日本人による、日本人のための、日本人が造るバイク。そんな言葉を具現化するアンカーより、2017年に同社のテクノロジーの粋を集めて開発されたハイエンドエンデュランスバイク「RL9」をインプレッションした。



アンカー RL9アンカー RL9 photo:MakotoAYANO/cyclowired.jp
より心地よく、より遠くへ。趣味としてロードバイクを楽しむ人ならば、誰もが求める要素が快適性と速さだ。国産ブランドの雄たるアンカーが正面からそのテーマに取り組み、出した答えがこのRL9である。開発コンセプトとなるキーワードは、ラグジュアリー。身体への負荷を最小限に抑えつつ、小気味よい走行感で長距離ライドをより楽しめるよう、アンカーの持つ全てのテクノロジーを投入したエンデュランス系の旗艦バイクである。

ホビーライダーから高い支持を受けてきたロングライドモデルRL8の後継、そして発展形として開発されたRL9。アンカーのモデル名は前半のアルファベットが用途別のモデル名を示し、後半の数字がグレードを表すが、”9”という数字はこれまでピュアレーシングバイクであるRSシリーズにのみラインアップされてきた。このRL9においてアンカーは初めてロングライド系バイクにハイエンドの証たる9を与えている。

振動吸収性のキモとなるリアセクション振動吸収性のキモとなるリアセクション ケーブル類はフル内装されるケーブル類はフル内装される ベンドフォークを採用し、振動吸収性能を高めたベンドフォークを採用し、振動吸収性能を高めた


性能アップのベースとなった基幹技術が、ブリヂストンの研究開発部門である「ブリヂストン 中央研究所」と共同研究で構築した「PROFORMAT」と呼ばれる解析システムである。Propulsive Force Maximization Analysis Technology、つまり推進力最大化解析技術を意味するこのテクノロジーは、これまでの固定されたフレームに対し静的な力を加えてフレームの剛性を測定する方法ではなく、実際にバイクがライダーに乗車した状態での「進み方」を数値化する解析技術である。

この技術によって、アンカーは快適性と走行性能という相反する二つの性能を高次元でバランスさせることに成功。RL8の特徴であったリズム感のあるしなやかさを生かしつつ、PROFORMATによって更に乗り味を洗練させることで、RL9は極上の乗り心地を持ちつつも、伸びやかな推進力を有する究極のエンデュランスバイクとして誕生した。

ダウンチューブの端部はボリュームを持たさられているダウンチューブの端部はボリュームを持たさられている すっきりとしたフォルムのヘッドチューブすっきりとしたフォルムのヘッドチューブ

シートステーからトップチューブへは流れるようにつながっているシートステーからトップチューブへは流れるようにつながっている 扁平形状のシートステーと左右非対称のチェーンステー扁平形状のシートステーと左右非対称のチェーンステー


推進力を司るのは、ダウンチューブからBB周辺、そしてチェーンステーへと至るフレーム下部のラインだ。ワイド化したダウンチューブ、BBハンガーへ近づくにつれフレアし、ボリュームが増すテーパード形状のシートチューブ、ループエンドのリア三角、左右非対称のチェーンステーといった設計を採用することで、より高い剛性を確保している。

RL8に比べると、BBハンガーの横剛性が20%、リア三角の横剛性が14%向上しており、踏み込んだ時に力を逃さず推進力へと変換する効率が高められている。特にダウンチューブはボリュームを確保することで、フロント三角の剛性を高く保ちつつ、少し横方向へと扁平する形状によって、RL8と同等の縦方向へのしなやかさを確保した。

リアエンドはコンパクトな形状リアエンドはコンパクトな形状 BB周辺はしっかりとしたボリュームを持たせられているBB周辺はしっかりとしたボリュームを持たせられている


一方で、快適性に寄与するフレームのトップラインには、扁平形状のチューブが多く用いられる。フレーム全体として曲線と曲面で構成され、どこか女性的な印象さえ受けるRL9だが、その特徴が最も色濃く出ているのが、トップチューブからシートステーへとつながるセクションだろう。

