Raphaの設立から2012年で8年が経つ。ロードレースに新たな価値を生み出してきたブランドのトップは何を考え、何を実行してきたのか。11月に来日し、東京や大阪、そしてRapha Japanがオフィスを構える野辺山を訪れた同社の最高経営責任者(CEO)サイモン・モットラム氏に話を訊いた。

Raphaのサイモン・モットラムCEORaphaのサイモン・モットラムCEO photo:Kei Tsuji

大阪で開催されたパナッシュパーティー

1994年ツール・ド・フランスのモンヴァントゥーを越えるステージで優勝したエロス・ポーリ(イタリア)1994年ツール・ド・フランスのモンヴァントゥーを越えるステージで優勝したエロス・ポーリ(イタリア) photo:Cor Vos11月、大阪のRapha Cycle Clubでは、モットラムCEOを迎えたパナッシュ(Panache)パーティーが開かれた。Raphaを語る上でよく出てくるパナッシュは、「光輝」を意味する言葉。ロードレースにおいて攻撃的かつ美しい走りを讃えるのに用いられる。

パーティーでは、これまでモットラム氏が観たレースの中で最もパナッシュだったという1994年のツール・ド・フランスのステージがフィーチャーされ、当時の映像とともに同氏の強い想いが語られた。

それはモンヴァントゥーを通過する第15ステージでのこと。思いがけず逃げたイタリア人エロス・ポーリが、果敢な走りでステージ優勝を掴み取るストーリー。

プロトンの中で最も大柄な選手(身長194cm!)として知られ、スプリンターのアシストを務める機会の多かったポーリが、ツールの難関山岳ステージで掴んだ大金星。周囲を驚かせたその時のポーリの走りこそが、モットラムCEOにとってのパナッシュであり、Rapha創設の源だと言う。

Rapha Cycle Club Osakaのパナッシュパーティーでマイクを握るサイモン・モットラムCEORapha Cycle Club Osakaのパナッシュパーティーでマイクを握るサイモン・モットラムCEO photo:Kei TsujiRapha Cycle Club Osakaのパナッシュパーティーでマイクを握るサイモン・モットラムCEORapha Cycle Club Osakaのパナッシュパーティーでマイクを握るサイモン・モットラムCEO photo:Kei Tsuji

日本での過密スケジュールをこなし、出国前に野辺山でひと時を過ごした同氏に、ブランドの成り立ちや未来像について語ってもらった。

-前回来日された4年前と日本の印象は変わりましたか?-

変化の大きさはアメイジングだ(信じられない)。4年前はちょうどポールスミスとコラボレーションしていた時期。東京で展示会を開いて活況を得たものの、まだまだ新しいブランドとして捉えられていた。でも今では日本中の様々なコミュニティーで、例えば先日訪れた関西シクロクロスの会場でも、Raphaを着てライドを楽しむ多くのサイクリストを見た。この4年間の変化は本当にアメイジングだ。

-日本のカスタマーに関してどのような印象をお持ちですか?-

Raphaのブランドスローガンは「glory through suffering(苦痛から得る栄光)」Raphaのブランドスローガンは「glory through suffering(苦痛から得る栄光)」 photo:Rapha Japan日本人のカスタマーはクオリティー(品質)とディテール(細部)、そしてデザインを理解し、それらを重視している。もちろん機能的であることは正義だが、重視されるべきは機能やデータだけではない。美的なアドバンテージを理解する日本人の感覚がマッチし、Raphaが選ばれている。ブランドコンセプトがちょうど日本人の気質に合っているのかもしれない。他社のジャージと比べた時に、日本ではRaphaのジャージが選ばれるということが理解出来た。

-Raphaというブランドのコンセプトは?-

Raphaが目指すのは「ロードレースをメジャースポーツにすること」。ロードウェアを販売することは、その目的を果たすための一片に過ぎない。ブランドを定義するなら、プロダクトやイベント、ストーリーを包括した「ロードサイクリングブランド」。ブランドスローガンは「glory through suffering(苦痛から得る栄光)」であり、日本でも行なわれているRapha Continental Ride(コンチネンタルライド)やRapha Gentlemen's Race(ジェントルマンズレース)がそれをよく表している。映像や写真、テキストを見てもらえれば、Raphaをより深く理解してもらえると思う。

