五輪に続き、ロンドンパラリンピックがいよいよ8月29日に開幕する。今大会は「パラリンピック史上最高」とも言われるチケットの売れ行きをみせており、人気競技のひとつトラック自転車は早い時期に売り切れ、追加発売分も即完売の人気ぶりという。

パラサイクリングロードUCIワールドカップ第一戦ローマ、ロードTT(男子C3)を走る藤田征樹パラサイクリングロードUCIワールドカップ第一戦ローマ、ロードTT(男子C3)を走る藤田征樹 (c)Yuko SATO / UCIそんな熱気の待ち受ける自転車競技に日本から出場するのは、藤田征樹(障害クラス男子C3)、石井雅史(男子C4)、大城竜之(男子B、パイロットは伊藤保文)の3選手たちだ。

■世界のレベルに注視を

ここ数年のパラサイクリングは、五輪開催国・英国の威信をかけた選手強化の影響もあって、より一層高い世界水準への進化を続けている。障害クラスの統合再編もあって、UCIランキング上位に名を見せる世界のトップ選手たちも、もはやかつてのような常勝は許されない。そんな大きなうねりのなかで、日本の各選手がどこまで上位に食い込み、メダルをもぎとれるのかに注目だ。

各選手の障害クラス、所属、出場予定種目と競技日程(現地時間)は以下の通り。

【藤田征樹】〔障害クラス男子C3〕(日立建機)
▼トラック 
1kmTT〔男子C1~3〕8月30日※
個人追抜〔男子C3〕8月31日
▼ロード
ロード個人TT〔男子C3〕9月5日
ロードレース〔男子C1~3〕9月6日*

【石井雅史】〔男子C4〕(公益財団法人藤沢市みらい創造財団)
▼トラック 
7月23日の結団式にて7月23日の結団式にて (c)Yuko SATO1kmTT〔男子C4~5〕8月31日※
個人追抜〔男子C4〕9月1日
▼ロード
ロード個人TT〔男子C4〕9月5日

【大城竜之】〔男子B〕(東京都立文京盲学校)
パイロットは伊藤保文(社団法人日本競輪選手会京都支部)
▼トラック 
1kmTT〔男子B〕9月1日
スプリント〔男子B〕9月2日

※=係数によるハンディを採用
*=係数によるハンディはなし
(係数については後述)

自転車日本チームが複数のメダルを獲得した前回の北京パラリンピック。その終了後、UCIルールの障害クラス分けには一部再編が行われた。以前はC(二輪)各クラスは、切断やマヒといった障害の種類別に障害の重さで分けられていたが、運動機能によるクラス分けに統合再編された。その結果、選手たちが戦う相手は北京とは大きく異なる顔ぶれとなった。表彰台への道が厳しくなるそのいっぽうで、実力の拮抗した選手が同じクラスとなったために新たな名勝負が生まれているという側面も。

また今回はトラック、ロードともに、出場人数が比較的少ないいくつかのレースで、メダルの価値を高めるための措置として、複数のクラスをひとつのレースにまとめ、複数クラスにまたがった順位がつけられる。うち、TT(タイムトライアル)系のいくつかの種目では、クラス間のハンディを補正する目的で「係数」が採用される。

日本の出場種目では、トラック1kmTTの男子C1~C3と男子C4~C5がこの「係数レース」だ。障害クラスごとに定められた係数を実タイムにかけあわせた計算タイムによって最終順位を決定する。なお、この係数の数値は、広州2010アジアパラ競技大会の際のUCIコミセールの説明によると、過去数年の世界選手権やP1(地域)大会などのデータを基にした平均値から算出し、係数を採用する大会開催のたびに最新の数値を採用するという。

藤田の出場する男子C1~3ロードレースについては、複数クラスの同時スタートで、係数を用いず実際の着順が順位となる。

右より石井雅史、藤田征樹、伊藤保文、大城竜之、高橋仁監督右より石井雅史、藤田征樹、伊藤保文、大城竜之、高橋仁監督 (c)Yuko SATO男子Bクラスには北京後のクラス再編はなかったが、もともと健常者の日本記録レベルのタイムで走る選手が複数いる厳しいクラス。ここ数年では、英国、スペイン、イタリアなど、元五輪代表選手がパイロットを務めるペアも珍しくなくなった。
今回、とくに1kmTTは、地元英国チームが世界新記録を狙ってくることはほぼ間違いない。また、スプリントではパイロットの状況判断も大きなカギとなる。現役競輪選手の伊藤保文パイロットがいかに他チームのベテランペアをかわし、またベストな組み合わせで勝ち上がって行けるかがポイントになりそうだ。

「メダルを!」と無邪気に応援するだけではなく、日本チームが臨むロンドンでの世界との戦いの状況と、そしていまの彼らがこの困難なレースで何をやろうとし、何を遂げ後進に何を残すのかというその意味を、われわれはしっかり見ていこう。
レースの様子は、ロンドン現地から随時お伝えする。

