他のカーボンフレームブランドとは一線を画するユニークなバイクを世に送り出しているタイム。大幅なラインアップの変更が行われたタイム2015年モデルの中でも、コアとなるのがAKTIVと名付けられた制振技術。各モデルに用意されるAKTIVモデルの中から、ミドルグレードのIZON AKTIVをインプレッションした。



数多あるロードバイクブランドの中でも、ひときわ強い個性を放っているのがタイム。スチールフレームが未だレース現場で主流だったころ、他社に先駆けてカーボンフレームの製造を始めたことからも窺える様に、機材の未来に対する先見性と情熱において並ぶもののないブランドとしての地位を盤石のものとしている。

タイム IZON AKTIV(左)タイム IZON AKTIV(左) photo:MakotoAYANO/cyclowired.jp
テーパードヘッドや、タイムはトランスリンクと呼んでいるインテグラルシートポストなど、タイムが先鞭をつけ、その後に多くのメーカーが採用することになったテクノロジーも非常に多い。そんな先進的なタイムのバイクについて、他社の数年先を行っていると評する熱烈なファンもいるほど。

AKTIVのキモとなるフロントフォークAKTIVのキモとなるフロントフォーク AKTIVフォークに搭載されるチューンドマスダンパーAKTIVフォークに搭載されるチューンドマスダンパー AKTIVモデルとノーマルモデルを用意AKTIVモデルとノーマルモデルを用意 そんなタイムが一貫してこだわってきたテーマに、「振動吸収」がある。長距離のロードレースにおいて、余計な体力を消費することなくゴールまで脚を残すために、路面からの不快な振動をフレームがいなすことでライダーへのダメージを最小限に抑えることを目的としているのだ。

そのためにタイムが開発したのが、RTM(レジントランスファーモールディング)製法を用いて、振動吸収性に優れたヴェクトランをカーボン繊維と共に編みこむ込み通常のカーボンチューブに比べて大幅に振動吸収性を高める技術である。この唯一無二のテクノロジーがタイムをもっとも特徴づけるものであることは間違いない。

この技術によって、鉛筆のように細いシートステーや特殊なエラストマー、マイクロサスペンション構造といった、いわば飛び道具のような設計を用いることなく、高い快適性を実現しているのだ。オーソドックスなシルエットで無理のないデザインのため、剛性や強度にも優れるバイクが設計しやすいというメリットもある。

RTM製法とヴェクトランの組み合わせによって圧倒的な高性能を誇ってきたタイムだが、ここ数年のカーボン技術の革新によって高いレーシング性能と快適性を備えるバイクが数多くデビューし、以前ほどの優位性は薄らいできた。そこに、タイムが満を持して投入する新技術が「AKTIV」テクノロジーだ。

ライダーにとって、もっとも不快でダメージとなる25~50ヘルツという低周波数帯の振動を軽減するために開発されたのがAKTIVテクノロジー。そのために、路面から伝わる振動をもっとも早く振動を受け止めるフロントフォーク先端部にマスダンパーを内蔵。フォークへと伝わった振動に対して、ダンパー自体が振動することで特定周波数の振動の収束を早めている。

この結果、約3割の低周波振動を打ち消すことに成功。フレームやフォーク自体の剛性を落とすことなく、不快な振動をカットすることに成功しているため、走行性能は維持したまま身体にくるダメージを軽減するという理想的なシステムとして完成しているのだ。

このAKTIVフォークは、タイムの2015年モデル3種(SKYLON、IZON、FLUIDITY)全てに用意されるが、それぞれのモデル、それぞれのサイズに合わせて、マスダンパーがチューニングされている。それぞれのフレームの固有振動数を考慮したチューニングが施すことで、タイムの理想とする振動減衰性を実現した。

さて、そんな次代のタイムを担うコアテクノロジーとしてデビューしたAKTIVモデルをインプレライダーたちはどう評価するのか。今回は、違いを体感してもらうべくノーマルモデルのIZONと乗り比べてもらった。純粋にフレームの性能差を体感できるよう、同じホイール、ハンドル、ステム、サドルなど使用し組み上げた2台を用意した。それではインプレッションに移ろう。



―インプレッション

「身体に伝わるダメージが軽減されている」小畑郁(なるしまフレンド)

AKTIVに乗って最初に感じたことは、フォークのボリュームが出ていてしっかりとした乗り味になっているなということです。元々タイムのバイクは振動吸収性に優れているため、このフォークのボリュームがかなり影響しているのではという印象を受けました。

肝心のAKTIVの働きについては、荒れた路面に行けばノーマルのIZONとの違いは分かります。路面から来る突き上げの角が丸くなって、身体に伝わるダメージが軽減されているということは体感できますね。これはフォーク形状の変更とダンパーの合わせ技でしょうね。

AKTIVとノーマルの2台を乗り比べインプレッションを行ったAKTIVとノーマルの2台を乗り比べインプレッションを行った
ボリュームが大きいフォークなので、フロント回りが強くなりすぎて前後バランスが崩れていないか心配でしたが、そういったことは感じられません。ただ、タイムと言うブランドはやはり競技機材として購入を考える方が多いことから、レース用としてみた時には意見が分かれるところだと思います。

路面からの振動を素早く収束させてくれるAKTIV路面からの振動を素早く収束させてくれるAKTIV というのも、フォークの重量増と剛性増のどちらをとるかということになります。ヒルクライムなどでの軽快感を重視するのであればノーマルモデルが良いのではないでしょうか。逆に荒れた路面のコースを走ることが多いのであれば、もちろんAKTIVモデルがお勧めです。自分の走る環境に合わせてチョイスするとよいでしょう。

