ついに折り返しに差し掛かったパリ~ブレスト~パリの先頭集団。その中にいるただ一人に日本人、三船雅彦さんは何を感じていたのか。3篇にわたるPBP長編レポートの最終回をおとどけします。



 後半に入ったころが最も苦しそうだった 後半に入ったころが最も苦しそうだった photo:Brian Vernor
折り返しの町、ブレストに到着すると、カレーの直後に単独で抜け出した選手とすれ違う。サポートしてくれている矢野くんに聞くと10分差。こちらの集団も決して速い!と言い切れるほどのスピードじゃないが、あと600kmを残していると考えれば十分速い。

実は、彼がペースアップしたとき、追いつける位置にいた。しかし一番最初に感じたのは「あと700kmもあるよ、あと……。」ということ。ロードレースであれば、180kmも逃げようと考えるとすると、レースのほとんど全てを独走するようなもの。到底「あと」700kmを逃げるということを理解することは不可能だ。

 膝の痛みから折り返し手前でリタイヤするスペインのライダー 膝の痛みから折り返し手前でリタイヤするスペインのライダー photo:Daisuke.Yano 補給食のマカロニを駐車場で作る 補給食のマカロニを駐車場で作る photo:Daisuke.Yano カップヌードルは一見美味しいが弱っている胃腸はすぐに化学調味料に反応し失敗した カップヌードルは一見美味しいが弱っている胃腸はすぐに化学調味料に反応し失敗した photo:Brian Vernor折り返し地点ではフランス人の集団内のリーダーとも言える人が「ここで10分休もう。わかったな!」と集団内の選手たちに理解を促す。用を足して、食事をしたり着替えたり・・・ここでは温かい食事をリクエストしたいたのだが、ちゃんとパスタを茹でてくれていた。長丁場のブルベの場合、ある程度の距離をこなしてくると、サンドイッチやおにぎり、菓子パンのような冷たいものだとどうしても後半力が入らない。

そのため折り返しでは確実に温かい食べ物を口にしたかった。パスタにはソースをからめずシンプルにオリーブオイル。ミートソースとかだと消化に良くない。今まで食べたパスタの中で一番美味しいんじゃないのか!と本気で思えてしまうほどに美味しかった(笑)

10分というのは長いようで短い。シューズを脱いで足の裏を少しマッサージしてもらう。最近のシューズは硬いからなのか、一日中ぺダリングし続けると足の裏の感覚がマヒしてくるし、足の裏が汗や雨などで濡れようものならふやけてしまい、足の裏がシワシワになってペダリングするのと痛くなってしまうことがある。

そんな訳で、現在使用しているのは既に現行モデルではなくなってしまったのが非常に残念な、シディのWIREカーボンコンポジット。シディの代理店をされている日直商会さんが、日本向けに限定生産したモデルで、ソールがクリート部分のみカーボンで作られ、他はプラスチックで出来ている。

踏んだ時のダイレクト感はカーボンソールと遜色なく、しかし路面から伝わる衝撃を相当緩和してくれる。昨年より愛用しているが、かなり足の裏の疲労が軽減されているのがわかるスグレモノだ。

そんな素晴らしいシューズでも、靴を脱いで足の裏をマッサージしてもらうだけで、足の裏だけではなく全身がリラックスしていくのがわかる。フルカーボンのシューズだったらもっと負担が大きいはずだ。余談だが、今回は肩甲骨周りのストレッチや、手のひらや指のストレッチを序盤から走りながら行っていたのだが、結局、ゴールまで肩こりや手のひらや手首の痛みやしびれがほとんど無かった。

機材、走り方、食べるもの。全てにおいて、いかにストレスを軽減してやるか。今、一般に出回っているレースを速く走るためのロードバイクや用品は、場合によってはスピードを落としてしまうということにもなってしまう。

 後半はいたるところで選手達が無防備に寝ている 後半はいたるところで選手達が無防備に寝ている photo:Brian Vernor 最後から二つ目のCP。この時点ではほぼ無意識に漕いでいる 最後から二つ目のCP。この時点ではほぼ無意識に漕いでいる photo:Daisuke.Yano

