2月3日から7日までの5日間に渡って開催されたステージレース「ボルタ・ア・バレンシアナ」。日本から参戦したキナンサイクリングチームの5日間を追った。



出走サインの壇上で紹介されるキナンサイクリングチーム出走サインの壇上で紹介されるキナンサイクリングチーム photo:Satoru.Kato
選手・スタッフ全員集まってのミーティング選手・スタッフ全員集まってのミーティング photo:Satoru.Kato他チームのスタッフから情報収集する藤間マッサーと通訳の小渡愛弓さん他チームのスタッフから情報収集する藤間マッサーと通訳の小渡愛弓さん photo:Satoru.Kato


前半後半のダイジェストレポートでもお伝えした通り、スペイン第3の都市であるバレンシア市周辺を舞台に開催された「ボルタ・ア・バレンシアナ」。UCI2.1クラスのステージレースで、5ステージの総距離は600.4km。アスタナ、チームスカイ、エティックス・クイックステップなど8つのUCIワールドチームをはじめとして計25チーム191名が出場した。

日本からは、今年結成2年目を迎えるキナンサイクリングチームが出場。メンバーは、伊丹健治、野中竜馬、阿曽圭佑、中西重智、オーストラリア出身のウェズリー・サルツバーガーとジャイ・クロフォード、地元スペイン出身でブエルタ・ア・エスパーニャ出場経験をもつマルコス・ガルシアの7名だ。



■第1ステージ 伊丹健治の落車があるも、全員無事に終える

スタート前、ジャイ・クロフォードにアップオイルを塗る藤間雅巳マッサースタート前、ジャイ・クロフォードにアップオイルを塗る藤間雅巳マッサー photo:Satoru.Kato初日は16.6kmのタイムトライアル。途中、標高116mの3級山岳があり、登りの傾斜もきついが曲がりくねった急な下りのあるコース。選手によれば、下りでコースアウトしていた他チームの選手もいたそうだ。

キナンサイクリングチームにとって、初日はタイムアウトや無用なトラブルが無いようにクリアする事が先決。クロフォードも「Safety first(安全第一)」で走ったと言う。しかし終盤にスタートした伊丹健治が、砂が浮いていたコーナーで落車。幸いにも再スタート出来る状態にあり、ゴールする事が出来た。伴走出来るチームカーが1台しかなく、伊丹にはチームカーが付けられなかっただけに、ヒヤリとさせられた。
「心が折れました」とレース後に話す伊丹だが「体は痛いですけれど大丈夫です。明日はまず完走を目指します」と、気持ちを入れ替えた。

■第2ステージ 今大会1つ目の山場を全員揃ってクリア

第2ステージ 集団の中ほどに位置取る伊丹健治と中西重智。隣にはこの日優勝したダニエル・マーティン(アイルランド、エティックス・クイックステップ)の姿が第2ステージ 集団の中ほどに位置取る伊丹健治と中西重智。隣にはこの日優勝したダニエル・マーティン(アイルランド、エティックス・クイックステップ)の姿が photo:Satoru.Kato
第2ステージ 遅れながらも単独でゴールを目指す阿曽圭佑第2ステージ 遅れながらも単独でゴールを目指す阿曽圭佑 photo:Satoru.Kato第2ステージゴール後にレースを振り返るジャイ・クロフォードとウェズリー・サルツバーガー第2ステージゴール後にレースを振り返るジャイ・クロフォードとウェズリー・サルツバーガー photo:Satoru.Kato2日目からは通常のロードレース。この日の終盤には、標高1151mの1級山岳がある。頂上までの登りは15kmあり、9%から12%の斜度が断続的に続く。いきなり登場した山場に何人残れるのかと、前日から選手もスタッフも不安を隠せなかった。

コース中盤の2級山岳あたりでレースが動くという予想に反し、序盤に逃げ集団が出来るとチームスカイのコントロールでゆっくり進行。「スローペースだったので、思っていたよりも楽に走れましたが、途中の2級山岳とか、道幅が急激に狭くなるところで集団内のポジションを落としてしまいました」と言う中西。阿曽も「残り7、8kmのあたりまではなんとかついて行けたけれど集団から離されてしまいました。集団から離れると登りもすごくきつかったです」と振りかえる。

この日優勝したダニエル・マーティン(アイルランド、エティックス・クイックステップ)から37秒遅れの54位に入ったマルコス・ガルシアは「今日の結果は喜んでも良い結果だ」と、レース後のミーティングで話した。「落車も無く、速いスピードの中で皆ついて行けた。自分達のペースを掴めているから、明日はもっと良くなる」と、チームを鼓舞した。

