いよいよ到来したサイクリングシーズン。今回は東京からアクセスしやすい自転車天国、群馬県の西側「西毛」を舞台に編集部の新人2名が行ってきたライドのレポート。高崎から安中、横川を経由し軽井沢に渡る新人たちの珍道中ライドの記録をお伝えしよう。



群馬県の玄関口である高崎駅をスタート群馬県の玄関口である高崎駅をスタート
やっぱり群馬県はいい。特にここ高崎の地方都市感が最高だ。駅を歩いていても人にぶつかることもないし、お店がごちゃごちゃしている感じもない。高層ビルなんて物も一つもないので、空が広い。そしてここから5分も走れば辺鄙な片田舎を駆け巡るライドが待っているのだ。ということで、私カマタは群馬県は高崎市に来た。

イソベ先輩の房総ライド、フジワラ先輩の湘南輪行ライドに連れ出された私は、正直少し歯がゆい気持ちがしていた。「房総も湘南も海は綺麗だったし、食べ物もおいしかった。でもやっぱり走る環境と大自然だったら群馬には敵わないな。せっかくメディア業に入ったのだから愛しの群馬を紹介したい。」そう。私は生まれも育ちも群馬県である生粋のグンマー人である。

高崎駅の壁には高崎の特産品「縁起だるま」が描かれた壁画がある高崎駅の壁には高崎の特産品「縁起だるま」が描かれた壁画がある
そんな想いを硬く胸の中にしまい、日々の物欲を駆りたてる商品レビューのお仕事をしていると、ふと編集長からこんな一言を言われた。「房総と湘南、2つのライドに同行してみてライドレポートの書き方が少し理解できただろう?もし出来るならカマタ君自身で企画を立ててみるか?」

待ってましたとばかりの編集長の提案だ。私は二つ返事で了解し、我が地元たる偉大な群馬の地をサイクリングする企画を作成。高崎駅を出発し、私のホームである安中、横川地区を走り抜け、群馬人が尊敬してやまない長野県軽井沢で休憩したのち、横川駅から輪行で高崎駅まで帰るという群馬の魅力満点のサイクリングプランを提案したのだった。

高崎の繁栄を見守る白衣観音高崎の繁栄を見守る白衣観音
そんなこんなで編集部を飛び出した私は、今回助っ人カメラマンとしてついてきてもらった同期のムラタと共に群馬県の中心地、高崎駅に来ている。しばしば群馬の中心地は高崎か前橋か、はたまた日本列島のへそを自負する渋川か、という論争が起きがちだが、私は高崎の病院で生まれ、幼少期を高崎で過ごしたことから、グンマーの中でも高崎派の一派に入る。

車は駅近くの有料駐車場に停める事に。ここ高崎駅は都心から車だと関越自動車道で2時間弱、電車でも東京駅から新幹線で1時間以内と非常にアクセスしやすい駅だ。その優れた交通網に関して群馬県内の子供が必ず覚える「上毛かるた」には「関東と信越つなぐ高崎市」と東京から群馬を介して長野、新潟へ繋がることを示す一枚がある程だ。

観音様の足元には商店が並ぶ参道があり、初詣や花見、紅葉の時期には多くの人で賑わう観音様の足元には商店が並ぶ参道があり、初詣や花見、紅葉の時期には多くの人で賑わう 観音様の裏側に位置するひびき橋観音様の裏側に位置するひびき橋

甘辛いみそをこんにゃくにかけたみそおでんは群馬の郷土料理だ甘辛いみそをこんにゃくにかけたみそおでんは群馬の郷土料理だ ひびき橋からも観音様が見えるひびき橋からも観音様が見える


そんな群馬県民の常識をムラタに披露しつつ高崎駅を出発。まず向かうは高崎の市街をいつも見守ってくれている白衣観音だ。群馬に降り立ったらここにお参りに行かないと入国を許可されないので、異邦人たるムラタを連れて観音様の許しをもらいに行くことに。

高崎のシンボルとして観音山にそびえ立つ「高崎白衣大観音」は高さ41.8mの高さを誇る大観音像だ。1936年に高崎の実業家、井上保三郎によって建立された観音様は、明治以降、高崎城跡に創設された旧日本軍歩兵第15連隊の戦没者の霊を慰め、高崎の発展を願う事を目的に建てられた。白衣大観音の胎内には300円で入ることができ、中には20体の仏様や高僧の像がある。146段の階段を登ると高崎市街はもちろんのこと、天気が良ければ長野県の八ヶ岳まで眺めることが出来るのだ。

石階段が続く少林山の門は結構立派石階段が続く少林山の門は結構立派
道路からは大きなだるまの看板が目印だ道路からは大きなだるまの看板が目印だ 石の階段は上から見下ろすとかなりの迫力石の階段は上から見下ろすとかなりの迫力


観音様にお参りし、群馬入国の許しをもらった2名は次なる目的地、少林山達磨寺へ。観音様が入国管理所ならば、少林山の達磨寺は観光の第一マストスポットと言って良いだろう。群馬では「縁起だるまの少林山」と呼ばれ、高崎駅にも"だるまの壁"や"だるま"が至る所に置いてあり、駅弁として"だるま弁当"が売っている。それほどまで群馬県において"だるま"はマストアイテムで、その"だるま"が生まれた達磨寺はパワースポットとして群馬県民に愛されている。