特に、振動吸収性に直結するシートステーは強い扁平形状とされている。モノステーのシートチューブとの接合部から緩やかなアールを描きながらリアエンドへと繋がるシートステーも、PROFORMATによる解析をもとにしなり量をコントロール済み。これにより、腰砕けにならず、かつ最も振動を吸収する、最適な振動吸収バランスを保っている。

シートステー上部はモノステーでまるで板バネのようシートステー上部はモノステーでまるで板バネのよう ダウンチューブは中間部で絞られ、両端に近づくにつれてフレアするダウンチューブは中間部で絞られ、両端に近づくにつれてフレアする クラウンからスムーズにつながるダウンチューブクラウンからスムーズにつながるダウンチューブ


フロントフォークも、より質の高い振動吸収性を持つベンド形状を採用する。滑らかなアールを持つフォークブレードはボリュームのあるクラウン部からエンドへと近づくにつれ細くなっていくピンヒールのような形状で、いかにも高い快適性を担保してくれそうだ。

最新のテクノロジーによって、最適化された設計を与えられたRL9は、より洗練されたカーボンレイアップと合わせてRL8に対して100gの軽量化を果たした。フレーム単体重量は480mmサイズで940g、フレームセットで1,390gとなっている。今回インプレッションしたのは新型デュラエースで組み上げられた完成車。ホイールはWH-9100-C24-CLにブリヂストンのエクステンザR1Xを組み合わせている。ロングライドを快適に走る為の性能を詰め込んだアンカーの意欲作を2人のライダーはどう評価するのか、インプレッションをお届けしよう。



ー インプレッション

「日本人がロングライドを楽しむためのベストバイク」山崎嘉貴(ブレアサイクリング )

カーボンらしい初速の軽快感を非常に強く感じます。軽いギアを回してロングライドに出たくなるバイクですね。リュックを背負ってバイクパックも付けて旅に出よう、という気にすらさせてくれる、楽しさのある自転車です。

「日本人がロングライドを楽しむためのベストバイク」山崎嘉貴(ブレアサイクリング )「日本人がロングライドを楽しむためのベストバイク」山崎嘉貴(ブレアサイクリング )
最新のフレームで軽量に仕上がっていますが、走りにレーシングな要素はなく、スローな楽しみ方に特化した乗り味ですね。エンデュランス系バイクというと、ヨーロッパのメーカーでは体格の良い人がガシガシ踏み込んで走らせるための作りが主流ですが、それとは全く反対の発想で作られています。日本人の体格に合っていることはもちろん、軽いパワーでペダルを回すとスルスル前に進んでくれますね。

ソフトな乗り味ですから、パワーを掛けると力が逃げてしまう傾向にあるのですが、初速の軽さが相まって低速〜中速域での走りがとにかく軽い。ゆったりと登るには最適ですし、その場合も脚への負担は少ないでしょう。ヒルクライムも得意ですね。あまり大きいパワーを必要としないので、脚力に自信の無い方や女性にベストマッチだと思います。

サーキットエンデューロ等に使用するのであれば、パワー伝達性の高いカーボンディープリムホイールを足してあげれば良いと思いますし、フレーム自体のキャパシティの高さから、パーツ交換での乗り味調整はし易いと感じました。ハンドリングはコンフォートバイクだからと言ってマイルドではなく、ニュートラルな印象です。コントロールし易いので長時間のロングライドでも必要以上にストレスを感じることはありません。

趣味としてロングライドを楽しみたい方にこそベストですし、先に自転車の性格ありきで「これに合わせて乗ってね」というスタンスではなく、日本人の大半を占めるホビーユース層を踏まえ、そこに合わせて開発されている印象を受けました。日本ブランド、アンカーらしいユーザーへの思いやりを感じました。

「150km以上のロングライドに最適な快適性の高いラグジュアリーな乗り心地」遠藤健太(サイクルワークス Fin’s)

「150km以上のロングライドに最適な快適性の高いラグジュアリーな乗り心地」遠藤健太(サイクルワークス Fin’s)「150km以上のロングライドに最適な快適性の高いラグジュアリーな乗り心地」遠藤健太(サイクルワークス Fin’s) 快適性が高く、ロングライドや峠を何本も越えるグランフォンドに最適なバイクだと感じました。エンデュランスモデルながら走りに軽さがあり、長時間のライドでも楽しく乗ることができるでしょう。ヘッドチューブが長く、ゆったりとサイクリングを楽しみたい方に最適です。