■第3ステージ 阿曽がエスケープに、野中が最後のスプリントにチャレンジ

第3ステージ リーダージャージの後ろでスタートする中西重智第3ステージ リーダージャージの後ろでスタートする中西重智 photo:Satoru.Kato3日目はスタート直後に3級山岳越えがあるが、平坦基調のスプリンターステージ。「第2ステージではアタックについて行こうと思ったけれど躊躇してしまった。今日は必ず逃げに乗る。」と前夜のミーティングで宣言した阿曽が、序盤に発生した逃げに乗った。「昨日より体が軽く感じられて、スピードも速かったけれど対応出来ました。けれど、力尽きて逃げについて行けませんでした。」とレース後に話す。その阿曽が乗りかけた7人の逃げはレース終盤まで続いた。「あと10分耐えられれば、あの逃げについて行けたね」と、レース後のミーティングで石田監督に言われると、ちょっと悔しそうな表情を見せた。

残り1kmを前に、メイン集団内で奮闘する野中竜馬(キナンサイクリングチーム)残り1kmを前に、メイン集団内で奮闘する野中竜馬(キナンサイクリングチーム) photo:Satoru.Kato残り40kmを過ぎて、逃げを吸収した集団はスプリント勝負に向けて動き出す。その中で、野中が集団前方に上がってポジションキープにチャレンジしていた。「ウェズさん(ウェズリー・サルツバーガー)とジャイさん(ジャイ・クロフォード)にサポートしてもらって、ラスト20kmあたりまで前から20番手ぐらいをキープしました。その後はどんどん選手が上がってくるので、自分1人で前に上がろうとしましたが、足が残ってなくてポジションを下げてしまいました。」と、最後の局面を振りかえる野中。それでも、「スプリント態勢になった集団でのコーナーリングとか、ポジション維持の仕方とか、良い勉強になりました」と言う。何かを掴めたようだ。

この日2人のチャレンジをアシストしたクロフォードは「アシストするのが楽しかった」と話す。「レース中もコミュニケーションが取れていたし、良かったと思う。諦めずにまたチャレンジして欲しい」と、2人を評価した。

■第4ステージ このレース最大の山場で全員完走を果たす。

第4ステージ 約1分遅れの15位でゴールするマルコス・ガルシア(スペイン、キナンサイクリングチーム)第4ステージ 約1分遅れの15位でゴールするマルコス・ガルシア(スペイン、キナンサイクリングチーム) photo:Satoru.Kato第4ステージ 初日の落車から復調を見せた伊丹健治(キナンサイクリングチーム)第4ステージ 初日の落車から復調を見せた伊丹健治(キナンサイクリングチーム) photo:Satoru.Katoボルタ・ア・バレンシアナのクイーンステージとなる第4ステージ。コース半ばから2級山岳が連なり、最後に標高1098mの1級山岳を越えてゴールする。第2ステージの1級山岳よりも若干低く、登りの距離も短いものの、斜度は12%から最大22%。

当初からこの第4ステージを重要視していたキナンサイクリングチーム。前夜のミーティングでは、石田監督からガルシアとクロフォード、最終アシストをするサルツバーガーを出来るだけ温存できるようにサポートするよう指示が出た。この日のために、マルコス・ガルシアは前日の第3ステージをかなりセーブして走るほどだ。

そのマルコス・ガルシアが、この日の登りで真価を発揮。優勝したワウト・ポエルス(オランダ・チームスカイ)から約1分遅れの15位に入って見せた。クロフォードも35位と続き、7名全員が完走。この日の団体総合順位は25チーム中11位。第4ステージまでの団体総合順位も17位まで上がった。

この日の結果を石田監督は「チーム全体が機能していて良いレベルになってきている。明日は最終日なので、もう一回チャレンジしていきたい。」と話す。19分遅れながらも完走した中西は「ハードでしたが、登りさえこなせれば大丈夫という感じでした。遅れてもチームカーの隊列をうまくつかって集団に復帰出来ました」と話し、手応えを感じたようだった。

■第5ステージ 最終日に最速レースの洗礼

第5ステージ バレンシア市内をパレードする集団。先頭には阿曽圭佑の姿第5ステージ バレンシア市内をパレードする集団。先頭には阿曽圭佑の姿 photo:Satoru.Kato
最終日はバレンシア市の中心街をパレードし、市外に出たところでリアルスタート。隣町まで行って3級山岳をクリアし、バレンシア市に戻る。最後はバレンシア中心街の周回コースを回ってゴールを迎える。全員が最終日のスタートまでたどり着いたとあってか、メンバー全員にスタート前の笑顔が多めに感じられる。

第5ステージスタート前 最終日の安堵からか、笑顔が多めな選手達第5ステージスタート前 最終日の安堵からか、笑顔が多めな選手達 photo:Satoru.Kato未明に降った雨が乾いてきた午前10時、なごやかな雰囲気の中パレードがスタート。最後に使用する周回コースをゆっくりと3周してからバレンシア市外に出て行った。それから約2時間後、戻って来たメイン集団の中に、キナンサイクリングチームのメンバーは残っていなかった。

