりとした空気が心地いい。ちなみに、雨乞いの霊験あらたかな滝だそう。

そして、宮ケ瀬ダムへ向けて中津川沿いに自転車を走らせていくといくつかの瀬で魚がライズしているのを見かける。自転車ならばすぐに竿を出せるのも大きなメリットだ。入漁券を購入するかと一瞬考えたところで、竿が折れていることを思い出す。まあ、そこで再び釣りを始めていては宮ケ瀬ダムにたどり着かない可能性が濃厚だったので、あのアクシデントはきっと天の差配だったのだ。

途中で半原パンという気になる看板を見つける途中で半原パンという気になる看板を見つける 焼き立てパンが並んでいた焼き立てパンが並んでいた

石小屋ダムの上には遠足と思しき小学生たちが石小屋ダムの上には遠足と思しき小学生たちが
さて、そうしていると、宮ケ瀬ダムへの道を示す標識が現れたので、川沿いの路地へと左折。国道412号線のアンダーパスを通り抜けたその先には、車止めのゲートと錆び付いた看板が。どうやら自転車・バイクも進入禁止だという。仕方ないので、ここからは押し歩くことに。結構な登り坂なので、例え乗車可能でもそんなに所要時間は変わらなさそうだ、などと考えつつしばらく歩くと、宮ケ瀬ダムの副ダムである石小屋ダムが見えてきた。

どうやら、近くの小学校の遠足が行われているようで、たくさんの子供たちが石小屋ダムに集まっている。君たちから見たら暇そうなお兄さん(おじさんじゃないぞ!)に見えるだろうが、こう見えて仕事なのだよ……、ともはや誰に向けているのかわからない与太を呟きつつ、もう少し歩くと宮ケ瀬ダムに到着!

宮ケ瀬ダムに到着!宮ケ瀬ダムに到着!
でっか!とこれ以上ない陳腐な感想しか出てこないが、見上げていると首が痛くなる。圧倒的な威圧感のコンクリートの壁の向こう側に、大量の水が溜められているのかと思うと少し怖くなってくる。便利な生活を支えているのは、自然の力とそれを利用する人間の知恵なのだな、とガラにもない感慨に浸っていると「観光放流を始めます」というアナウンスが。

そう、宮ケ瀬ダムでは春から秋にかけて毎週水曜日(水だけに)と第2日曜、第2、第4金曜日に観光放流を開催しているのだ。観光放流は11時と14時からの6分間となっており、この日も平日に関わらず多くの人が集まっていた。ここで、あえて石小屋橋まで後退。迫力こそダム直下には劣るが、絵としての完成度は全景を掴める石小屋橋がオススメなのだ。

ド迫力の観光放流ド迫力の観光放流
ダム中腹に設けられた吐水口から白い筋が下へ伸びていき、水面へと触れた途端に爆発。遠目に見ていてもかなりの迫力がある光景に思わず息を呑む。ダム直下の橋の上には、先ほどの遠足の小学生たちが集まり水しぶきを浴びながら歓声を上げている様子が、望遠レンズ越しに見て取れる。

6分間のスペクタクルを味わった後は、お昼ご飯を求めて近くのオギノパンへ。宮ケ瀬に来た自転車乗りなら、一度は訪れたことがある定番スポットだ。揚げたての揚げパンや、リーズナブルな惣菜パンの数々が自転車乗りだけでなく、多くの地元民から支持を集めており、平日ながら店内はお客さんでごった返している。

店主がロードバイク乗りのオギノパン 自転車イベントにも出店していたり店主がロードバイク乗りのオギノパン 自転車イベントにも出店していたり 平日なのに店内は大混雑平日なのに店内は大混雑

あげぱんが一番人気商品だあげぱんが一番人気商品だ 宮ケ瀬湖へ登る前に腹ごしらえ。一番左は半原パンのメロンクリームパンだ宮ケ瀬湖へ登る前に腹ごしらえ。一番左は半原パンのメロンクリームパンだ


自分もいくつかのパンを買い込んで、宮ケ瀬湖を眺めながらいただこう、と思ったのだが揚げたてパンはやはりすぐにいただかなければ勿体ない。ふわふわかつさくさくの揚げパンとメロンパンを東屋でいただき、とりあえず腹の虫を治めることに成功したら、宮ケ瀬湖畔へ登っていく。

登り切った先はトンネルとなっているので、前後ライトの点灯を忘れずに。宮ケ瀬湖畔はトンネルが多いため、ライトは常時点灯していても良いだろう。島は時計回り、湖は反時計回りという定石に従い、宮ケ瀬湖を左手に眺めながらアップダウンをこなしていくと、北側の鳥井原園地へと到着だ。

トンネルの手前ではライトを点灯しよう。断続的にトンネルが現れ、暗く長い箇所もあるトンネルの手前ではライトを点灯しよう。断続的にトンネルが現れ、暗く長い箇所もある 宮ケ瀬湖の景色を眺めながら2度目のランチをいただく宮ケ瀬湖の景色を眺めながら2度目のランチをいただく

遠くに見えるのが「神奈川のレインボーブリッジ」こと虹の大橋遠くに見えるのが「神奈川のレインボーブリッジ」こと虹の大橋
ここのベンチに腰かけ、宮ケ瀬湖の風景を眺めながら2度目の昼食と洒落こむが、既に食べ過ぎの感が否めない。空を舞うトンビに気をつけつつ、竜田揚げサンドと抹茶マフィンを完食。自転車に乗って、良い景色を見ながら食べるご飯が格別だということを久しぶりに思い出す。