 サポートスタイル。目立つビブ、スペアホイール、ポンプ、食料、衣類がメイン サポートスタイル。目立つビブ、スペアホイール、ポンプ、食料、衣類がメイン photo:Brian Vernor 夜のCP。先頭集団全員が同じ反射ビブを羽織っている為、サポート側からの見分けが非常に困難な中、見つけ出し捕まえて急いで対応する 夜のCP。先頭集団全員が同じ反射ビブを羽織っている為、サポート側からの見分けが非常に困難な中、見つけ出し捕まえて急いで対応する photo:Brian Vernor


足裏マッサージ、パスタのランチ、そして折り畳みの椅子ながらサドル以外に座るだけでも少し気が休まってくる。そして、状況を説明することで、矢野くんに現時点までの状況と今後の展開予測を伝えるだけじゃなく、喋ることで自分の精神面も落ち着かせる効果があったようだ。

前回はひたすら頭の中で自問自答を繰り返すだけ。他の人と話そうにも、英語や片言フランス語、そしてベルギー人やオランダ人とオランダ語での会話。やはり日本語で自分の思ったことをダイレクトに吐き出せるというだけでストレスが発散されていくのを感じた。

折り返してからはフランス人とベルギー人が引く・引かないで協力しない状態になり、単独で抜け出しているドイツ人(?)との差が徐々に開いていく。自分だったらきっと2回目のナイトランが確実に最大の山場になるだろうと判断、今は集団の後方で様子を見ながら走る。

徐々に残り距離が減り、徐々に陽が傾き始める。すれ違う人が増え始め、日本人参加者からも応援を受ける。フランス人やベルギー人なども熱い応援を受けている。まるで世界選手権のような錯覚に陥り、アドレナリンが止めどもなく流れ出る感覚に包まれる。

 夜の集落を走り抜ける「プロトン」 夜の集落を走り抜ける「プロトン」 photo:Daisuke.Yano
反射ベストを着用しライトオン。いよいよ2日めのナイトランだ。陽が落ちると途端に真暗な闇の世界。そして気温もガクッと下がる。体力のあるうちはそれほど気温の低いことを感じないが、体力が低下してくるとそれだけでかなりきつい。そのうち登りでペースが上がり始める。

ライトの光を少し被るようにセッティングしているキャットアイ・ストラーダスマートのスピードメーターのスピードは正直速いわけじゃない。しかし、睡魔が半端なく足に力が伝わらない。時々ふと目を閉じるとそのまま目が開かない。目を開けると集団と数メートル差。そこで、ペースを上げて追いつく。またふと目が開かない。そして、また数メートル……。

 夜通しのドライブは大変だが、早朝の一瞬の美しい風景を見逃さずに撮れるのはメリット 夜通しのドライブは大変だが、早朝の一瞬の美しい風景を見逃さずに撮れるのはメリット photo:Brian Vernor サポーツクルーも最後は放心状態だ。撮影はアメリカからブライアン・ヴァーナー氏を招く サポーツクルーも最後は放心状態だ。撮影はアメリカからブライアン・ヴァーナー氏を招く photo:Daisuke.Yano CPに入ってくる早朝の「プロトン」いかに見分けづらいかがよくわかる CPに入ってくる早朝の「プロトン」いかに見分けづらいかがよくわかる photo:Brian Vernorきっと集団内ではペースがきつくて千切れかけていると思ったのだろう。それを機に集団のペースが上がる。だが、辛くはないしまた追いつく。そしてまた寝落ち気味……。最大で20メートルほど遅れるが、すぐに追いつける。集団の方もあきらめてくれたのかペースは一定に。

そして、自分でも起きなくても走れるんじゃないの?と思った瞬間「ガガ!!」と、路肩に落ちる。幸い左側の足のビンディングを外してすぐに足を着いたので落車もしなかったが、右側は下手をするとそのまま斜面になっており、10m以上も落ちる可能性があり得ただけに瞬間的に寒気が走って目が開く。

集団まで大急ぎでペダルを回し……するとまた睡魔が襲ってくる。他の連中は相当きついめのカフェインを摂取しているのだろうか。眠そうでもないし、何よりも頻繁に小便タイムを要求してくる。こちらなんて40kmごとじゃ一滴すら出てこないのに……。

1000kmを越えてPCで矢野くんから「あと200km!がんばって!!」と熱く激励されるが、逆に「“あと200km”ってびわ湖一周、8時間はかかるで……あと、じゃないよ、あととは……」と冷静になる。前回は1000kmを越えたとき、思わずシフトチェンジしてダンシングでペースアップしたものの、しかし9時間ほどかかるのか~と愕然とした記憶が蘇る。

