第2回ポディウムCAMPレポート後編ではタイムをフィーチャー。多くの名選手と共にビッグレースを制すも、近年はトップカテゴリーのレースシーンからは遠ざかっている同社だが、経営体制を新たに立て直しを図っている。そんなフレンチブランドの雄の今について聞いた。



新型フラッグシップ「SCYLON」には大きな注目が集まった新型フラッグシップ「SCYLON」には大きな注目が集まった
7月24日(日)に都内で開催された第2回ポディウムCAMP。前編のライトウェイト編に続き、後編ではタイムをフィーチャーしていく。プレゼンテーションとインタビューの模様をレポートする前に、タイムの過去と現在を紹介しておきたい。

プレゼンテーションを行うシルヴァン・ノアリ氏らプレゼンテーションを行うシルヴァン・ノアリ氏ら (c)ポディウム1988年ツールで総合5位に入り、現役引退後はコフィディスの監督として長くタイムに携わってきたエリック・ボワイエ氏1988年ツールで総合5位に入り、現役引退後はコフィディスの監督として長くタイムに携わってきたエリック・ボワイエ氏 イタリアの老舗や、同郷のルックと並び、数多くのサイクリストが憧れるバイクブランドがタイムである。1987年に創業した同社は、独自のフロート機構を持つビンディングペダルの製造に端を発し、1993年に当時まだ珍しかったカーボンフレームの製造に着手。世界選手権やオリンピックでの優勝など、数々の輝かしい実績を残してきたが、近年トップカテゴリーのレースシーンでタイムを見る機会はとんと減った。そして、創業者であるロラン・カタン氏の死去が追い打ちをかけた。

かつての勢いは無くなってしまったかのように思えたタイムだったが、救いの手を差し伸べたのが、スキーのブランドを複数所有するグループ・ロシニョールである。奇しくもルックのスキー部門(自転車部門とは別会社)所有する同社は、本社がタイムと同じくフランス・イゼール県にあることに加え、機材スポーツへの情熱やテクノロジーなど多くの共通点があることから支援を開始した。

タイム復権のキーマンとなるのが今回来日した2人である。シルヴァン・ノアリ氏はグループ・ロシニョールのCEOであり、現在はタイムのCEOを兼務する。プロチームとの仲介などを行うスポーツ・マーケティング担当のエリック・ボワイエ氏は、ツール・ド・フランスで総合5位に入るなどの輝かしい戦績を残し、引退後コフィディスの監督を務める中でタイムに深く関わってきた人物だ。

また、同社からは貴重な展示品の数々が持ち込まれた。普段はタイム社の玄関に飾られているというパオロ・ベッティーニとトム・ボーネンの実車や、フラッグシップモデルSKYLONのカットサンプル、懐かしいペダルの数々などなど…。そして、振動解析のために、ひずみケージを全体に張り巡らした実験用フレームは、このイベントまで門外不出だったというから、今イベントに対するタイムの気合の入れようが分かる。対する参加者も約半数がタイムのオーナーというだけあり、貴重な展示物に穴が空くほど見入っていた。

トム・ボーネン(ベルギー)が2006年に駆ったアルカンシェル仕様のVXRSトム・ボーネン(ベルギー)が2006年に駆ったアルカンシェル仕様のVXRS
パオロ・ベッティーニ(イタリア)のアテネ五輪金メダルを記念して作られたVXRSパオロ・ベッティーニ(イタリア)のアテネ五輪金メダルを記念して作られたVXRS ひずみケージを全体に張り巡らした実験用フレームひずみケージを全体に張り巡らした実験用フレーム


まず、タイムのプレゼンテーションで語られたのは自転車を開発する上で大切にしている3つのこと。1つ目が「ライダーに喜びを与えられる自転車であること」。2つ目が「ライダーが求めている感覚を叶えることのできる自転車であること」。そして3つ目が「疲れたサイクリストを助ける自転車であること」であり、次にこれを実現するための3大テクノロジーが解説された。

タイムを語る上で、最も重要テクノロジーが「RTM」である。これは、靴下のように筒状の編んだ組紐構造の炭素の糸を使用したカーボンフレームの構造である。炭素の糸を並べたものに樹脂を浸透させた「プリプレグ」を切り貼りして成型する一般的な他ブランドの製品に対して多くのメリットを持つ。強度低下と重量増の原因となる内部のシワが少なく、個体ごとの性能差を小さく抑えることができ、炭素以外の素材を編みこむことで振動吸収性をはじめとした諸特性を自在に調整することが可能なのだ。