さて、その後は湖を一周すべく走っていく。途中には地元民に「神奈川のレインボーブリッジ」とかなり大それた名称で呼ばれている虹の大橋を通り過ぎ、宮ケ瀬湖畔園地へ。昭和テイスト溢るる食事処やお土産屋さんが並ぶ宮ケ瀬湖畔園地には、広大な敷地をつなぐ全長300m超の歩行者専用吊り橋「水の郷大吊橋」が架けられている。宮ケ瀬湖の水面にほど近い吊り橋はまるで湖面を散歩しているような感覚を味わせてくれるオススメスポットだ。

水の郷大吊橋は全長300m超の歩道橋(!)なのだ水の郷大吊橋は全長300m超の歩道橋(!)なのだ
昭和情緒溢れる土産物店昭和情緒溢れる土産物店 バイクスタンドのあるカフェもあったバイクスタンドのあるカフェもあった

広大な敷地を誇る宮ケ瀬湖畔園地 中には周遊バスも通っているほど広大な敷地を誇る宮ケ瀬湖畔園地 中には周遊バスも通っているほど
そして最終目的となるのはこの日2度目の宮ケ瀬ダム。1度目とは異なり、今度はダムの上側へ。実際にダムの天辺にたどり着くと、その大きさに圧倒される。高さもそうだが、むしろその分厚さが宮ケ瀬湖の水量を支えるために必要なものなのだという存在感を放っている。遠くにはランドマークタワーを望むことも。背後にある水が目前に広がる街の生活を支えているのだと実感できる光景だ。

丁度2度目の観光放流のタイミングに到着したこともあり、再び下へ向かおうとエレベーターに搭乗。高低差121mを一気に下降するエレベーターはなんと自転車を持ち込むことも可能なのだとか。今回は乗せることも無かったが、ヒルクライムが苦手なサイクリストにとっては、裏技的なショートカットになるかもしれない。エレベーターから外に出るには、ダムの中の通路を通るのだが、これがまたなかなか乙な雰囲気。ゾンビ映画のロケに使われてもおかしくなさそうな通路なのである。巨大な蜘蛛とか頭上から落ちてきそう。(※実際はすごく綺麗な通路です)

ダムの上から見下ろす この高低差を一気にエレベーターで移動できるのだダムの上から見下ろす この高低差を一気にエレベーターで移動できるのだ
高低差100m以上を1分でこなすエレベーター 自転車の持ち込みも可能だという高低差100m以上を1分でこなすエレベーター 自転車の持ち込みも可能だという ゾンビ映画に出てきそうな雰囲気のある地下通路だゾンビ映画に出てきそうな雰囲気のある地下通路だ
宮ケ瀬ダム名物、放流可能なダムカレー 国旗が刺さったソーセージを抜くとカレーが放流されるのだ宮ケ瀬ダム名物、放流可能なダムカレー 国旗が刺さったソーセージを抜くとカレーが放流されるのだ ダムカードは宮ケ瀬ダムと石小屋ダムの2枚を同時にゲットできるダムカードは宮ケ瀬ダムと石小屋ダムの2枚を同時にゲットできる

2度目の観光放流にも多くの人が集まった 直下の橋は水しぶきがかかるほど2度目の観光放流にも多くの人が集まった 直下の橋は水しぶきがかかるほど
編集部がお世話になっております圏央道をくぐって橋本駅を目指す編集部がお世話になっております圏央道をくぐって橋本駅を目指す 2度目の放流を見て、再びエレベーターでダム上へ。ちなみに、インクラインというケーブルカーも用意されており、そちらは有料ながらも眺望を楽しみながらダムを登り降り出来る。そして、宮ケ瀬ダム水とエネルギー館で宮ケ瀬ダム名物のダムカレーを注文。正直、パン三昧でかなりお腹は一杯だったのだが、なんとこのダムカレー、ソーセージを抜くとカレールーが放流されるというギミックがあるという。そんな面白いもの、注文せざるを得ないだろう。もはや完全にカロリーオーバーだが、なんだかんだで食べきれるのは自転車で動いて、相応にエネルギーを消費しているため。

雨が降りそうだったので帰りも輪行することに雨が降りそうだったので帰りも輪行することに この日3度目の放流を堪能した後は、宮ケ瀬ダムと石小屋ダム、それぞれのダムカードをゲット。一か所で2枚のダムカードがもらえるなんて、一粒で二度おいしいという今回の釣ーリングのコンセプトにピッタリではないか(笑)さて、最後の目的も果たしたら、後は帰路に就くだけだ。

さて、まだ時間に余裕もあるし自走で帰ろうかな、と思っていたらポツリと頬を雨が叩く感覚が。どうやら小雨が降りそうな気配、まさか塩川滝の雨乞い効果がこんなところで現れるとは!ということで、あっさり橋本駅から輪行を選択し、編集部へと舞い戻るのであった。



普段は練習コースとして通過するのみだった宮ケ瀬エリア。しかし、ゆったりと走りながら横に目を向けてみると意外に楽しいスポットが発見できるもの。自転車を楽しみつつ、他の遊びも両立させる新たな休日の過ごし方を見つければ、きっと自転車ライフはより豊かになるはず。

text&photo:Naoki.Yasuoka