ホビーレーサー最高の舞台、ツール・ド・おきなわ市民210kmに優勝した白石真悟(シマノドリンキング)のレポートをお届けする。白石は2003年の勝利から9年ぶり2度めの勝利だ。

白石はシマノの下関工場・開発課に勤務するフルタイムワーカーだ。以下、白石の自筆によるレポート。

スタート前に子供を抱っこ。昨年はこの子の出産予定日がおきなわと重なったため出場は見合わせたスタート前に子供を抱っこ。昨年はこの子の出産予定日がおきなわと重なったため出場は見合わせた (c)Makoto.AYANOスタートに並んだ市民210kmの選手たちは464人!スタートに並んだ市民210kmの選手たちは464人! (c)Makoto.AYANO


今年は勝ちたかった。いつも以上に勝ちたかった。狙って勝てるようなレベルのレースではないのは知っている。アタックして逃げ切りで勝つ。自分のスタイルを捨ててでも勝てないのか?

朝陽の中スタートを切る市民210kmの大集団朝陽の中スタートを切る市民210kmの大集団 (c)Hideaki.TAKAGI2003年に初参加で初優勝した。2回目のダムの上りで5人くらいで抜け出し、その後、高江から独走。ノーマークだったから優勝することができた。あれから9年。そして2勝目。
集団スプリントで白石が勝った!? たくさんの人が驚いただろう。それくらいまでして私は勝ちたかったのだ。

本部半島をまわる間は危険回避のために集団の前でローテーションに加わる。例年だったらほぼ最後尾で危なくないように走るのだが、ここでもスタイルを捨てた。
ダムの登りでも集団の先頭を引いてペースを上げるようなことはしない。
周りのペースに合わせて上る。ここでもスタイルを捨てた。

朝陽を浴びながら名護市街をスタートしてゆく市民210kmの大集団朝陽を浴びながら名護市街をスタートしてゆく市民210kmの大集団 (c)Makoto.AYANO

奥の登りでも前にはでない。前で走ると、うずうずするから出ない。このあたりで、オーベストの西谷さんがいないことに気がつく。3分差くらいで逃げていると聞き焦る。が、熱くなりすぎないように、冷静に。
集団はまだ50人くらいは残っているのだ。

本部半島を行く市民210kmのメイン集団本部半島を行く市民210kmのメイン集団 (c)Makoto.AYANO
工事区間の多さに、危険回避のために先頭に抜け出る白石真悟(シマノドリンキング)工事区間の多さに、危険回避のために先頭に抜け出る白石真悟(シマノドリンキング) (c)Makoto.AYANO飛び出した西谷雅史(オーベスト)白石は「まだ早い」と感じていた飛び出した西谷雅史(オーベスト)白石は「まだ早い」と感じていた (c)Makoto.AYANO


きっかけさえあれば追いつくはずだと言い聞かせる。実際、平地での集団のスピードは圧巻だ。45キロオーバーでガンガン進んでいく。

そして2回目のダムの登り。ここでも前に出過ぎないように。頂上付近で西谷さんに追いついて、逃げはすべて吸収。

次の安波の上りでも集団はペースは上がらない。例年なら高岡亮寛さん(イナーメアイランド信濃山形)のペースアップがあるが、高岡さんは今年、国際レースに参加されているので、それまでの上りと同じようなペースで進む。それでも人数は減ってきて30人くらいになっていただろうか?

1回目の普久川ダムをメイン集団でクリアする白石真悟(シマノドリンキング)1回目の普久川ダムをメイン集団でクリアする白石真悟(シマノドリンキング) (c)Makoto.AYANO

その後の東海岸のアップダウンで逃げ出したい選手と協調しようと試みるも、集団の力は偉大で視界から消えることはない。誰もが勝ちたいのだ。危険な逃げは逃がしてくれることはない。

慶佐次を過ぎていよいよ終盤戦へ。昨日、試走をしているからコースはわかる。ここまでくるとさすがに集団でも前を引ける選手は限られてくる。
集団は30人くらいいそうだが、ローテーションを回すことができるのは10人くらいしかいない。

特に危険なのは、なるしまフレンドの岩島啓太選手と小畑郁選手、フォルツァの武井きょうすけ選手。
ここまで動いていない奈良浩選手(エスペランススタージュ)も不気味だ。いや、ここまで残っている選手は全員強いから残っているのだ。油断してはいけない。

天仁屋の少し長めの上りで先頭でペースを少しだけ上げてみる。後ろを振り返ることなくあくまで自分のペースで。一番余裕がありそうな、岩島さんに声をかける。
僕「どこから行きますか?」
岩島さん「・・・」
「僕は残り300メートルから行きます(←もちろんウソ)」
岩島選手には「フフッ」と笑顔で返されてしまった。

次の安部の上りで市民210キロの選手が単独で飛び出しているのが見える。
集団は追う様子がない。それを見越して上りきった勢いで単独で踏んでいく。
カヌチャを過ぎ海沿いに出る。前が3人になっている。よく見ると市民140キロの選手が市民210キロの選手の後ろについている。抜いていくが、3人で追いついてきた。
このペースで走っているということは、市民140キロの選手も先頭なのか?