ロングライドモデルというカテゴライズだけあって、フレームの硬さはあまり感じません。ですが小さい力でもしっかりと進んでいく感覚がありますので、フレーム自身の推進力は高めですね。中でも特にリアバックから前へ前へと押し出す力を感じます。この推進力の高さは登りで顕著に感じることができるので、「少し登りが速くなったか?」と錯覚を受けるかもしれません。

BB周りは硬すぎず柔らかすぎずちょうど良いバランスで剛性が保たれているため、強い力で踏んでも、回しても応えてくれるように感じます。ダンシング、シッティング問わず様々なリズムのペダリングに対応する、懐の深さが特徴ですね。

乗り心地に関してはリアバックが柔軟にしなり、高い振動吸収性を発揮しています。同時に路面追従性の向上にも貢献しているため、荒れた路面でもタイヤが跳ねることがありません。今回のテストでは23Cのタイヤが装着されていましたが、より快適な乗り心地を求めるのであれば25Cに交換しても良いでしょう。レーシングバイクとは違ったラグジュアリー感のあるマイルドな乗り心地のバイクです。

コンフォート系バイクということで、ヘッドチューブがレーシングバイクと比べると長めに設計されています。ポジションが出しやすいですし、それでいてアルミモデルのRL6と比べてヘッド剛性が高く、強くブレーキをかけてもブレる印象はありません。組み立てに関しては、ケーブル類が各所にアクセスしやすい構造になっているため、コンポーネントの種類を問わず組みやすいはず。

フレームの性格を考えると、登りの軽さと快適性を活かしてアップダウンの多い150km以上のロングライドに最適だと思います。グランフォンドイベントのような、長距離ライドでも体の疲労感をそこまで感じることなく走り切ることが出来るでしょう。ゆったり自転車ライフを楽しみたい方にオススメのバイクです。

アンカー RL9アンカー RL9 photo:MakotoAYANO/cyclowired.jp
アンカー RL9
フレーム:プロフォーマット 3ピース ハイモデュラスカーボン
フォーク:ハイモデュラスカーボン モノコック
サイズ:390、420、450、480、510、540mm
シートポスト径:27.2mm
BB規格:JIS
価格:
RL9 620,000円(税抜)
RL9 ELITE 385,000円(税抜)
RL9 EQUIPE 310,000円(税抜)
RL9 EPSE 310,000円(税抜)
RL9フレームセット 220,000円(税抜)



インプレッションライダーのプロフィール

山崎嘉貴(ブレアサイクリング)山崎嘉貴(ブレアサイクリング) 山崎嘉貴(ブレアサイクリング)

長野県飯田市にあるブレアサイクリング店主。ブリヂストンアンカーのサテライトチームに所属したのち、渡仏。自転車競技の本場であるフランスでのレース活動経験を生かして、南信州の地で自転車の楽しさを伝えている。サイクルスポーツ誌主催の最速店長選手権の初代優勝者でもあり、走れる店長として高い認知度を誇っている。オリジナルサイクルジャージ”GRIDE”の企画販売も手掛けており、オンラインストアで全国から注文が可能だ。

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ブレアサイクリングHP

遠藤健太(サイクルワークス Fin’s)遠藤健太(サイクルワークス Fin’s) 遠藤健太(サイクルワークス Fin’s)

新潟県長岡市に店舗を構えるサイクルワークス Fin’sの店長。学生時代にBMXから始まり、MTBやロードバイクまで幅広く自転車を楽しむ、バリバリの走れる系店長。スポーツバイク歴は18年にもなり、2012年には全日本選手権ロードに出場した経験も。お店は完璧なメカニックサービスを提供するべく、クオリティの高い整備が評判だ。ショップ主催のサイクリングやレース活動に積極的で、初めての人から実業団レースで活躍したい人まで手厚いサポートを心がける。

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サイクルワークス Fin’s HP

ウェア協力:rh+GRIDE

text:Naoki.YASUOKA
photo:Makoto.AYANO
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