現在開催中のツール・ド・フランス2016。波乱の2週目を終え、3週目に突入する世界最高峰のロードレースは山岳ステージへと舞台を移し、いよいよ総合争いも動きだす。3週間にわたる厳しいレースの裏側迫る「美味しい」レポートが、現在ツールに帯同取材中の目黒誠子さんから届きました。



2016年ツール・ド・フランスの走行距離は3,535km。そんな過酷なレースで戦う選手は、毎日どんなものを食べているのでしょうか?ワールドツアーチームで毎年ツアー・オブ・ジャパンにも出場しているランプレ・メリダを取材しました。

ランプレの専属シェフを務めるアントニオ・デサロ氏ランプレの専属シェフを務めるアントニオ・デサロ氏 photo:Makoto.AYANO
基本はイタリアン

ランプレ・メリダはイタリアのチームであり、専属のシェフはイタリア人。「セーリング」のスポーツチームや、ランプレと同じワールドチームである「モビスター」でも専属シェフを務めていたアントニオ・デサロ氏は2年前にランプレの専属シェフとなったそう。スタッフもほとんどがイタリア人で占められているため、食事もパスタ、ピザ、リゾットといったイタリアンのメニューが中心に。

だが、今年のランプレ・メリダのロースターにはイタリア人は二人しかいない。ほかにはスロベニア、南アフリカ、エチオピア、クロアチア、ポルトガル、そして我らが新城選手の日本。イタリアンのメニューが中心となるが、多国籍な選手がいる中で彼らの胃袋にも飽きが来ないよう、どのような工夫がなされているのだろうか?

様々な国籍の選手たちが同じテーブルについています様々な国籍の選手たちが同じテーブルについています photo:Makoto.AYANOルイ・コスタはパスタを山盛りにルイ・コスタはパスタを山盛りに photo:Makoto.AYANO


コースによって決められるメニュー

「おいしいですよ」と語るのは新城選手。メニューはツールが始まる前に、チームドクターとアントニオが相談して決めるという。どのような栄養を、どのように摂取するべきか。コース図を見ながら想像力を働かせ、大まかなメニューが決められる。が、3週間分すべてを決めるのは至難の業。ツールが始まってしまえば、その日の天候や選手のコンディションを見ながら調整が図られていく。

明日はハードなコースだからビーフを食べてもらうよ!明日はハードなコースだからビーフを食べてもらうよ! photo:Makoto.AYANO厚さ5cmのビーフを焼いていく厚さ5cmのビーフを焼いていく photo:Makoto.AYANOふわふわのキノコのソテーふわふわのキノコのソテー photo:Makoto.AYANO本日のメインの一皿本日のメインの一皿 photo:Makoto.AYANOたとえば取材した日は休息日だったが、前日のレースは真夏のような暑さから一転、雹が混じった土砂降りの雨。こんな時は、冷えてしまった選手の体を温めるようなメニューが出される。「たいてい、昨日のようなときは、スープとか体を温めるようなものを出すけど、翌日は休息日だったでしょう?それにライダーがピザを食べたい、と言っていたので、昨日はそうしたよ。」

大まかなメニューが決められているとは言え、その日その日で変更が多い。休息日をはさんで翌日のレースは、いきなり1級の山岳から始まる。「明日はハードなレースだから、良質なプロテインが必要。だから今夜はビーフ。力をつけてもらわなきゃ。もちろん、チキンを出す日もあれば、ポークを出す日もある。フィッシュの日ももちろん。ビーフ向きの日、フィッシュ向きの日、とコースを見ながら決めていくよ。でも、選手の中にはポークがNGな選手もいる。だからその選手には別なものを作るよ」。

ツアー・オブ・ジャパンではフィッシュを好んで食べていたチモライ。チモライ選手もこのビーフを食べるのかな?と疑問に感じたので質問をぶつけてみた。

「チモライ選手はツアー・オブ・ジャパンでフィッシュを食べていて、僕はフィッシュが好きなんだ、と言っていたんだけど、チモライもこのビーフを食べるの?」と尋ねると、「そうそう!チモライは特にフィッシュラバー!チモライは魚が好きって知ってるけど、ビーフを食べることができない訳ではないし、明日はハードなコースだからビーフを食べてもらうよ!」とウインクしながら話すアントニオ。

「とは言え、食べ物で選手をハッピーにするのが僕の仕事。好みを把握するのも僕の重要な任務、ということもわかっている。先週はまぐろのタタキを作ったよ。サーモンのタルタルなども作るね。魚は良質なたんぱく質が取れるし、DHA、EPAなどのオメガ3の脂質、タウリン、アスタキサンチンなど、良い栄養素が取れるから、生で食べることができるものは極力手を加えないようにしているよ。アラシロも喜んでくれるしね!」とウインク。