-ロードレース以外の競技については?-

ロードレースからインスピレーションを得て誕生したブランドであり、マウンテンバイクやBMXにフォーカスするつもりはない。シクロクロスにも力を入れている理由は、ロードレースと似た歴史が有り、共通している部分が多いから。それに競技シーズンがちょうどロードレースのオフシーズンにあたる。他の競技の選手と『共通の言語』で闘っていることも興味深い。

世界各地で行なわれているRapha Continental Ride(コンチネンタルライド)世界各地で行なわれているRapha Continental Ride(コンチネンタルライド) 厳しいコースで行なわれるRapha Gentlemen's Race(ジェントルマンズレース)厳しいコースで行なわれるRapha Gentlemen's Race(ジェントルマンズレース)

-自身の自転車との出会いはどういったものでしたか?-

子どもの頃から自転車に慣れ親しんでいた。今の子どもたちと違って、どこに行くにも自転車に乗っていた。でもレースに参戦していたわけじゃない。自分の父親はロードレースファンと呼ぶほど熱心ではなく、ツーリングバイクで散歩する程度だったものの、一緒に色んなレースを観にいった。夏には家族でフランスにバカンスに行き、ツール・ド・フランスや直後の興行クリテリウムをよく見ていた。暑くてエキサイティングでエキゾティック。真夏のツールやクリテリウムを巡った時の記憶はまだ鮮明に残っているよ。それからしばらくして、18歳の頃にイギリスでもツール・ド・フランスの生中継が観られるようになり、このスポーツにのめり込んで行った。自分が走ることに傾倒したのは20歳の頃。でもプロを目指すには遅すぎた。他の職種に就き、家庭を持ち、子どもが出来て乗る時間が少なくなってからも、ロードレースへの情熱は失わなかった。

-現在のサイクリングライフは充実していますか?-

ファンタスティックだ!家族との時間を大切にしたいから、週末に乗ることはあまりない。Raphaをスタートさせる5年ほど前から、いつも決まって月曜日を休日にして毎朝ライドに出かけている。郊外に向かって数時間ライドして、帰りは電車に乗るというスタイルもある。水曜日はウェンズデーカンパニーライドとして社員と一緒にサドルの上で過ごすし、1週間に2〜3回は乗っている。プロパー(適切)なライドによって、ビジネスがうまく進むという実感はある。今は人生の全てがバイクに囲まれて動いている。出張先のオーストラリアやアメリカで乗ることも多いし、1年に数回はエタップのようなビッグライドに出かける。こう言っちゃなんだけど、とても恵まれた環境だ。好きなものに携わって、それに打ち込んで生活していることはラッキーだ。きっと君もそうだろう。

-あなたにとってサイクリングの楽しみとは?-

サイモン・モットラムCEOのバイク(分割可能で、80cm四方のケースに入る)サイモン・モットラムCEOのバイク(分割可能で、80cm四方のケースに入る) photo:Kei Tsujiデータ・オブセッスド(データに囚われている)ライダーは、データを重視しすぎるあまり、サイクリングの楽しみや喜びを見落としてしまっている。プロ選手がパワーメーターを活用するのは当然だと思うけど、サイクリングの楽しさや喜びはそれらを越えた別のところにある。確かにStravaは素晴らしいと思うし、活用することでライドの世界は広がるが、それと同時にライドへの強制力を強くしがちで、ライダーをデータに閉じ込めてしまう。だから私は使わないし、パワーメーターなんてもってのほかだ。サイクリングの苦しさは数値では語れない。数値だけでロードレースを見て、その数値を上げることに躍起になっているライダーは、より数値での満足感が得やすい他のスポーツに興味が移ってしまうだろう。

野辺山でのライドを楽しむサイモン・モットラムCEO野辺山でのライドを楽しむサイモン・モットラムCEO photo:Rapha Japan野辺山でのライドを楽しむサイモン・モットラムCEO野辺山でのライドを楽しむサイモン・モットラムCEO photo:Rapha Japan