高橋仁監督高橋仁監督 (c)Yuko.SATO■日本チームの抱負「全員が自己ベストを!」

出発に先立って7月23日、東京・千代田区のホテルニューオータニで「ロンドン2012パラリンピック競技大会 日本代表選手団 記者会見・結団式・壮行会」が行われた。その際に聞いた選手・スタッフのロンドンへの抱負をお伝えしよう。

【高橋仁監督】
伊豆ベロドロームも完成して、スケジュール通りトレーニングできている。やはり室内のベロドロームがあるというのは大きい。ディスクホイールをつけて練習できる。健常者ナショナルチームもそれは同じで、今までは海外で合宿しないといけなかった。いま健常者のナショナルチームと一緒に練習できていて、記者発表も一緒にやっていただいて、選手のモチベーションも上がってきている。機材もよくなっている。
松本(整)監督とも話をしたが、五輪もパラもナショナルはこれでやっていくという常識にしていきたい。

大城竜之大城竜之 (c)Yuko.SATO自分が監督に就任して1年たっていないけれど、ここで結果を出すことはすごく重要。Cクラスの1kmTTは、複数クラス統合レースで係数がかかると厳しいけれど、ライバルたちはレベルアップしているので、少しでも上に行ってもらいたい。今は、北京のときと同じタイムを出しても厳しいという状況にはなってはいるけれど、世界に置いていかれないように、全員が自己ベストを出して、少しでもメダルに近づくこと。


【大城竜之・伊藤保文】
(大城)コーナリング、スタートダッシュなど、いい手応えがある。フレームを換えたこともあるし、練習を重ねることによって力もついてきているし、二人の息があってきた。練習で自己ベストを出してロンドンに臨みたい。

(伊藤)スタートでいかに早くトップスピードにもっていくか、落とさないよう維持するか。最後で落ちないよう力配分をうまくコントロールしていくのが大事。
伊藤保文伊藤保文 (c)Yuko.SATOやっと楽しみになってきたところ。のぼり坂の入り口が見えて来たから、これでのぼれる!って。なかなかタイム出なくて、大城くんひとりで探してるんじゃなくて、ふたりで探して「あるやん!」みたいな感じ。
新しいキネティックのフレームはシートステー、チェーンステーが3倍ぐらい太くなっている。後ろがぶれるのを手で押さえつけなくていいのでストレスがなく踏む方に集中できる。軽いしカタいし、間に合ってよかった。

【藤田征樹】
タイムも出てきているし、あとはやることをやるだけ。体調面については、少し安心が増えた。メダルに届くのか、なしで終わるのか。4年前の北京ののようなこと(スタート失敗によるタイムロス)はしたくないし、考えてきて過ごしてきた。どこまでタイムを積み上げていけるか。高橋仁監督は個人追抜、中距離の選手をやっていたので、ギアをかけたトレーニングでどれだけスピードをあげていけるか、だとか、いろいろ勉強させてもらった。自転車についても、ルックからアンカーに乗り換えたが、アンカーだけでも2、3台用意してもらって、どういう特性をもっているか、こういう動き藤田征樹藤田征樹 (c)Yuko.SATOのときこの自転車は流れてくれる、とか。

股関節から連動してペダルを踏む、今のトラックの乗り方は、ロードでも活かせている。個人ロードTTについては、5月のパラサイクリングロードUCIワールドカップ第1戦ローマでは、3位と1秒差の4位で表彰台は逃してしまったが、内容的にも平均時速的にも今まででベストと言えるレースができた。今年4月の国内最終選考会のロードレースでも、同じコースを走った去年の日本障害者自転車競技大会ロードでのタイムを11秒あまり縮めてうれしかった。

4年前と違って、世界記録とか景気のいい話にはならないかもしれないけれど、納得のいくレースができれば、(強豪の)ヨーロッパ、オセアニア勢に「穴を空けられる」と思う。

【石井雅史】
必ず、持って帰れるものは持って帰りたいと思う。あわよくば真ん中という気持ちで。それが義務だと思う。今まで弱音をはき過ぎたかなと。妻にも「あなたは恵まれすぎ、ちゃんと応えなさいよ」と言われた。(ロンドン出場枠を決める石井雅史石井雅史 (c)Yuko.SATOUCIポイント獲得対象の国際大会で)思うようにポイントが稼げず、ロンドンの代表にはもう選ばれないと思っていたので、決まるまではずっと、正直なところ…本当にしんどかった。

別の競技のコーチをやっている友達がいて、彼は指導している選手が出場できなかった。「石井さん、まだチャンスがあるんだから、行ってくださいよ」と言われて、本当にそうだと思った。

今までやってきたことを出し切れるように。連覇というのは、いろいろ乗り越えてきてできるのが連覇。それに少しでも近づけるように。悔いは残したくない。すべて納得のいくようなレースをしたい。表彰台に立ちたい。そう思う。


Photo&Text YukoSATO

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