タイムトライアルバイクのテクノロジーを採用し、BMCが放つ渾身のエアロロードバイク。それがtimemachine(タイムマシン)TMR01だ。幾多の斬新な機能を盛り込み、究極の空力性能を目指した注目のフラッグシップモデルにスポットライトを当てる。

BMC timemachine TMR01BMC timemachine TMR01 (c)MakotoAYANO/cyclowired.jp

軽量化が一旦落ち着きを見せた現在のロードバイク界で、開発において大きなファクターとなるのが「エアロ化」だ。「風洞実験を経て」という言葉はミドルグレードレベルの製品にも普及し始め、涙滴断面チューブの採用やワイヤー類の内蔵化などは既に一般化したと言える。

そして2013年モデルでは各ブランドのトップエンドモデルにおいて、よりエアロ化の競争が活性化している。フロントフォーク内蔵ブレーキや空気の剥離を防ぐ表面加工、軽量化と剛性を兼ね備えるカムテールデザインのチューブ形状など、如何に1馬力に満たないパワーを空力面でカバーするかが大手マスプロメーカーにとっての開発キーワードだ。

ヘッドチューブ前に設けられたフロントブレーキワイヤーカバー。ヘッドチューブ前に設けられたフロントブレーキワイヤーカバー。 タイムトライアルバイク然としたエアロフォルム。ヘッドチューブはくびれが付けられるタイムトライアルバイク然としたエアロフォルム。ヘッドチューブはくびれが付けられる ボリューム感の高いブレーキ内蔵式のフロントフォークボリューム感の高いブレーキ内蔵式のフロントフォーク


2013モデルの正式発表に先立ち、2012年のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネでプロトタイプが使用され一気に話題をさらったバイクがある。それがスイスのハイテクブランド、BMCによって生み出されたtime machine TMR01。7月のツール・ド・フランスではBMCレーシングチームのメンバーが駆り、正式デビューを飾った。

TTバイク、timemachine TM01に用いられたUCI規格に配慮しながら最大限の空力性能を求める「subAコンセプト」を継承するTMR01。しかしながら長距離のレースでも負荷なく最大のパフォーマンスを発揮できる効率の追求も同時に研究された。

シートクランプはトップチューブ後方に埋め込まれ、アーレンキーを差し込んで調整するシートクランプはトップチューブ後方に埋め込まれ、アーレンキーを差し込んで調整する トップチューブはT字断面を採用し、BMCらしさを漂わせるトップチューブはT字断面を採用し、BMCらしさを漂わせる


高い剛性を生み出すボトムブラケット部分。プレスフィットBB86システムをインサートする高い剛性を生み出すボトムブラケット部分。プレスフィットBB86システムをインサートする Vブレーキ構造となるリアブレーキ。カバーに覆われることで空力向上を目指したVブレーキ構造となるリアブレーキ。カバーに覆われることで空力向上を目指した


直線のみで構成されたシャープなスタイリングや極小のリアバック、さらに前後の内蔵式ブレーキなどは、TM01のコンセプトを受け継いだことで生まれたものだ。鋭いイメージを作り上げるチューブは、翼断面の後端を切り落としたカムテールデザインによって構成され、剛性と軽量化をクリア。

全ての縦方向のチューブとシートポスト、フォークは進行方向に対して前部分に小さなくぼみを付けることで微小な乱流を発生させ、全体の空気の流れをスムーズにする「トリップワイヤーシステム」を採用し高速域での空力向上を目指している。

直線的なデザインのチェーンステー。ロードレーサーに必要不可欠な振動吸収性を生み出す直線的なデザインのチェーンステー。ロードレーサーに必要不可欠な振動吸収性を生み出す リアエンドは屈曲を設けることで柔軟性を増しているリアエンドは屈曲を設けることで柔軟性を増している


さらにフロントブレーキはフォーク内部へと一体化した上に、ヘッドチューブにブレーキワイヤーを覆うカバーを装備し、リアブレーキはBB下に位置するインテグレーテッドブレーキとしたこともTMR01の大きなトピックス。Vブレーキ構造としたキャリパーはワイヤーテンション、スプリングテンションの微調整が可能だ。またDi2バッテリーのシートチューブ内蔵化工作や、シートクランプ、各種ワイヤー/ケーブル類など空気抵抗を増すと考えられるあらゆるパーツを内蔵し、極限の空気抵抗削減に務められている。

