4年に一度のブルベ、あるいはランドヌールの祭典「パリ~ブレスト~パリ」。世界中から集まったロングライダーたちの中でも、トップ集団で繰り広げられている風景を知るために4年ぶりにPBPに帰ってきた三船雅彦さん。今回は、再挑戦することになった経緯や、事前の準備についてお届けします。



フランスの街を走り抜ける パリ~ブレスト~パリフランスの街を走り抜ける パリ~ブレスト~パリ
8月16日からフランスで開催されたパリ~ブレスト~パリ(以下PBP)。2011年に開催された前回に続いて2回目の参加となる。前回はブルベを初めて2年目での参加。ブルべのこともあまり知らないまま、昔から聞き覚えのあったPBPに興味を持ち参加を決意。ブルベと言うよりもファーストランの最高峰として、自分がどこまで出来るのかチャレンジしたく出場した。

まずは、前回について簡単にダイジェストでお届けしよう。当時は国内ブルベで600kmは24時間を越えるくらい、300kmでは11時間半を切っていた。なのでなんとか先頭グループをキープすることはできるだろうとたかをくくっていた。

前回、2011年のスタートラインに立つ三船さん前回、2011年のスタートラインに立つ三船さん (c)Rapha.ccナイトランは避けて通れない難関である。前回は幻覚を見ながら走る時もナイトランは避けて通れない難関である。前回は幻覚を見ながら走る時も スタート2日前に南回りの飛行機でフランス入りした影響もあったのか、時差ボケと言うよりも睡魔が取れない。実際スタートして10時間ほどで寝落ちしそうな感覚で力が入らず、延々と幻覚を見ながらペダルを漕いでいた。スタートからは予想通りのスピードと言えど、平均時速で33キロを超えている。

140km地点の登りでは集団内で位置取りがあり、どんどんコンパクトになっていく。220kmのチェックポイントでは、いきなりみんなサポーターにバイクを預けてスタンプを押してもらうのにレーサーシューズでランニング。そして捺印後は補給食を受け取るとすぐにバイクに跨り先へ進んでいく。サポーターのいない俺はパニックになるも、冷静に他のサポーター連中に補給食やボトルをねだり、450km付近のチェックポイントまで先頭グループでクリアーした。

先頭グループがコンパクトになり、他の参加者に補給食やボトルを分けてもらう中、「なぜサポーターもいないのに、80時間カテゴリーにエントリーしているんだい?」と言われ、その時はじめてこの先頭を狙うカテゴリーと言うのは限りなくレースで、1800年代にレースとして始まったPBPの当時のスタイルをそのまま継承し、今でも先頭でゴールすることにステータスが存在する、古典的ながらロードレースそのものなんだと気付いた。

そして、案の定というか、480km地点の登りで一気にエネルギーが枯渇して先頭集団から脱落。あまりのハンガーノック度合いに気が狂いそう、とにかくゴールまでの約750km、ずっと気分悪く走り続け、2回目のナイトランでも幻覚を見ながら走り、そして2時間半の寝落ち……。結局53時間16分でゴールした。

過去日本人の最速記録を更新したが、順当に行けば50時間は普通に切れていたという事実が悔しさをより大きくし、ゴールと同時に4年後には必ずリベンジする。先頭は44時間13分だったから、悪くても48時間以内、可能ならば46時間以内、いや先頭グループでゴールに戻って来たい、と。

あれから4年。準備する時間は4年もあったが時間はどんどん経過し、逆にPBPが近づくにつれて焦る気持ちの方が大きかった。身体的には単純に年を取るし、スピードメーターを見ても当時のようなスピードで走ることが難しい。ランドバウクレジット時代は時速50キロで3分先頭を引くなんて、別に特別でもなかったのに、今では時速50キロで1分すら不可能だ。

それでも、PBPに向けての準備は、考えられる限りは非常に良い状態で進んでいたと思う。もう少しこんなことができたのでは?という思いは常に持っていたが、既に選手として100%没頭できる環境があるわけじゃない。仕事をしながら、それもフルタイムで仕事をして、夜帰宅してからもだいたい夜中1時から2時までは事務仕事を行っている。

練習を行うことができる日は週に水曜日に1回。それも仕事が忙しいと打ち合わせなどで不可能だが。そして週末ブルベに出場すればそれ自体がトレーニング。あとは平日に自転車で片道27km通勤をだいたい3~4回。PBPの前には帰宅を少し遠回りしたりで対応した。

4年ぶりとなるメイン会場のベロドローム4年ぶりとなるメイン会場のベロドローム
そして当然ながら機材も大事だ。リドレーのバイクを使い始めて3シーズンめ。今年は、昨年に引き続きヘリウムSLとヘリウムを使用している。ロングライドではヘリウムがメインだ。ハイエンドモデルでこそないものの、カーボンのトン数が低いことで逆に路面からの衝撃がかなり緩和されるのが魅力だ。一方、ヘリウムSLも軽量でレスポンスの良さがグループライドでは有利に働くので、実のところどちらにするかのメリットはどちらも捨てがたい。現地へは2台とも持ち込んだものの、最終的にいつも使っているヘリウムで走ることにした。

ヘリウムにはカンパニョーロ・レコードEPSを装備、一昨年からブルベでも使用しているが特にトラブルもなく、特にSR600で気温差20℃以上で雨から晴天まで、短時間に目まぐるしく変わる状況を経験したが、何も問題がなかった。何よりもシフトを繰り返していると、どんなにシフトが軽くても手首や腕への負担があり、それがきっかけなのか長い距離のブルベだと握力の低下や手首の痛みなどが顕著になる。今年はV2にモデルチェンジしてバッテリー容量が小さくなったが、データ上はPBPを走りきっても残量には余裕があるので問題ないと判断し、使用している。

