自身で「本流ではない」と語るルートで世界を目指す小山智也。眠る時以外は常に行動を共にしているという選手兼コーチのデラパルテや、僅か4ヶ月で7kgの減量に成功した食事管理、週2度のレッスンを受ける英語学習、また家族同然だと言うなるしまフレンド小畑氏との交流について話を聞いた。



前編はこちらから。

2024年はBMCのオールラウンダー SLR01に乗る photo:Tomoya Koyama

―2024年より所属するオーストリアのコンチネンタルチーム、チーム・フォアアールベルクについて教えてください。

小山智也:創設が1998年と長い歴史があり、エウスカルテル・エウスカディ*のようにオーストリアの自治体が運営しているチームです。規模がプロチームと同程度ということもあり、ずっと入りたいと思い3年前から毎年オファーのメールを個人的に送り続けていました。だけど一切返信がなくて(笑)。

*スペイン・バスク州の自転車財団を母体とし、スポンサーをはじめ選手の大多数を同州出身が占めるチーム。

―では、どうやってフォアアールベルクとの契約に至ったのですか?

元々そのチームで走っていたビクター(デラパルテ)*が電話したらその場で決まりました(笑)。「その選手は走れるのか?」というチームからの質問に対し、ビクターが「俺がコーチングしているから大丈夫だ」と答えたら一発でした。ちなみに僕のメールは返信がなかっただけでちゃんと読まれていました。

*シクロワイアードではビクトルと表記する、今年トタルエネルジーからエウスカルテル・エウスカディに移籍したスペイン人選手

練習パートナーでありコーチのビクトル・デラパルテと栄養士で妻のアマイアさん photo:Tomoya Koyama

―さすがビクター選手。彼のコーチングは2023年からですか?

ツアー・オブ・ブリテンの直後(9月半ば)からです。元々ビクターとは一緒に練習していたのですがブリテンの後に体重が増えすぎてしまい、彼に相談してコーチングをお願いしました。また、いまは栄養士である彼の奥さんに食事メニューの管理をしてもらっています。

―ビクター選手はコーチングもしているのですね。

元々ビクターは大学でスポーツ科学を学んでからプロ選手になったこともあり、いまは僕を含め3名のコーチを務めています。その中の一人には、今年プロチームからワールドチームに移籍した選手もいて、実績も確かなものです。

―具体的なトレーニング内容とは?

彼が1週間単位のトレーニングを組み、奥さんがそれに合わせた食事メニューを作ってくれています。例えばその日急に練習時間が取れなくなっても、それをWhatsApp(メッセージアプリ)で伝えればすぐに修正版の練習と食事メニューを送ってくれます。そのおかげで忠実にメニューを守った最初の2週間で3kg減りました。逆にメニューを作ってもらう以前が無知だったということもあるのですが…。

―コーチが現役の選手かつ、一緒に練習できるとは理想的な環境ですね。

そうですね。毎日一緒に走りますし、その日やるメニューの目的と理由を伝えてくれるので、自分で納得してから練習できるようになったのは大きな変化です。またビクターは精神的な成長の機会も与えてくれました。

実はブリテンの次戦であったツアー・オブ・イスタンブールに向けて不安があったのですが、それをビクターに伝えたところ「人間のパフォーマンスは脳が司っているのだから、ネガティブな考えがあるうちは良い走りなどできない」という、半ば説教のようなものを1〜2時間ほど受けました。

そうしたらその翌日の練習で、いつもなら途中で彼に千切られてしまう登りを最後まで付いていくことができたんですよ。それを見たビクターは「ほらできたでしょ?」って(笑)。そのポジティブなマインドのままイスタンブールに臨んだところ、最終日の平坦ステージで10位に入ることができました。

(レースカテゴリーが)2クラスとは言え、良い選手たちの揃ったレースだったので自信に繋がりましたし、それがヨーロッパに来てはじめて勝負する感覚を味わうことのできたレースでした。

デラパルテのコーチングによって急成長したと語る小山 photo:Tomoya Koyama

―ビクター選手と奥さんのメニューを初めて約4ヶ月が経ちましたが、その成果は現れ続けていますか?