調理方法も、脂肪分が多いクリーム系やバター系は避けられ、トマトベースやオリーブオイルベース、または前述のようなタタキやタルタルなど、シンプルなものが多い様子。だけどそこはイタリア人。ハーブやペッパー、そして「わさび」などの調味料で味の工夫がされ、変化がつけられる。選手の好みと栄養の、微妙なバランスが図られていた。

効率的なカーボローディングと山盛り野菜

「このパスタには工夫がされてるんです。中にプロテインが練りこんであって、腹持ちがいいから体内に長くとどまってくれて、たんぱく質が効率よく摂取できるんですよ。」と新城選手。なるほど、それは一石二鳥!ランプレ・メリダのスポンサー、「パスタヤング」の製品であり、選手やスタッフからの評判も上々。

「パスタはエネルギーとして体内に取り入れられるのが早いし、ツアー中の朝食には必ず出されます。その日一日の選手のエネルギーとなります。」と広報担当のカルロ・サロンニ氏が語る。長距離を走る選手にとって、カーボローディングは超重要必須事項。飽きが来ないよう、ランプレの食卓にはたいてい、二種類以上の炭水化物が並ぶ。

パスタを盛り付けるツガブ・グルメイパスタを盛り付けるツガブ・グルメイ photo:Makoto.AYANO今日の夕食と新城選手今日の夕食と新城選手 photo:Makoto.AYANO

クリームベースのペンネクリームベースのペンネ photo:Makoto.AYANO具だくさんのシーフードリングイネ具だくさんのシーフードリングイネ photo:Makoto.AYANO


この日のディナーもパスタは二種類。具だくさんなシーフードのリングイネと、クリームベースのペンネ。おいしそう!それに、ライスも用意されている。チョイスは自由。メインは高さ5cmのビーフ。ミネラルたっぷりのふわっふわの「きのこのソテー」をたっぷり添えて。食べる場所はホテルのレストラン。メニューにはレストランのビュッフェも加わる。

この日のアンドラのホテルには、きれいに並べられた野菜に温・冷の前菜、スープ、ビーフ、チキン、フィッシュ、パエリヤ、パスタ、ピザ、フルーツやスイーツなど盛りだくさんなメニューがずらり。野菜コーナーからきれいに盛り付ける新城選手。「僕は野菜が好きなのでたくさん食べるけど、イタリア人はあまり食べないんですかね?野菜の前にいきなりパスタとか食べちゃうんですよ~笑」。新城選手の強さの源はやっぱり野菜なのだろうか?

キッチントラックを持たないランプレの工夫

ホテルのシェフやスタッフもみんなアントニオをアシストしてくれるホテルのシェフやスタッフもみんなアントニオをアシストしてくれる photo:Makoto.AYANO
野菜を綺麗に盛り付ける新城選手野菜を綺麗に盛り付ける新城選手 photo:Makoto.AYANO料理に用いられるサプリメントや調味料たち料理に用いられるサプリメントや調味料たち photo:Makoto.AYANOランプレは他のほとんどのチームが持つような「キッチントラック」を持たないため、ホテルのキッチンを間借りしての作業となる。キッチンは基本的にアントニオが一人で切り盛りすることに。「ホテルが決まるとまず交渉に入る。キッチンを使わせてもらえるようにね。ほとんどのホテルはOKだけど、たまにNGなところもある。そんなときはホテルを変えてもらったりもするよ。今年は全てのホテルがOKでとても協力的。見てみて、今日のホテルもホスピタリティが素晴らしい!みんな優しいでしょ?」と茶目っ気たっぷりに笑うアントニオ。

確かに、ホテルのシェフやスタッフもみんなアントニオをアシストしてくれる雰囲気。イタリア人らしいフレンドリーさでみんなを巻き込み、ランプレファンを増やしているかも?食材も、アントニオ自身が現地スーパーに足を運び、直接買い付けるものもあれば、事前にホテルで準備してもらうことが多いという。

「だけど、ほとんどの食材は現地で新鮮なものを自分の目で見て買い出しをする。」朝食もアントニオが準備。基本的にはコンチネンタルブレックファスト。休息日はランチも作り、夜は選手とスタッフが一緒に食事できる数少ないチャンスとなり、和やかでリラックスした雰囲気を作るのは大事だよね、と言う。「ハードなレースを走る選手のガソリンとなる食事。それを一手に担うのは責任重大だけど、この仕事は楽しいしやりがいがあるよ。さ、選手がそろそろ降りてくるから最後の仕上げ!」ときびきび動いていた。



筆者プロフィール
目黒誠子(めぐろせいこ)

ツアー・オブ・ジャパンでは海外チームの招待・連絡を担当。2006年ジャパンカップサイクルロードレースに業務で携わってからロードレースの世界に魅了される。
ロードバイクでのサイクリングを楽しむ。趣味はバラ栽培と鑑賞。航空会社の広報系の仕事にも携わり、折り紙飛行機の指導員という変わりダネ資格を持つ。

text:Seiko.Meguro
photo:Makoto.AYANO
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