とはいえ、AKTIVにすることのデメリットというのはほとんどありません。先ほど述べた多少の重量増加程度で、ボリュームアップによる安定感の向上が上回るでしょう。登りでは多少の重量増が気になりますが、すこしでもガタガタな荒れ気味の路面であればトータルで速いのがAKTIVだと思います。

ブレーキングフィールなども変わらないですし、走行性能面ではノーマルもAKTIVもほぼ変わりありません。フォーク剛性が上がっているのと、振動吸収が効いているためコーナリング中の挙動はAKTIVのほうが落ち着いたフィーリングになっています。

IZONは今年のラインアップ中だと軽快感がウリのバイクであり、より剛性感の高いSKYLONのAKTIVモデルのほうがフレームとフォークのマッチングが良いのではないでしょうか。IZONは所謂タイムらしい乗り味で、後ろから押されて助けられるようなフィーリングが気持ちいいですね。SKYLONよりも元々の快適性が高いのでノーマルモデルもかなり魅力的です。自分が選ぶとなると、少し悩みますね。


「いつかはタイムといいますが、今すぐタイムと言いたくなるくらいの完成度」山崎嘉貴(ブレアサイクリング)

今回の試乗ではAKITIVモデルを先に乗って、ノーマルモデルを後に乗ったのですが、ノーマルモデルがなんだか古いバイクに感じられてしまいました。といっても、加速感やブレーキングフィールといった、基本的な走行性能は同じなんです。ただ、不快な振動を完全にいなしてくれる。

この2台がカーボン素材なども同じ物を使っていって、AKTIVのみでこの振動吸収性を達成しているのであれば、革命的なシステムだと思います。普通のフォークが跳ねてしまうところを、AKTIVフォークは路面にきちっと追従してくれるような感覚です。非常に安定しているんですよ。

ただ、サスペンション機構ではないので、大きな段差を乗り越えたときの衝撃などはノーマルモデルと変わりません。走行中に、常に発生しているような微振動を取り除いていると感じます。そう表現すると、ロードインフォメーションが把握しづらいバイクのように聞こえますが、むしろその逆で、路面に長く接地しているのでより研ぎ澄まされたような感覚があります。

「いつかはタイムといいますが、今すぐタイムと言いたくなるくらいの出来」山崎嘉貴(ブレアサイクリング)「いつかはタイムといいますが、今すぐタイムと言いたくなるくらいの出来」山崎嘉貴(ブレアサイクリング)
所謂コンフォートロードにカテゴライズされるような快適性の高さを求めてAKTIVは開発されたのではないと感じます。ノーマルモデルにくらべて、AKTIVモデルに「ぬるさ」を感じることはありません。

むしろ、荒れた路面でも速く抜けられます。ハンドリングが安定するとペダリングに集中できます。フロントが跳ねてしまい、そちらに対応するためにペダリングパワーが弱まってしまうことを考えると、レース機材として非常に優れたシステムだと感じます。

IZONはNXSからの後継モデルと聞いていたので、もう少しヒラヒラとした硬いフレームなのかなと思っていましたが、むしろしなりが出てNXSというよりZXRSのライディングフィールを継承していると感じます。しなやかでしっかりと路面に食いついてくるので荒れた急こう配の登りがいいバイクですね。AKTIVのほうが重量がかさみますが、バイクコントロールに気を使わなくていいため、結果的に登りでも速いと思います。

結論としては、AKTIVモデルがオススメです。ノーマルモデルと9万円の差がありますが、安い買い物じゃないからこそ、妥協せずにAKTIVにいって欲しい。もうトップチューブやステムにもAKTIVを導入してほしいくらいです。いつかはタイムといいますが、今すぐタイムと言いたくなるくらいの完成度ですね。

もしフォークの単品販売が始まれば、フォークの差し替えを検討したいレベルです。他社のフレームにもタイムのフォークが差さっているバイクを多く見かけた2000年代前半のような状況が再び訪れてもおかしくない。そう思わせるだけの性能を秘めたテクノロジーだと思います。

タイム IZON AKTIVタイム IZON AKTIV photo:MakotoAYANO/cyclowired.jp
タイム IZON AKTIV
サイズ:XXS、XS、S、M、L、XL
ボトムブラケット:BB30
カラー:PLASMA-MATT、FLAMME ROUGE
付属品:カーボンボトルケージ(1つ)
価 格:520,000円(税込)



インプレライダーのプロフィール

山崎嘉貴(ブレアサイクリング)山崎嘉貴(ブレアサイクリング) 山崎嘉貴(ブレアサイクリング)

長野県飯田市にある「ブレアサイクリング」店主。ブリヂストンアンカーのサテライトチームに所属したのち、渡仏。自転車競技の本場であるフランスでのレース活動経験を生かして、南信州の地で自転車の楽しさを伝えている。サイクルスポーツ誌主催の最速店長選手権の初代優勝者でもあり、走れる店長として高い認知度を誇っている。オリジナルサイクルジャージ”GRIDE”の企画販売も手掛けており、オンラインストアで全国から注文が可能だ。

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小畑郁(なるしまフレンド)小畑郁(なるしまフレンド) 小畑郁(なるしまフレンド)

その圧倒的な知識量と優れた技術力から国内No.1メカニックとの呼び声高いなるしまフレンド神宮店の技術チーフ。勤務の傍ら精力的に競技活動を行っており、ツール・ド・おきなわ市民210kmでは2010年に2位、2013年と2014年に8位に入った他、国内最高峰のJプロツアーではプロを相手に多数の入賞経験を持つ。現在もなお、メカニックと競技者の双方の視点から自転車のディープで果てしない世界を探求中。

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ウェア協力:GRIDE

text:Naoki.YASUOKA
photo:Makoto.AYANAO
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