SKYLONのカットサンプル。内部はとても平滑で、各部の肉厚も均一だSKYLONのカットサンプル。内部はとても平滑で、各部の肉厚も均一だ RTMによって織られたカーボンの繊維たちRTMによって織られたカーボンの繊維たち

成型の際に使用するインナーモールド成型の際に使用するインナーモールド 懐かしのタイムペダルたち。今でも使っている方、入手したい方は少なくないはず懐かしのタイムペダルたち。今でも使っている方、入手したい方は少なくないはず


このRTMによって快適性を追求してきたタイムだが、2年ほど前に新たな振動吸収テクノロジーを開発。それが「AKTIV」である。F1マシンから洗濯機まで広く用いられる「マスダンパー」という、アルミ板の先端に棒状のアルミを接着した制振装置をフロントフォークに内蔵し、ライダーに不快感とダメージを与える30~60Hzの振動を除去。フレームを大きく変形させることなく振動をいなすことができるため、剛性と快適性という、これまで相反すると考えられていた性能をより高バランスで両立することが可能となった。

しかし、ここまで説明した「RTM」と「AKTIV」よりもずっと昔から熱心に開発・改良を続けてきたしてきたテクノロジーがある。それがビンディングペダルである。他ブランドのビンディングペダルは、踵が弧を描くようにフロートするが、タイムは横方向にも自由度を持たせることで、脚や関節への負荷を低減。さらには、足の軌道を真円に近づけ、入力トルクを均一するために、スタックハイトを可能な限り抑え、安定性を高めるべくソールとペダルの接触面積を最大限拡大し、脱着の負荷するべく独自の固定機構を搭載する。

新型フラッグシップ「SCYLON」のディスクブレーキモデル。前後ともにスルーアクスルを採用する新型フラッグシップ「SCYLON」のディスクブレーキモデル。前後ともにスルーアクスルを採用する
もちろん、RTMテクノロジーを用いて成型されるもちろん、RTMテクノロジーを用いて成型される ディスク対応によって、チューンドマスダンパーを片側のみとした新型AKTIVフォークディスク対応によって、チューンドマスダンパーを片側のみとした新型AKTIVフォーク

幻のTTバイクRXR CHRONOが世界限定50台で復刻。最新のRTMテクノロジーによってリファインされている幻のTTバイクRXR CHRONOが世界限定50台で復刻。最新のRTMテクノロジーによってリファインされている
最後に、タイムとプロライダーとの関係が語られた。ボワイエ氏はツール総合5位など輝かしい戦績を持つ元選手であり、引退後は長年コフィディスの監督を務めてきた。「タイムの自転車はひと漕ぎしただけで良いとわかる。例えば、ブエルタで4回山岳賞を獲得したダヴィ・モンクティエは、とにかく下りが下手だった。下りで落車してチャンスを失ったことも少ないが、タイムのバイクについては『安心して下れる』と言う。それほどの安定感があるんだ。」と監督時代のエピソードを披露。

2017モデルの中で最注目なのは、新型フラッグシップ「SCYLON」だ。エアロロード「SKYLON」の後継であり、ディスクブレーキ仕様には、振動吸収性を維持しながらマスダンパーを片側のみとした新型AKTIVフォークが搭載される。そして世界限定50台で幻のTTバイク「RXR CHRONO」が復活。フォルムは10年前の初号機と変わらないものの、最新のRTMテクノロジーによってリファインされている。



タイム社インタビュー「そう遠くない将来に、トップカテゴリーのレースで再びタイムが走る日が来る」

インタビューに応えるエリック・ボワイエ氏(左)とシルヴァン・ノアリ氏(右)インタビューに応えるエリック・ボワイエ氏(左)とシルヴァン・ノアリ氏(右)
ー まず、タイムという社名の由来について教えてください

フランスの企業ですから、フランス語を冠するのが普通なのでしょうが、英単語を社名としたのには、いくつかの理由があります。スペルの短い英単語であれば世界中どこでも通じ、レースで最も重要なものが時間であるからです。加えて、ルックのスペルが4文字だったからというのもあります。

ー タイムの誕生にはどういった背景があるのでしょうか?