-ジロが好きで、Raphaの差し色にピンクを使用したのは本当ですか?-

過去10年間のグランツールの中ではジロ・デ・イタリアが一番好きだ。ツール・ド・フランスはあまりにも巨大で、レースや選手へのアクセスが悪い。より人間的でエキサイティングなジロが好き。自分のヒーローがマルコ・パンターニなのでイタリア寄り、ということもある。でも質問への答えはイエスでもありノーでもある。ジロのイメージカラーからヒントを得たのと同時に、90年代のポールスミスのロゴの色から着想した。今の有名なストライプが採用される前の話。黒に合う色としてピンクがマッチした。

-Cycle Clubが生まれたきっかけは?-

Rapha Cycle Club OsakaRapha Cycle Club Osaka photo:Kei Tsujiこれまでは、人々とロードレースを結びつける場所が決定的に欠けていた。サイクリストが快適だと思えるような場所が、今まで他に無かったと言ってもいい。例えば、サッカーが好きな人は、ロンドン中にあるパブに集まって、同じ興味を持った人同士で共感し、熱狂出来る。でもロードレースはどうだろう。自宅のリビングルームで、一人で、ソファーに沈みながら生中継や録画放送を見るのが常だ。これはロードレースという素晴らしいスポーツにとって恥ずべきことだと思っていた。だから、同じ興味をもつ人が集まって、共感しながらロードレースを楽しめる場所を求めていた。

-Cycle Clubの基本的なコンセプトを教えて下さい-

見ての通り、Cycle Clubはただのコンセプトストアではない。プロダクトを販売店でありながら、カフェ、ミーティングポイント、イベントや写真展などの開催スペースであり、Raphaが行なっている全てのものを寄せ集め、サイクリストに提供する場所。いわば、ブランドのコンセプトをそのまま具現化したようなものだ。正直な話、ロンドンのCycle Clubは、個人的に最高の「目的地」なんだ。ロードバイクで行って、友達に会って、コーヒーを飲みながら、ちょっとしたフードをつまみながら、雑誌や本を開きながら、関連グッズに囲まれてロードレースを見る。そんなパーフェクトな場所。

Rapha Cycle Club LondonRapha Cycle Club London photo:Kei Tsujiカフェコーナーが充実しているRapha Cycle Club Londonカフェコーナーが充実しているRapha Cycle Club London photo:Kei Tsuji

-欧米では実店舗に加えてMobile Cycle Clubも機能していますね?-

アメリカとヨーロッパで展開するMobile Cycle Clubアメリカとヨーロッパで展開するMobile Cycle Club photo:Rapha Japanロンドンやサンフランシスコ、マヨルカ、東京などでのポップアップストア(期間限定店舗)で成功を収めた後、大阪などのパーマネントストア(固定店舗)が稼働し、Mobile Cycle Clubというアイデアが生まれた。コンセプトはシンプルで、その名の通り「移動可能なサイクルクラブ」だ。そこにはレース映像を映し出すスクリーンがあって、コーヒーマシーンがあって、テーブルがあって、プロダクトも少し揃っている。レースの通過前やイベント後のひと時に、ゆったりと寛げる場所になっている。すでにアメリカとヨーロッパで稼働していて、近々日本でもデビューする予定。あちこちのレース会場で見られると思うよ。

-Cycle Clubの今後の展望を教えて下さい-

Raphaはウェブベースの販売からスタートしたので、最初はある意味でデジタルなブランドだったと思う。でもウェブサイトでプロダクトを売りさばくことが真の目的じゃない。ブランドコンセプトを具現化するために登場したのがCycle Club。近いうちに世界で20店舗ほどをオープンしたいと思っている。世界を代表する大都市には少なくとも1店舗を構える。どの街にもサイクリストがいて、集まる場所を求めている。(インタビューを行なった)この野辺山を含めて、自分が行ってみたい、ロードバイクで走ってみたいという場所が優先的になっているのはここだけの話(笑)大阪に続いて、2013年には東京にもオープンする予定だよ。

text&photo:Kei Tsuji

最新ニュース(全ジャンル)