タイヤはオリジナルの「MASSA T2601」を採用。過去5年間ブルベで使用しているが、SR600の菅平で嵐の中を下り、チューブに傷がついたのかバルブ付近に穴が開いていたことはあったが、異物が刺さってのパンクが1回だけ。最大でも2000km以内で交換してはいるものの、ブルベで1万km以上走行する中で何かが刺さってやタイヤが切れてと言うのはそれ以外にない。

PBPの相棒として選んだのはリドレーのヘリウムPBPの相棒として選んだのはリドレーのヘリウム
キャットアイVOLT700を2灯にメインメーターとしてPOLAR V650を採用キャットアイVOLT700を2灯にメインメーターとしてPOLAR V650を採用 リアライトは防水処理としてテープを巻いているリアライトは防水処理としてテープを巻いている 今回のサドルバッグの中身今回のサドルバッグの中身 三船さんがメインウエアとしてチョイスした Rapha Brevet Jersey(グレイ/グリーン)三船さんがメインウエアとしてチョイスした Rapha Brevet Jersey(グレイ/グリーン) (c)Rapha.cc 1200㎞のライドを支えてくれるレーサーパンツ Rapha Pro Team Bib Short(ホワイト)1200㎞のライドを支えてくれるレーサーパンツ Rapha Pro Team Bib Short(ホワイト) (c)Rapha.cc自転車のトラブルと言えば大半がパンク。そのパンクの可能性が大幅に軽減されるという意味は大きい。今回日本人2番目でゴールした落合くんはじめ、PBPでも何人かの参加者が使用してくれていた。ちなみに今回は26cで5.8気圧。クッション性と転がり抵抗のバランスを考えると、体重75kgであれば5.8~6.2気圧でよいと思う。空気を入れ過ぎてしまうと、乗り心地も悪くなる。タイヤの変形が少ない分、路面からの衝撃を直に伝えるので、結果的に遅くなってしまうのだ。

何度もブルベを走っては23cと26cのスピードの切り替わりと思われる場所を把握した。大体10時間あたりを境にして、26cを使用した方がトータルのタイムが良いと分かった。空気圧も6.5気圧、6.2気圧、6気圧、5.8気圧、5.5気圧と試したが6.2~5.8気圧が一番軽快に感じ、自分は特に5.8気圧が一番よかった。特にフランスの荒い路面を考えると低めのほうが良いと判断した。

ライトはキャットアイVOLT700を2灯。基本はカタログ上10時間点灯可能なオールナイトモードで走行。そして下りをはじめ、明るさの欲しい時にはノーマルモードで使用。ブレストの折り返しのときには、おそらくバッテリー残量は問題なかったが念のため、2つとも満充電されたものに交換した。そして2日めのナイトランでは疲労や展開などでノーマルモード以上の明るさが必要になる可能性もあったため、交換したものは充電しておいてもらうようにした。

ナイトランではトラマレンズを採用して視界を確保できたBRIKOのアイウェアや、ロングライドでの衝撃緩和にすごく有効となる、硬すぎないソールを採用しているSIDI WIREのカーボンコンポジットソールモデルなど、すべてにおいてこだわりの製品を準備することができた。

そして、今回のチャレンジではラファからウェアを提供していただいた。今回着用したのはブルベジャージとプロチームビブショーツ。それにロング丈のソックスに、メリノウールの半袖インナーウェア。アームウォーマーとナイトラン時に着用するニーウォーマーもメリノウール。これらのメリノウール製品は、暖かいだけでなく通気性も兼ね備えているので、日中着用していても不快感がないのが気に入っている。

そのほかにもレーサーキャップは小さいアイテムながら雨や寒さをしのげるし、何と言ってもPBPの場合往路は延々と西へ、復路は東へ。なので往路は夕陽を見続けるし復路は朝日がまぶしい。そんな時にキャップのツバを下げてやれば、かなりまぶしさ=目の疲れを軽減できる、頼もしい存在だ。。

天候は走りだしてからも変わることを想定し、最悪雨が降り続く場合に備えてインナーは合計で3枚、ジャージーとビブは予備1枚、ソックスも予備3足など。
今回持参したウェア関係は下記の通り

○メリノウール半袖インナー 4枚
○エキストラロングソックス 4足
○ブルベジャージ― 2着
○プロチームビブ 2枚
○メリノレッグウォーマー 1ペア
○メリノニーウォーマー 1ペア
○メリノアームウォーマー 1ペア
○アームウォーマー 1ペア
○アームカバー 1ペア
○レーサーキャップ 2個
○プロチーム ソフトシェルジャケット 1着
○プロチーム レースケープ 1着
○オーバーシューズ(雨用シューズカバー) 1着
○薄手長指グローブ 1ペア
○軍手タイプ長指グローブ 1ペア

そしてシャモワクリームも欠かせないアイテム。特に雨が降ったり汗をかいたりして濡れてしまうと、どんなに高機能なビブショーツ(パッド)を着用しても、必ずまるで刃物を身に着けているかのようにヒフを切り始める。始めて1,000km以上のロングライドをした時にビックリしたのは、おへそのあたりがまるでカッターで切ったかのようにいっぱい切り傷がついていたこと。

これは雨でふやけたインナーシャツがおへそ付近で擦れていたことが原因だ。パッドにはもちろんたっぷりと塗り、そして股間にも直接たっぷりと。それでも500kmあたりで塗り足した。後半はもう大丈夫だろうと塗り足さなかったために、最後になって瘡蓋になってしまったが。それでも特に激しい痛みがなかったのは、やはりある程度しっかりと塗っていたからだろう。

text:三船雅彦 協力:rapha Japan