ピュアレーシングモデルであるTMR01がターゲットとするのは、スプリンター、ルーラー、トライアスリートなど、常に高速、高出力を求めるライダーだ。そのパワーを受け止めるためにカーボン素材やレイアップ、チューブ形状に工夫をこらすことで、BMC史上最も横剛性とねじり剛性の強いバイクとされた。

専用形状となるシートポスト専用形状となるシートポスト 濃密感のあるシートチューブ後方の造作。ホイールベースはかなり切り詰められている濃密感のあるシートチューブ後方の造作。ホイールベースはかなり切り詰められている リアバックは極小で高い反応性を狙う。シートステーの振動吸収性も高いリアバックは極小で高い反応性を狙う。シートステーの振動吸収性も高い


一方でリアの剛性をコントロールすることで、ヨーロッパの荒れた路面にも対応し得る振動吸収性も備えているという。その辺りはチームと綿密な連携を取って製品開発を行うBMCならではのスピリットが現れている部分と言えるだろう。TMR01は、あくまで実戦での使用にもとづいて開発されたピュアレーシングバイクなのだ。

ツール・ド・フランス以降のレースでは、特にBMCレーシングチームに所属するルーラー系選手によって使用されているTMR01。今回のテストバイクは機械式アルテグラを搭載した完成車だ。早速テストライダー両氏によるインプレッションをお届けしよう。




―インプレッション

「中速域からの伸びが抜群。レースで逃げている姿がイメージできる」西谷雅史(サイクルポイント オーベスト)

TTバイクをそのままロードバイクとして変化させたようなルックスで、いかにも未来形、BMCらしさの溢れ出ているバイクです。高速域で走っていると安定感に富んでいて、さらなるスピードの伸びやかさも十分にあります。非常に剛性感に優れていて、自転車そのもの、走りの完成度は非常に高いと感じました。

タイムトライアルやスピードのあるロングライド、あまりスピード上下の無いサーキットでの耐久レースソロ部門など、とにかくスピードを長く持続させたい方や走り方に向いていると感じました。プロレーサーでいうとルーラーのような脚質のライダーにベスト。集団の中を走るより、そのずっと先を逃げて走っているイメージでしょうか。とにかく平坦を踏んでいった際の、特に中速から上の伸びが素晴らしいですね。

「中速域からの伸びが抜群。レースで逃げている姿がイメージできる」西谷雅史(サイクルポイント オーベスト)「中速域からの伸びが抜群。レースで逃げている姿がイメージできる」西谷雅史(サイクルポイント オーベスト)

衝撃吸収は平均点で、剛性と空力を売りにしているバイクという点を踏まえると評価できるポイント。さらに構造上不安を感じたブレーキの効きも良好で、しっかりと止まってくれます。

やや気になったケーブルの取り回し。ダンシングで内股に接触することもあるため電動コンポで組みたいやや気になったケーブルの取り回し。ダンシングで内股に接触することもあるため電動コンポで組みたい ただTTバイクを当て込んでロード化した部分で生じたデメリットも幾つか挙げなければなりません。特にテストバイクは機械式コンポーネントだったため、シフトワイヤーの取り回しが危うく、ハンドリングをかなり邪魔している上にダンシングをした際に脚に当たってしまいました。このバイクはDi2で組むべきです。

欠点もあるのですが、それ以上にここまで作り込んでいることの価値や、面白みはそれ以上にありますね。こういったバイクを作り上げ、市販にこぎつけた部分はとてもBMCらしいと思いますし、自転車に対して意欲的だなと感じます。

BMCだから生まれたバイクですし、一つのチャレンジとしてとても評価できる部分です。空力に挑みながらも、かつ自転車本来の走りの完成度を高めているのが、TMR01の良さでしょう。決して見た目だけのバイクではありません。


「高速域の走りが素晴らしいが、上りもこなせるオールマイティな性能がある」戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)