複雑ながらも滑らかなタイムのフレームの内部複雑ながらも滑らかなタイムのフレームの内部 タイムの長年の研究開発が結実した新たな振動吸収機構AKTIVタイムの長年の研究開発が結実した新たな振動吸収機構AKTIV ルックの創業者であり、特許を持っていたペダル開発者のヴェール氏が、理由あって1986年にルックを退職。新しい特許取得技術でルックと勝負のできるペダルを発売したいと、カタン氏と手を組み創業したのがタイムです。今では競合する立場ですが、ルックとは元々は同じブランドですし、同じ市場のライバルとして良好な関係にあります。加えて、別会社ですがルックのスキー部門とタイムは系列グループになりました。

ー タイムの規模について教えてください

従業員は100名強で、その中で研究開発に関わっているのが10~15%ほどで、カーボンの改良に関わっているのが20%ほど。年間の生産数は、ペダルが100,000ペア、フレームが5,000本弱になります。

ー バイク作りで重視していることとは?

どういったユーザーが、どう使うのかを明確に理解し、ニーズにあった自転車を開発すること。そして、我々の特徴の1つであるRTMを最大限に駆使し、プリプレグから成型される自転車では到底成し得ない性能を実現することです。カットサンプルを比較して頂ければ分かるかと思いますが、タイムの場合には、ガーボンの厚みが極めて均一であることが、高性能につながっていると自負しております。

ー かつてはトッププロが使用しておりましたが、最近ではタイムのバイクをビッグレースで見かけなくなりました。これは何故なのでしょうか?

これは、バイクの性能に問題があったからではなく、我が社の財務状況の悪化によるものです。この数年、我々はチームへのスポンサーよりも研究開発に注力し、AKTIVフォークやSCYLONの開発成功という形で結実しました。そして、そう遠くない将来にトップカテゴリーレースへのカムバックするべく、現在準備しているところです。

タイム初のエアロロードRXR ULTIMATEを駆る新城幸也(Bboxブイグテレコム、ツール・ド・フランス2009より)タイム初のエアロロードRXR ULTIMATEを駆る新城幸也(Bboxブイグテレコム、ツール・ド・フランス2009より) photo:Makoto Ayano
ー トッププロに供給を行っていない現在、どのように実走テストを行っているのでしょう?

年間走行距離が15,000~40,000kmほどになる約20名のサイクリストに協力してもらっています。また、スキーの世界では現役を引退したばかりの体力のある若手アスリートを開発に起用することが多いのですが、タイムでもそういった試みを行おうと考えております。フィールドについては、様々な舗装状態や、急峻な登り下りなど、ありとあらゆる環境でテストを行っています。基本的にはフランス国内で、AKTIVテクノロジーの開発の際には、パリ~ルーベの石畳を走らせることもありました。

AKTIVモデルとノーマルモデルのフロントフォークAKTIVモデルとノーマルモデルのフロントフォーク 現行のタイムペダルXpressoシリーズ現行のタイムペダルXpressoシリーズ ー 各モデルにノーマル仕様とAKTIV仕様が用意されていますが、どう選べば良いのでしょう?

機会があれば両仕様を乗り比べていただき、好みの仕様を選んで頂ければ良いと考えています。

ー 本格的なディスクブレーキロードが登場しましたが、ロードバイクとディスクブレーキの関係は今後どうなると予想されますか?

2通りの予想があります。もし、UCIレースで使用が解禁されれば、プロアマ関わらず急速に浸透することでしょう。反対にUCIレースで解禁されることがなくても、一度使用したアマチュアライダーはその優位性にすぐ気づくはずですし、そうすれば口コミでどんどん普及していくはず。また、UCIレースは別ですが、実はフランス車連の管轄レースではすでに解禁されています。いずれにしても、9月の世界選手権のあとに行われる会議で、ディスクブレーキロードの一つの方向性が示されることになるでしょう。

ー タイムがグループ・ロシニョールに加入したことにより、スキーと自転車でどういった技術交流が生まれるのでしょうか?

自転車用ペダルの樹脂パーツに、グループ・ロシニョールがスキーブーツ製造で長年培ってきたポリウレタンの射出成型技術を取り入れることで、高強度化できないかと探っております。反対にスキー用品のいくつかの部品に、タイムのカーボン成型技術を応用できるのではないかと検討しております。

RXR CHRONOを手に持つエリック・ボワイエ氏とシルヴァン・ノアリ氏RXR CHRONOを手に持つエリック・ボワイエ氏とシルヴァン・ノアリ氏


ライトウェイト編とタイム編の2回に渡りレポートしてきた第2回ポディウムCAMP。今後は、オルベアにフォーカスした同様のイベントを企画中とのこと。お伝えしたように世界屈指のバイクブランドを深く知ることのできる貴重な機会であり、各ブランドのファンに加えて、機材マニアという方や理系の学生にも是非とも参加してみてもらいたいと感じた次第だ。次回開催時も、詳細が決まり次第告知されるとのことだ。

text&photo:Yuya.Yamamoto
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