先頭には到底追い付きそうにない(約1時間差)。ここでフランス勢たちはギブアップしたのか「ここからはアタックや抜けがけせず、みんなでゴールを目指そう」と提案。しかしそこから速い速い!平坦で時速40キロぐらい出ている。追い込んでも千切られないとわかっているから、結構みんな頑張って引いてくる。こちらはまだ睡魔で集団後方でヒラヒラと別の戦いを演じている。そのうちペースの速さで千切れるものも出てくる。確かにアタックはしていないが、限りなくアタックと同じ行為だ……。

ラストのPCからはこのままゴールすれば、歴史的にもすごいことなんだ、自分が目指していた目標が現実のものとなるんだ、ということに興奮し、眠気がウソのように消えていく。ゴールはどうするんだ?ペースが上がるのか?と疑心暗鬼な状態の中でゴールに近づくも、みなジェントルマン、ほぼそのままの隊列で味気のないゴールラインを通過。

形式上ヴェロドロームの中でブルベカードにサインをしてもらってこの旅は終焉を迎える。序盤はランニングしてスタンプを捺印してもらっていたが、ここでは走ろうにも足に力が入らない。他の連中もそうだ。その中で自分が一番余裕があったのかヴェロドロームにはこの集団内でぶっちぎりの一番乗り。

 アンチクライマクティックだったフィニッシュの瞬間 アンチクライマクティックだったフィニッシュの瞬間 photo:Daisuke.Yano
タイムは43時間23分。前回のトップタイムよりも速いし、多分PBPランドヌール部門が始まってから、歴代でも30番ぐらいのタイムだろう。これって近代ツールで言えばむちゃくちゃすごいことだ。もちろんツールではないけれど(笑)。しかしそんな冗談のような比較をしてしまうほどに、PBPという大会は未だに非常に大きなステータスを持ち、走る人々を魅了しているように思う。

もちろん、速く走るだけがPBPではない。自分たちはたまたま80時間カテゴリーという、古典的なロードレースをそのまま再現したようなカテゴリーで自分自身と「戦っていた」が、制限時間いっぱいを使って完走を目指す人たちももちろんみんな自分自身と「戦って」いる。戦っている人みんながリスペクトできる人たちだ。

速いことが絶対的な正義の基準ではないが、速く走ることももちろん正義の一つだ。今回一緒にゴールまで戦い続けた「同志」たち。ゴールしてみれば本当に痛みを一緒に分かち合えた同志だったと心から思える。今はまだ4年後のことなどこれっぽっちも考えられないが(今また40時間も大きなストレスと戦って走ることを想像できない……)、もしまた4年後同じように一緒に戦えるとしたら、それはすごく楽しみだ。

 ガラんとしたヴェロドロームでフィニッシュして座り込むと立てなくなり放心状態となった ガラんとしたヴェロドロームでフィニッシュして座り込むと立てなくなり放心状態となった photo:Brian Vernor今回のPBPのチャレンジに対して、ラファの矢野くん、いやラファジャパンの矢野社長には非常にお世話になった。彼のサポートがなかったら間違いなく前回の二の舞、どこかでハンガーノックになって千切れていただろうし、もしかしたら早々とイーブンペースになってしまい、先頭グループへ食らいつく気持ちが向かなかったかも知れない。

その他にも今回のチャレンジのためにスペシャルなチェーンルブを用意してくださったWAKO’Sさん、滞在ホテルの部屋をシェアしてくれた横浜の川邊くん、走行中にSNSを通じて激励をしてくれた日本の人たち、そしてスタート前やすれ違いざまに熱い応援を送ってくれたすべての日本人参加者の皆さん、本当にありがとうございました。自分自身で驚くような好記録だったけれど、自分一人で出せたわけじゃない。本当に多くの人の力で、その結果がこの記録になったのだと。

記録はいつか抜かれる運命にある。いつ誰が抜くのかはわからない。だが少なくとも4年間は日本人で初めて50時間を切って先頭グループでPBPを走った日本人として記憶には残る。そしてこの記録がいつか抜かれようと、自分の記憶からは永遠に消えることはないだろう。

text:三船雅彦 
photo:Brian Vernor
協力:矢野大介/rapha Japan
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