毎年1月6日~7日は"だるま市"と称される少林山七草大祭が夜通し開催され、その一年の縁起だるまを求め多くの人で賑わう達磨寺。普段は人も少なく、穏やかな春の陽気に包まれる寺院は153段の石段を登り終えると、お寺なのに神社の雰囲気もある権現造りの本堂(霊符堂)が現れる。北極星と北斗七星を神格化した北辰鎮宅霊符尊(ほくしんちんたくれいふそん)と達磨大使を祀る本堂は、納められた達磨が左右に所狭しと積み上げられ、これぞ達磨寺といった風格だ。

本堂の左右には納められた達磨たちが所狭しと積み上げられる本堂の左右には納められた達磨たちが所狭しと積み上げられる 権現造りの本堂は神社のような風格権現造りの本堂は神社のような風格


苦労して階段を登った甲斐もあり、上からの景色も格別だ。せっかく達磨寺に来たのだから縁起担ぎに小さい達磨でも買いたいところだったが、荷物になるので、諦めることに。次の目的地となる長坂牧場に向かう。少林山の裏山にあたる2km程の登りを登ると、一面鮮やかな黄色に染まった鼻高展望花の丘が現れる。春は菜の花、夏はひまわり、秋はコスモスとその季節に合った花が咲き乱れる花の丘は、「展望」という名の通り、高崎、安中が見渡せる景色の良さも特徴だ。と目的地はここではなく、その隣の長坂牧場だ。

菜の花が咲き乱れる鼻高展望花の丘は私が練習したくない時に夕方4時から走る定番コースだ菜の花が咲き乱れる鼻高展望花の丘は私が練習したくない時に夕方4時から走る定番コースだ
みるく工房たんぽぽではソフトクリームとブルーベリージェラートをチョイスみるく工房たんぽぽではソフトクリームとブルーベリージェラートをチョイス 高崎の市街地からもアクセスし易い長坂牧場高崎の市街地からもアクセスし易い長坂牧場

ツール・ド・フランスのひまわり畑のような菜の花畑ツール・ド・フランスのひまわり畑のような菜の花畑
ここ長坂牧場は50年に渡る歴史とそこで培ったノウハウを基に高品質のミルクを製造している牧場だ。敷地内には「みるく工房タンポポ」という飲むヨーグルトやジェラートを製造販売するショップがあり、新鮮な牛乳を使った乳製品が頂ける。せっかくなので、ここでムラタはソフトクリーム、私はブルーベリーのジェラートを頂くことにした。

実は私はラムレーズンが食べたかったのだが、「アルコールが入っています」の但し書きに、普段はあまり選ばないブルーベリーにしたのだが、選択に間違いは無かった。ブルーベリーの甘酸っぱさとミルクそのものの甘さが相まって、何とも深い味わい。実家に住んでいる時に良く前を走ってはいたが、スルーしがちだったのでもう少し来ればよかったと後悔した。

茅葺き屋根が特徴的な安中武家屋敷茅葺き屋根が特徴的な安中武家屋敷
桜が咲き乱れるグラベルロードを走り抜け、一路安中方面へ。途中、旧安中藩の城内に立ち並んでいた武家長屋の脇を通過。この安中武家屋敷は、かつてこの地にあった安中藩の藩主、井伊直勝に仕えた家臣たちが住んでいたお屋敷だ。残念ながら建物は平成元年に復元された物ではあるが、茅葺き屋根が立派な長屋で一応ではあるが観光的価値があると思われる。安中市自慢の武家長屋だ。

ここからは車の通行量も一気に減り、走りやすいロケーション。群馬のサイクリストにも有名な周回コース、秋間周回を辿りつつ、グンマーが誇る新幹線駅の一つ、安中榛名駅を目指す。真っ直ぐに続く直線道路にペースが上がる2人であったが、私が引くと碓氷峠を登りきれない可能性もあるため、実業団選手であるムラタに引いてもらうことに。

安中榛名駅が出来た時、祖母が私に「駅前が凄い綺麗だよ」と良くテンション高めに話していたのを思い出す安中榛名駅が出来た時、祖母が私に「駅前が凄い綺麗だよ」と良くテンション高めに話していたのを思い出す
北陸新幹線の最新車両E7系が行ってしまう!北陸新幹線の最新車両E7系が行ってしまう! しばらくして丘を登ると、ド田舎たる安中の山中に似つかわしくない、綺麗に区画整理された住宅地が姿を現す。そしてその中央にドンと構えるのが安中市が誇る新幹線駅、安中榛名駅だ。一番新しい新幹線といえるだろう北陸新幹線が乗り入れており、ここから東京にも金沢(長野で乗り換えが必要だが)にも行けるアクセス抜群の駅だ。列車も1日に上下線合わせて25本も停まり、1日の平均乗車人数が272人といつも人で賑わっている。秘境駅では決してない。

と聞かれてもいないウンチクをムラタに披露する私。軽く呆れた顔をされるが、正直、何故ここをルートに組み込んだのか、今となっては良く分からない。私が良く走る場所だからという理由が8割程度を占めていた気がする。だが、本当に緩やかな勾配と圧倒的交通量の少なさはロードバイクのトレーニングにピッタリな場所で、事実、地元のいくつかのクラブチームが練習の集合場所にこの駅周辺の広場を指定しているという、群馬サイクリストの隠れメッカでもあるのだ。

とりあえず必要な写真は撮れたし次に行こうか。次回はいよいよ横川-軽井沢に到達する。

text:Kosuke.Kamata
photo:Yuto.Murata