まずは見た目に飛び込んでくるインパクトの強さ。そして乗ってみると、そのインパクトの強さを具現化したようなピュアレーシングバイクの雰囲気を伝えてくれます。剛性感がしっかりとあって、加速感やスピードの伸び、直進安定性に非常に優れているため、コンセプト通りの仕上がりになっているなと感じました。

高速域で走ることをターゲットとしたバイクですが、その通りハイスピードで走ることが楽しくなるような走りがあります。ホイールとの相性もありますがグングンと進み、ギアを1枚重くしてガシガシと走りたい衝動に駆られてしまいました。細かい部分での空力は体感できませんが、高速での「風を切って進む感じ」は印象的です。

「高速域の走りが素晴らしいが、上りもこなせるオールマイティな性能がある」戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)「高速域の走りが素晴らしいが、上りもこなせるオールマイティな性能がある」戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)

TTバイクのようにかなりリアバックが小さな設計になっていますが、意外と衝撃吸収能力も高いと感じます。レーシングバイクとして必要にして十分というか、悪路で腰にダメージを与えるような乗り心地ではありませんね。剛性は高くとも、あまり脚にこない踏み心地の優しさがあります。これは意外でした。

ハンドリングもクセがあるわけではなく、ブレーキに関しても大人しい印象です。ブレーキのタッチはリムにシューが当たってからジワッと効く感じで、3大ブランドの中ではカンパニョーロの雰囲気とやや似通った雰囲気がありました。的確にブレーキの感覚を掴むことができると思いますよ。整備には難がありますので、メカニックの腕が問われそうです。

乗ってみて意外だったのが、ヒルクライム性能も不得意としていないところ。スピードを生かした短い上りはもちろん、踏み心地が硬過ぎないため、長い距離のヒルクライムにも向いているのではないでしょうか。ルックスは平坦に特化したイメージですが、そんな事はありません。下りもそつなくこなせますし、ロードバイクとして様々なシチュエーションで使用できますね。

BMCらしいルックスも崩すこと無く、最大限空力を考えたようなアグレッシブなシステムも魅力的です。一目惚れして買っても損することはないでしょう。誰よりも高速で走りたい方にベストなバイクです。


BMC timemachine TMR01BMC timemachine TMR01 (c)MakotoAYANO/cyclowired.jp

BMC timemachine TMR01 アルテグラ完成車
カラー:ホワイト(テストバイクはアルテグラDi2用のレッド/オレンジ/イエロー)
フレーム:p2p x subA, Pure Carbon, BB86
サイズ:48、51、54、56
フォーク:aero road fork, pure carbon, with subA
シートポスト:aero road post, pure carbon, with p2p & subA
コンポーネント:シマノ アルテグラ6700
ハンドル&ステム:イーストン EA70
ホイール:マヴィック コスミックエリート(テストバイクはアルテグラDi2用のコスミックカーボンSL)
価 格:462,000円(税込)




インプレライダーのプロフィール

 西谷雅史(サイクルポイント オーベスト) 西谷雅史(サイクルポイント オーベスト) 西谷雅史(サイクルポイント オーベスト)

東京都調布市にある「サイクルポイント オーベスト」店長。チームオーベストを率い、自らも積極的にレースに参戦。主なリザルトはツール・ド・おきなわ市民200km優勝、ジャパンカップアマチュアレース優勝など。2007年の実業団小川大会では、シマノの野寺秀徳、狩野智也を抑えて優勝している。まさに「日本最速の店長」だ。

サイクルポイント オーベスト



戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート) 戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)

1990年代から2000年代にかけて、日本を代表するマウンテンバイクライダーとして世界を舞台に活躍した経歴を持つ。1999年アジア大陸マウンテンバイク選手権チャンピオン。MTBレースと並行してロードでも活躍しており、2002年の3DAY CYCLE ROAD熊野BR-2 第3ステージ優勝など、数多くの優勝・入賞経験を持つ。現在はOVER-DOバイカーズサポート代表。ショップ経営のかたわら、お客さんとのトレーニングやツーリングなどで飛び回り、忙しい毎日を送っている。09年からは「キャノンデール・ジャパンMTBチーム」のメカニカルディレクターも務める。

OVER-DOバイカーズサポート

ウェア協力:BIEMME(ビエンメ)


text:So.Isobe
photo:Makoto.Ayano
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