混走は認められていない。とはいえ、みんな必死だ。真後ろに着かれるとローテーションがまわらない。後ろを見ると10秒以内に集団が見える。ここは戻る。そして羽地ダムにかけることとする。

最後の上り。トンネルまでは1.5キロもない。上り口からペースを上げたいが、今度は市民100キロの先頭集団に追いついてしまった。
勝負どころでピリピリしている。そして市民100キロの選手が鋭いアタックをかけていく。こちらは集団を小さくしたいので、後ろを振り返ることなくジリジリとペースを上げていく。前には市民100キロの選手が3人いる。

トンネルで2人をかわして右折してキツイ上りへ。上りのピークでちらりと後ろを見ると、集団は離れていた。15秒くらいか。

市民100キロの選手を抜き先頭になる。皆、脚は残っていないはず。残り10キロ。ここからなら逃げ切れる自信がある。

と思って後ろを振り返ると、緑ゼッケン(市民100キロ)、オレンジゼッケン(市民210キロ)が混ざった集団が棒状で見えた。2つの先頭集団がいるので人数が多すぎてバラバラにならない。こりゃ、無理だ。作戦変更。
下りきるころにはさらにカオスに。黄色ゼッケン(市民140キロ)も混じって3クラスの選手が混走しているではないか...。

残り距離を考えると躊躇している場合ではない。しかし、あまりにも危険だ。周りに審判と思われるオートバイは沢山いるし、先導車もいるが、何も言ってこない。

ここで武井選手、奈良選手を中心に「集団を分けよう」と提案。少し前にいた市民100キロにそのまま先行してもらう。その後ろに市民210キロ。そして市民140キロ。それぞれの距離は30メートルくらい離れている。
そんなことをしていたら、残りで唯一の勝負どころのジャスコ坂をマッタリと通過してしまう。
あのタイミングで仕掛けていたら、来年以降、ずっと白い目で見られるだろう。なので誰も行かなかった。いや、行けなかった。

「落車がないように、気をつけていきましょう」と周りの選手に声をかける。私は勝つためにここにいるのだ。勝負をしないなんて選択肢はない。

小畑選手を先頭に集団は進む。3番手くらいにいる奈良選手の後ろをピッタリマークする。そして残り500メートル。
20台くらいいた先導車両、バイクが左折した!。随行車両はゴール前で退避路へとそれるのだ。しかしそれは集団に近い位置で、スピードも上がった状態だったので、かなり危険な状態に。
でも、まだまだ冷静。

残り300メートル。市民100キロの選手が左側で先行してスプリントが始まった。そして市民210キロの選手もその後ろからスプリント開始。

3クラスが先頭争いをする混乱の集団スプリントが始まった3クラスが先頭争いをする混乱の集団スプリントが始まった (c)Hideaki.TAKAGI

残り200メートル。まだ4番手。自分の右側には風間選手が先行しているのが見える。さらに右端に武井さんが圧倒的な勢いで飛び出していく。
右のラインは風間選手に失速されたら踏みきれない。左のラインは100キロのトップ2名がもがいている。

ゴールスプリントを制した白石真悟(シマノドリンキング)ゴールスプリントを制した白石真悟(シマノドリンキング) (c)Hideaki.TAKAGIここで選んだのは左でした。奈良さんの後ろから満を持して左に並びかけてスプリント開始。この辺からの記憶は鮮明です。スローモーションのように見えましたから。

残り50メートルくらいで100キロの選手を抜く。100キロの選手がこっちに寄ってきたら確実にぶつかったでしょう。「寄ってくるな〜」と念じながら全力で踏み込む。そして残り30メートルくらいで風間選手を抜く。

まだ右端には武井さんがいるのが見えるけど、このときに差せると確信。最後まで踏みきって残り5メートルくらいで差し切って、先頭でゴールを通過した。

子供を抱っこしてポディウムに挙がった白石真悟(シマノドリンキング)子供を抱っこしてポディウムに挙がった白石真悟(シマノドリンキング) (c)Makoto.AYANO強いやつが勝つ。勝ったやつが強い。どちらも正解だと思います。
例年なら強く走ることにこだわるのですが、今回は勝つことにこだわりました。確かに自分らしくないレースだったと思います。そこまでしてでも勝ちたかったのです。でも来年出るなら自分らしいレースしたいと思います。なので皆さん、着いてきてくださいね。



使用機材 Canyon AEROAD CF 2011
コンポ シマノ9070シリーズ
ホイール ガソリンアレイ 手組ホイール
タイヤ SOYO SEAMLESS ROAD CRh160
コンディショニング アスタビータスポルト

賞品のシャンパンを優勝カップで飲み干す白石真悟(シマノドリンキング)賞品のシャンパンを優勝カップで飲み干す白石真悟(シマノドリンキング) (c)Makoto.AYANO白石真悟(シマノドリンキング)と友人の川崎昌男(サニーサイド)一家で喜びの記念写真白石真悟(シマノドリンキング)と友人の川崎昌男(サニーサイド)一家で喜びの記念写真 (c)Makoto.AYANO


Report:白石真悟(シマノドリンキング)
Photo:綾野 真、高木秀彰