第5ステージ 最後の出走サインのためステージにあがるキナンサイクリングチームのメンバー第5ステージ 最後の出走サインのためステージにあがるキナンサイクリングチームのメンバー photo:Satoru.Kato欧州レースの集団に混じるキナンサイクリングチームのジャージ欧州レースの集団に混じるキナンサイクリングチームのジャージ photo:Satoru.Katoチームカーに同乗していた中村メカニックに聞くと、「リアルスタート直後から、バラバラと選手が落ちて(遅れて)きた。今回のレースでは見た事の無い光景だった。ハイスピードの時間がかなり長く続いて、中西と阿曽も遅れてしまった。ロードレースの初日にこういう事が起きるのではと予想していた事が、最終日に起きた」と、レース状況を話す。

中西は「横風が強い区間でペースが上がってちぎれてしまいました。昨日の第4ステージよりもきつかったです」と話す。一方、初日の落車から徐々に回復し、第4ステージではかなり走れるように戻ったという伊丹は、「横風の区間で遅れたけれど復帰する事が出来たので自信になりました」と言う。「でも、登りで少し遅れたのを追いつけずに終えてしまいました。」と付け加えた。

この日はバレンシア市内に戻って2.2kmの周回を10周する予定になっていたが5周に変更され、距離が短くなった事からもかなりのハイスピードな展開となった。平均スピードは47km/h台。集団スプリントになった第3ステージの42km/h台を5km/hも上回る速さだった。

結局、最終ステージのゴールラインにたどり着けたのは、1分遅れの小集団で完走したマルコス・ガルシアとクロフォードのみ。サルツバーガー、伊丹、野中はゴールラインを越えられなかったものの完走扱いとなった。



■この経験をツール・ド・熊野総合優勝へ 石田監督

バレンシアの5日間を、キナンサイクリングチームの石田哲也監督に総括して頂いた。

キナンサイクリングチーム石田哲也監督キナンサイクリングチーム石田哲也監督 photo:Satoru.Kato
「今回のボルタ・ア・バレンシアナへの参加は、最大の目標であるツール・ド・熊野総合優勝を獲得するためのステップの1つと考えています。全てがハイレベルでタフな環境でもまれる事で経験値を上げ、チームワークを上げ、帯同するスタッフにも成長してもらう。荒療治ではありますが、改善点も早くに見えてくる。いろいろな面でチームを強くする事が目的のレースでした。

今回のレースでは、ハイレベルなレースに全員が挑戦していけた事が大きな収穫だと思います。集団について行くだけでなく、アタックや集団スプリントなど勝負所でチャレンジした事は、今後大きな自信になると思います。一方で、もっとレースを知る事が課題として見えてきました。レース中の補給の摂り方、レース展開、サポートの仕方など、足りない事がまだまだあります。

ステムに貼られたコースプロフィールの指標は、毎日石田監督が書き込んで貼り付けるステムに貼られたコースプロフィールの指標は、毎日石田監督が書き込んで貼り付ける photo:Satoru.Katoスペアバイクを用意する中村仁メカニック「5日間メカトラもなく、自分の出番が少なかったので良かった」と話すスペアバイクを用意する中村仁メカニック「5日間メカトラもなく、自分の出番が少なかったので良かった」と話す photo:Satoru.Katoまた、今回2.1クラスのレースに出場したのは、若手選手にチャンスを与えるためでもあります。早い段階でトップの世界を見る事は、今後の目標設定に大きく関わってきます。通常、2.2クラスのレースでは1チーム6名以下になるので、メンバーに選ばれるまで時間がかかりすぎてしまう事もあります。そうしているうちに「若手」と呼ばれなくなり、上を目指すチャンスを失う事になる。

その点からも、2.1クラスのレースに参加出来た事はメリットがあります。今回参加した中西と阿曽は、その環境を十分に利用してくれました。最終日にゴール出来なかった事は全く悲観する事ではありません。今後の成長と活躍が楽しみです。

レースのオーガナイザーからも評価して頂きました。他チームはリタイアする選手が続出する中、全員が最終日まで残った事や、チームプレゼンテーションで唯一自転車を持ち込んだ事など、我々の取り組んできた事が伝わったと感じています。

この好調を維持し、アジアツアーや日本国内レースでの活躍、そしてツール・ド・熊野優勝に向けて今シーズンを闘っていきたいと思っています。」

最終日終了後に選手に話を聞くと、それぞれにこのレースで得た手応えと課題が見えたと語ってくれた。レース経験が豊富なクロフォード、サルツバーガー、マルコス・ガルシアらも、若手選手のチャレンジを評価している。サルツバーガーは、「この経験がチームの将来に必ず良い結果をもたらすはずだ。」と言う。今シーズン、キナンサイクリングチームはどんなレースを見せてくれるのだろうか。

text&photo:Satoru.Kato


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