はい。特に体重に関しては大きな変化がありました。一時期は77kgもあった体重が、シーズンオフにも関わらずいまは70kg台まで落ちています。また2024年の2月半ばにアンドラに戻る予定なのですが、ビクターが持っている機械で血液の乳酸値を測定し、今後の練習の方向性を決める予定です。

―小山選手以上にビクター選手のことが気になってきました(笑)。

ビクターは自転車が本当に好きで、常に速くなる方法を考えているので日々刺激をもらっています。また一緒に練習した後も、自分の家でシャワー浴びた後に彼が車で迎えに来てくれるんですよ。そこから一緒にジムやサウナ、山登りなど遊びに行って、そのまま彼の家に向かいます。そして帰ってきた奥さんと3人で夕食を囲むというのが日々のルーティンです。

―文字通り”四六時中”一緒ですね。

はい。夕食は皆で一緒に食べるのですが、それぞれが別のものを食べています。例えば奥さんは炭水化物をしっかりと摂るのに対し、選手であるビクターは野菜だけ。僕は野菜とエアフライヤーで調理したチキンなど、その目的に沿った、日本に比べるとシンプルなものを食べています。

―だから一気に痩せることができたのかもしれませんね。

高校で砲丸投げをやっていた時は100kg以上あったのですが、元々太りやすい体質なのですよね。自転車を始めたきっかけもダイエットですし、そしたら大阪の実家の近所にたまたま住んでいた三浦恭資さんを紹介してもらい、本当に色んな人との出会いがあっていまに至るという感じです。

小山選手が「家族同然」だと話す小畑夫妻 photo:Tomoya Koyama

―小山選手が日本での恩人という、なるしまフレンドの小畑郁さんとはいつ知り合われたのですか?

自転車を始めてからすぐの頃、タイ合宿で知り合った土井雪広さんの助言で上京し、小畑さんが当時やっていた練習会に参加しました。そこで仲良くなり、それ以来5年近く小畑家に定期的に住ませてもらっています。

―ビクター選手といい小畑さんといい、小山選手には何か人を惹き付ける魅力があるのでしょうか?

自分ではわからないですが、助けてもらえている理由は、恥ずかしがらず「プロの自転車選手になりたい」と自分の気持ちを伝えていたからだと思います。小畑さん夫妻には本当の家族同然のようにしてもらっていて、自分が出場したブリテンとターキーもわざわざ観戦に来てくれました。

ヨーロッパで何かトラブルがあっても、ビクターか小畑家に相談すればなんとかなるという安心感が、僕の活動の支えになっています。

今年はオーストリア籍のコンチネンタルチーム、チーム・フォアアールベルクで走る photo:Tomoya Koyama

―ところで2年ほど前にお話を伺った際に「英語は全く喋れない」と言っていました。英語も勉強されたのですか?

イギリスの大学を出て早稲田大学で学んでいる博士課程の大学院生を紹介してもらい、中国人である彼に週2回のオンライン英会話を受けています。それに加えビクターや他の選手たちと毎日英語で話していることもあり、「伝えたいことが伝わらない」状態からは脱することができました。

―今後目指すはプロチーム、そしてワールドチームへのステップアップだと思いますが、度々話に出てくる新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス)選手はどういう存在ですか?

直接お世話になっているのはもちろん、ヨーロッパでは間接的にも幸也さんの恩恵を受けています。なぜならもうヨーロッパでは"日本人自転車選手=新城幸也"なので、選手やファンから「新城は元気か?」と聞かれることが会話のきっかけになっています。この前もスペインのバレンシアで行った合宿先で、峠の頂上にいた一般サイクリストに「アラシロ!」って叫ばれたぐらい(笑)。

―最後に今後の予定を教えてください。

2月半ばにアンドラへと戻り、2月末からギリシャで2〜3週間のトレーニング合宿を行います。そしてそのままチームが例年出場するギリシャのステージレースに出場する予定です。

text:Sotaro.Arakawa

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