2010年8月15日、ドイツ・ハンブルグで第15回ヴァッテンフォール・サイクラシックス(UCIプロツアー)が開催され、トップスプリンターがひしめく接戦を制したタイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)が優勝。史上初となる大会2連覇を達成した。

港湾都市ハンブルグを中心に開催されるヴァッテンフォール・サイクラシックス港湾都市ハンブルグを中心に開催されるヴァッテンフォール・サイクラシックス photo:Cor Vosドイツ・ハンブルグを起点とする大小の周回コースで開催されるヴァッテンフォール・サイクラシックス。平坦基調のレースだけに集団スプリントに持ち込まれることが多いが、後半にかけて3回通過するヴァーゼベルクがスプリンターたちの脚を弱めるとともにアタックを誘発させる。

ヴァーゼベルクは登坂距離こそ700mと短いが、最大勾配が15%に達する急坂。過去にはこのヴァーゼベルクで飛び出した少人数グループがゴールまで逃げ切った事例もある。

最大16分30秒のリードを得たガティス・スムクリス(ラトビア、アージェードゥーゼル)やセバスティアン・ラング(ドイツ、オメガファーマ・ロット)ら5名最大16分30秒のリードを得たガティス・スムクリス(ラトビア、アージェードゥーゼル)やセバスティアン・ラング(ドイツ、オメガファーマ・ロット)ら5名 photo:Cor Vos216.6kmのレースに挑んだのは168名の選手たち。レース序盤にニコライ・トルソーフ(ロシア、カチューシャ)、アントニー・ジェラン(フランス、フランセーズデジュー)、セバスティアン・ラング(ドイツ、オメガファーマ・ロット)、ガティス・スムクリス(ラトビア、アージェードゥーゼル)、ロビン・シェニョー(オランダ、スキル・シマノ)のアタックが決まると、メイン集団はすぐにスピードを落とした。

トルソーフら5名は最大で16分30秒のリードを得てレース後半へ。メイン集団はガーミン・トランジションズやチームスカイが牽引し、逃げグループとのタイム差をジワリジワリと詰めた。

逃げグループの中から2回目のヴァーゼベルクでアタックを仕掛けるニコライ・トルソーフ(ロシア、カチューシャ)逃げグループの中から2回目のヴァーゼベルクでアタックを仕掛けるニコライ・トルソーフ(ロシア、カチューシャ) photo:Cor Vosレースが動いたのは2回目のヴァーゼベルク。逃げグループの中から強烈なアタックを決めたトルソーフにジェランとスムクリスが合流し、ラングとシェニョーはメイン集団に吸収される。

先頭3名のリードはゴールまで30kmを残して2分55秒。空からは雨粒が落ち始め、路面はウェットコンディションに変わった。

追走グループを形成するフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)、ペーター・サガン(スロバキア、リクイガス)、フィリッポ・ポッツァート(イタリア、カチューシャ)追走グループを形成するフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)、ペーター・サガン(スロバキア、リクイガス)、フィリッポ・ポッツァート(イタリア、カチューシャ) photo:Cor Vos最後のヴァーゼベルクを前にメイン集団では熾烈なポジション争いが繰り広げられ、道幅の狭い急勾配の上りでフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)と2005年大会の覇者フィリッポ・ポッツァート(イタリア、カチューシャ)がアタック。遅れてペーター・サガン(スロバキア、リクイガス)が合流し、3名で追走グループを形成した。

しかし有力スプリンターを擁するメイン集団はこれらの選手の先行を許さず、スピードを上げてジルベールらを吸収。それまで逃げていたトルソーフらもゴールまで8kmを残して吸収された。

スプリント勝負を繰り広げるタイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)やエドヴァルド・ボアッソン(ノルウェー、チームスカイ)スプリント勝負を繰り広げるタイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)やエドヴァルド・ボアッソン(ノルウェー、チームスカイ) photo:Cor Vos続いて2人のナショナルチャンピオン、マルティン・エルミガー(スイス、アージェードゥーゼル)やクリスティアン・クネース(ドイツ、チームミルラム)がアタックを仕掛けたが、メイン集団とのタイム差は10秒以上に広がらず。結局アタックは全て封じ込められ、50名ほどに縮小した集団がハンブルグ中心地のゴールへ。雨に濡れた危険なコーナーを高速で駆け抜け、最終ストレートに突入した。

メンバーを集めて積極的にトレインを組んだのはチームスカイ。エーススプリンターのエドヴァルド・ボアッソン(ノルウェー)が好位置でスプリントを開始したが、その後方から飛び出したファラーがボアッソンを右側から抜き去って行く。

ガッツポーズでゴールに飛び込むタイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)ガッツポーズでゴールに飛び込むタイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ) photo:Cor Vos左側から今シーズン最多勝のアンドレ・グライペル(ドイツ、チームHTC・コロンビア)が姿を現し、ボアッソン、ファラー、グライペルの3名が並んだままゴール。僅かに先着したファラーが右手でガッツポーズを繰り出した。

ファラーは2009年大会に続く勝利。大会の15年の歴史の中で、大会連覇はおろか2勝を飾った選手は他にいない。

表彰台、左から2位エドヴァルド・ボアッソン(ノルウェー、チームスカイ)、優勝タイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)、3位アンドレ・グライペル(ドイツ、チームHTC・コロンビア)表彰台、左から2位エドヴァルド・ボアッソン(ノルウェー、チームスカイ)、優勝タイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)、3位アンドレ・グライペル(ドイツ、チームHTC・コロンビア) photo:Cor Vos今シーズン6勝目を飾ったファラーは「また勝つことが出来て信じられない気分。ヴァッテンフォールのようなワンデーレースで勝利するためには強運が必要なんだ。2年連続で運が味方してくれた。このレースは自分の脚質にピッタリ合っているから好きなんだ」とコメント。世界トップスプリンターとしての地位を確立しつつある。

「ツール・ド・フランスでは手首を骨折して厳しい闘いを強いられた。レースに復帰して、こうして勝つことが出来て、順調に回復していることを実感したよ。これから幾つかのワンデーレースを走って、ブエルタ・ア・エスパーニャとロード世界選手権に挑む予定。この2つのレースは自分にとってとても重要なんだ」。

ファラーは今年のツール第2ステージで落車して手首を骨折。怪我を押して出場を続け、第6ステージで2位、第11ステージで3位に入った(第12ステージでリタイア)。ファラーは昨年のブエルタでステージ1勝(トップ5フィニッシュは5回)を飾っており、グランツールフル参戦の今年もステージ優勝に期待がかかる。スプリンター向きと予想されているメルボルンのロード世界選手権ではアメリカチームのエースを担うことになるだろう。


ヴァッテンフォール・サイクラシックス2010結果
1位 タイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)5h02'36"
2位 エドヴァルド・ボアッソン(ノルウェー、チームスカイ)
3位 アンドレ・グライペル(ドイツ、チームHTC・コロンビア)
4位 アレクサンドル・クリストフ(ノルウェー、BMCレーシングチーム)
5位 アラン・デーヴィス(オーストラリア、アスタナ)
6位 ダニエーレ・ベンナーティ(イタリア、リクイガス)
7位 トム・リーザー(オランダ、ラボバンク)
8位 エンリケ・マタ(スペイン、フットオン・セルヴェット)
9位 セバスティアン・イノー(フランス、アージェードゥーゼル)
10位 マルコ・マルカート(イタリア、ヴァカンソレイユ)

text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos