勾配4〜5%のゴールは完全にフィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシングチーム)向きだった。世界遺産の街セゴビアを望む丘の上にゴールが置かれたブエルタ・ア・エスパーニャ第19ステージ。2日連続の土井雪広(アルゴス・シマノ)集団牽引は、またも結果に結びつかなかった。

第19ステージ・コースプロフィール第19ステージ・コースプロフィール image: Unipublic前日に引き続き、カテゴリー山岳が1つも設定されない平坦ステージ。マドリード北部に広がる標高800m以上の平原を南に下っていく。

レース序盤に飛び出したアイトール・ガルドス(スペイン、カハルーラル)とホセビセンテ・トリビオ(スペイン、アンダルシア)レース序盤に飛び出したアイトール・ガルドス(スペイン、カハルーラル)とホセビセンテ・トリビオ(スペイン、アンダルシア) photo:Kei Tsujiしかし、平坦ステージでありながら、ゴール前のコースレイアウトがスプリンター向きではない。テクニカルなコーナーをいくつもこなし、世界遺産に指定された水道橋で有名なセゴビアの街を抜け、ラスト2kmから登坂がスタート。そこからゴールに向かって勾配4〜5%の登りが続くのだ。

注目は、スプリンターチームが勝負を狙うかどうか、スプリンターが勝負に残れるかどうか。前日にスプリント勝利を逃したアルゴス・シマノのクリスティアン・ギベルトー監督は「ジョン(デゲンコルブ)には難しいかもしれないが、彼で勝利を狙う。グリーンジャージが非現実的になってしまった今、1つでも多くステージ優勝を狙うまでだ」と強気な姿勢を見せる。

土井雪広(アルゴス・シマノ)が何かを発見した模様土井雪広(アルゴス・シマノ)が何かを発見した模様 photo:Kei Tsuji逃げ切りの可能性も大いにあるコースレイアウトだが、意外にも逃げはあっさりと決まる。スタート直後に飛び出したアイトール・ガルドス(スペイン、カハルーラル)とホセビセンテ・トリビオ(スペイン、アンダルシア)は、すぐさま10分を超えるリードを稼ぎ出した。

この日も率先して集団をコントロールしたのはアルゴス・シマノ。ロット・ベリソルやレディオシャック・ニッサンもこれに加わり、逃げとのタイム差を抑え込みにかかる。

前日のハイスピードな展開とは打って変わって、平均スピードが40km/hに満たないスローペースでレースは進行(最終的な平均スピードは37.1km/hで、前日のステージより10km/h遅い)。ちょうどレース中盤にジ・チェン(中国、アルゴス・シマノ)が落車した影響で「彼の代わりに集団を引くことになった」土井雪広がこの日も集団ローテーションに入った。

レース前半は晴天の平野を進むレース前半は晴天の平野を進む photo:Kei Tsuji
最大10分のリードで逃げるアイトール・ガルドス(スペイン、カハルーラル)とホセビセンテ・トリビオ(スペイン、アンダルシア)最大10分のリードで逃げるアイトール・ガルドス(スペイン、カハルーラル)とホセビセンテ・トリビオ(スペイン、アンダルシア) photo:Kei Tsujiロット・ベリソルがコントロールするメイン集団ロット・ベリソルがコントロールするメイン集団 photo:Kei Tsuji

土井雪広(アルゴス・シマノ)が集団ローテーションに加わる土井雪広(アルゴス・シマノ)が集団ローテーションに加わる photo:Unipublic先頭とのタイム差が2分まで縮まると、ゴールまで60kmを残した短い登りでラース・ボーム(オランダ、ラボバンク)ら4名がカウンターアタック。しかしこれらの動きはすぐさま吸収される。一つに戻った集団は、時折降る激しい雨にもめげずにペースを上げ、ラスト28km地点で逃げを吸収した。

ここから、まだステージ優勝が無いラボバンクの他、モビスターやアンダルシア、サクソバンク、チームスカイが集団先頭でペースアップを開始。

ゴール前の登りでペースを上げるヨナタン・カストロビエホ(スペイン、モビスター)らゴール前の登りでペースを上げるヨナタン・カストロビエホ(スペイン、モビスター)ら photo:Unipublic登り区間でモビスターが積極的にペースを上げ、スプリンターたちを苦しめる。長時間集団を牽引した土井は、チームメイトへのボトルを配った後、メイン集団から脱落した。

ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)がラスト11km地点のスプリントポイントで動いたが、アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)がここを先頭で通過する。バルベルデが6秒、ロドリゲスが4秒、そして3番手通過のロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)が2秒のボーナスタイムを獲得した。

セゴビアの街を背に、登りスプリントがスタートセゴビアの街を背に、登りスプリントがスタート photo:Kei Tsujiセゴビアの街に入ると、ハイスピードで進行する集団からエゴイツ・ガルシア(スペイン、コフィディス)がアタック。続いてニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル)、マッティ・ブレシェル(デンマーク、ラボバンク)、フアンアントニオ・フレチャ(スペイン、チームスカイ)、そしてデゲンコルブがメイン集団から飛び出し、ラスト2kmから始まる登りに突入する。

登りで失速したガルシアに代わってロッシュが先頭に立ち、デゲンコルブが食らいついてラスト1km。しかし後方から勢いを上げるメイン集団に、ラスト500mで2人は吸収されてしまう。

そこから飛び出したのはジルベール。すぐさま反応したベン・スウィフト(イギリス、チームスカイ)を引き離したジルベールが、何度もフィニッシュラインの位置を確認しながら、頭を垂れてスプリントする。ステージ優勝ならびにボーナスタイム狙いのバルベルデとロドリゲスは届かず、ジルベールが両手を挙げてゴール。バルセロナにゴールした第9ステージに続く今大会2勝目を飾った。

ラ・ラストリーリャの登りスプリントを制したフィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシングチーム)ラ・ラストリーリャの登りスプリントを制したフィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシングチーム) photo:Kei Tsuji

今大会2勝目を飾ったフィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシングチーム)今大会2勝目を飾ったフィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシングチーム) photo:Kei Tsuji「バッランやロデウィックの完璧なペース配分でポジションをキープして、勝負に挑めたんだ。世界選手権に向けて最高の準備レースであるブエルタで結果を残せてよかった。山岳で苦しむスプリンターにとっては良い準備レースではないだろうけど」。ジルベールは2週間後に迫ったロード世界選手権の優勝候補の筆頭に挙げられている。

土井雪広(アルゴス・シマノ)を含むグルペットがゴール土井雪広(アルゴス・シマノ)を含むグルペットがゴール photo:Kei Tsujiバルベルデはステージ2位で8秒を獲得。ゴール前で集団が割れたため、アルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・ティンコフバンク)は3秒遅れでゴールした。バルベルデはゴールとスプリントポイントでのボーナスタイムを合わせ、コンタドールから合計17秒奪うことに成功している。

最終日前日の超級山岳ボラ・デル・ムンドでの頂上決戦を前に、コンタドールはバルベルデから1分35秒、ロドリゲスから2分21秒のリードを得ている。「カチューシャは必ず動いてくるだろう。サクソバンクは相手の出方を待つ。準備は出来ている」と、総合リーダーは落ち着いて話す。この日、コンタドールのアシストたちは力を温存しながら集団から大きく遅れてゴールした。

6分28秒遅れのグルペットでゴールした土井は「脚は悲鳴あげていたけど、痛みも楽しさに変えながら、170kmのコントロールを満喫した」と言う。本人曰く「スーパーグルペット」で翌日のボラ・デル・ムンドにゴールし、最終日マドリードのゴールスプリントに懸ける。「まだ終わったわけじゃないけど、明日の厳しいステージ皆で精一杯楽しみたいと思います!」

満身創痍でゴールしたジ・チェン(中国、アルゴス・シマノ)が敢闘賞獲得満身創痍でゴールしたジ・チェン(中国、アルゴス・シマノ)が敢闘賞獲得 photo:Kei Tsujiゴール後、サクソバンク・ティンコフバンクのフィリップ・モデュイ監督と話す土井雪広(アルゴス・シマノ)ゴール後、サクソバンク・ティンコフバンクのフィリップ・モデュイ監督と話す土井雪広(アルゴス・シマノ) photo:Kei Tsuji


ブエルタ・ア・エスパーニャ2012第19ステージ結果
1位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシングチーム)         4h56'25"
2位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)
3位 ダニエル・モレーノ(スペイン、カチューシャ)
4位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)
5位 ジャンニ・メールスマン(ベルギー、ロット・ベリソル)             +03"
6位 バウク・モレマ(オランダ、ラボバンク)
7位 ベン・スウィフト(イギリス、チームスカイ)
8位 ヤン・バケランツ(ベルギー、レディオシャック・ニッサン)
9位 リナルド・ノチェンティーニ(イタリア、アージェードゥーゼル)
10位 セルジオルイス・エナオモントーヤ(コロンビア、チームスカイ)
150位 土井雪広(日本、アルゴス・シマノ)                    +6'28"

敢闘賞
ジ・チェン(中国、アルゴス・シマノ)

個人総合成績(マイヨロホ)
1位 アルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・ティンコフバンク)   77h21'49"
2位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)               +1'35"
3位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)                +2'21"
4位 クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)                  +9'48"
5位 ダニエル・モレーノ(スペイン、カチューシャ)                +11'29"
6位 ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)                +12'00"
7位 ローレンス・テンダム(オランダ、ラボバンク)                +12'58"
8位 アンドリュー・タランスキー(アメリカ、ガーミン・シャープ)         +13'09"
9位 イゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)               +13'52"
10位 ベナト・インチャウスティ(スペイン、モビスター)              +15'13"
129位 土井雪広(日本、アルゴス・シマノ)                   +2h45'57"

ポイント賞(プントス)
1位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)               186pts
2位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)              183pts
3位 アルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・ティンコフバンク)    157pts

山岳賞(モンターニャ)
1位 サイモン・クラーク(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)        38pts
2位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)               36pts
3位 トーマス・デヘント(ベルギー、ヴァカンソレイユ・DCM)            33pts

複合賞(コンビナーダ)
1位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)               6pts
2位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)              8pts
3位 アルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・ティンコフバンク)    9pts

チーム総合成績
1位 モビスター                               231h54'48"
2位 エウスカルテル                               +15'40"
3位 ラボバンク                                 +23'06"

text&photo:Kei Tsuji in Segovia, Spain

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